石原勇太郎の【演奏の引き立て役「曲目解説」の上手な書き方】第1回:誰が読むのかを考えよう!~曲目解説の役割~

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皆さん初めまして、石原勇太郎です!

 

皆さんが、吹奏楽やオーケストラの演奏会を聴きに行くと、必ずもらうものがあると思います。そう、「プログラム」ですね!プログラムには、その日の演奏曲目や、出演者のプロフィールなど、たくさんの情報が載っていて、「読むのが楽しい!」という方もたくさんいると思います。

そんなプログラムに、「曲目解説(または、プログラムノート)」というものがあるのも、皆さんご存知ですよね?その演奏会で演奏する曲についての、解説が書かれたものです。この曲目解説、一見ただの紹介文のように思われるかもしれません。しかし、上手に使えば、演奏会を引き立てる見事な役者になってくれるのです!

このコラムでは、「曲目解説を書かなくてはならなくなったのに、何を書けばいいかわからない!」という方や「もっと良い解説を書くにはどうしたら…」と悩んでいる方のために、曲目解説の上手な書き方を一緒に考えていこうというものです。

まずは、第1回目、書き始める前のとても大事なことから一緒に見ていきましょう!

 

第1回:誰が読むのかを考えよう!~曲目解説の役割~

 

演奏会には、様々なお客様がいらっしゃいます。もちろん、全てのお客様が読んで、理解できる曲目解説が理想です。しかし、それを突き詰めすぎると、曲目解説がただの情報の羅列になってしまいます。

曲目解説を書き始める前に、次の2点についてはよく考えておきましょう!

 

  1. どれぐらいの世代を対象にするか
  2. どれぐらい音楽に詳しい方を対象にするか

 

まずは、1.から見ていきましょう。

 

  1. どれぐらいの世代を対象にするか

 

ここでは、流行のドラマ主題歌を解説する場合を考えてみてください。そのドラマを主に見ているであろう世代の方にとって、ドラマのあらすじや、曲の特徴はすでにわかっていることです。その場合は、アレンジの特徴や、原曲との違いなど、演奏曲独自の特徴を書くと、さらに進んだ音楽の聴き方の助けになります。

一方、そのドラマを見ていないであろう世代の方には、演奏会で曲を聴くのが初めてということもありえます。ドラマの内容や、原曲を歌っているアーティストの情報、あるいは歌詞の内容などがあると、音楽の理解を助けてくれる場合もあります。

曲目解説をどの世代に向けて書くかというのは、正直難しいです。しかし、曲目解説の威力を発揮させるためには、大まかには対象としたい世代を考えてみましょう!

 

  1. どれぐらい音楽に詳しい方を対象にするか

 

これは、私たち音楽学者や音楽評論家が、実際に曲目解説を書く際に、とても気にすることです。

曲目解説を書きたい曲が、例えば「ソナタ形式」であったとします。皆さんの演奏会にソナタ形式という言葉を聞いて、頭の中で形式を図式化できそうな人は、どれぐらい来場しますか?

「たくさん来場します!」という方の場合は、曲目解説にソナタ形式と書くだけで、読み手は一瞬で曲の形式を理解します。また、その曲目解説を読んだ上で、実際に演奏を聞けば、主題がどれなのかも大体わかるかと思います。

一方、「ソナタ形式を知っている人はあまり…」という方の場合、曲目解説にソナタ形式という言葉を使うのはひかえましょう。ソナタ形式という言葉を使わずに、その曲を説明することも、十分可能です。

 

ソナタ形式に限らず、私たちが普段から使用している、いわゆる「音楽用語」というものには要注意です。例えば、プロの演奏会や、音楽大学の演奏会では、多少音楽の知識のある方が、比較的多くいらっしゃいます。そういう場合の曲目解説では、音楽用語が普通に使用されます。

一方、一般の団体や、中学・高校の演奏会では、友人や家族など、音楽にそこまで詳しくない方が、たくさんいらっしゃると思います。その場合は、普段自然と使っている音楽用語を、曲目解説で使うのはひかえましょう。せっかく書いた曲目解説も、理解されずに適当に読み流されてしまうかもしれません!何しろ、専門用語(音楽用語も音楽の専門用語ですよね!)を読むというのは、その分野に詳しくない人にとっては苦痛になってしまうのです。自分の苦手な分野の本を読まなければならないことを想像してみてください。例えば、お医者さんが読むような分厚い医学書や、数学者が書く細かな数式がずらっと並んだ論文…考えただけで恐ろしいですよね。もし音楽用語を使用する場合は、その言葉の意味が読み手にしっかり伝わるように、丁寧な説明を試みましょう。

 

G.ホルスト《吹奏楽のための第1組曲 変ホ長調》第1楽章の解説での実例

 

ひとつ、例を見てみましょう。G.ホルストの《吹奏楽のための第1組曲 変ホ長調》の第1楽章の短い解説を2種類挙げてみます。どちらも150字程度の解説文です。

 

解説1

第1楽章は、いわゆる「シャコンヌ」である。冒頭で低音楽器群によって奏される旋律が、楽章全体の主題として機能している。時には草原を吹き抜ける風のように、またある時には行進曲的力強さを感じさせるように、主題は様々な表情を見せてゆく。最終的に、主題は輝かしい変ホ長調の響きの中で、荘厳な頂点へとたどり着く。

 

解説2

第1楽章は、西洋音楽の中で古くから用いられてきた、「シャコンヌ」という形式を用いている。シャコンヌとは、最初に提示される旋律を繰り返しながら、音楽の雰囲気を変えてゆく形式のことである。冒頭、低音楽器群に現れるのが中心となる旋律。この旋律を繰り返し、最後の頂点へ向かって少しずつ音楽が盛り上がってゆく。

 

音楽用語を用いた解説・用いない解説

 

解説1は、少し専門的で詩的な文章です。「シャコンヌ」という言葉の丁寧な説明はありません。しかし、「低音楽器群によって奏される旋律が、楽章全体の主題として機能している」という一文で、この曲が「変奏曲」であることを、少しだけ説明しています。

少し音楽に詳しく、《第1組曲》も知っているような方に向けては、解説1が良いかもしれませんね。

 

一方、解説2では、まず「シャコンヌ」が何かということを説明しています。シャコンヌがいわゆる「変奏曲」の一種だということは、音楽をしている人からすれば、良く知っていることだと思います。しかし、音楽に詳しくない方にとってシャコンヌはおろか、変奏曲という言葉も、もしかしたらわからないかもしれません。ですので、解説2ではシャコンヌという言葉以外、音楽用語は用いていません。もちろん、文字数に余裕があるのであれば、より丁寧な説明も可能かもしれません。しかし、解説2の短さでも、シャコンヌが、旋律を繰り返しつつ展開されるものであることはわかるかと思います。

 

解説をどこまで書くか?

 

さて、もう一度、2つの解説を読んでみてください。

解説1には、変奏の雰囲気を伝える文章があります。しかし、解説2では、最後が頂点となることは説明していますが、変奏部分については説明していません。これも、どのような人を対象に書くかによって変わってきます。

解説1は、すでに《第1組曲》を知っているであろう、音楽に少し詳しい方向けでしたね。その場合、各変奏の詳細な説明は、邪魔になる可能性があります。つまり、最初から最後まで各変奏の説明をしてしまうと、読み手の聴く自由を奪ってしまうことになります。一部分だけ「こういう部分が、こう聴くこともできる」という、ガイドのようなものを入れてみましょう。そうすれば、《第1組曲》を良く知っている読み手にも、新しい聴き方を提案することができます。

一方、解説2が対象としている《第1組曲》を始めて聴く方に対して、各変奏の詳細な解説は必要でしょうか。「もちろん、必要だ!」という方もいれば、「必要ない!」という方もいるでしょう。私も、この手の解説を書く際には、いつも悩んでしまいます。実は、ここが書き手の意見の分かれるところなのです。つまり、解説1にしても、解説2にしても、「解説をどこまで書くか」というのが問題なのです。

詳細な解説は、一見すると親切ですが、解説1の場合と同様、初めてその曲を聴く方の聴き方を完全に縛ってしまいます(曲の第一印象が曲目解説に縛られてしまうのです)。そして何より、解説が冗長になりがちです。一方、詳細な解説がない場合、初めて聴く方は、曲の中で迷子になってしまう可能性があります。

今回、解説2では、「主題を繰り返し、最後の頂点へ向かって少しずつ音楽が盛り上がってゆく」という安全策を取っています。つまり、「曲が少しずつ盛り上がって、最後が頂点になるんだ」という、大きな外観だけを説明しています。これで、少なくとも最初から最後まで迷子になるということは避けられるかと思います。

もちろん、他にもいくつか書き方はあるかと思います。しかし、短い解説の場合、これ以上情報量を増やすのもよくありません。情報量について、そして「解説をどこまで書くか」については、また後の回で改めて取り上げることにしましょう。

 

最後に 曲目解説の役割

 

曲目解説の一番の役割は、曲の魅力を伝える補佐をすることです。つまり、演奏が主役で、曲目解説が引き立て役になるのが理想的です!(なので、このコラムのタイトルも『演奏の引き立て役「曲目解説」の上手な書き方』なのです)

情報の羅列や、主観的な印象ばかりが長々と書かれている曲目解説では、主役を引き立てることはできません。しかし、必要な情報が読み手に間違いなく伝わり、聴き手が曲を解釈する助けとなる文章が書ければ、曲目解説は頼りになる相棒になるのです ― ショートケーキのイチゴのようなものです。

 

そんな文章を書くのは、もちろん私も含めて曲目解説を書く人の永遠の夢であり、課題でもあります。しかし、少しのコツをつかむだけで、より伝わりやすい文章が書けるようになるのもまた事実です。このコラムでは、そんなコツを皆さんと一緒に考えていきたいと思います。

 

毎回、次回までの課題を載せておきます。ぜひ挑戦して、次の段階へ進んでみてください。もし、課題に挑戦してみた場合は、その解説文はどこかに取っておきましょう。この連載の最終回を読み終えた後に書いた解説文と見比べるためです。最終的には、今よりずっと良い曲目解説が書けるようになっているはずです。

 

今回は、書き始める前に考えるべきこと2つについて、順番に見てきました。

 

  1. どれぐらいの世代を対象にするか
  2. どれぐらい音楽に詳しい方を対象にするか

 

以上の2点については、書き始める前に考えた結果をメモしましょう。そして、曲目解説を書いている間は、目に入るところにおいておきましょう!

特に、2.は書き始める前はもちろん、書いている間も常に考えなくてはならない問題です。2.は「情報量」や「解説をどこまで書くか」とも関連してくる、曲目解説の内容を左右する大切な要素です。

 

次回は、実際に曲目解説を書き進める際に、必要となる「情報の集め方」についてです。

 

それでは!

今回の課題

・任意のJ-Popのアレンジ作品の曲目解説を、20代向け60代向けの2つ書いてみよう(1つ300文字程度)

・G.ホルストの《吹奏楽のための第1組曲》第3楽章の解説を、音楽用語を用いずに書いてみよう(300文字程度)

 

 

本コラムについて、ご質問やご感想等がございましたら、公式サイトのContactからお願いいたします。

公式サイト

http://www.yutaro-ishihara.info/

※この記事の著作権は石原勇太郎氏に帰属します。


石原 勇太郎 プロフィール

1991年生まれ、千葉県八千代市出身。12歳よりコントラバスを始める。2014年、東京音楽大学器楽専攻(コントラバス)卒業。同大音楽学課程修了。2016年、東京音楽大学大学院 修士課程音楽学研究領域修了。現在、同大大学院 博士後期課程(音楽学)在学中。平成28年度給費奨学生。専門は、A.ブルックナーを中心とするロマン派の交響曲。
2014年、《天空の旅―吹奏楽のための譚詩―》で第25回朝日作曲賞受賞。2015年度全日本吹奏楽コンクール課題曲として採用される。以降、吹奏楽を中心に作品を発表している。
これまでに、コントラバスを幕内弘司、永島義男、作曲を村田昌己、新垣隆、藤原豊、指揮を三原明人、尺八を柿堺香の各氏に師事、また大学4年次より藤田茂氏の下で音楽学の研究を進めている。日本音楽学会、千葉市音楽協会各会員。
作曲活動の他、曲目解説等の執筆、中学・高等学校の吹奏楽部指導やアマチュア・オーケストラのトレーナーを勤める等、幅広く活動している。


▼石原さんのコラム【演奏の引き立て役「曲目解説」の上手な書き方】全連載はこちらから

▼石原さんのエッセイ「Aus einem Winkel der Musikwissenschaft」これまでの記事はこちらから




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