「借用和音ってなんだ?」プロの指揮者・岡田友弘氏から悩める学生指揮者へ送る「スーパー学指揮への道」第31回




管弦楽や吹奏楽の指揮者として活動されている岡田友弘氏に、学生指揮者の皆様へ向けて色々なことを教えてもらおうというコラム。主に高等学校および大学の吹奏楽部の学生指揮者で、指揮および指導については初心者、という方を念頭においていただいています。(岡田さん自身も学生指揮者でした。)コラムを通じて色々なことを学べるはずです!第31回は「借用和音ってなんだ?」。前半は「借用和音」の導入編です。さらに新しい用語が出てきますがひとつひとつ丁寧に説明されているので心配なし。後半のエッセイ的な部分は「本番までの合奏の組み立て方~中期段階篇(その5)」です。さっそく読んでみましょう!


合奏するためのスコアの読み方(その25)合奏と楽曲分析のための和声の超基礎(12)前回前々回 では「音楽の句読点」であるカデンツの終止形の種類のお話をしました。簡単にもう一度その種類を確認してみまましょう。特別な形(ピカルディ終止やフリギア終止など)についてはあくまで「特別な形」ですので、ここでは重要な4種類の確認です。1・全終止2・半終止3・偽終止4・変終止(変格終止、プラガル終止、アーメン終止)この4種類をわかりやすい表にしたものがありますので、参考に引用します。是非この表を見て終止定形をおぼえましょう。鵜崎庚一「アナリーゼの技法」(学研プラス)より引用表中の「句読点ニュアンス」とは文章に例えるとどうなるか?というイメージです。セミコロン(;)は、ピリオド(.)とコンマ(,)の中間のニュアンスとして位置づけられています。「弱いピリオド」「強いコンマ」と考えるとわかりやすいでしょうか。「全終止」と「変終止」は同じ「ピリオド」ですが、変終止の方は「少し柔らかい感じ」の終止となります。それでは後ろ髪を引かれつつ、終止形のお話に別れを告げて、今回から新しい話題に入っていきます。今回から数回にわたってお話しするのは「借用和音」についてです。「借用和音」・・・初めて耳にしましたか?僕もかつて初めてこの言葉を聞いた時はチンプンカンプンで一人絶望の海に放り出されたような気持ちになったことを思い出します。しかし、順を追って整理していくと、決して難しいものではないものです。「借用和音」とは、ある楽曲のフレーズで「一時的に転調」すること。言い換えれば他の和音を「借りてきて」表現や色彩に変化をもたらすための和音のことです。音楽がある調で始まっても「同じメンツ」の和音進行では面白みがありませんよね?その時に「ちょっと違ったメンツも呼ぼうぜ!」と言って「借りてくるゲスト」が借用和音です。しかし、誰かをゲストに呼ぶにしても、全く関係のない人に突然声をかけても不審に思われるだけですし、現実的ではありませんね。ですから、自分たちと「関係のある調」からゲストを借用してくるわけです。そのような「現在の調に關係する調」のことを「近親関係」にある調と呼びます。「近親関係」にある調には2種類あります。1・近親調(複数ある)2・同主調(一つしかない)さぁ、また新しい専門用語が登場しました。ここで「分かったフリしてスルー」しないのが僕のコラムです。まずは一つしかない「同主調」から・・・同主調とは例えば「ハ長調」ならば、同主調は「ハ短調」の関係性にある調です。例えるならば「性格の異なる双子」といったところでしょうか。別名「同名調」と呼ばれます。「ヘ長調とヘ短調」「変ロ長調と変ロ短調」「変ホ短調と変ホ長調」などが同主調の関係になります。なお「嬰ハ短調(Cis-Dur)」と「変ニ長調(d-moll)」など「異名同音(エンハーモニック)」を含む調の関係については同主調には含まれません。それでは次に「近親調」とは何か?近親調とは「その調と密接な関わりを持つ調」のことです。「密接」とはどういう意味なのでしょう?音楽的なことにおいて「密接な関係」に該当するのは、ある調を基準にして・・・・その調の「平行調」・その調の「属調」・その調の「下属調」・「属調の平行調」・「下属調の平行調」この5つがある調の「近親調」になります。言葉で説明すると何やら難しいことを言っているようですね・・・文末に近親調の表を掲載しますので、それを見ると理解が深まると思いますが、まずは初登場の用語もありますので、一つずつ説明していきます。まずは「平行調」とは何か?平行調とは・・・調号の種類と数が同じ関係の長短調のことを言います。例・ハ長調(C-Dur)とイ短調(a-moll)、ト長調(G-Dur)とホ短調(e-moll)、変ホ長調(Es-Dur)とハ短調(c-moll)、ヘ長調(F-Dur)とニ短調(d-moll)など次に「属調」「下属調」です。この用語は以前に何回か登場していますが、大切な用語ですので確認のために・・・「属調」とはある調の音階の5度上にできる調のことで、「下属調」はある調の音階の5度下にできる調のことを言います。属調はV度、下属調はIV度の音に当たります。下属調、属調は主調に対して次のような法則があります。下属調→主調と調号が一つ違う(フラットが一つ多い)属調→主調と調号が一つ違う(シャープが一つ多い)「5度圏」という言葉を覚えていますか?調号が5度上がるとシャープが一つ増え、5度下がるとフラットが一つ増えていく音程の関係でしたね。忘れていたら第11回コラム をもう一度読んでみましょう。ここにもこの「5度圏」での属音、下属音の関係が大切になってくるのです。それではハ長調(C-Dur)を例に見ていきましょう。この調の「属調」は?・・・V度上の「G-Dur(シャープ1個)」です。それては「下属調」は?・・・V度下(IV度上)の「F―Dur(フラット一個)」です。この属調、下属調のそれぞれの平行調は・・・?「属調(G)」の平行調は「e-moll(ホ短調)」・・・もちろんどちらも調号は同じ種類と数です。属調の平行調のことを「属平行調」と言います。「下属調(F)」の平行調は「d-moll(ニ短調)」・・・これも同様に調号は同じ種類と数です。下属調の平行調のことを「下属平行調」と言います。これらに加え、ハ長調(C)の平行調は・・・a-moll(イ短調)です。この5つが「近親調」になります。ここで主調と近親調の表を見てみましょう。お互いの近親調の関係が良くわかると思います。島岡譲「和声と楽式のアナリーゼ」(音楽之友社)より引用次に、ハ長調の各音階音上にできる3和音を見てみましょう。鵜崎庚一「アナリーゼの技法」(学研プラス)より引用このように各音階上にできる和音のことを「固有和音(音階固有和音)」と呼びます。一つずつ見てみると・・・C(I)・・・ハ長調のID(II)・・・ニ短調のIE(III)・・・ホ短調のIF(IV)・・・ヘ長調のIG(V)・・・ト長調のIA(VI)・・・イ短調のIH(VII)・・・減3和音(根音と5音の音程が減5度)なのでどんな調のIにもみなせないどの調にも見なせないVIIの和音を除いた各和音ですが・・・なんと!「近親調」にあたる和音と一致するのです!!つまり「VII度音上にできる固有和音以外の音階固有和音が、その調の近親調」になるのです。今回知ることができたことを元にして、次回はいよいよ借用和音の本丸を攻めていきます。次回までに「同主調(同名調)」「平行調」「近親調」「属調」「下属調」「属平行調」「下属平行調」についての理解を深めておきましょう!


【ミニコーナー】合奏の時に気にして欲しいこと(第13回)本番までの合奏の組み立て方~中期段階編(その5)刺激について考える(下)今回は「練習内での刺激(直接的刺激)」についての考察です。皆さんは日常の基礎合奏や曲の合奏をするときに、その曲の楽譜に書かれてあるリズムやダイナミクスを守りながら練習していると思います。ここで皆さんに質問です。皆さんは「基礎合奏」と「曲合奏」の関係づけについてどれくらい意識していますか?日常の基礎合奏のルーティンは「毎回同じメニュー」を行うことでその日のコンディションを比較し、調整するために有益ですが、毎回同じことの繰り返しだとマンネリズムに陥り、練習の効率も集中力も低下していく恐れがあります。マンネリズムの解消と、基礎合奏の一層の有益性を持たせるために「曲のエッセンスを基礎合奏に取り入れる」ことで「刺激」を与えて、練習に変化をつけることを今回は提案したいと思います。言い換えれば「曲合奏と基礎合奏をリンクさせる」ということになります。具体的には・・・・曲のテンポとのリンク・曲の拍子とのリンク・曲の調性とのリンク・曲のダイナミクスとのリンク・曲のリズムとのリンクなどが挙げられるでしょうか。他にも色々な可能性が考えられます。それらのエレメント(要素)を基礎合奏のメソッドでも行うことで、これから練習する曲に対しての「準備運動」を一層万全なものにするという目的があります。例えば、基礎合奏のスケールをこれからやる曲のテンポで練習することで、これからやる曲で使う「息のスピード」や「方向性」などを確認し、共有することができますね。また、これからやる曲の調を用いた「カデンツ」を基礎合奏で練習すると、その時点でこれからやる曲の和声進行の「骨組み」を簡単に体感し、それを楽曲に応用することが可能です。変拍子や、特徴的なリズムやアクセントを持つ楽曲の練習の前の基礎合奏では、その拍子やリズムをユニゾンや簡単なハーモニーで練習して、それを揃えたのちに曲合奏に移行すると、楽曲でのリズム合わせが今までよりもスムーズになると思います。いずれにせよ、指揮者がスコアを読んでその曲が「どのような特徴や性質を持っているのか」を把握していることが大切になってきます。このようにして「同じことの繰り返し」「つまらないと感じてしまうかもしれない」中期の合奏に、変化をつけていきながら、メンバーの好奇心や集中力、モチベーションを維持するアイデアをたくさん持っている指揮者・指導者が「良い指導者」と言えると僕は思っています。これらのアイデアについては、また改めて実際の曲を例にしながら皆さんに深くお話ししていけたらと思います。→次の記事はこちら


文:岡田友弘※この記事の著作権は岡田友弘氏に帰属します。


 

以上、岡田友弘さんから学生指揮者の皆様へ向けたコラムでした。

それでは次回をお楽しみに!

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★岡田友弘さんに「投げ銭(金銭的なサポート)」をすることができます!この記事が気に入ったらぜひサポートを!投げ銭はこちらから(金額自由)岡田友弘氏プロフィール写真:井村重人1974年秋田県出身。秋田県立本荘高等学校卒業後、中央大学文学部文学科ドイツ文学専攻卒業。その後、桐朋学園大学音楽学部において指揮法を学び、渡欧。キジアーナ音楽院大学院(イタリア)を研鑽の拠点とし、ウィーン国立音楽大学、タングルウッド音楽センター(アメリカ)などのヨーロッパ、アメリカ各地の音楽教育機関や音楽祭、講習会にて研鑚を積む。ブザンソン国際指揮者コンクール本選出場。指揮法を尾高忠明、高階正光、久志本涼、ジャンルイージ・ジェルメッティの各氏に師事。またクルト・マズーア、ベルナルト・ハイティンク、エド・デ・ワールトなどのマスタークラスに参加し、薫陶を受けた。これまでに、東京交響楽団、セントラル愛知交響楽団などをはじめ、各地の主要オーケストラと共演するほか、数多くのアマテュア・オーケストラや吹奏楽団の指導にも尽力し、地方都市の音楽文化の高揚と発展にも広く貢献。また、児童のための音楽イヴェントにも積極的に関わり、マスコットキャラクターによって結成された金管合奏団“ズーラシアン・ブラス”の「おともだちプレイヤー」(指揮者)も務め、同団のCDアルバムを含むレコーディングにも参加。また、「たけしの誰でもピカソ」、「テレビチャンピオン」(ともにテレビ東京)にも出演し、話題となった。彼の指揮者としてのレパートリーは古典から現代音楽まで多岐にわたり、ドイツ・オーストリア系の作曲家の管弦楽作品を主軸とし、ロシア音楽、北欧音楽の演奏にも定評がある。また近年では、イギリス音楽やフランス音楽、エストニア音楽などにもフォーカスを当て、研究を深めている。また、各ジャンルのソリストとの共演においても、その温かくユーモア溢れる人柄と音楽性によって多くの信頼を集めている。日本リヒャルト・シュトラウス協会会員。英国レイフ・ヴォーン=ウィリアムズ・ソサエティ会員。




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