「スコアの種類を知ろう」プロの指揮者・岡田友弘氏から悩める学生指揮者へ送る「スーパー学指揮への道」第3回






管弦楽や吹奏楽の指揮者として活動されている岡田友弘氏に、学生指揮者の皆様へ向けて色々なことを教えてもらおうというコラム。

主に高等学校および大学の吹奏楽部の学生指揮者で、指揮および指導については初心者、という方を念頭においていただいています。(岡田さん自身も学生指揮者でした。)

コラムを通じて色々なことを学べるはずです!

第3回は「スコアの種類を知ろう」。上中下の3回に分けてお送りする「スコアを手に取って、見てみよう!」の第1回です。

さっそく読んでみましょう!


第3回・スコアを手に取って、見てみよう!(上)


第1章・スコアはルールブックであり、ゲームのフィールドであり、地図!

 さぁ、いよいよ今回からはスコアのいろいろについてお話していきましょう。

 ところであなたはスポーツやゲームは好きですか?僕も上手ではないですが「たしなむ」程度の知識はあります。そもそもスポーツが得意だったら吹奏楽なんてしなかった・・・ということはありません!スポーツやゲームにはいわゆる「ルール」があります。ルールといっても、どういうことが反則か?というようなものだけでなく、何人でやって、どのように動いて、どうやったら点が入って、どうやれば攻守が交代するか、などなど・・・。コンピューターゲームでもボードゲームにも色々な約束事があって、それを知って守りながらプレーするので面白いと思うのです。それぞれがルールを無視しても面白くないですよね?

 最近は将棋ブームと言われていますが、あなたは将棋をしますか?突然ですがここで将棋クイズ!

第1問・将棋はタテヨコ何マスの盤面で行われているか?

第2問・駒の種類は何種類あるか?

第3問・それぞれの駒はどのように動かせるのか ?

第4問・そのように駒を置いてはいけないことがあるが、それはどのような置き方か?

第5問・将棋はどうやったら勝ち負けが決まるのか?

 さぁ、どうでしょう?将棋を知っている人は簡単に答えられると思いますが、将棋がわからない人はさっぱりわからないと思います。興味がないもの、必要性がないものをなんでも知る余裕はないですよね。他にももう少し細かいルールはあるにせよ、この5つの問題がわかれば将棋が指せる第一歩を踏み出すことができます。

それと同様に、音楽のスコアを読むということも、そのような簡単な約束事を知っていけば何も怖いことはありません。スコアの成り立ちを理解していくことで徐々に今取り組んでいる音楽を知ることができるということです。ほぼ全部のことがスコアには書かれています。あなたが既に知っていることがあるかもしれません。知っていることは読み飛ばして知らないことを自分の記憶の引き出しに新しく保存していって欲しいと思います。

「ルール」がわかれば一気に楽しくなる!もっとスコアのこと、音楽のことが知りたくなるはずです。そして、それをこのことを知らない部活の仲間にも教えてあげてくださいね!ルールが分かり、仕組みがわかれば、スコアに書かれている音楽の「攻め方」がわかってきます。どのように曲を攻略していくかの戦略や戦術が見えてくるようになると思います。最初からムズカシイことをいきなりやることはありません。入りやすい、わかりやすいこと、一見「簡単すぎる!」と思われることから始めることが大切です。ロールプレイングゲームと一緒です。はじめは弱い装備で弱い敵を倒してコツコツレベル上げをしていきますよね?それと一緒です。

 


第2章・スコアを「眺めて」みよう!ついでに、ちょっとだけ「作業」もしてみよう!

 「楽譜」には大きく分けて二つの種類があります。一つはあなたが合奏で演奏するときに使用する「パート譜」、そして合奏の指揮者が練習や本番の時に使用する「スコア」です。パート譜には自分が演奏するべき部分(パート)だけが書かれてますが、スコアには曲の中の楽器の動きが全て描かれています。

 吹奏楽部の楽譜はコピーされた楽譜が多く、それを何回も使いまわしているのが実情です。ですのでスコアもコピー譜を使用していることが多いと思います。でも本来であれば楽譜はコピーされたものではない印刷出版されて販売・レンタルされたものを購入もしくはレンタル契約を結んで使用するのが正式な行為なのです。最近は少しずつこのようなことに意識が出てきたのですが、残念ながらまだ「コピー文化」は強く深く根付いています。違法なコピーが繰り返されて、無断に演奏や使用が繰り返されることは、一見便利なことにも見えますが最終的にはあなたにとっても大きな影響が出てくることを頭の片隅に置いておきましょう。

ずっと昔の話ですが、誰もが知っている吹奏楽の曲が出版社で絶版(印刷が終わって出版されなくなってしまうこと)になってしまったことがありました。理由はたくさん演奏されているにもかかわらず、コピーに続くコピーでの使用で楽譜を実際に購入するものが激減、演奏されているにも関わらず「売れない曲」ということで絶版になったのです。

後年別の出版社から出版されて今は普通に演奏できますが、また再びこのような曲が出てこないことを心より願っております。そして、楽譜を買ってくれないとその作曲家や出版社がとても苦しくなってしまい、その創作や出版を諦めて廃業してしまう可能性もあります。作曲家も出版社も貴族ではありませんので、普段お店で買い物をする商品と同じだという気持ちを忘れないで欲しいというのが、僕からの最初のお願いです。コピーして使うことを「当たり前」に思わないこと、そしてそれを全員の共通認識にできるようにするのもまた、あなたの大切な仕事のひとつです。

 さて、合奏で使うスコアにも実は種類があります。大きく分けて二種類です。

1・フルスコア

2・コンデンススコア

フルスコアは楽曲に使用されている全ての楽器が書かれているスコアで1ページの中に何十段もの五線譜が描かれているものです。普段合奏する時に見ているのはこのフルスコアが多いのではないかと思います。

コンデンススコアは「要約スコア」です。苺にかけると美味しい「コンデンスミルク」がありますが、そのコンデンスです。コンデンスミルク(加糖煉乳)は、牛乳に糖分を加えて「濃縮」させた、粘度の高い液状のものです。つまりコンデンススコアとは「濃縮(凝縮)スコア」ということ。美味しい成分がギュッと詰まったスコアなのです。楽譜に必要な動きや音は書かれていますが、それを最小限にグループ化して記譜しています。ですので同時に流れる段数は4段程度のスコアです。曲の構成や和音やリズムの把握が容易にできますが、全ての楽器が記載されていないので、全体的な動きや役割の把握にはフルスコアが適しています。しかし、楽曲の分析などにはコンデンススコアはとても役に立ちます。欧米の出版社の楽譜にはフルスコアとコンデンススコアの両方がセットに入っているものも多いです。昔は日本の老舗出版社の楽譜もフルスコアとコンデンススコアが両方入っていたものが多かったのですが、最近はコンデンススコアがない楽譜が多いと思います。コンデンスは学指揮にとっても役立つものなのに!

コンデンススコアのことについてはまた改めて筆を起こしますので、ここではフルスコアを取り上げていきます。

僕もフルスコアをあなたと同じように手に取ってみようと思い、本棚からスコアを取り出しましたが・・・オーケストラの指揮を多くしているため管弦楽のスコアばかり・・・。

ランダムに部屋にあるスコアの一部分を引っ張り出しました。

これは実際の演奏会でもそのまま使用している大型スコアです。僕たち指揮者の出費額ナンバーワンがこのようなスコアです。値段は平均すると10,000円から20,000円くらい・・・もっと安いものもありますし、もっともっと高いスコアもありますが、僕たちにとっては最大の「財産」であり「宝物」です。

写真の左上から、行進曲「威風堂々」で有名なエルガーの交響曲第1番。今持っているスコアの中で最も大きいサイズのもの。その隣がリヒャルト・シュトラウス 全集の中からの一冊。その隣の水色のスコアがドイツの出版社のものでベートーヴェンの交響曲第9番です。他にもベートーヴェンのピアノ協奏曲第5番「皇帝」と交響曲第3番「英雄」、ドヴォルザークの交響曲第8番とチェロ協奏曲です。どれも名曲なのでぜひ機会があったら聴いて欲しいと思います。薄い水色と濃い水色の楽譜がありますがどちらも同じドイツの出版社です。右端の一冊だけ色の違う楽譜は吹奏楽コンクールで今なお人気の曲(編曲された第四楽章だけですが)である矢代秋雄の「交響曲」のフルスコア(音楽之友社)です。現在はスタディスコアもあり、フルスコアもデザインが変わっています。これは初版本になります。実はこのスコアには作曲者の直筆サインが!

(「交響曲」(矢代秋雄作曲 音楽之友社)スコアより。)

オーケストラのフルスコアには携帯や勉強に便利な小型のスコアもあります。「スタディスコア」と呼ばれるものですが、街の楽器屋さんでも日本の出版社のものが在庫されているものが多いです。インターネットの通販サイトでも取り扱っているものも多く、手に入りやすいものが多いです。オーケストラの編曲作品をやるときはぜひとも手に入れておきたいアイテムです。こんな感じのものです。

値段は国内の出版社で平均1,000円から2,000円くらい。海外の出版社では平均的に2,000円から高いもので10,000円くらいするものもあります。残念なことに吹奏楽で取り上げられる曲は現代に近い作曲家が多いせいもあり価格が高いものが多いのですが、そのような曲も国内の出版社で出版され始めてきたので廉価に買い求めることができるようになってきています。

いろいろな表紙がありますよね?表紙で「あ!あの出版社だな!」とだいたい見ればわかるので楽しいですよ。楽譜を出版する出版社のこだわりはその本の全てにわたって反映されているのです。コピーではその思いやこだわりを知ることができない・・・作った人たちはきっと悲しいことだと思うことでしょう。

下段の右から2番目のスコアには何かマジックで落書きのようなものがありますが、このシューマンの交響曲第3番「ライン」のスコアに書かれているのは、イタリア人の名指揮者リッカルド・ムーティのサイン!これはムーティの楽屋に僕が押し掛けて書いてもらったものです。スコアには読むだけでなくていろいろな思い出も残っています。

そして、吹奏楽のスコア。出版されている楽譜を買ったものです。年季の入ったものもありますね・・・。かつては日本国内からスコアを単品で購入することはとても難しかったのですが、今は海外の出版楽譜も日本の出版社の楽譜もフルスコアのみを手に入れることができるようになりました。この中で今まであなたが演奏したことのある曲はどれくらいあるでしょうか?もしかしたら、あまり多くないのかもしれませんね。

スコアの外観のいろいろについて知ることができたところで、次回はいよいよ・・・スコアの中身をじっくりと覗いていきます!

お楽しみに!

→次回の記事はこちら


文:岡田友弘

※この記事の著作権は岡田友弘氏に帰属します。


 

以上、岡田友弘さんから学生指揮者の皆様へ向けたコラムでした。

それでは次回をお楽しみに!

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(Wind Band Press / ONSA 梅本周平)


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岡田友弘氏プロフィール

写真:井村重人

 1974年秋田県出身。秋田県立本荘高等学校卒業後、中央大学文学部文学科ドイツ文学専攻卒業。その後、桐朋学園大学音楽学部において指揮法を学び、渡欧。キジアーナ音楽院大学院(イタリア)を研鑽の拠点とし、ウィーン国立音楽大学、タングルウッド音楽センター(アメリカ)などのヨーロッパ、アメリカ各地の音楽教育機関や音楽祭、講習会にて研鑚を積む。ブザンソン国際指揮者コンクール本選出場。指揮法を尾高忠明、高階正光、久志本涼、ジャンルイージ・ジェルメッティの各氏に師事。またクルト・マズーア、ベルナルト・ハイティンク、エド・デ・ワールトなどのマスタークラスに参加し、薫陶を受けた。

 これまでに、東京交響楽団、セントラル愛知交響楽団などをはじめ、各地の主要オーケストラと共演するほか、数多くのアマテュア・オーケストラや吹奏楽団の指導にも尽力し、地方都市の音楽文化の高揚と発展にも広く貢献。また、児童のための音楽イヴェントにも積極的に関わり、マスコットキャラクターによって結成された金管合奏団“ズーラシアン・ブラス”の「おともだちプレイヤー」(指揮者)も務め、同団のCDアルバムを含むレコーディングにも参加。また、「たけしの誰でもピカソ」、「テレビチャンピオン」(ともにテレビ東京)にも出演し、話題となった。

 彼の指揮者としてのレパートリーは古典から現代音楽まで多岐にわたり、ドイツ・オーストリア系の作曲家の管弦楽作品を主軸とし、ロシア音楽、北欧音楽の演奏にも定評がある。また近年では、イギリス音楽やフランス音楽、エストニア音楽などにもフォーカスを当て、研究を深めている。また、各ジャンルのソリストとの共演においても、その温かくユーモア溢れる人柄と音楽性によって多くの信頼を集めている。

日本リヒャルト・シュトラウス協会会員。英国レイフ・ヴォーン=ウィリアムズ・ソサエティ会員。




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