「吹奏楽で使われている楽器のグループ分け」プロの指揮者・岡田友弘氏から悩める学生指揮者へ送る「スーパー学指揮への道」第40回




管弦楽や吹奏楽の指揮者として活動されている岡田友弘氏に、学生指揮者の皆様へ向けて色々なことを教えてもらおうというコラム。主に高等学校および大学の吹奏楽部の学生指揮者で、指揮および指導については初心者、という方を念頭においていただいています。(岡田さん自身も学生指揮者でした。)コラムを通じて色々なことを学べるはずです!第40回は「スコア研究」(4)、「楽器のグループ分け」。吹奏楽の指揮をするうえで最初の壁になりそうな移調楽器について、今回から数回見ていきます。ミニコーナーは前回に引き続き「指揮の原則」です。さっそく読んでみましょう!


合奏するためのスコアの読み方(34)スーパー学指揮を目指すあなたのための「スコア研究」(4)今回からフルスコアに記載されている、各楽器の記譜についてのお話をはじめます。楽譜に記されているDoの位置で出る音が必ずしも「実音のC」つまり「 ピアノの鍵盤でドの音を打鍵したときに出る音ではない」 楽器があります。吹奏楽でよく使用される楽器でいえばBbクラリネット、Ebクラリネット、アルトサックス、テナーサックス、バリトンサックス、ホルン、トランペットなどです。他にもありますが代表的なこれらの楽器のことを「移調楽器」といいます。指揮者はフルスコアに記載されている楽器の音を、記譜されている音から実音(および実際の音域)に変換して、 それぞれの楽器の音の関係を把握して楽譜を読んでいく必要があります。自分の楽器以外のことはなかなか知る機会も少なく、ビギナー指揮者にとって初期の段階で立ちはだかる大きな壁の一つが「移調楽器とその読み方」であると思います。事実、 僕もこの移調楽器の読み換えには苦労しましたが、慣れと経験である程度は解決していくものです。その長年の経験や慣れをこれから数回のコラムで一気に理解してしまおう !というのがコラムのテーマです。移調楽器の説明の前に、吹奏楽で使われている楽器の大体の音域別グループ分けを知っておきましょう。基礎合奏で各楽器を4つくらいのグループに分けている団体は多いと思います。基礎合奏の教本でそのようなグループの分け方がされているので馴染み深いでしょう。大まかなグループ分けはそれと同様なのですが、厳密には複数のグループを横断的に網羅している楽器もあります。ここでは各楽器のグループを大きく5つのグループに分けていきます。1・高音域2・中高音域3・中音域4・中低音域5・低音域これらのグループが担当する音域を、ピアノで使用されるような2段の楽譜を使ってその大体のエリアを図にしたものが以下に示す図になります。是非この表のイメージを頭に入れておきましょう!脳内でコンデンススコアに変換したり、実際にコンデンススコアを書く際に大いに役に立つことでしょう。稻垣征夫・編、磯崎敦博・筆「吹奏楽指導全集から、7・吹奏楽指導資料集」(同朋社)より引用この資料が1989年出版であることもあり、現在では吹奏楽でメジャーな楽器である、ピッコロ、オーボエ、イングリッシュホルン、ファゴット、アルトクラリネット、ソプラノサックスなどが表に記載がありません。これらの楽器は概ねこのような音域グループに属します。ピッコロ=高音域オーボエ=中高音域、高音域イングリッシュホルン=中音域ファゴット=中低音域、低音域アルトクラリネット=中低音域、中音域ソプラノサックス=高音域、中高音域いうまでもありませんが、弦楽器のコントラバスや「コントラ~」という名称の楽器は「低音域」の楽器に属します。「木管低音」もしくは「ローウッド」といわれるグループに属している楽器は、大きなくくりからみると同じグループですが、それらの楽器は低音域を主に担当するグループと低音域と中低音域を担当する楽器とに細分化されます。余談ですが、コントラバスのことを「弦バス」と今の吹奏楽部の皆さんも言っているのでしょうか?この呼び名は管楽器のバス、つまりチューバに対してそう呼ばれているのだと思いますが、歴史的に見たらコントラバスはチューバよりも歴史が古い楽器です。本来ならばコントラバスを「バス」、チューバを「管バス」と呼ぶべきだとコントラバスを演奏していた僕は強く思うのですが・・・。吹奏楽ではチューバの方がメジャーですから当然なのかもしれません。コントラバス出身者の一人として、可能であれば「弦バス」ではなく「コントラバス」と呼んで欲しいと思います。ちなみに「コンバス」と略すと通っぽくなりますよ!また、高音域の楽器グループも高音域を主に担当する楽器と、中高音域と高音域とを担当する楽器に細分化されます。オーケストラも吹奏楽も4声体のグループ分けを原則として、それらの声部を横断して担当している多くの楽器で構成されていることにより「多彩なサウンド」を作り出すことができるのです。複数の音域を横断的に担当する楽器やある楽器の奏者が持ち替えなどで演奏することの多い楽器、例えばイングリッシュホルン(オーボエ奏者が持ち替え)やEbクラリネットやアルトクラリネット、バスクラリネット(クラリネット奏者が持ち替え)はそれらの奏者の普段から慣れ親しんでいる音部記号で書き換えられた楽譜の方が読み間違いのリスクを軽減することができるため、基本的には同じ音部記号を使います。実音域はへ音記号の音域でも普段見ている楽譜がト音記号であるならば、同じト音記号の方が助かりますよね?中音域もしくは中低音域を担当する楽器(ホルン、イングリッシュホルン、アルトサックスやバリトンサックスなど)はト音の音域とへ音の音域を行き来するので、移調して記譜することでその不便さを解決しているといえます。移調楽器がそのように記譜されていることにも色々な理由があるのです。もちろん楽器の成り立ちや歴史的経緯、作曲家の好みなどもありますが、現代においては移調楽器とその記譜には実用的な意味があると考えていいと思います。次回は移調楽器の記譜と実音の読み方や、互いの関係性についてです。


【ミニコーナー】続・学生指揮者のための、指揮法以前の指揮の原則前回は指揮法上の最も重要な技法「打法」における「放物運動」のお話をしました。打法が指揮法上重要な技法であることに変わりはありませんが、打法だけではワンパターンの指揮表現になってしまいます。遅いテンポの音楽や感情を込めた表現を求められる場所で打法を使用するのはT P Oにそぐわない場合も多くあります。その際に使用する技法をいくつか覚えておきましょう。それは「振り子運動」である「しゃくい」「平均運動」「先入法」です。齋藤指揮法においては振り子運動を2種類に分けて、「しゃくい」「平均運動」と呼んでいます。このふたつの運動はどちらも「振り子運動」の一種です。振り子運動とはこのような図で示すことができます。この図が示すような運動をするのが振り子運動です。「点」の位置で最速となり、左右の「静止」点で最も速度が遅くなります。そして静止することで点と点の間にある「第2の点」を示すことによって点を予測することができます。最速点から静止する点に向かって減速運動し、静止点から最速の点に向かって加速運動をする・・・その繰り返しが「振り子運動」です。齋藤指揮法では、この振り子運動の最速点から静止点までの加減速の速度の差が大きいか小さいかで運動の種類分けをしているのです。差が大きいものを「しゃくい」、小さいものを「平均運動」といいます。見た目の運動の硬さや弾力性は「打法」>「しゃくい」>「平均運動」の順で少なくなり、加速と減速の差も比例して小さくなります。また、テンポが速い音楽は「打法」で、逆に遅い運動は「しゃくい」や「平均運動」を使用することで音楽の性格と指揮の運動を連動することができます。感情が表に出るような音楽、粘りのある音楽を表現するには「しゃくい」を、穏やかで静かな雰囲気の音楽を表現するには「平均運動」を用いると表現にメリハリが出ます。この3つの運動をさらに細かく分類すると「ハードな打法」>「ソフトな打法」>「粘性のあるしゃくい」>「粘性の少ないしゃくい」>「平均運動」の順番に硬さの度合いが減り、柔らかい運動になっていきます。齋藤指揮法の教程では、初心者が習得しにくい「脱力」が十分にできなくても比較的体得しやすい「平均運動」から開始し、その後「しゃくい」を習得してから「打法」へと進んでいきます。「打法」「しゃくい」「平均運動」という3つの基本的な運動を、今取り組んでいる楽曲で適切な場所に使用することにより「視覚的に音楽を表現すること」ができるようになります。専門的なレッスンをする機会がない人もこの指揮の技法と運動の法則や特徴を頭に入れて指揮をすると指揮の表現をさらに広げることができるでしょう。次回も引き続き指揮の技法についてお話ししていきたいと思います。次回もお楽しみに!→次の記事はこちら


文:岡田友弘※この記事の著作権は岡田友弘氏に帰属します。


 

以上、岡田友弘さんから学生指揮者の皆様へ向けたコラムでした。

それでは次回をお楽しみに!(これまでの連載はこちらから)

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(Wind Band Press / ONSA 梅本周平)


★岡田友弘さんに「投げ銭(金銭的なサポート)」をすることができます!この記事が気に入ったらぜひサポートを!投げ銭はこちらから(金額自由)岡田友弘氏プロフィール写真:井村重人1974年秋田県出身。秋田県立本荘高等学校卒業後、中央大学文学部文学科ドイツ文学専攻卒業。その後、桐朋学園大学音楽学部において指揮法を学び、渡欧。キジアーナ音楽院大学院(イタリア)を研鑽の拠点とし、ウィーン国立音楽大学、タングルウッド音楽センター(アメリカ)などのヨーロッパ、アメリカ各地の音楽教育機関や音楽祭、講習会にて研鑚を積む。ブザンソン国際指揮者コンクール本選出場。指揮法を尾高忠明、高階正光、久志本涼、ジャンルイージ・ジェルメッティの各氏に師事。またクルト・マズーア、ベルナルト・ハイティンク、エド・デ・ワールトなどのマスタークラスに参加し、薫陶を受けた。これまでに、東京交響楽団、セントラル愛知交響楽団などをはじめ、各地の主要オーケストラと共演するほか、数多くのアマテュア・オーケストラや吹奏楽団の指導にも尽力し、地方都市の音楽文化の高揚と発展にも広く貢献。また、児童のための音楽イヴェントにも積極的に関わり、マスコットキャラクターによって結成された金管合奏団“ズーラシアン・ブラス”の「おともだちプレイヤー」(指揮者)も務め、同団のCDアルバムを含むレコーディングにも参加。また、「たけしの誰でもピカソ」、「テレビチャンピオン」(ともにテレビ東京)にも出演し、話題となった。彼の指揮者としてのレパートリーは古典から現代音楽まで多岐にわたり、ドイツ・オーストリア系の作曲家の管弦楽作品を主軸とし、ロシア音楽、北欧音楽の演奏にも定評がある。また近年では、イギリス音楽やフランス音楽、エストニア音楽などにもフォーカスを当て、研究を深めている。また、各ジャンルのソリストとの共演においても、その温かくユーモア溢れる人柄と音楽性によって多くの信頼を集めている。日本リヒャルト・シュトラウス協会会員。英国レイフ・ヴォーン=ウィリアムズ・ソサエティ会員。




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