「メロディーとは?動機とは?主題とは?」プロの指揮者・岡田友弘氏から悩める学生指揮者へ送る「スーパー学指揮への道」第42回

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管弦楽や吹奏楽の指揮者として活動されている岡田友弘氏に、学生指揮者の皆様へ向けて色々なことを教えてもらおうというコラム。

主に高等学校および大学の吹奏楽部の学生指揮者で、指揮および指導については初心者、という方を念頭においていただいています。(岡田さん自身も学生指揮者でした。)

コラムを通じて色々なことを学べるはずです!

第42回は「ガクシキ(学指揮)」のための「ガクシキ(楽式)」論(1)、「メロディーとは?動機とは?主題とは?」。

音楽の3要素のひとつ「メロディー」についての初回入門編です。

ミニコーナーは前回に引き続き「指揮の原則」です。

さっそく読んでみましょう!


合奏するためのスコアの読み方(36)
「ガクシキ(学指揮)」のための「ガクシキ(楽式)」論(1)

前回までは「学指揮のためのスコア研究」ということでスコアの概要や移調楽器の読み方のコツをお話ししました。

今回からは音楽の3要素のひとつ「メロディー」について考えていきましょう。

§0・はじめに

音楽は2つ以上の音がつながって「動機(モティーフ)」を作ります。そのモティーフが繰り返され、また変形していくことで音楽の「旋律」が出来上がります。そしてその旋律がいくつか集まって「形式」というものが生まれます。これらについて学ぶことを「旋律法」であるとか「楽式論」といいます。

「楽譜通り演奏する」というのは「書かれてある音符をただ演奏する」だけでは不十分です。

音楽作品は「作曲者からの手紙である」とはよくいわれることですが、その「手紙」の段落や、句読点を聴き手 にもわかりやすいように演奏し、それが聴き手に伝わってはじめて「楽譜通りの演奏ができた」ということになると思っています。

そのために学指揮をはじめとした指揮者、演奏者は「楽式」つまり「音楽の形式」を理解しておくことが必要になります。

音程や和声の話よりは難しくはありませんので、是非自分のものにして欲しいと思います。

和声だけでも、音程だけでも、リズムだけでも「音楽」にはなりません。それらが「旋律」となり「形式」を作って「音楽作品」として完成するのです。「音楽の形式」について学ぶことを軽くみてはいけないのです。それに気づくことができた人が「スーパー学指揮」になることができるのです。

和声学同様、メロディーに関わる「旋律論」「形式論」「対位法」なども非常に膨大で、学んでも学んでも新しいことが登場する「沼」です。 未開のジャングルを探検するように新しい発見と学びを得られるのが音楽の魅力ですが、このコラムではそれら分野の「サワリ」の部分だけをお話しします。ジャングルの入り口と、概要についてはお伝えしますので、その先も探検したくなったら別途詳しく探検していって欲しいと思います。希望があればそのお手伝いもできたらと思っています。

§1・音楽の「分子」である「動機」

音楽を「物質」に例えると、一個の音符、もしくは休符は「最小単位」である「原子」にあたるものです。2つ以上の原子で構成されるものを「分子」といい、その物質のさまざまな特徴を示したり、エネルギーを発したりします。音楽を音楽として認識させることができる「最小単位=分子」が「動機(モティーフ)」です。

そのような理由から、指揮者なり演奏者が音楽を把握する際には「動機」について注意深く観察する必要があるのです。

ほとんどの我々が耳にする音楽作品は「動機」が展開され、型式を持つことにより「作品」として我々の前に存在するのです。

「動機」と聞くと、 ドラマなどで「犯行の動機は!?」などと取調室で刑事が 容疑者に詰め寄る姿をつい想像してしまいますので、ここでは「モティーフ」という言葉から紐解いていきましょう。

モチーフ(motiv;フランス語)

1・ 文学・美術などで、創作の動機となった主要な思想や題材。
2・音楽で、固有の特徴・表現力をもち、楽曲を構成する最小単位となる音型。動機。
3・ 毛糸編みやレース編みで、いくつかの小片をつなぎ合わせて作る場合、その個々に編んだ小片。

(デジタル大辞泉より引用)

僕のような言葉の素人が時間をかけて説明しなくてはいけないことを、国語辞典は過不足なく、しかもわかりやすく説明してくれています!2の部分が音楽に関わるモティーフの説明ですが、どちらにしても「あるもののテーマ」 であるとか「あるものを構成する最小単位」であることがわかりました。

ドイツの哲学者ニーチェは音楽における「 モティーフ(動機)」について以下のような言葉を残しています。

「音楽的感情を表現する一つ一つの身振りである」(ニーチェ)

ここでもうひとつ、僕たちが認識しておかなくてはいけないことがあります。それは「動機にはさらに動き続けようとする強い運動衝動がある」と言うことです。

この「運動衝動」によって動機は繰り返されたり、形を変えたり、また新しい動機と結合したりしながら、もう一段大きな音楽的単位である「主題」を作り出していくのです。

§2・動機と主題

主題とは「簡潔で特徴ある形態で表現された、それ自体完結した楽想」のことをいいます。簡単にいえば「主題は音楽をメロディとして捉えることができる最小単位」なのです。

つまり「動機の持つ運動衝動」を「形式」として完結させた「最初の結果」が主題なのです。

したがって「動機」の複合体、それが「主題」です。

動機は2つ、またはそれ以上の「部分動機」に分けられます。


H・グラーブナー(井本晌二(しょうじ) 、竹内 ふみ子)「すべてがわかる音楽理論」(シンフォニア)より引用

基本的に動機はこのように2つ以上の部分動機で成り立っています。普段練習している曲もこのような動機が音楽の最小単位を構成しています。ぜひ今取り組んでいる曲でも動機について調べてみてください。動機への深い眼差しが、みなさんがこれから取り組んでいく音楽の「創造の起点」なのです。

次回は「動機」のさまざまな「変化形」についてのお話です。


【ミニコーナー】又・学生指揮者のための、指揮法以前の指揮の原則

前回までは「指揮の運動の原理と技法」についてお話をしました。

今回は少し視点を変えて「左手」のことについてお話しします。

有名な指揮者や吹奏楽指導者の中には左手で指揮棒を持って指揮をする方もいます。指揮棒は右手で持たなくてはいけないという法律はありませんので、指揮棒をどちらの手に持つのも指揮者の自由ですし、指揮棒を持たない指揮をする人もたくさんいます。最近は指揮棒を持たない指揮者の方が多くなってきたように感じます。指揮棒を持つと動きが硬くなったり、自分の思っている表現ができなくなったりなど、理由はいろいろあるようです。

左手で指揮棒を持つ指揮者として有名な人物として、フィンランドの名指揮者、パーヴォ・ベルグルントがよく知られています。吹奏楽の世界では「指輪物語」の作曲家としても知られるヨハン・デメイ も左手で指揮棒を持って指揮していますね。

また指揮棒を持たないで指揮をする名指揮者といえば、ライプチヒ・ゲヴァントハウスやニューヨークフィルハーモニックなどの指揮者を歴任したクルト・マズアや作曲家としても超一流であったピエール・ブーレーズ、古楽研究の大家として知られ、古典派以降の音楽にも定評のあるニコラウス・アーノンクールなどがいます

ちなみに僕は指揮棒を持って指揮をします。僕にとっての指揮棒は自身の指揮を遠くの奏者にも可能な限り明確に伝えるために大事な「道具=楽器」であり、普段の僕という人格と指揮者としての人格を切り替える「スイッチ」のような役割をしているといえます。そのため僕にとっての指揮棒は大切な「魔法の杖」なのです。

今回の「左手の使用」とは「指揮棒を持つ手ではない方の手」という意味でその言葉を使用します。

指揮者の右手はリズムやテンポなどを奏者に理解させ共有してもらうための動きを担います。

反面左手は奏者に対して「それ以外の情報」や「何か注意を促したり、指示をしたりする」ときに使用するものです。そのような理由で、左手が常に煩雑で忙しく動いていては、その情報を大切なこととして伝えるのが難しくなります。

ドイツの作曲家で指揮者としても活躍したリヒャルト・シュトラウスは「左手はポケットの中に入れておくのがいい」と言っていたそうです。これはあくまで例え話です。しかしながらシュトラウス自身が指揮している映像を見ると、左手はほとんど使わないで指揮をしています。またフルトヴェングラーという歴史的名指揮者の映像を見ても左手はほとんど使用せずに、時にはぶらりと垂らしたままで指揮をしています。

極論ですが「巨匠に見せたいなら、左手を使わない」というのがいいのかもしれません。

また、両手を左右対称にして指揮をする指揮者を後ろから見ると、まるで「ラジオ体操」をしているのではないかと思うような格好に見えることがあります。このように指揮の格好をイギリスの名指揮者であるサー・デイドリアン・ボールト「ギリシャ壷スタイル」と命名し、自身の指揮法のハンドブックでその動きを明確に禁じています。


ギリシャの壺のイラスト

このように指揮をされてはその滑稽な動きに目を奪われて音楽に集中することができませんね。僕も含めて「大振りの指揮」をすることは不恰好なだけでなく、音楽に集中させることができない「害悪」であるという認識を持たないといけないと思います。これこそまさに「情熱はあるが情報がない」指揮となり、音楽や奏者のことなど二の次の「自己満足」でしかないと思います。

→次の記事はこちら


文:岡田友弘

※この記事の著作権は岡田友弘氏に帰属します。


 

以上、岡田友弘さんから学生指揮者の皆様へ向けたコラムでした。

それでは次回をお楽しみに!(これまでの連載はこちらから)

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(Wind Band Press / ONSA 梅本周平)


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岡田友弘氏プロフィール

写真:井村重人

1974年秋田県出身。秋田県立本荘高等学校卒業後、中央大学文学部文学科ドイツ文学専攻卒業。その後、桐朋学園大学音楽学部において指揮法を学び、渡欧。キジアーナ音楽院大学院(イタリア)を研鑽の拠点とし、ウィーン国立音楽大学、タングルウッド音楽センター(アメリカ)などのヨーロッパ、アメリカ各地の音楽教育機関や音楽祭、講習会にて研鑚を積む。ブザンソン国際指揮者コンクール本選出場。指揮法を尾高忠明、高階正光、久志本涼、ジャンルイージ・ジェルメッティの各氏に師事。またクルト・マズーア、ベルナルト・ハイティンク、エド・デ・ワールトなどのマスタークラスに参加し、薫陶を受けた。

これまでに、東京交響楽団、セントラル愛知交響楽団などをはじめ、各地の主要オーケストラと共演するほか、数多くのアマテュア・オーケストラや吹奏楽団の指導にも尽力し、地方都市の音楽文化の高揚と発展にも広く貢献。また、児童のための音楽イヴェントにも積極的に関わり、マスコットキャラクターによって結成された金管合奏団“ズーラシアン・ブラス”の「おともだちプレイヤー」(指揮者)も務め、同団のCDアルバムを含むレコーディングにも参加。また、「たけしの誰でもピカソ」、「テレビチャンピオン」(ともにテレビ東京)にも出演し、話題となった。

彼の指揮者としてのレパートリーは古典から現代音楽まで多岐にわたり、ドイツ・オーストリア系の作曲家の管弦楽作品を主軸とし、ロシア音楽、北欧音楽の演奏にも定評がある。また近年では、イギリス音楽やフランス音楽、エストニア音楽などにもフォーカスを当て、研究を深めている。また、各ジャンルのソリストとの共演においても、その温かくユーモア溢れる人柄と音楽性によって多くの信頼を集めている。

日本リヒャルト・シュトラウス協会会員。英国レイフ・ヴォーン=ウィリアムズ・ソサエティ会員。




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