「楽曲をより魅力的なものにする減7の和音」プロの指揮者・岡田友弘氏から悩める学生指揮者へ送る「スーパー学指揮への道」第27回

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管弦楽や吹奏楽の指揮者として活動されている岡田友弘氏に、学生指揮者の皆様へ向けて色々なことを教えてもらおうというコラム。

主に高等学校および大学の吹奏楽部の学生指揮者で、指揮および指導については初心者、という方を念頭においていただいています。(岡田さん自身も学生指揮者でした。)

コラムを通じて色々なことを学べるはずです!

第27回は「楽曲をより魅力的なものにする減7の和音」。

前半は「減7の和音」について。「くるみ割り人形」の「金平糖の踊り」が譜例として登場します。

後半のエッセイ的な部分は「本番までの合奏の組み立て方~中期段階篇(その1)」です。

さっそく読んでみましょう!


合奏するためのスコアの読み方(その21)「合奏と楽曲分析のための和声の超基礎(8)

今回はセブンスの和音の中でも特に個性派と言える「減7の和音(ディミニッシュ・セブンス)」について少し詳しく知る回です。

ここで「減7の和音」についての基礎知識の確認です。

減7の和音とは・・・減3和音上に更に「短3度」上の音を積み重ねた4和音を言います。

根音と7音が「減7度」の音程間隔になるので「減7の和音(ゲンシチのわおん)と呼ばれています。

減7度という音程は、短7度よりも半音1個分狭く、長7度より半音2個分(全音)狭い音程のことです。少し別方向から減7の和音を見たいと思います。

このように前回コラムで深掘りした「属7の和音」の根音を半音上げたら・・・なんと減7の和音になるのです。減7の和音の音程関係を思い出す時には是非この属7との関連を思い出して下さい。

減音程を英語では「ディミニッシュ」と言います。本来の意味は「狭くなる」という意味です。音程の間隔が通常よりも「狭くなる」のがディミニッシュ=減音程です。

減7の和音の基礎知識を頭に入れた上で、この和音の特徴や性格について・・・。

減3和音という不安定かつショッキングな響きの和音の上に、さらに減7度という音程が存在するのですから安定している和音でないことは皆さんも想像がつくと思います。

事実、古典派の時代まではこの「減7」は「不協和音」として位置づけられていました。

それなのに、不協和音とされていたバロック時代のバッハの作品をはじめとして、現代に至るまで多くの作曲家の多くの作品に登場するのはどうしてなのでしょうか?もう少しだけ減7の和音について調べていきましょう。

減7の和音が多く使われているのには色々な理由があるのですが、

■和声進行に変化を与え、楽曲をより魅力的なものにする

■さまざまな音に進行する可能性を持っている

の二つが代表的なものだと思います。

減7の和音を発見したら、その部分には作曲家の「こだわり」や「音楽上の『推し』 のエリア」ということが言えると思います。和音の種類が豊富になり、単調な感じを免れることができるのも減7の和音の大きな武器、特徴です。

皆さんもスコアで減7を発見したら、前後関係に注意しながら「意味ある部分」としてメンバーにインプットさせて、それを聴いている人に伝えられると表現に差がついてくるのではないでしょうか?

響き自体もとても不思議で「次にどんな展開が待っているのだろうか?」という気持ちにさせる和音です。全てが短3度で積み重なり、悪魔の音程「3全音」を含むこの減7の和音は、その不安定さから全ての音が解決に進みたがる音程です。

しかし、単独で減7の和音を耳で聴いただけではそれがどの和音に属する減7の和音か区別することができないのです。

その和音が解決して、その解決した和音に対してどれが「導音」なのかがわかる ことで初めて、この減7の和音の構成が見えてくるという、とても不思議な和音なのです。

最後に減7の和音のもう一つの秘密をお話しします。

一番最初に書かれた4和音をピアノなどで音を出し、次に隣の小節に書かれた4和音の音を出してみると・・・?

響きが一緒ですね!

楽譜上では違う音に見えても、ピアノなどの鍵盤で音を出すと「同じ音」があります。

それらの音のことを「異名同音(いめい・どうおん)」と呼びます。英語では「エンハーモニック」です。「ドのシャープ」は「レのフラット」、「ソのシャープ」は「ラのフラット」という具合です。

そこで注意したいのは「ミのシャープはファ」「ファのフラットはミ」「シのシャープはド」、「ドのフラットはシ」であるということです。ピアノの鍵盤でミとファ、シとドの間には黒鍵がありません。つまりその部分の音程は「半音1個」=「短2度」ということです。

それを考えながら、順番にこの楽譜に書かれてある4和音の音を出してみると・・・

配置が違うけれど、同じ構成の減7の和音があります。

楽譜の下に書かれているアルファベットが同じ4和音は響きが同じ仲間になります。

実際にピアノなどで音を出すとよくわかるのですが、減7の和音は種類としては3種類しかないことがわかると思います。機会があったら是非試してみて下さい。そして可能であればこの「3種の減7」の響きを覚えると、学指揮のかなり有力な武器となります。

減7の和音は実際の音楽作品に多数登場します。その中から2つの作品の使用例を見てみましょう。


チャイコフスキー作曲、バレエ音楽「くるみ割り人形」より「金平糖の踊り」ピアノリダクション版(カルマス社刊)より引用

これはチャイコフスキーの有名なバレエ音楽「くるみ割り人形」の中の一曲で「金平糖の踊り」です。この赤色で示した部分に減7の和音が使用されています。どこだかわかりますか?

完全な減7の和音になっている部分や上の段の音の積み重ねが減7の和音になっている部分などがありますが、チャイコフスキーもこのように減7の和音を効果的に使用して、ミステリアスな魔法の世界の物語、夢のような音楽を作り出しています。

この旋律を担当するのがチェレスタという鉄琴のような音を出す鍵盤楽器です。

チャイコフスキーは当時開発されたばかりのこのチェレスタを大変気に入り、当時かなり高額であったチェレスタを購入したという記録が残されています。

チャイコフスキーも魅了されたチェレスタの音色で減7の和音を演奏することで、幻想的なお菓子の国の世界観を見事に描き出していると思います。

チェレスタの音色と減7の和音の響きに注目しながら「くるみ割り人形」を聴いてみて下さい。


山田耕筰作曲「序曲 ニ長調(1912)」(東京ハッスルコピー刊)スタディースコアより引用

この楽譜は「赤とんぼ」や「からたちの花」で知られる日本の作曲家の草分けである山田耕筰が作曲した「序曲 ニ長調」の一部分です。

この部分で弦楽器が演奏している和音が「減7」の和音です。このように同時に鳴る和音を「分散させた」ものを「分散和音」と呼びます。

この曲のテーマは違った調で書かれているのですが、この部分では楽曲に変化をつけるためと次の部分へのつながりを考えて減7の分散和音を使ってテーマのリズムを書いています。

この序曲は日本人が初めて作曲した管弦楽曲と言われています。

日本のオーケストラ音楽史の1ページ目から減7の和音がこのように登場することを見ても、この和音が特別な意味を持つ和音であることがわかると思います。

この作品はあまり演奏される機会がないのですが、今年の7月に僕が指揮するオーケストラの演奏会で演奏します。もし興味がありましたら実際にこの曲が演奏されるのを聴きに来ていただけると嬉しいです。

減7の和音の魅力を知ることができましたか?さまざまな性格や色合いを持つ和音と、その和音進行のことを気にしながらスコアを読んでいくと、今までは見えなかった景色が見えてくると思います!そのワクワクを他のメンバーや聴衆にも分かり易く伝えるのも指揮者の大切な役割です。

スコアという小宇宙から、たくさんの未知なる星を見つけて楽しい宇宙旅行ならぬ「音楽旅行」を楽しみましょう!

それでは次回もお楽しみに。


【ミニコーナー】合奏の時に気にして欲しいこと(第9回)

本番までの合奏の組み立て方~中期段階篇(その1)

今回からは本番までの合奏練習の中核となる中期段階の合奏についてのお話をしていきたいと思います。

全体の合奏計画を映画の「3幕構成」の作り方を応用し、演奏会本番までのスケジュールを3つの幕「初期(設定)」「中期(対立)」「後期(解決)」に分けてそれぞれの練習の組み方を考えるということをお話ししました。

中期は「対立」としていますが、それは映画のストーリー構成上のことで、実際の合奏ではこの「中期」の合奏は「各パーツの質の向上」と「全体像の大まかな組み立て」をメインでやることになります。

初期の合奏で見えてきた「練習しなくてはいけない場所」と「練習しなくてはいけないパートやグループ」を重点的に鍛錬と修正をしていきます。

そのためにも、初期合奏と中期合奏の「ターニングポイント」で通しの録音をしましょう。

その録音を聴きながら学生指揮者やセクション、パートリーダーは「中期に重点的に練習する場所やメンバー」を見つけ出します。

音楽的な役割の人が録音を聴くこととは別に、全メンバーが録音を聴いて感想や今後の課題を話し合う時間を設けるようにして下さい。メンバー全員が課題と目標をシェアすることは演奏会を一体になって成功させるためには絶対に必要なことです。

その際にはメンバー一人一人から感想や意見、今後の課題、やるべき部分や事柄を発言してもらうようにましょう。

学生指揮者や音楽リーダーが頭ごなしに演奏メンバーに対して 指示・命令をするような態度は全体の 雰囲気を損ねるだけでなく、演奏者一人一人の主体性や責任感、当事者意識が育たない可能性があるのではないかと思っています。

楽器演奏は、例え大人数の合奏であろうとも「意思を持った人間」が「対話する」ことが何よりも大切です。

ゲームのように「コントロールする側」と「コントロールされる側」に分断・分類されません。そこに上下関係はなく「フラットなチーム」で「全員が指揮者」「全員が主役」であるという意識を持てると良いと思います。

その時に是非お願いしたいことがあります。

自分以外のパートや人に対して、要望や意見をする際のことです。お互いの欠点について攻撃し合うような雰囲気は今後のチーム作りに良い影響を及ぼしません。とはいえ、意見を言わなくてはいけないことがあると思います。

その時は是非、意見や苦言を呈することと合わせて、その対象になっている人やパートの「良いところ」を見つけて、それも一緒に発言してもらうようにしましょう!

苦言や意見1に対して、良いことを2・・・1:2の配分で話すくらいの気持ちで相手に接したいものですね。

それを全体の約束事として活発で雰囲気の良い中で今後の合奏の目標や計画について話し合いを進めて下さい。

一生懸命に集中して練習した後の「お茶の時間」はとても大事です。

普段の練習だけではカバーできないメンバーとのコミュニケーションや楽しく寛いだ雰囲気の中での音楽的な話題の情報交換や合奏内容や学生指揮者の合奏のやり方についての意見など・・・色々な話をできる貴重な時間となるでしょう。

そのような時間も大切にしてメンバー全員が自分の所属する団体に「家族的な温かさ」を感じられ、それぞれが輝くチーム作りの第一歩にして欲しいと思います。

次回は中期合奏の細かい内容や計画等について詳しくお話ししていきたいと思います。

→次の記事はこちら


文:岡田友弘

※この記事の著作権は岡田友弘氏に帰属します。


 

以上、岡田友弘さんから学生指揮者の皆様へ向けたコラムでした。

それでは次回をお楽しみに!

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岡田友弘氏プロフィール

写真:井村重人

1974年秋田県出身。秋田県立本荘高等学校卒業後、中央大学文学部文学科ドイツ文学専攻卒業。その後、桐朋学園大学音楽学部において指揮法を学び、渡欧。キジアーナ音楽院大学院(イタリア)を研鑽の拠点とし、ウィーン国立音楽大学、タングルウッド音楽センター(アメリカ)などのヨーロッパ、アメリカ各地の音楽教育機関や音楽祭、講習会にて研鑚を積む。ブザンソン国際指揮者コンクール本選出場。指揮法を尾高忠明、高階正光、久志本涼、ジャンルイージ・ジェルメッティの各氏に師事。またクルト・マズーア、ベルナルト・ハイティンク、エド・デ・ワールトなどのマスタークラスに参加し、薫陶を受けた。

これまでに、東京交響楽団、セントラル愛知交響楽団などをはじめ、各地の主要オーケストラと共演するほか、数多くのアマテュア・オーケストラや吹奏楽団の指導にも尽力し、地方都市の音楽文化の高揚と発展にも広く貢献。また、児童のための音楽イヴェントにも積極的に関わり、マスコットキャラクターによって結成された金管合奏団“ズーラシアン・ブラス”の「おともだちプレイヤー」(指揮者)も務め、同団のCDアルバムを含むレコーディングにも参加。また、「たけしの誰でもピカソ」、「テレビチャンピオン」(ともにテレビ東京)にも出演し、話題となった。

彼の指揮者としてのレパートリーは古典から現代音楽まで多岐にわたり、ドイツ・オーストリア系の作曲家の管弦楽作品を主軸とし、ロシア音楽、北欧音楽の演奏にも定評がある。また近年では、イギリス音楽やフランス音楽、エストニア音楽などにもフォーカスを当て、研究を深めている。また、各ジャンルのソリストとの共演においても、その温かくユーモア溢れる人柄と音楽性によって多くの信頼を集めている。

日本リヒャルト・シュトラウス協会会員。英国レイフ・ヴォーン=ウィリアムズ・ソサエティ会員。




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