「和音の基本の型、3和音」プロの指揮者・岡田友弘氏から悩める学生指揮者へ送る「スーパー学指揮への道」第15回

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管弦楽や吹奏楽の指揮者として活動されている岡田友弘氏に、学生指揮者の皆様へ向けて色々なことを教えてもらおうというコラム。

主に高等学校および大学の吹奏楽部の学生指揮者で、指揮および指導については初心者、という方を念頭においていただいています。(岡田さん自身も学生指揮者でした。)

コラムを通じて色々なことを学べるはずです!

第15回は「和音の基本の型、3和音」。

まずは「音の呼吸、壱の型!」ということですね!(そうなの?)
今回はより理解しやすいように練習問題もあります。全集中でお願いしますよ!

さっそく読んでみましょう!


合奏するためのスコアの読み方(その10)「合奏と楽曲分析のための和声の超基礎」

今回から本格的に和声学の超基礎について学んでいきましょう。和声を学んでいく上で皆さんが忘れてはいけないことをまずお話ししたいと思います。

§1.全ては「音楽のために」

僕が皆さんに伝えたいこと、それは「まず音楽を!」ということです。和声理論をはじめとした楽典は音楽や楽器演奏、指揮や合奏をする際に必要な知識、基礎体力です。それは全て「楽曲」「音楽作品」をより音楽的に演奏し、聴き手に伝えることができるか?ということが目的になるのです。準備運動での動きや頭の中での理論や作戦がどんなに立派なものであろうとも、それが実際の曲や合奏に活かすことができなければそれは「宝の持ち腐れ」に他なりません。事実、そのような知識を持っている人が楽器の演奏や指揮をしても全く魅力的な演奏ができない姿を多く見てきました。もちろんそれは「人望」や「人間的魅力」「人心掌握術に長けていなかった」というのも大きい理由なのですが、「理論が実践に結びつくこと」がなによりも大切なことです。逆に楽典をしっかりと深く勉強していない人でも、魅力的かつ感動的な演奏をする人がいます。そのような天賦の才能に恵まれた人は一握りではありますが、僕をはじめとして皆さんも「まずは音楽ありき!」を常に心に刻みましょう。音楽は「人の心から人の心へ」と伝わるものですから・・・。そして、その「音楽」のなかに理論的な裏付けを見つけることができた時の喜び、それが実際の演奏として魅力的に表現できた時の喜びは例えようのない充実感や興奮です。その瞬間を夢見て頑張っていきましょう!

§2.「和声の超基礎」習得のねらい

このコラムで習得することの骨組みをはじめに整理してみます。今回からはこの「頭に入れること」と「身につけること」を頭の片隅に置きながら読んでいきましょう。

頭に入れること
・3和音と4和音の構造を知る。
・通奏低音の作法と4声の合唱作法による和声の書き方を習得する。
・和声の響きと和音の近親関係(様々な次元のドミナント関係とメディアント関係)を理解する。

身につけること
・伝統的な音の重なりを理解して、自分で組み立てることができる。
・伝統的な音の重なりを、通奏低音の作法や4声の合唱作法で書くことができる。
・実際の音楽における和声の流れを理解し、それを評価する(和声や和声進行の分析)。

「通奏低音の作法」については現在の日本の音楽教育の中ではあまり重要視されておらず、馴染みが薄いものですので参考知識程度に覚えておきましょう。

§3.3和音

まずは和音の基本の「型」である「3和音」からお話ししていきましょう。

和音とは「3個以上の音の積み重ね」です。2音の積み重ねにおいても和音を想起させることは可能ですが、基本的には「3音以上」であるということを押さえておきましょう。

「三位一体」というキリスト教に由来する言葉(「神」「聖霊」「キリスト」)があるように、古くから「3」という数字はとても神秘的な数字でした。それと直接関係はないのですが、3という数で構成される「和音」というものは三位一体を感じさせる「神の響き」だと感じたのかもしれませんね。「音楽の三要素」「音の三要素」「三拍子」・・・音楽にとって大事なものには「3」という数字が多く登場します。

この「3和音」は「種類の異なる3個の音の積み重ね」であり、それは「3度」で積み重なっているものです。和音の基本は「3度の積み重ね」であることを覚えておきましょう。楽譜上3度で積み重なっていないように見えても、楽譜を整理して置き換えるとほとんどが「3度音程の積み重ね」によってできています。3和音とは音の数ではなく「重複した音を省略した3度音程の積み重ね」が「3つの音」でできているものを言います。それは下から「根音(ルート)」「第3音」「第5音」と呼ばれます。根音に対して「3度上」「5度上」の音というように覚えましょう。

もちろん「例外」もあります。それは「掛留音(けいりゅうおん)」をはじめとした「和音外音」や「非和声音」というものです。それらの「たくさんの例外」についてはまた改めてお話ししますので、まずは3和音のことをしっかり覚えていきましょう。

それでは次の例題を見てください。たくさんの音が積み重なっていますね。これを、重複している音のうち、高い方の音を斜線で消して、種類の異なる音だけを残します。次に残った音を最低音のバス音の上にできるだけくっつけて集めます。これを「音の集積」と呼びます。この集積をする際に気をつけることはただ一つ「バス音の下に音を書かない」ということです。

例題1・音の集積

どうですか?1)のように、たくさんの音の積み重ねられたものも、整理すると3つの異なる種類の音の重なり「3和音」になりましたね!2)は音の集積を行なってみましたが、これは基本的な3和音にはなりませんでした。

それではこの例題を参考にしながら、以下の練習問題を解いてみましょう。

練習問題1・音の集積

例題で示したように、バス音の上に音を集めましょう。

皆さん、音の集積はできましたか?(練習問題の答えはコラムの一番下にあります。)

§4.協和3和音の基本形

和音を構成している個々の音程が「協和音程」であれば、その音の重なりは「協和音」になります。したがって、協和3和音の自然な形は、両外声の音程(=外部音程、3和音の場合は根音と第五音の音程)を完全5度にした場合には二つの3度音程から構成されます。これを「3和音の基本形」といいます。

*忘れていたら過去記事をもう一度読んでみよう!→コラム第13回「アウフタクトは期待だ!」§1~§5

完全5度には7つの半音が含まれます。そのため、3度音程の積み重ね方には二通りのパターンがあります。一つは「長3度(半音4個)+短3度(半音3個)」、もう一つは「短3度(半音3個)+長3度(半音4個)」です。この2種類の3和音が協和3和音の中の基本形の双璧をなす「長3和音(メジャー・トライアド)」「短3和音(マイナー・トライアド)」と呼ばれるものです。

(注釈・「トライアド」とは英語で3和音のことでtriadと書きます。「三つ組」「三人組」という意味があります。)

§5.長3和音(メジャー・トライアド)

長3和音は、基本形では長3度と短3度からなる3和音です。この和音は必要に応じて臨時記号をつければどの音からでも作ることができます。

例題2・色々な音から積み重なる長3和音

EとF、HとCの間が半音であることに注意しながら色々な音から積み重なる長3和音を作ります。それでは実際にやってみましょう。

練習問題2・次の5度音程に第3音を入れて長3和音を作りましょう。

§6. 短3和音(マイナー・トライアド)

短3和音は、基本形では短3度と長3度からなる3和音です。この和音も臨時記号をつけることでどの音からでも作ることができます。

例題3・色々な音から積み重なる短3和音

この場合も長3和音を作るときと注意点は同じです。それでは実際にやってみましょう。

練習問題3・次の5度音程に第3音を入れて短3和音を作りましょう。

さぁ、どうですか?これまでの練習問題は第3音を入れる問題でしたが、次は少しだけ応用問題です。「長3和音」「短3和音」がどのような音の積み重ねであったかを思い出しながら、3和音を完成させましょう。

練習問題4・次の3度音程に根音、または第5音を入れて、1)では長3和音を、2)では短3和音を作りましょう。

皆さん、2種類の三和音の基本形を作ることができるようになりましたか?この二つの協和3和音が和音の基本の形となります。そこから色々なものが発展していきます。そして皆さんにお願いです。五線紙に楽譜を書いて和音を作ることと同時に、その作った三和音をピアノなどで弾いてみて、その響きを確かめてください。音の響きを耳で覚えるということは、指揮や合奏、楽器を演奏していく中でとても大事なことです。これからの皆さんにとって、とても役に立つことなのです。「書くこと」「見ること」そして「聴くこと」を大切にしていきましょう。

§7.その他の3和音

長3和音、短3和音の他にも、あと2種類の3和音があります。

・増3和音(オーグメント・トライアド)
・減3和音(ディミニッシュ・トライアド)

と呼ばれるもので、以下のような音程関係を持っています。

増3和音は3度の積み重ねがどちらも「長3度」になっています。従って「長3度(半音4個」+長3度(半音4個)」となり根音と第5音の音程は「増5度(半音8個)」となります。この「増5度」の音程から「増3和音」と呼ばれます。「増3度」が音程に含まれるのではないということを覚えておきましょう。

減3和音は3度の積み重ねがどちらも「短3度」になっています。「半音3個+半音3個」の音程感覚となり、根音と第5音の音程は「減5度(半音6個)」になります。この場合は根音と第5音の音程「減5度」から「減3和音」と呼ばれます。これもまた「減3度」の音程が含まれるのではないということを覚えておきましょう。

実際に音を出してみるとよくわかりますが、増3和音はとても独特な響きがします。そして減3和音は不安定な感じのする響きに聴こえると思います。長3、短3和音の響きとの違いを知りましょう。

最後にCを根音にした4種類の3和音を見比べて、その違いを目で見てみましょう!


(凡例;mj=長、mi=短、aug=増、dim=減)

和音の基本である「3和音の基本形」についてはわかりましたか?和音には3和音の他にもたくさんの和音の種類がありますが、その全ての基本になるのがこの3和音です。まずはこの3和音をしっかりと理解して次のステップに進みましょう。

次回は、この3和音を「通奏低音の作法」と「4声体の作法」で書く方法と、3和音の「転回形」についてのお話を中心にしていきたいと思います。

次回もお楽しみに!

[練習問題の答え]
練習問題1

練習問題2

練習問題3

練習問題4

→次回の記事はこちら


文:岡田友弘

※この記事の著作権は岡田友弘氏に帰属します。


 

以上、岡田友弘さんから学生指揮者の皆様へ向けたコラムでした。

それでは次回をお楽しみに!

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(Wind Band Press / ONSA 梅本周平)


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岡田友弘氏プロフィール

写真:井村重人

 1974年秋田県出身。秋田県立本荘高等学校卒業後、中央大学文学部文学科ドイツ文学専攻卒業。その後、桐朋学園大学音楽学部において指揮法を学び、渡欧。キジアーナ音楽院大学院(イタリア)を研鑽の拠点とし、ウィーン国立音楽大学、タングルウッド音楽センター(アメリカ)などのヨーロッパ、アメリカ各地の音楽教育機関や音楽祭、講習会にて研鑚を積む。ブザンソン国際指揮者コンクール本選出場。指揮法を尾高忠明、高階正光、久志本涼、ジャンルイージ・ジェルメッティの各氏に師事。またクルト・マズーア、ベルナルト・ハイティンク、エド・デ・ワールトなどのマスタークラスに参加し、薫陶を受けた。

 これまでに、東京交響楽団、セントラル愛知交響楽団などをはじめ、各地の主要オーケストラと共演するほか、数多くのアマテュア・オーケストラや吹奏楽団の指導にも尽力し、地方都市の音楽文化の高揚と発展にも広く貢献。また、児童のための音楽イヴェントにも積極的に関わり、マスコットキャラクターによって結成された金管合奏団“ズーラシアン・ブラス”の「おともだちプレイヤー」(指揮者)も務め、同団のCDアルバムを含むレコーディングにも参加。また、「たけしの誰でもピカソ」、「テレビチャンピオン」(ともにテレビ東京)にも出演し、話題となった。

 彼の指揮者としてのレパートリーは古典から現代音楽まで多岐にわたり、ドイツ・オーストリア系の作曲家の管弦楽作品を主軸とし、ロシア音楽、北欧音楽の演奏にも定評がある。また近年では、イギリス音楽やフランス音楽、エストニア音楽などにもフォーカスを当て、研究を深めている。また、各ジャンルのソリストとの共演においても、その温かくユーモア溢れる人柄と音楽性によって多くの信頼を集めている。

日本リヒャルト・シュトラウス協会会員。英国レイフ・ヴォーン=ウィリアムズ・ソサエティ会員。




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