「スコアを見るときは最初のページも」プロの指揮者・岡田友弘氏から悩める学生指揮者へ送る「スーパー学指揮への道」第4回




 

管弦楽や吹奏楽の指揮者として活動されている岡田友弘氏に、学生指揮者の皆様へ向けて色々なことを教えてもらおうというコラム。

主に高等学校および大学の吹奏楽部の学生指揮者で、指揮および指導については初心者、という方を念頭においていただいています。(岡田さん自身も学生指揮者でした。)

コラムを通じて色々なことを学べるはずです!

第4回は「スコアを見るときは最初のページも」。上中下の3回に分かれている「スコアを手に取って、見てみよう!」の2回目になります。

さっそく読んでみましょう!


第4回・スコアを手に取って、見てみよう!(中)それでは数多いスコアの中から、ドイツの作曲家パウル・ヒンデミットの「吹奏楽のための交響曲」を例にして見ていきます。この曲はドイツの大作曲家であるヒンデミットが吹奏楽のために作曲した曲で、吹奏楽の歴史の中でも非常に重要な位置を占めている曲ですので、機会があったら是非聴いてほしいと思います。このヒンデミットの曲だけでなく、吹奏楽の歴史に多大な影響を与えた名曲がたくさんあります。そのような曲を知り、自分の知識の血肉としていくことも大切ですので、色々な音楽に興味や関心を持ち続けましょう。「引き出しの多さ」は指揮者の武器ですよ!(引用;「吹奏楽のための交響曲」ヒンデミット作曲 ショット社より)表紙を開いて最初のページです。ここからわかる情報も大切な情報ですのでページを飛ばしてはいけません。時折コピーされた楽譜にはいきなり曲が始まるページから印刷されているものもありますが、大切なページなのですから印刷をされています。このページからわかることは何でしょうか?まず作曲者は「パウル・ヒンデミット(Paul Hindemith)という人物であること。これがわかればヒンデミットという人がこの曲を作ったということがわかります(当然のことですが)。作曲家の名前がわかればあなたがこの作曲家について調べることができますね。次は「曲のタイトル」がわかります。「吹奏楽のための交響曲」ですね。吹奏楽のためにヒンデミットが書いた交響曲ということがタイトルからわかります。「名は体を表す」と言いますが、どのようなスタイルの曲であるのかということがわかりました。「in Bb」と書かれていますが、これは曲の「調」です。日本語では「変ロ調」になります。音楽の用語には長調と短調という用語が出てきます。ヒンデミットはあえて長・短調を規定していないのですが、ヒンデミットは自分の作品でこのような表記をすることが多い作曲家でした。そして「1951」は作曲された年です。これがわかり、ヒンデミットの伝記などを調べたあなたは、ヒンデミットがこの曲を何歳の時に書いて、どこに住んでいたのか?がわかります。そしてこの時期に作曲された他の曲についても知ることができます。作曲年より下の情報は出版社についての情報ですので、今はあまり大切なものではありません。それでは次のページを開きましょう。(引用;「吹奏楽のための交響曲」ヒンデミット作曲 ショット社より)「Instrumentation」とは「楽器編成」のことです。この曲で必要な楽器やパート数が書かれています。これを読むことで例えばどんな打楽器が必要なのか?特殊楽器は使用するのか?最低何人、何パートの人を必要とするのかがわかります。楽器の横に「in~」とあるのはその楽器がどのような調性の楽器を使っているか?というもので、楽譜もその調性の楽器が演奏しやすいように書かれていることを示しています。その話題についてはまた改めて詳しくお話ししたいとおもいますので、まずは楽器の編成だけを把握します。そして、ほとんどの場合この楽器編成の記述の順番で上から楽器がスコアに配置されていますので、スコアを見る前にその順番を知る良い機会となるのです。ヒンデミットの楽器編成の配置の順番は現代の作曲家の作品の標準的なスコアの配置といえると思います。作曲家によってはこのヒンデミットの配置順と異なる配置も見られますが、それは「ファゴット」と「ホルン」が配置されている場所がこのスコアの配置順とは異なるものがほとんどです。一番下の「18 min」は全部の演奏時間の目安です。プログラムを編成する時のタイムテーブルの作成や練習時間の配分の目安になり、だいたいの演奏時間を実際に演奏する前に知ることができるので、書いてあるかどうかをチェックしてください。これは僕の経験なのですが、この演奏時間が実際に演奏した時と大きく差があることがあります。あくまで参考の数値であることも頭の片隅に置いておいてください。音楽は生き物なので、その時間でやるべき!という「べきお化け」にはならないようにしましょう。では、いよいよフルスコアの本編が出る部分に進みます。たくさんの段と、左側にたくさんの楽器名が書かれています!(引用;「吹奏楽のための交響曲」ヒンデミット作曲 ショット社より)フルスコアにおいて縦の軸はパートの数や種類を表し、吹奏楽のスコアでは基本的に上から「木管楽器」「金管楽器」「打楽器」の順番で配置されています。この基本的な原則は忘れずに覚えておきましょう。そして各楽器は音域の高い方から配置されるのが標準です。オーケストラのスコアでは「フルート」「オーボエ」「クラリネット」「ファゴット」の順番でスコアに配置されます。このように配置する吹奏楽の作曲家の作品もあります。このスコアの場合はその基本的な配置の下にサックスが音域の高い「アルト」から「テナー」、そしてこの中では一番音域の低い楽器である「バリトン」が配置されています。木管楽器の後には金管楽器が、音域の高いコルネット(トランペット)からホルン、トロンボーン、バリトン(ユーフォニアム)、チューバと配置されますが、これは先ほどからの基本的な原則である音域が高い方から低い方へと配置されるというものに従っています。「コルネット」と「バリトン」の部分については、現在の日本の吹奏楽の編成に合わせて考えるとそれぞれ「トランペット」と「ユーフォニアム」がそれに替わることが多いですが、厳密には違う楽器ですので時間がある時には楽器についてもいろいろ調べてみましょう。このコラムでも必要なことについてはお話しする予定です。スコアの縦軸について理解したところで、今度は横軸です。当然のことですが横軸は「時間の経過」を表します。縦軸で配置されている楽器群が同じ時間経過で横に進んでいきます。実際には同時にたくさんの楽器の音が響いていることを「見える化」しているのです。すごく当たり前のことなのですが、絶対に不変の鉄則です。(作曲家の特別な指示があれば別ですが、そういう時はそのような指示が必ず楽譜に書かれています。)ここで、いくつか確認の作業をすることにします。まず、スコアの左上、そして中央上のタイトルの下に数字の「I」と書かれていますね?最初のページであなたはこの曲が「交響曲」ということを知っています。交響曲には通常3つから4つの「楽章」があります。「楽章」とはそれぞれが異なる個性や形式を持った曲で、その曲の集合体が「交響曲」です。もちろん例外もたくさんあります。楽章がわかれていない「単一楽章」の曲(シベリウスの交響曲第7番など)や5楽章以上の多楽章で書かれている交響曲(マーラーの交響曲第3番やメシアンの「トゥーランガリラ交響曲」など)もあります。交響曲の他に「組曲」も多くの楽章によって構成されています。この曲の場合は「交響曲であること」がわかっていて、スコアの上部に「I」とあることから、「2楽章以上の楽章がある」と予測できますね。では確認してみましょう。スコアをめくっていき2楽章、3楽章、それ以上の楽章を表す数字があるかを探します。探してみたら「II」と「III」が見つかり、IIIの曲が終わったところでスコアのページも終わりました。つまり、この曲は「3楽章形式の交響曲だ」ということを知ることができました。このヒントから曲の全体像がわかりました。学指揮として合奏やスコアの勉強をスムーズにするためにもう少しチェックをして必要な準備作業をしていきましょう!これからあなたがチェックするポイントを。全部で5つのポイントがあります。この作業もまだ本格的な音楽としてのスコアを読むことではありませんが、勉強と練習を進める際にはとても大事になることです。実際のところ、このようなことをしっかりとやっている人は多くはありません。だからこそ、ここで差をつけましょう!1・全部で何ページあり、スコアのページ数は問題なく進んでいるか?ページ数を確認することはとても大事です。仮にコピーする楽譜を使用する場合は間違って同じページを続けて印刷して製本したり、逆にページが欠落していたりすることがあります。もちろん出版された楽譜でもそのようなことは稀にあります(落丁・乱丁といいます)。本でも本の裏表紙のあたりに「落丁・乱丁がありましたらお取り替えいたします」というように書かれていることがほとんどですので、そういう本があったらすぐに本屋さんか楽器屋さん、出版元の会社に連絡してください。僕もあるページが逆になっていたり、同じページが印刷されていたり、ページの順番が逆だったりしたことがありました。ページそのものが逆だったことも・・・。それを確認しないで合奏した時に「?!」となり、大変な思いをした経験があります。何事も準備と確認を怠らず!ですね。コピー譜の使用がよくないところの一つなのですが、スコアのページ数まで印刷されていないコピー譜があります。そのようなスコアだとページ数の確認も十分にできません。仮に不十分な状態で譜読みや合奏に臨んだ際にはその都度その都度面倒な確認作業をしなくてはいけないのです。コピーは手軽なものではあるのですが、後々自分が面倒なことに巻き込まれることになります。しっかりとページ数を確認しましょう。そして最後のページに下の写真のような「終止線」があることを必ず確かめてください。この終止線が引かれている部分で「曲が終わる」のです。それは交響曲の楽章や組曲の場合は、各曲が終わる部分にその終止線がありますので、しっかり確認しましょう。よくコピー譜で合奏するときに、この終止線まで印刷されていないものがあります。なんとなく曲が終わることはわかりますが、作曲家が書いた大事な地図の端っこを切り取ってしまうようなことですので十分に気をつけてください。(引用;「吹奏楽のための交響曲」ヒンデミット作曲 ショット社より)次のステップのために、スコアがちゃんと印刷されているかをしっかり確認しましょう!次回はいよいよ「スコアを手にとって、見てみよう!」の最終回です。→次回の記事はこちら


文:岡田友弘※この記事の著作権は岡田友弘氏に帰属します。


 

以上、岡田友弘さんから学生指揮者の皆様へ向けたコラムでした。

それでは次回をお楽しみに!

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(Wind Band Press / ONSA 梅本周平)


★岡田友弘さんに「投げ銭(金銭的なサポート)」をすることができます!この記事が気に入ったらぜひサポートを!投げ銭はこちらから(金額自由)岡田友弘氏プロフィール写真:井村重人1974年秋田県出身。秋田県立本荘高等学校卒業後、中央大学文学部文学科ドイツ文学専攻卒業。その後、桐朋学園大学音楽学部において指揮法を学び、渡欧。キジアーナ音楽院大学院(イタリア)を研鑽の拠点とし、ウィーン国立音楽大学、タングルウッド音楽センター(アメリカ)などのヨーロッパ、アメリカ各地の音楽教育機関や音楽祭、講習会にて研鑚を積む。ブザンソン国際指揮者コンクール本選出場。指揮法を尾高忠明、高階正光、久志本涼、ジャンルイージ・ジェルメッティの各氏に師事。またクルト・マズーア、ベルナルト・ハイティンク、エド・デ・ワールトなどのマスタークラスに参加し、薫陶を受けた。これまでに、東京交響楽団、セントラル愛知交響楽団などをはじめ、各地の主要オーケストラと共演するほか、数多くのアマテュア・オーケストラや吹奏楽団の指導にも尽力し、地方都市の音楽文化の高揚と発展にも広く貢献。また、児童のための音楽イヴェントにも積極的に関わり、マスコットキャラクターによって結成された金管合奏団“ズーラシアン・ブラス”の「おともだちプレイヤー」(指揮者)も務め、同団のCDアルバムを含むレコーディングにも参加。また、「たけしの誰でもピカソ」、「テレビチャンピオン」(ともにテレビ東京)にも出演し、話題となった。彼の指揮者としてのレパートリーは古典から現代音楽まで多岐にわたり、ドイツ・オーストリア系の作曲家の管弦楽作品を主軸とし、ロシア音楽、北欧音楽の演奏にも定評がある。また近年では、イギリス音楽やフランス音楽、エストニア音楽などにもフォーカスを当て、研究を深めている。また、各ジャンルのソリストとの共演においても、その温かくユーモア溢れる人柄と音楽性によって多くの信頼を集めている。日本リヒャルト・シュトラウス協会会員。英国レイフ・ヴォーン=ウィリアムズ・ソサエティ会員。




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