「コンデンススコアのお話」プロの指揮者・岡田友弘氏から悩める学生指揮者へ送る「スーパー学指揮への道」第39回




管弦楽や吹奏楽の指揮者として活動されている岡田友弘氏に、学生指揮者の皆様へ向けて色々なことを教えてもらおうというコラム。主に高等学校および大学の吹奏楽部の学生指揮者で、指揮および指導については初心者、という方を念頭においていただいています。(岡田さん自身も学生指揮者でした。)コラムを通じて色々なことを学べるはずです!第39回は「スコア研究」(3)、「コンデンススコアのお話」。コンデンススコアの基本や活用についてのお話しです。さっそく読んでみましょう!


合奏するためのスコアの読み方(33)スーパー学指揮を目指すあなたのための「スコア研究」(3)前回はオーケストラのフルスコアの種類と歴史的な変遷を勉強しました。今回はフルスコアに記されている情報(旋律線や構造、和音)をわかりやすくしたスコアである「コンデンススコア」のお話です。第1章・コンデンススコアとは?全日本吹奏楽コンクールの課題曲のスコアとパート譜のセット(IからIVまで)には「フルスコア」と「コンデンススコア」の両方が入っています。フルスコアではわかりにくい楽曲の構造や和音をわかりやすくしてくれているのが「コンデンススコア」です。「コンデンス」 は「凝縮」「濃縮」とい う 意味があります。フルスコアの要素を2段(もしくは3段の楽譜)の中に「凝縮」しているスコアが「コンデンススコア」です。指揮者が合奏に臨む際の楽曲分析をするために非常に役に立つものなのです。第2章・フルスコア、コンデンススコアの実例~ホルストの名作を例としてそれではフルスコアとコンデンススコアを見比べてみましょう。曲はグスタフ (グスターヴ) ・ホルストの《吹奏楽のための第1組曲》です。正式名称は《ミリタリーバンドのための組曲第1番》といいます。ホルスト《ミリタリーバンドのための組曲第1番 変ホ長調》第3楽章「マーチ」(ブージー&ホークス社)よりこれは第3楽章にあたる「マーチ」の冒頭部分です。たくさんの段数がありますね。それらに各楽器が割り当てられています。次に同じ箇所のコンデンススコアを見てみましょう。ホルスト《ミリタリーバンドのための組曲第1番 変ホ長調》第3楽章「マーチ」(ブージー&ホークス社)より同じ箇所の部分がコンデンススコアではこのように記譜されます。たくさんの段数に分かれていたものが、2段譜に「凝縮」されています。このように記譜することにより、和音の構造や、旋律の仕組みがよくわかります。また、ピアノなどで演奏するのにも非常に便利な楽譜です。第3章・スコア「変換」のススメ通常、吹奏楽の楽譜セットにはフルスコアのみ入っていることが多いと思います。曲によってはコンデンススコアのみのものもありますが、コンデンススコアは楽曲を分析、研究する効率をあげて、合奏の準備をするのにとても役に立ちます。 出版社や曲によってはオプションでコンデンススコアを購入できる楽譜もあります。コンデンススコアがない場合は、是非とも「コンデンススコアを自分で作る」作業 をすることをおすすめしたいと思います。コンデンススコアを自作することで、楽曲の構造や和音の仕組みを理解する助け になります。僕も学生時代に指揮の先生に「コンデンススコアを書くのは非常に役に立つよ!」とアドバイスを受けて色々な曲のコンデンススコアを書いたことが、とても良い勉強になりました。経験を積み、慣れてくるとフルスコアを見てコンデンススコアに「脳内変換」して楽曲を見ることができるようにもなってくるはずです。この「脳内変換」は指揮者にとって非常に有効なものとなるでしょう。フルスコアを同じグループで色分けしている人を最近はよく見かけます。とてもカラフルで見やすい方法だと思いますので、指揮の初心者にもオススメです。大体の場合は「旋律」「対旋律」「伴奏」「内声」等に色分けしていると思いますが、これも広い意味での「コンデンススコア変換」になるかもしれませんね。役割ごとに色分けする方法だけでなく「和声の構成音」での色分けや「音域」での色分けをしてみるのも合奏に役立ちます。スーパー学指揮を目指すみなさん!一歩先ゆくスコア研究にも挑戦してみませんか?「コンデンススコアからフルスコアに変換する」作業も大変ですが大いに役に立ちます。この作業は高度な作業ですのですぐにできるようになるものではありませんが、時間と心に余裕がある時に是非チャレンジしてみてください。色々な発見ができると思います。「作曲家はコンデンススコアの音符たちをどのように各楽器に振り分けているのだろう?」であるとか「同じ楽器内でもどの音をファーストやセカンド、サードに配置しているのだろう?」といったことを知る大きな助けになると思います。「コンデンススコアからフルスコアに変換する」ことは、作曲や編曲を学びたい人にはとても役に立つと思います。管弦楽法(オーケストレーション)の勉強になりますし、色々な作曲家の「作風」や「クセ」を知ることもできます。フルスコアからコンデンススコアに変換する際に、フルスコアのあるパートの音を「実音」に書き換えたり、音部記号(ト音記号やヘ音記号など)を書き換えたりする必要が出てきます。それに関連する「移調楽器」などの話題は次回以降に詳しくお話ししていきます。


【ミニコーナー】学生指揮者のための、指揮法以前の指揮の原則前回のミニコーナーでは「指揮の場(フィールド)についてのお話しをしました。今回は「指揮という運動」についてです。我が国で指揮を学ぶ大多数の人が学ぶメソード(教程)があります。それは齋藤秀雄先生が確立した「齋藤メソッド」といわれているもので、僕もそれを学びました。指揮法の基本や運動の原則をわかりやすく体系化しているもので、日本の指揮者の技術レベルの高さはこのメソッドの賜物といえます。しかし、少し表現が難しく理解するのが大変な教程でもあります(それは文体の難しさに原因があるのですが・・・)。齋藤先生の父親は日本初の英和辞典を編纂した英文学者の斎藤秀三郎先生ということもあり、齋藤メソッドでも指揮法の分類がまるで英文法のように分類・整理されています。古今東西の指揮法のメソッドの中で、ほぼ唯一「運動の性質」や「運動の種類」を研究分析しているのがこのメソッドです。このメソッドでは指揮の運動や技法をいくつかの種類に分けています。それは「間接運動」「直接運動」に分かれ、その中で間接運動は「打法(たたき)」「しゃくい」「平均運動」に、直接運動は「先入」「跳ね上げ」「引っ掛け」「瞬間運動」という大きく分けて7つの動きに分類されます。指揮法とはそれらの技法を「曲のテンポ」や「曲の雰囲気」などにより使い分けて、より奏者にわかりやすく伝えるためにあるのです。とはいえ、いきなり専門的な用語を並べられても難しくてよく分からない・・・そう思いますよね?本格的なメソッドに入る前に「指揮の運動の基本」について考えていきましょう。指揮をする上で根幹となる運動が「間接運動」です。「間接」というと「直接は関係ない」感じを受けると思いますが、指揮ではこの「間接運動」に属する運動が重要になります。「指揮」とは奏者に「音を出すポイント(点)をわからせる」ことで合奏での入りを揃えます。よく「あの指揮者は打点がよくわかる」とか「あの指揮者には打点がない」という話題を耳にしたことがあると思います。明確な点(クリックポイント)を出すことはとても大切なことですが、それ以上に指揮で大事なことは「点を予測させる」ということです。例えば「1・2」とあるテンポで拍を刻んだ時に、その2拍のテンポで3拍目を予測できます。1と2の間の「点」を把握できたら2拍目の入りを「予測」できますね?この「点と点の間にあるもう一つの点」を持つ運動のことを「間接運動」と呼ぶのです。例えば「じゃんけん」の「ジャン・ケン・ポン」の「ケン」にあたるものが点と点の間の点です。「ジャン」で上に跳ね上がったものが「ケン」の場所で一瞬だけ停止し、「ポン」に向かって「ジャン」で跳ね上がった場所に加速して戻るというのが「打法(たたき)」 と名付けられていて、指揮法の基本動作とされています。テンポが一定の場合、「ジャン」の跳ね上げの減速と「ポン」の加速のスピードが一致する必要があります。また「ケン」の部分が不明確だったり、止まりすぎてもいけません。自然な運動のための「加減」が必要になってくるのですが、そのために「脱力が大事」と言われるのです。これはこのミニコーナーで簡単に解説することや、文字だけで理解するのは難しいので、興味ある方は指揮のレッスンなどを受講することで講師の先生が親切に指導してくれると思います。「打法」つまり「たたき」の言葉の語源は「太鼓などの打面をバチなどで叩く」動作であることを示していますので、イメージとしてそのようなものを描くと良いのではないでしょうか。打楽器の人はよりイメージしやすいかもしれません。管楽器や弦楽器を担当している人も機会があったら打楽器の人に教えてもらいながら、太鼓をバチで叩く動作を実践してみると「脱力」や「余動」を体感できるはずです。この運動は物理などで勉強する「放物運動」であると解説している指揮法の本もあります。僕は私立文系ですので、あまり専門的なことを言えません。もしかしたら皆さんの方がくわしいかもしれませんね。「放物運動」についてはインターネット上にも様々な図書資料にも多くの言及があると思いますので、詳しく調べてみるのもいいでしょう。「放物運動」で最もよく例にされるのは、二人の人がキャッチボールをするために投げるボールが軌道や加速・減速をもって相手に届くのかというものです。指揮法はこの「放物運動」の原則を基本にしているのです。指揮の基本運動が、このような原則に基づいているものだと知ることで、指揮をする時の運動のイメージが湧いてくるかもしれません。嘘かまことか、「タタキ8年」ということを言っていた人が過去にいました。それだけ指揮法や「打法(たたき)」の習得は難しいものだということなのでしょうか。またその反面、指揮者の朝比奈隆先生はテレビの対談番組で「指揮棒を振るなんていうのは、箸でお膳を叩くようなものだ」という趣旨のお話をされていたのを観たことがあります。「単純かつ難しい」・・・それが指揮の動作、指揮の基本なのかもしれませんね。次回はその他の指揮の技法についてお話ししていきたいと思います。次回もお楽しみに!→次の記事はこちら


文:岡田友弘※この記事の著作権は岡田友弘氏に帰属します。


 

以上、岡田友弘さんから学生指揮者の皆様へ向けたコラムでした。

それでは次回をお楽しみに!(これまでの連載はこちらから)

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★岡田友弘さんに「投げ銭(金銭的なサポート)」をすることができます!この記事が気に入ったらぜひサポートを!投げ銭はこちらから(金額自由)岡田友弘氏プロフィール写真:井村重人1974年秋田県出身。秋田県立本荘高等学校卒業後、中央大学文学部文学科ドイツ文学専攻卒業。その後、桐朋学園大学音楽学部において指揮法を学び、渡欧。キジアーナ音楽院大学院(イタリア)を研鑽の拠点とし、ウィーン国立音楽大学、タングルウッド音楽センター(アメリカ)などのヨーロッパ、アメリカ各地の音楽教育機関や音楽祭、講習会にて研鑚を積む。ブザンソン国際指揮者コンクール本選出場。指揮法を尾高忠明、高階正光、久志本涼、ジャンルイージ・ジェルメッティの各氏に師事。またクルト・マズーア、ベルナルト・ハイティンク、エド・デ・ワールトなどのマスタークラスに参加し、薫陶を受けた。これまでに、東京交響楽団、セントラル愛知交響楽団などをはじめ、各地の主要オーケストラと共演するほか、数多くのアマテュア・オーケストラや吹奏楽団の指導にも尽力し、地方都市の音楽文化の高揚と発展にも広く貢献。また、児童のための音楽イヴェントにも積極的に関わり、マスコットキャラクターによって結成された金管合奏団“ズーラシアン・ブラス”の「おともだちプレイヤー」(指揮者)も務め、同団のCDアルバムを含むレコーディングにも参加。また、「たけしの誰でもピカソ」、「テレビチャンピオン」(ともにテレビ東京)にも出演し、話題となった。彼の指揮者としてのレパートリーは古典から現代音楽まで多岐にわたり、ドイツ・オーストリア系の作曲家の管弦楽作品を主軸とし、ロシア音楽、北欧音楽の演奏にも定評がある。また近年では、イギリス音楽やフランス音楽、エストニア音楽などにもフォーカスを当て、研究を深めている。また、各ジャンルのソリストとの共演においても、その温かくユーモア溢れる人柄と音楽性によって多くの信頼を集めている。日本リヒャルト・シュトラウス協会会員。英国レイフ・ヴォーン=ウィリアムズ・ソサエティ会員。




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