「音楽はあなた自身のもの」:打楽器奏者/作編曲家 會田瑞樹氏インタビュー

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以前にもWind Band Pressでインタビューを行った、打楽器奏者の會田瑞樹氏。最近では作編曲家としての活動も活発化しており、あらためて前回のインタビューとは少し違う、演奏家として、そして作編曲家としての會田氏についてお話を伺いました。


―まずは演奏家としての會田さんにスポットを当てたいと思います。パーカッションを始めたきっかけを教えて下さい。

小学生の頃、とにかくロックが大好きでした。REBECCAのNokkoを皮切りに、JUDY AND MARYや相川七瀬のライヴにも連れて行ってもらい熱狂的な空気に痺れていました。ボーカルの次に眼に映るのはドラム。そんなある日学校にドラムセットがやってきて、一瞬で心を奪われてしまったのです。


―パーカッションの好きなところを教えて下さい。特に會田さんといえばヴィブラフォンなので、ヴィブラフォンについてもとりわけ好きなところを教えて下さい。

余韻がコントロールできる点からヴィブラフォンに特に心惹かれています。打楽器は自ら音色を創造できるのが何よりの魅力だと思っています。日常に広がる音の数々に耳を傾けることを日々続けています。


―学生時代(10代〜20代頃)はどのような学生時代を送られましたか?またその頃で特に想い出深いエピソードなどございましたらお伺いできますでしょうか。

振り返って、僕は学校においてつくづく教師に恵まれていたと感じています。幼稚園は山谷先生、坂本先生、遠藤園長先生、小学校は佐藤哲郎先生、佐藤崇先生、千葉潤一先生、佐々木博明先生、中学校は橋本牧先生、大谷正博先生…本当に数かぎりない思い出と教えをうけました。特に多感な思春期に素敵な大人たちに恵まれたことを誇りに思います。そしてどの先生方も音楽を大切に思われている、という面で共通していて、今の僕に多大な影響を与えていると思います。


―日々の練習の際に心がけていることや気をつけていること、または重点を置いていることを教えて下さい。

ミクロとマクロの視点を持つことを大切にしています。ミクロ、すなわち曲の細部。いわゆる難しい手順のところをじっくりと稽古する。マクロ、すなわち曲の全体。楽句の役割と呼吸の位置を確認し作品の全体像をつかみ稽古する。この繰り返しだと思っています。


―ご自身の演奏家・表現者としての活動、例えば音楽に取り組む基本的な姿勢、演奏会や後進への指導などについて現在お考えになられていることをお伺いできますでしょうか。

音楽はまずなにより、舞台に立つ一人一人が表現するもの。と考えています。この数年、レッスンや講座の依頼も多く受けるようになりました。「あげておろす」というごく初歩の部分を解説したのちは、音楽はあなた自身のものだ。ということを伝えたいと思っています。そしてお客様とその喜びを分かち合う、お客様を導いていくという決然とした思いが大切だと考えています。


―活動する中で、上記のお考えにつながるような「これは転機になったな」と思われることがございましたら、その想い出やエピソードについてお伺いできますでしょうか。

やはり吉原すみれ先生との六年間は何にも代えがたい時間です。仙台時代に佐々木祥先生のもとで基礎稽古を積んだからこそでしたが、すみれ先生の現場の教えというものは今なお強く思い起こします。


―続いて、近年は作編曲家としても名前が売れてきているように思いますが、作編曲を始められたきっかけについて教えて下さい。

恐れ入ります。まだまだ未熟ではありますが、自作を聴いていただける機会が増えていることは梅本さんの出版のご尽力を始め、多くの方々のお力あってこそと感謝の思いでおります。


―作曲を学んでいた頃の印象的なエピソードがあれば教えて下さい。

200曲以上の新作初演を手がけ、その一つ一つの作品が僕の師匠と言って良いと思います。また末吉保雄先生と過ごした数年間、酒席でいただいた教えは僕にとって作曲の柱となっています。


―作編曲家として現在につながる転機となった作品(ご自身の作品)やエピソードがあれば教えて下さい。

中学三年生の時に打楽器アンサンブルを作曲し、後輩たちがアンサンブルコンテストで初演してくれました。地区大会銀賞に味をしめた顧問が(先述登場した大谷先生です)その後2度、新作を描くように僕を焚きつけました。三曲目の初演を聞いた時に、作曲は一度距離を置こうと思い、作品発表を控えていました。でも、その後も吹奏楽曲も描いてみたりと、無謀を重ねていました。
転機となったのは2018年、インドネシアの音楽家、Gigih,Welly,Ariefとの出会いでした。彼らは軽やかに自作を作り表現する姿に、そろそろ自分も筆を取るべきではないだろうかと感じました。そこで作曲したのがヴィブラフォンと箏のための《Kampai-Divertimento》です。初演はジョグジャカルタ。満員のお客様の拍手に、もう一度作曲を続けようと後押しされたような気がしました。

56:25から《Kampai-Divertimento》

―作曲をする際のインスピレーションをどのように得ているか、またそれをアウトプットする際に組み込んでいる手順(またはルーティンやこだわりなど)などがあれば教えて下さい。

作曲をする際は、演奏とはまったく違う脳を使うと思っているので、メリハリをつけた行動を心がけています。基本的にはある一音や連なったある楽句に対して気持ちが交信したと感じ次第、それを頼りに歩みを進めます。


―作品それぞれにテーマがあるとは思いますが、これまでの作品全体を通じて、表現者(作編曲家)として伝えたいことについて教えて下さい。

僕の音楽はあくまで「状況音楽」だと思っています。例えば10台のヴィブラフォンのための《Game[R/L]andom Pulse》は、10台のヴィブラフォンの作品なんてないのだから、作ってしまえばいいと一時間くらいで描いたものです。演奏会の中で、お新香的な箸休めを担ってほしいと思っています。

―ご自身の作曲または編曲に強く影響を受けた他の作曲家や編曲家の作品があれば、それについてどのような影響を受けたのか教えて下さい。

前述の通り200作品以上の新作が僕の師匠です。そして、八村義夫とブルックナーからの影響は多大です。まだまだ、自分の楽譜を見ると足元にも及ばないと痛感します。お二人は音を紡ぐということを真摯に捉えている作曲家です。ブルックナーは当初は優れたオルガニストであり、作曲は晩学であることも知られています。僕もいつか交響曲や協奏曲も。という夢は常に持ち続けています。特に協奏曲については、先述のWellyのグンデルと、僕のヴィブラフォンによるドッペル・コンチェルトの構想がずっと脳裏に蠢いています。ガムラン楽器はアンサンブルでの登場が主ですが、Wellyをソリストとして表現したいという思いがあるからです。まさに「状況音楽」と言えるでしょう。


―秋からリサイタルも本格的に再始動しそうな雰囲気ですね。延期されていたB→Cが11月に「帰ってきた會田瑞樹B→C公演」として開催され、まずはこれが目玉になりそうですが、このB→Cの見どころ、聴きどころなどについて教えて下さい。

ありがとうございます。東京オペラシティ文化財団の皆様のご尽力がなければこうしたことは実現できませんでした。この場をお借りして心から御礼申し上げます。この演目は企画したのが二年くらい前になるわけで、僕の中で実現するその時を予測して紡いだものです。しかしこのような、まさかの事態は、さすがに予期できませんでしたが、だからこそさらに意味合いが深まってきたように思えます。打楽器音楽の魅力の全てをそこに結集したいと思い組み上げた演目です。演奏家と作曲家とお客様、三位一体の魂の共鳴を意図しています。


―新作アルバムのレコーディングも終えられました。このアルバムについて、コンセプトや聴きどころ、レコーディング時の印象的なエピソードなどを教えて下さい。

アルバムタイトルを今回初めて公にします。
「いつか聞いたうた 會田瑞樹、日本の叙情を奏でる」と銘打ったアルバムです。2020年4月、細川俊夫先生から「小さなプレゼントです。」というメールの一文とともに《Sakura》のヴィブラフォン版の譜面が送られてきました。それは一筋の光のようにも見えました。折しも当時は桜を見てはいけないなどと大真面目に議論されていた時期です。自分を見失っていけないと実感しました。さくらは、この響きとともにあるのだから、と。そこから「いつか聞いたうたたち」をヴィブラフォンで紡ぎたいという思いが募ってきました。盟友西耕一氏に連絡を取り、選曲から構成までひとつひとつ話し合い収録にいたりました。会場のかなっくホールの皆様の献身的なサポートもあり、これまでにないほど理想的な環境で収録を終えました。今秋、スリーシェルズレーベルより発売を予定しています。
禍福は糾える縄の如し。という言葉をこの半年時折思い返していました。
まだまだ、僕たちにできることはたくさんあります。


―最後に、アマチュア奏者の方や愛好家の方に向けて今一番伝えたいメッセージをお願いします。

活動再開に向けて、様々な思いをしている方もいらっしゃると思います。僕は特に、中高生、そして学生のみなさんを案じています。こんなことになってしまったのは、ひとえに、大人である僕たちの責任です。本当にごめんなさい。謝ったところで何だ、と思われるでしょう。同時に、「禍福は糾える縄の如し」という言葉を分かち合いたいと思います。
時々、自分に問いかけます。では果たして、以前のままで世の中はよかったのか、と。見方を変えれば様々な真実があることを改めて痛感します。
僕はいつでも会場で皆様をお待ちしています。いつかお目にかかる日を、心から楽しみにしています。


インタビュー:梅本周平(Wind Band Press)


以上、會田瑞樹さんへのインタビューでした。お忙しい中すぐにご回答いただいたこともさることながら、真摯なお人柄がご回答の端々からにじみ出ていますね。會田さんの演奏や作品は會田さんのYou Tubeチャンネルでもたくさん見ることが出来ますのでぜひ登録しておきましょう。

インタビューの中で少しお話を伺った「B→C」については下記より詳細をご確認ください。(売り切れる前にお早めにチケットとご予定を確保してください)

■仙台公演 2020年11月28日(土)15時開演/宮城野区文化センターPatonaシアター
http://ssbj.jp/event/2263/

■東京公演 2020年11月30日(月)19時開演/東京オペラシティリサイタルホール
https://www.operacity.jp/concert/calendar/detail.php?id=13523

 


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