「スコアを読む準備:最後のチェック」プロの指揮者・岡田友弘氏から悩める学生指揮者へ送る「スーパー学指揮への道」第5回

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管弦楽や吹奏楽の指揮者として活動されている岡田友弘氏に、学生指揮者の皆様へ向けて色々なことを教えてもらおうというコラム。

主に高等学校および大学の吹奏楽部の学生指揮者で、指揮および指導については初心者、という方を念頭においていただいています。(岡田さん自身も学生指揮者でした。)

コラムを通じて色々なことを学べるはずです!

第5回は「スコアを読む準備:最後のチェック」。上中下の3回に分かれている「スコアを手に取って、見てみよう!」もこれで第3回、最後になります。

→第1回

→第2回

さっそく読んでみましょう!


第5回・スコアを手に取って、見てみよう!(下)

前回に引き続き、スコアを手に取って見ていきましょう。
今回は前回の続きになりますが、楽譜についての確認とちょっとした作業をしていきます。
少し細かい作業がありますが、根気強く、楽しんでやっていきましょう!

2・「練習番号」はどのようについているか?

スコアやパート譜には練習時に効率が良くなるよう、途中から練習するときなどのために「練習番号」というものが曲の構成に応じて適当なところに入っています。練習番号にはアルファベット、数字というように決まった形式はありませんが「アルファベット」か「数字」の二通りがほとんどです。数字の場合は1、2、3・・・という風に順番でついている時もあり、またはその練習番号の数字が曲の最初から数えて何小節目かを表しています。

僕のスコアをいろいろと見てみたのですがアメリカとイギリスの出版譜には数字が多く、ドイツの出版社にはアルファベットが多く使用されているようでした。特に、アメリカで出版されている吹奏楽の楽譜は小節番号で書かれていることが多いです。その箱で囲まれている練習番号(小節番号)が実際の小節番号と合致しているかを確認しておきましょう。

(引用;「吹奏楽のための交響曲」ヒンデミット作曲 ショット社より)

今回例にしているヒンデミットの曲はドイツの出版社であるショット社の楽譜ですので、アルファベットで練習番号が書かれています。各曲の練習番号がどこまであるのかを確認しておきましょう。

その時に覚えておきたいことがあります。練習番号を記す際にアルファベットの大文字「I」と「J」についてです。「I」のあとが「K」になっていることがあると思います。その時に「きた!間違いだ!」とは思わないでください。アルファベットの「I」「J」の形が似ているので混乱を避けるために「J」を抜かして「K」に進むのが慣例になっています。楽譜によっては「I」と「J」が両方ある楽譜もありますので気をつけてください。

3・全部(この場合は楽章ごとでOK)で何小節からできているか?

ここまで来たら、あと一息!ですが・・・もしかしたら一番辛い作業が待っているかもしれません。集中して曲の(楽章ごとでいいです)小節数を数えます。数えたら最後の小節の横(右下か右上どちらでもいいですが右上にはページ数が書かれていることが多いので右下がいいかもしれません。)に最終小節数を記入しておきましょう。この曲ではそういう部分はないのですが、楽譜に1カッコ、2カッコがあったら1カッコ内を数え、その隣から始まる2カッコはその後に続けて数えます(1カッコが9小節まであったら、その隣からの2カッコを10小節・・・とカウントします。)

もう一つ気をつけて欲しいことがあります。フルスコアは基本的には1ページの中で音楽が左から右に進み、そのまま次のページへと進みます。市販の吹奏楽スコアも大体はそのように印刷されていますが、一部のフルスコアやスタディスコアはページ数を節約するために2ページ分、まれに3ページ分を1ページに印刷されていることがあるので気をつけてください。そのように印刷されている場合は、下の写真のような太い二重線の斜線があります。そのような部分があるかを確認することも忘れないようにしましょう。ちなみにヒンデミットのスコアにはそのような場所がいくつかあります。

(引用;「吹奏楽のための交響曲」ヒンデミット作曲 ショット社より)

4・スコアには「小節番号」の記載があるか?

最近はフルスコアの各ページの左上に小節番号が書かれている楽譜が増えました。このスコアにも小節番号が書かれています。これは楽章通しの小節番号です。もしも全部の小節を数える時にこの小節番号が書いてあるようでしたら、自分が数えている数とそれが合致しているかを確認しながら進んでいきましょう。もし小節番号が書かれていなかったらスコアの左上に鉛筆で記入しておきましょう。

時々全部の小節に小節数を書いている人や先生を見かけるのですが、あえてそれをする必要はないと思います。楽譜も読みにくくなりますし、必要最小限の書き込みで合奏を効率よく進めていって欲しいと思います。もし時間に余裕がありそうなら、練習番号がある小節は何小節目になるのかも記入しておくのもいいかもしれません。

その時にもう一つ忘れて欲しくないことがあります。小節番号を指揮者だけが知っていても意味がありません。楽器を演奏するメンバーのパート譜でも小節番号の確認や、小節数の記入、全部で何小節あるかの確認と記入作業を同時にお願いして欲しいと思います。

プロのオーケストラだとそのような作業を専門にする「ライブラリアン」という大切な仕事があります。楽譜の管理全般を担当するライブラリアンはオーケストラのとても大切な役職です。他にもオーケストラにはステージマネージャーなどとても大事な裏方の仕事がたくさんありオーケストラを支えています。

あなたの団体にもいろいろな係があると思いますが、学生指揮者という仕事は合奏を指揮するだけでなく、合奏や活動をスムーズに便利にするための準備や気配りを疎かにしないということを忘れないでください。ライブラリアンやステージマネージャーの仕事も学生指揮者の業務の多くを占めています。「音楽だけやっていればいい」ことは決してなく、むしろそれ以外の業務が大半。でも、それができるかできないかで良い音楽が出来るか出来ないかの分かれ道になると思っています。

余談ですが楽譜の書き込みに使用する筆記具、僕は鉛筆派です。筆記具についてはその人の自由なのですが、僕は消しても跡が残らないようにと鉛筆を使っています。芯はあまり固くないものが書きやすく、また消しやすいと思います。大体2Bから4Bの鉛筆を使用しています。カラフルに色をつけて楽譜を見やすくする人も多いかと思いますが、書き込んだことが自分の中に入ってしまったらそれを消せるように、消すことができるもので書き込むようにしています。新たに書き込むことが増えてくると肝心の楽譜が読めなくなってしまった・・・なんて冗談みたいな話もあります。

クーピーという色鉛筆があります。クーピーは消しゴムで消すことができるので僕も愛用しています。厳密に言えば完全に消すことができないので、神経質な方はお気をつけください。そしてクーピーについてはもう一つ気をつけて欲しいことが・・・以前指揮の仕事のため飛行機に乗った時です。機内に持ち込む鞄にクーピー12色入りを入れていたのですが、空港の手荷物検査の際にX線の機械にかけて鞄の中を通した際に弾丸に間違えられそうになりました。もちろん金属の反応はないので安全なのですが、形がライフルの弾のように見えたようでした。「クーピーだ!」と言ったら係の人も苦笑してました。飛行機に乗る時は気をつけてください。ちなみに指揮棒で検査に引っかかったことは一度もないのです。あんなに鋭利なものなのに・・・。

さぁ、これでスコアを読む準備ができました。将棋で言えばちゃんとした将棋盤や駒の用意ができました!次回はいよいよ「スコアの読み方」のスタートです。その初回はここまでに用意した駒が将棋盤の上でどのようにそれぞれが動くのか?そのようなことをお話ししていきたいと思います。楽譜の基本的な読み方や楽器のことなどから始めていきます。初歩的内容が続くと思いますが、自分が知っていることをもう一度整理して確認することも大切ですので、根気よくコツコツと積み重ねていきましょう。

「名人」への道のりは果てしなく遠いかもしれませんが、音楽や合奏の「楽しさ」や「深さ」を感じていただけたら嬉しいです。そのためには当たり前すぎることも事あるごとに思い出して欲しいと思います。

将棋に関する格言に「歩のない将棋は負け将棋」というものがあります。将棋のなかで一番弱いとされていて動きも制限されている「歩兵」という駒。しかしその駒を大切に有効に使わなければどんなに強い駒を沢山もっていても将棋には勝てないという意味から転じて、ものすごく小さいことや簡単なことを蔑ろ(ないがしろ)にしては何も成し遂げられないという教訓だと僕は解釈しています。

しかも一回につき一マス前にしか進めない歩兵ですが、敵の陣地に入ると…なんと王様を守る要の駒である「金」になるのです。このことが由来の言葉に「成金」というものがありますが、それは普段あまり良い意味には使われませんね。それはさておき一歩一歩前に進めば歩兵も「金」
に変わるのです。みなさんも一歩一歩確実に「歩のあゆみ」で「金」を目指していきましょう!

それでは次回もお楽しみに!ちなみに僕は将棋がとても弱いです・・・トホホ。

→次回の記事はこちら


文:岡田友弘

※この記事の著作権は岡田友弘氏に帰属します。


 

以上、岡田友弘さんから学生指揮者の皆様へ向けたコラムでした。

それでは次回をお楽しみに!

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(Wind Band Press / ONSA 梅本周平)


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岡田友弘氏プロフィール

写真:井村重人

 1974年秋田県出身。秋田県立本荘高等学校卒業後、中央大学文学部文学科ドイツ文学専攻卒業。その後、桐朋学園大学音楽学部において指揮法を学び、渡欧。キジアーナ音楽院大学院(イタリア)を研鑽の拠点とし、ウィーン国立音楽大学、タングルウッド音楽センター(アメリカ)などのヨーロッパ、アメリカ各地の音楽教育機関や音楽祭、講習会にて研鑚を積む。ブザンソン国際指揮者コンクール本選出場。指揮法を尾高忠明、高階正光、久志本涼、ジャンルイージ・ジェルメッティの各氏に師事。またクルト・マズーア、ベルナルト・ハイティンク、エド・デ・ワールトなどのマスタークラスに参加し、薫陶を受けた。

 これまでに、東京交響楽団、セントラル愛知交響楽団などをはじめ、各地の主要オーケストラと共演するほか、数多くのアマテュア・オーケストラや吹奏楽団の指導にも尽力し、地方都市の音楽文化の高揚と発展にも広く貢献。また、児童のための音楽イヴェントにも積極的に関わり、マスコットキャラクターによって結成された金管合奏団“ズーラシアン・ブラス”の「おともだちプレイヤー」(指揮者)も務め、同団のCDアルバムを含むレコーディングにも参加。また、「たけしの誰でもピカソ」、「テレビチャンピオン」(ともにテレビ東京)にも出演し、話題となった。

 彼の指揮者としてのレパートリーは古典から現代音楽まで多岐にわたり、ドイツ・オーストリア系の作曲家の管弦楽作品を主軸とし、ロシア音楽、北欧音楽の演奏にも定評がある。また近年では、イギリス音楽やフランス音楽、エストニア音楽などにもフォーカスを当て、研究を深めている。また、各ジャンルのソリストとの共演においても、その温かくユーモア溢れる人柄と音楽性によって多くの信頼を集めている。

日本リヒャルト・シュトラウス協会会員。英国レイフ・ヴォーン=ウィリアムズ・ソサエティ会員。




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