「私が書く全ての音楽には希望がなければいけない」:作曲家 清水大輔氏インタビュー






個人的には以前からお付き合いがありましたが、今の仕事では初かも?作曲家の清水大輔さんにメールインタビューを行いました。吹奏楽ファンの間ではお名前をご存じの方も多いのではないでしょうか。学生時代のことから最近のことまで、色々とご回答頂きました。


―まず初めに、作曲家/編曲家を志したきっかけを教えて下さい。

中学の頃に出会ったジョン・ウィリアムズが全てのきっかけですが、当時の吹奏楽部の顧問の先生にも強く影響を受けました。高校時代に初めて作曲し指揮をしたのはとても良い思い出であり大切な経験でした。

―学生時代(10代~20代頃)はどのような学生時代を送られましたか?またその頃で特に想い出深いエピソードなどございましたらお伺いできますでしょうか。

学生時代はとにかく管楽器の同級生と仲良くなり自分の作品を音出ししてもらったり、個人的に作曲学科の先生に質問しに行ったりとやりたい放題でした。(笑)

しかし1番の思い出は学生時代になって仲良くしてくれた先輩、後輩、同期、で拙作の個展演奏会をした事ですね。謝礼は飲み代だけと言う考えられないお願いに皆さんは賛同して下さり私にとって最高に大切な思い出になりました。

―作曲を学んでいた頃の印象的なエピソードがあれば教えて下さい。

私はピアノが専攻でしたので作曲は個人的に教わったんです。しかしその先生は本当に素晴らしい方で嫌な顔一つせずに私の話を聞いて下さり、また教えて下さいました。先生は声楽の曲を多く書いており、吹奏楽はあまり知らないと仰っていましたが、楽器の使い方、音域、重ね方などを真摯に丁寧に教えて下さった事がとても印象に残っています。

―作曲家として現在につながる転機となった作品やエピソードがあれば教えて下さい。

2005年にカフアレコードから発売された「カフアセレクション2005」に収録して頂きました「原石の未来」と言う曲です。この曲は2004年に書いたのですが、当時私は岐路に立たされていました。両親からそろそろ作曲家を諦めて定職に就きなさいと言われていたのです。私も諦めなくてはと思っていたのですが、その頃毎年書かせて頂いていた母校の大学のウィンドオーケストラからの委嘱があったため、この委嘱を最後に作曲家を諦めようと決心しました。タイトルの原石の未来とは大学の後輩、そして夢を持って挑み続ける人々を後押しする讃歌として書いたのですが、実際は自分自身への応援歌にもなっていたかもしれません。そしてこの曲は最高の運に恵まれてCD収録され、私は作曲家への道を歩み出しました。

参考音源:原石の未来

―作曲をする際のインスピレーションをどのように得ているか、またそれをアウトプットする際に組み込んでいる手順(ルーティンやこだわりなど)があれば教えて下さい。

まずはタイトルです。タイトルが決まらないと私の場合何も進まないので・・・後はひたすらピアノの前に座り続け考えます。とにかくピアノを弾き続けアイデアが思い付くと構成を練ります。だいたいのスケッチを手書きで書き終えたら楽譜作成ソフトに入力を始めて完成に至ります。ルーティンとしては音楽以外の物事を考えながらピアノを弾く事でしょうか。

―作品それぞれにテーマがあるとは思いますが、これまでの作品全体を通じて、表現者として伝えたいことについて教えて下さい。

とても難しい質問ですね。自分が書きたい事を楽譜に再現し、奏者がどこまで感じ取ってもらえるか、永遠の挑戦だと思っています。ただ私は過去から現在、そして未来永劫、悲劇だけを音楽にする事は無いと思います。私が書く全ての音楽には希望がなければいけないです。

―ご自身の作曲または編曲に強く影響を受けた他の作曲家や編曲家の作品があれば、教えて下さい。

ジョン・ウィリアムズはもちろんですが、その他で特に影響を受けたのはビートルズ、U2、TOTO、ストラヴィンスキー、ラヴェル、武満徹、ジョセフ・シュワントナー、フィリップ・スパーク、ティモシー・マー、辺りでしょうか。

―2020年10月24日には台湾のバンド「一夫樂集 房角石管樂團」からの委嘱作品が初演されますね。まずこの作品の委嘱の経緯や作品の内容についてお伺いできますでしょうか。

一昨年委嘱を頂き、昨年実際に題材にしたいと言われる土地に現地取材をさせて頂きました。肉眼で見た景色は決して忘れる事はありません。どんな職業であろうとも体感する事は素晴らしい事です。私は気付いたらタイトルを「Nature and Life」に決めていました。台湾の自然の風景、そこで暮らす人々、その上空を鳥になって飛んでいるようなイメージで書かせて頂きました。

―近年は日本以外でも、特に日本に近いアジアの国での人気が高いように感じます。どのようにして清水さんの作品が広がり、人気を得ていったのか、そしてこれまでにどのような国・地域から委嘱を受けられたかお伺いできますでしょうか。

人気については分からない、と言うのが正直な感想です。他国の方々にご感想を頂いた時、私はいつも戸惑いと感動が同時に押し寄せます。しかしそれは紛れもなく音楽の国際交流だと思います。そこで有頂天になるのでは無く冷静に、謙虚に、誠実に、他国の方々とコミュニケーションを取りたいと思っています。委嘱に関しては同様の感情ですが、最大限の誠意で私の音楽を楽しんで頂けるように書くように努力しています。

―引き続き海外についての質問です。バンドや演奏家によって特徴は異なると思いますが、それぞれの国や地域ごとに共通する印象や日本との違いをお伺いできますでしょうか。

私が持っている音楽の尺度は毎日アップデートされていると感じます。日本のアマチュア吹奏楽団体の方々のレベルは本当に凄まじいです。そんな団体の方々に初演をして頂けるのは本当に最高の経験です。ただそれは他国と比べる事では無いと思っています。本当に自分が感じた事の無い感情、感動を海外で分け与えて頂けるんです。何が素晴らしい、何が凄いではなく、音楽そのものをどう感じているかの共有が私にとっては全てなんです。

―このインタビューは2020年10月下旬に行っていますが、2020年は早い段階から新型コロナウィルスの影響で音楽活動やそれに関わる様々な職業の人の生活に変化があったのではないかと思います。清水さんはこの2020年の10ヶ月ほど、どのように過ごされていましたか?生活の変化、価値観の変化、作曲活動に関する変化(または影響)などについてお伺いできますでしょうか。

音楽の本質の価値観、寄り添い方は全く変わっていません。ただ自由に演奏会に行けない、開催出来ないと言うのは今までに無い経験です。奏者の方々、それこそ中高生の生徒の皆さんにはどう声を掛けて良いか分かりませんでした・・・ただ奏者の皆さんは環境は変われど様々な形で聴衆に音楽を届けています。本当に感動しました!私はこんなに長い間自分が家に居て何を感じたか・・・「音楽を聴きたい」、それこそ過去のジョン・ウィリアムズの公演の録音を聴きまくりました。聴き終わった後、自然と涙が出て次の日はスッキリとした気持ちで曲を書こうと思えました。人生は自分の考え次第で良くも悪くもなります。私はコロナウィルスに負ける気はありません。

―将来の目標(またはこれから新たに取り組みたいこと)について教えてください。

まだまだやりたい事、夢は沢山あります。音楽に関わる人間としてこれから更に自分の想いを伝えて行きたいです。

―清水さんの作品を今後演奏される演奏者の方に伝えたいメッセージをお願いします。

私は特別な人間でもなければ才能のある人間でもありません。ただ音楽を通して何かを伝えたい、想いを共有したいと言う気持ちを少しでも感じて貰える曲を書くように心掛けています。そんな気持ちを汲み取って演奏して頂けたら嬉しいです。

―最後に、作編曲家志望の方に向けてアドバイスをお願いします。

アドバイスは難しいですが・・・とにかく体感し自分自身で感じ取って欲しいです。本などで知る事と自分で体感することは大きな違いがあります。是非積極的に色々とチャレンジしてみて下さい!


インタビュー:梅本周平(Wind Band Press)


以上、清水大輔さんへのインタビューでした。ご多忙の中ご回答頂きありがとうございます!清水さんの作品はこれからも多く演奏される機会があると思いますが、このインタビューを読む前と読んだ後ではアプローチも変わるかもしれませんね。CDもたくさん出ているので色々な作品を聴いてみてください。

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