「通奏低音での和声の書き方と3和音の転回形」プロの指揮者・岡田友弘氏から悩める学生指揮者へ送る「スーパー学指揮への道」第16回




 

管弦楽や吹奏楽の指揮者として活動されている岡田友弘氏に、学生指揮者の皆様へ向けて色々なことを教えてもらおうというコラム。

主に高等学校および大学の吹奏楽部の学生指揮者で、指揮および指導については初心者、という方を念頭においていただいています。(岡田さん自身も学生指揮者でした。)

コラムを通じて色々なことを学べるはずです!

第16回は「通奏低音での和声の書き方と3和音の転回形」。

前回のコラムから始まった「和音の超基礎」の第2回目になります。

だんだんとわからない単語が増えてきてそろそろキャパを超えている学生指揮者の方もいらっしゃるかもしれませんが、焦らずやっていきましょう。一旦ザッと読んで概要をぼんやりとつかんでから、何がわからないのか(どこで詰まっているか)をメモしておいて、過去のコラムを再度読み直したり、他の書籍を読んでみたりすると良いかもしれません。

Wind Band Pressと岡田さんの間でも、どうやったらもっと理解しやすいようになるか、構成について考えているところなのですが、ひとまず今日は第16回です。

さっそく読んでみましょう!


合奏するためのスコアの読み方(その11)「合奏と楽曲分析のための和声の超基礎(2)」前回(「和音の基本の型、3和音」)に引き続き「吹奏楽の合奏をする人に必要な和声の超基礎」を着実に自分のものにしていきましょう!今回お話しするのは「通奏低音での和声の書き方」「3和音の転回形」のお話です。前回コラムでの「3和音の基本形」が「壱の型」とするならば、「3和音の転回形」は「弍の型」になるでしょうか。果たしてその型はいくつあるのか・・・今後にご期待ください。(「通奏低音」そのものについては後述します。)今回皆さんがインプットして欲しいことは以下のようになります。今回頭に入れること・3和音の転回形の種類と呼び方・通奏低音の作法での3和音の書き方・「数字付き低音」・「通奏低音」の概要今回身につけること・転回和音の数字の付け方・通奏低音の作法で3和音の基本形を書くことができるそれでは始めましょう!§1.3和音の「転回形」3和音の最低音は基本形においてはその和音が構成される第1音「根音」の音が配されます。その最低音のバス音に「第3音」や「第5音」の音が配される状態を「和音の転回形」といい、「第1転回形」「第2転回形」があります。「和音の転回」について、このコラムではすっかりお馴染みとなった「新音楽辞典(楽語)」(音楽之友社)では以下のように説明されています。

「和音の転回は、根音以外の音をバス(もしくは最下声)におくものを意味し、3和音にあっては、第1、第2、七の和音(*筆者注・七の和音=4和音。これについては後述します。)においてはその上に第3転回がある。」

和音の転回形にはどのような意味があるのでしょうか?楽典の本を色々引っ張り出してみてもその理由を詳細に記したものはほとんどありませんでした。和声学の専門書に「転回和音の効果」についての記述をみることができます。詳細はそのような専門書を手にする機会があると理解が深まると思います。端的にいえば「同じ和音の色の濃さや、その和音が持つ音の重さの印象を変える」ことや「和音の繋ぎをスムーズにしたり、和音の進行に変化をもたらしたりする」という役割があります。和声進行のヴァリエーションを増やすということがその役割と言えると思います。僕の指揮したいくつかの団体のメンバーの中に「双子」や「三つ子」のメンバーがいました。顔も背丈もそっくりで見分けがつかないのですが、性格や話し方がそれぞれ異なり、担当していた楽器が別であったこともあり、それぞれ別の印象を持つ結果となりましたので、慣れてくるとその見分けがつくようになるものでした。和音の転回形とは、ちょうどその双子や三つ子の違いのようなものでしょうか。スコアで見ている部分のハーモニーがどのような3和音、もしくは4和音やそれ以上で構成されている和音なのか、それとも非和声音や特殊な和音なのか分析するのと同時に、最低音のバス音が「和音の中の第何音になっているのか」に注意を払ってみましょう。そうやってみるとたくさん「転回形になっている場所」が見つかると思います。§2.3和音の転回形は2種類ある3和音の転回形には2種類あります。それぞれ「第1転回形」「第2転回形」と呼ばれ、このような音程の関係を持っています。画像の中で、第1と第2転回形の音符の下に数字が書かれていますね。この数字は最低音から見て、他の和声構成音が何度上にあるか?を示しています。この場合の数字の意味を見ていきましょう。第1転回形に付記されている「6」の数字は「バス最低音から見て6度上に音を配する」という意味です。これだけ説明すると「ワケワカンナイ・・・」と思いますよね?僕もそうでした。もう少し深掘りしていきましょう。3和音の基本形には特に数字が書かれていませんが、実は対応する数字があります。バス音を1、3度上にある第3音を3、5度上にある第5音を5とする「1-3-5の和音」です。これを「5の和音」と呼ぶこともあります。「5つの3度の積み重なり」である「五和音」と混同しないようにしましょう。この数字をいちいち3和音の基本形に記入していくと、楽譜がとても見にくくなります。ですからこの基本形には数字が割り当てられてはいますが「書かれない」という約束事を覚えておきましょう。「3和音の基本形から外れていない音からの音の積み重なり」に関しては数字を付与せず「原則から外れている場合」に数字が付与されるのです。それでは改めて第1転回形を見てみましょう。バス最低音は「E(ミ)」です。3音は3度上の「G(ソ)」ですね?最低音から3度上に積み重なるのは基本形と同じですね。では5音はどうなっていますか?5音の場所は「6度上」の「C(ド)」ですね!「1-3-5」の基本形の原則からここは外れています。ですので「6」という数字を付与します。そのため日本ではこの三和音の第1転回形のことを「六の和音」と呼びます。正確に書くと「1-3-6」の和音ということになります。それでは今度は第2転回形をみてみましょう。「4-6」の数字が付与されています。第1転回形の時と同様にバス音から音を見ていきましょう。バス最低音は「G(ソ)」です。3音はバス音から数えて「4度上」の「C(ド)」、5音はバス音から数えて「6度上」の「E(ミ)」になっています。つまりこれば「1?4?6」の和音構成となり、「1-3-5」の数字は省略するので「4-6」の数字が付与されます。この第2転回形のことを「四六(しろく)の和音」と呼びます。「転回」というワードは以前のコラムでも登場しました。「転回音程」という言葉を覚えていますか?その「転回音程」と「転回形」も実は重要な関係があるのです。3度の転回音程は6度、5度の転回音程は4度です。つまり、3は6になり、5は4になるのです。ここに「六の和音」「四六の和音」の数字が1-3-5の積み重ねである3和音の基本形の転回形に登場する意味が理解できると思います。*忘れていたら過去記事をもう一度読んでみよう!→第10回「本来の音程の意味」§2♪♪♪=実際にピアノなどで3和音の基本形と二つの転回形を弾いて、響きの違いを確かめてみよう!転回形とその数字づけ、その意味についてわかったでしょうか?ここでは3和音の基本形と転回形に付与される数字についてのみお話ししましたが、この「数字付き低音」で書かれる楽譜にはその和音構成によって様々な数字をつけます。それは「ドイツやイタリアで主に使用されたもの」と「フランスで主に使用されたもの」で若干表記が異なるのですが、それについてはまた改めてお話ししようと思います。§3.「温故知新」~通奏低音の作法による3和音の書き方を学ぼう!みなさんは「通奏低音(つうそうていおん)」という言葉を知っていますか?普通に吹奏楽部や吹奏楽団で楽器を演奏したり、合奏で指揮をしたりしていても、この通奏低音について特に知らなくても演奏も合奏もできます。事実そのような人が大多数だと思います。専門で音楽を勉強し、また音楽家として活動している人であっても通常の活動において通奏低音の知識がなくても十分に演奏も指揮もできると思いますが、「和声の超基礎」をじっくりと積み上げながら習得してもらうために、このことに触れることにしました。通奏低音の数字づけは、現代の音楽の和声付けにおいては不十分な面もあり、様々な変遷や新たな表記が生まれて現在に至っています。しかし、基礎的な和声学の入門時においてはこの数字付けがとても便利で理解しやすい面もあります。是非、新しい知識としてモノにして欲しいと思います!まさに「温故知新」とでも言いましょうか、古いものから新しいことを知ることができるワクワクを感じて欲しいと思います。§4.通奏低音とはなんだろう?この謎ワード「通奏低音」について、少しお話ししていきましょう。「ツーソーテーオンってなんですか?それは美味しいモノですか?」というあなたのために・・・。まずは僕と皆さんが困った時に助けてくれる「新音楽辞典(楽語)」での通奏低音のページを抜粋引用してみましょう。

通奏低音(つうそう・ていおん)*thoroughbass(英)

バロック時代(1600-1750)のヨーロッパで広く使われていた、特殊な演奏習慣をともなう低音のパートをいう。当時の**有鍵楽器奏者は、与えられた単音の低音部の上に、即興で右手のパートを作りながら伴奏を行うことが一般的であった。この期間を通奏低音時代という呼び方さえあったくらいである。(中略)低音のパートに***アラビア数字を付記して上部の和音の音程構成音を示す。それを頼りに適当に右手部を作りながら奏して行くのである。(中略)通奏低音(continuo、コンティヌオ)とあれば、本項はじめの基本定義にとどまらず、有鍵楽器および全低音楽器を含むことになる。かつ実質的には有鍵楽器を必要としない場合にでも、この名称は弦・管の全低音楽器用のパートを指し示すものとして用いられていることもある。数字付低音という名によって前者をとくに区別することもあるが、歴史的な問題もあってあまり厳密に考えるべきではない。(中略)低音に付記された数字はつねに低音から数えての音程を示す。(なお、このころは和音の転回という考えはまだ発達していなかった。和音はそれぞれの音程の集積と感じていたから、例えばドミソとミソドはいわば別物だった。この方が和音感覚はデリケートかつ豊かに養われるところがあり、このことは軽視されるべきではない。)(中略)最高音は根音、第3音、第5音のいずれでも良い(以下同様)。奏者が演奏するのは、右手部のみならず左手部も含めて、ただバスや和音を正しく押さえて行くことだけではなかった。おそまつなことも多かったようだが、独奏(唱)パートのモティーフや音型などを適当に活用して、全体として良い音楽を作り出すのが最良とされたのであり、それには****ポリフォニックな高度な技術を必要としたようである。本来が即興的なものだから書き残された資料そのものはまことに乏しいが、それは誰しもが認めるところである。通奏低音は18世紀のなかば以降は音楽の表面から姿を消したが、和声学習の手段としては長く生命を保ち、こんにちでも教室や様々な教程の中にそのままの姿ではないが生きている。(*****長谷川良夫)

(「新音楽辞典(楽語)」(音楽之友社)より引用)(筆者注釈)*thoroughの意味1.〔行動・調査などが〕徹底的な、完全な、綿密な、完璧な2.〔人が〕きちょうめんな3.〔知識などが〕深い、詳細な4.《限定》全くの、徹底した**有鍵楽器とは当時使用されていた鍵盤楽器の総称で、代表的なものはチェンバロ、オルガン、クラヴィコード、ヴァージナルなど。***1,2,3…で表記される数字の表記法。I,II,IIIで表記されるものを「ローマ数字」と呼ぶ。****「多声音楽」と訳される。複数の声部をもって演奏される音楽のこと。技法としては「対位法(たいいほう)」として行われるのが代表的であり、最も有名かつ完成された形式が「フーガ」である。*****長谷川良夫(1907-1981)は日本の作曲家であり、音楽教育者。東京藝術大学で長く教鞭を執った。東京藝術大学名誉教授。保科洋などの多くの作曲家を輩出。作曲理論等の著作は長年専門学習者のテキストとして重用された。「対位法」(音楽之友社)は重版を重ね現在も出版されている。§5.通奏低音の作法で三和音を書いてみよう!前項で通奏低音の説明をしましたが、もう一度確認のために簡単にお話しします。通奏低音とは鍵盤楽器用の記譜法のことです。数字のついたバス音から和音の構成音を読み取ることができます。通奏低音は2段譜で書かれることが多く、下段の譜表にはバス声部のみが書かれます(音部記号はヘ音記号)上段の譜表(音部記号はト音記号)には数字から順々に読み取られた音が書かれます。その時に数字以外の指示がない場合は音階固有音(それぞれの音階に含まれる音)を用います。通奏低音の記譜法で書かれた3和音の書き方を「和音の密集位置」と呼びます。3和音の基本形は、根音」(1)と第3音(3)と第5音(5)で構成されています。音を読み取る時には常に「1」の音となるバス音から始めます。その時に読み取られた音(1-3-5の)を上段の譜表に書きます。バス音は単独で下の譜表に書きます。上段に書かれる音の順序は自由に選択でき、3つの音全て用いられているならばその書き方は正しいです。ですからいくつかの音の順番の可能性があり、規定されたなかで学習する人の感性や自由度が尊重されます。なお、上段の譜表に書かれる3和音の音は常に狭い音域にまとめましょう。理由は音の積み重ねがわかりやすくなることと、片手で鍵盤を容易に押さえられる間隔である必要があるという意味もあります。1オクターブを超えないようにしましょう。この譜例に書かれている(1-3-5)は§1の転回形の際にお話ししたように基本の3和音の音の積み重ねの形なので、見やすくするために数字を省略します。なお、和音の構成音を半音階的に変化させる場合は、数字を省略しません。それでは実際に3和音を作ってみましょう!練習問題・通奏低音での3和音を下段のバス音を参考にして、上段に書かれている最上声部との間に入る内声(2声)を入れて完成させてみよう。なお上段の楽譜には3和音が構成されるために必要な音全てが書かれているようにすること。♪♪♪=実際にピアノなどを使って練習問題で作った3和音を実際に弾いて響きを確認しよう!どうですか?バス音と数字から3和音の基本形を作ることはできましたか?解答例を下に掲載しますが、先ほどもお話ししたように、和音構成音が全て含まれているならば上段の音符の順番は任意です。色々な解答が考えられることをもう一度お伝えしておきます。音楽には守らなくてはいけない厳格な決まり事もありますが、自由に僕たちが選択できることもあります。その「勇気と想像力」が音楽を発展させ、音楽や音楽家に個性を与えるのです。是非とも色々な響きを試してみてください。練習問題以外の色々なバス音から、3和音を作ることも是非して欲しいと思います。ちょっとした空き時間や通学、通勤時間にバス音から3和音を作ることをゲーム感覚でやるのもオススメです。友達と問題を出し合ったりしながら楽しくマスターしていきましょう!その時には可能な限りその響きを実際に音に出して「響きの感じ」を吸収していきましょう。コラムで読むことで「目からの情報をインプット」して、同時に音を出すことで「耳からの情報をインプット」することを忘れないようにしましょう。さまざまな感覚を駆使することで、皆さんの中に情報がよりしっかりと入っていくと思います。次回は「4声体の合唱作法での3和音の書き方」と「転回形の数字付き低音での3和音の書き方」を中心にお話ししていきたいと思います。!!!今回の確認テスト!!!1.3和音の転回形の種類と名称は?(→わからなかったら§1,§2をもう一度読んでみよう)2.数字付きの通奏低音の数字はどの音から数えて何音目という意味?(→わからなかったら§2をもう一度読んでみよう)3.通奏低音の作法書かれる3和音のことを「和音の何位置」と呼ぶ?(→わからなかったら§5をもう一度読んでみよう)4.通奏低音の上段の音の配置で気をつけることは?(→わからなかったら§5をもう一度読んでみよう)▼練習問題の回答→次回の記事はこちら


文:岡田友弘※この記事の著作権は岡田友弘氏に帰属します。


 

以上、岡田友弘さんから学生指揮者の皆様へ向けたコラムでした。

それでは次回をお楽しみに!

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(Wind Band Press / ONSA 梅本周平)


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