管弦楽や吹奏楽の指揮者として活動されている岡田友弘氏に、学生指揮者の皆様へ向けて色々なことを教えてもらおうというコラム。主に高等学校および大学の吹奏楽部の学生指揮者で、指揮および指導については初心者、という方を念頭においていただいています。(岡田さん自身も学生指揮者でした。)シーズン2はよりわかりやすくするため、「オカヤン先生のスーパー学指揮ラボ」と題した対話形式となっています。今回は第2回。「楽曲理解の第一歩としての『動機』」のお話です。さっそく読んでみましょう!
合奏するためのスコアの読み方(38)「ガクシキ(学指揮)」のための「ガクシキ(楽式)」論(3)『オカヤン先生のスーパー学指揮ラボ』(第2講)ここは東京郊外、自然豊かな丘陵にある私立総合大学。その一角にあるオカヤン先生の研究室では、オカヤン先生と2人の学生によるゼミ形式の講座が開かれている。学指揮に必要な音楽のことを中心に学んでいくのが、この研究室の目的である。
【登場人物紹介】
・オカヤン先生(男性)・・・このラボ(研究室)の教授。プロの指揮者としてオーケストラや吹奏楽の指揮をしながら、悩める学生指揮者のためのゼミを開講している。
・野々花(ののか・女性)・・大学3年生(文学部)。大学吹奏楽部で学生指揮を担当している。作曲などにも関心を持っていて、音楽理論にも詳しい。音楽への情熱も人一倍強い。音楽に没頭するあまり、周りが見えなくなることも。彼女の所属している吹奏楽部は通常、4年生が正学生指揮を務めるが、ひとつ上の学生指揮者の先輩が退部したため、3年生から正学生指揮者を務めている。担当楽器は打楽器だが、必要に応じてピアノも担当する。部員には知られていないのだが、実はハープを演奏できる。
・隆(たかし・男性)・・・大学2年生(法学部)。野々花の後輩で、大学吹奏楽部では副学生指揮者として野々花と協力しながら活動している。音楽がとにかく大好きで、指揮することの魅力に取り憑かれている。野々花ほど音楽に詳しくはないが、人望が厚くみんなから慕われている。若い頃はサッカーを本格的にやっていたようなスポーツマンでもある。担当楽器は大柄な体格であることと、実は幼少期にヴァイオリンを習っていたという理由だけで、同じ弦楽器であるコントラバスを担当している。
彼らが所属している吹奏楽部は、演奏会やコンクールといった本番も学生が指揮を担当しており、オカヤン先生は直接彼らの吹奏楽部の活動には関わっていない。学生指揮者としての音楽作りや指揮法などについてのレッスンを受けようと、専門家であるオカヤン先生が開講するラボに参加することにした。
本日のテーマ=楽曲理解の第一歩としての「動機」オカヤン先生:さぁ、今日から本格的に吹奏楽の合奏や楽曲分析の役に立つ「形式」について勉強していくよ!2人:はい!よろしくお願いします!オカヤン先生:元気で明るいことはいいことだね!指揮者はどんな時でも明るく前向きに、メンバーを勇気づけていかないといけないからね。隆:それだけは自信があります!オカヤン先生:その自信が、音楽にも良い効果が出ることを願っているよ。さて、前々回のコラムを読んできてくれたと思うけど・・・隆くん、「動機」について説明してもらおうか。隆:はい、音楽の最小単位です。音符1個では動機にはならず、2個以上の音符でできています。オカヤン先生:その通りだ!よく勉強してきたね。野々花:音符1個は原子、音符2個以上の動機は分子のようなものですね。オカヤン先生:そう、地球上の全ての物質がさまざまな「分子構造」でできているように、動機もさまざまな構造を持っているんだよ!隆:僕は化学の成績が悪すぎて私立大学を文系3科目で受験したので、その手の話はちょっと苦手で・・・。オカヤン先生:そうか!(笑)僕も私立文系だったから気持ちはわかる。では、少し視点を変えて考えてみようか。英語で誰かと話す時、隆くんはどんな言葉を最初に発するかな?隆:挨拶でしょうか・・・“Good morning” とか?オカヤン:そうだね、挨拶から話が広がっていくのが普通だね。この“Good morning” をきっかけにして話が進んでいく。これがまさに動機が展開していくということだ。それぞれの単語のアルフベット1文字が「1個の音符(休符)」ということになる。アルファベット1文字では意味がわからないよね。隆:ではこの場合、“Good morning ”が「動機」なんですね?でも、この言葉は“good”と“morning”の二つの単語でできていますが、その単語はそれぞれ動機ではないのですか?オカヤン先生:良いところに気がついたね!音楽に当てはめると、この単語はそれぞれ「部分動機」と呼ばれる「動機を構成する最小単位の動機」に当たるんだよ。でも、「good=良い」と「morning=朝」だけでは言いたいことがよくわからない。この2語を続けて初めて「良い朝ですね=おはよう」という意味になり相手に伝わる。相手に言葉の意味が伝わる最小限の文、それが音楽でいうところの「動機」になるわけだ。では、動機がどのように組み立てられていくと楽曲になるのかを示してみよう。(オカヤン先生、ホワイトボードに書き始める)このように「動機」が集まって「フレーズ」もしくは「メロディー」となり、それがまとまって「形式」が生まれ、その形式の「集まり」が「楽曲」になるわけだ。だから、音楽作品を演奏したり、指揮したりする時には、「動機」がどんなもので、それがどのように「展開」していくのかということを知っておくことは、とても大事なことなんだよ。この法則は、単純な形式の楽曲から、長大で難解な作品まで、全てに当てはまるものなんだ。いわば「動機」という小さなものが、楽曲全体に大きな影響を与えているということになる。このことを宇宙に例えたら、一つの音符は「太陽」や「惑星」、動機は「太陽系」、メロディーの1形式が「銀河系」、その形式(銀河)の集まりである曲全体が「宇宙全体」という感じだろうか。これだとあまりも壮大すぎるかな?でも、僕は音楽に壮大な宇宙を感じているよ。野々花:先生!動機はフランス語では「モティーフ(モチーフ)」って言いますよね。本来の意味は何なのでしょうか?オカヤン先生:さすが野々花ちゃん、良い質問だ!「モティーフ(motiv)」とは、もともとはラテン語の「モヴェーレ(movere)」が語源なんだよ。日本語に訳すと「動き」という意味になる。英語でいうところの「モーション」だね。音楽用語で「con moto(コン・モート)」というものがある。これは「動きを持って」というふうに訳されるけど、これもまたモヴェーレが語源の言葉だよ。野々花:つまり「動機」とは動くもの?オカヤン先生:そうだね「楽曲が動いていくためのきっかけ」、それが「動機」ということになるね。言い換えれば「動機とは何かを進行させる音型であり、それは音楽の推進力であり、原動力である」ということになるだろう。全ての楽曲は「動機」を出発点に動き始めるんだ!隆:動機ってすごいですね!今までメロディーの流れのことばかり考えていましたが、そのメロディーの基になっている大事な動きが「動機」なんですね!オカヤン先生:その通り!だからこそ、音楽の中にどのような動機があるかを見つけるということは、音楽を演奏する上でとても大事なことなんだよ。では改めて、動機とは何かをまとめてみよう。(オカヤン先生、ホワイトボードに書き始める)オカヤン先生:ここに示したように動機の定義としては、この3点が挙げられる。しっかり覚えておこう!2人:はい!オカヤン先生:次回は「動機」のさまざまな種類について、実際のクラシックの名曲を例にして学んでいくよ。「動機」が積み重なって「交響曲」が完成するように、小さなことからコツコツと学んでいけば、もっと音楽の表現の幅が広がり、指揮することや演奏することが楽しくなるよ!一緒に楽しく学んでいこう。2人:はい、ありがとうございました!(第3講へ続く)
文:岡田友弘※この記事の著作権は岡田友弘氏に帰属します。
以上、岡田友弘さんから学生指揮者の皆様へ向けたコラムでした。
それでは次回をお楽しみに!(これまでの連載はこちらから)
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(Wind Band Press / ONSA 梅本周平)
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