「カデンツの終止形」プロの指揮者・岡田友弘氏から悩める学生指揮者へ送る「スーパー学指揮への道」第30回






管弦楽や吹奏楽の指揮者として活動されている岡田友弘氏に、学生指揮者の皆様へ向けて色々なことを教えてもらおうというコラム。

主に高等学校および大学の吹奏楽部の学生指揮者で、指揮および指導については初心者、という方を念頭においていただいています。(岡田さん自身も学生指揮者でした。)

コラムを通じて色々なことを学べるはずです!

第30回は「カデンツの終止形」。

前半は「カデンツの終止形」のお話。今回のアイキャッチの謎が解けます。

後半のエッセイ的な部分は「本番までの合奏の組み立て方~中期段階篇(その4)」です。

さっそく読んでみましょう!


合奏するためのスコアの読み方(その24)

合奏と楽曲分析のための和声の超基礎(11)

前回コラム

で「カデンツ」のお話をしました。

今回はそのカデンツの「終止」つまり「終わり方」のパターンのお話です。

まずは、この文章を読んでみてください。

「私は横浜に住んでいる友人に手紙を書いた」

この文章に2種類の句読点をつけてみます。

A・「私は、横浜に住んでいる友人に手紙を書いた。」

B・「私は横浜に住んでいる。友人に手紙を書いた。」

句読点をつける場所や種類によって意味が変わりますね。

和声における「終止形」もこのような「句読点の役割」をするものです。

その和声の終止形にはいくつかの種類があります 。

それでは一つずつ見ていきましょう。 各終止の説明とともに、いくつかの例を掲載しておきます。

ピアノで弾いたり、基礎合奏などで各グループに音を振り分けて演奏したりして「終止」の違いについて耳で感じ取ってみてください。

■ 全終止・・・V(属音、音階の第5音上の音。またはそこから積み重なる諸和音。)-I(主音、音階の第1音上の音。またはそこから積み重なる諸和音)の 連結でカデンツが終了する場合をいう。楽曲の完全な終結に用いられる。文章では「句点」「ピリオド」にあたり、Vの代わりにV7(属7、ドミナント・セブンス)を用いることもできる。V度の諸和音の「基本形」 (バス音に和音の根音、第1音が配置されている) からI度和音の「基本形」に連結するものを「完全終止」といい、V度和音からI度和音の連結で終止するが、V度和音かI度和音のどちらかが「転回形(和音の配置換え)」である場合の全終止を「不完全終止」と呼ぶ。

全終止(完全終止)

全終止(不完全終止)

■ 半終止・・・カデンツの途中にあるVまたはIの第2転回形(バス音が和音の第5音に配置換えされている和音。4-6の和音ともいう)からVのつながり で曲が停止する場合 をいう。カデンツが終了しているわけではないので、本来の終止の意味からは外れるが、文章では句点(カンマ)の働きと同じである。この場合Vの和音は「基本形」が用いられる。

半終止

■ 偽終止・・・V(V7) -VI(下中音、サブメディアント。音階の第6音上の音。またはそこから積み重なる和音) の連結でカデンツが終結する場合をいう。曲は終了しないため、文章では「読点」「カンマ」にあたる。本来Iに進むべき進行が期待を裏切るため「偽りの終止」ということで「偽終止」と呼ばれる。代替としてV(V7)-IV(下属音、サブドミナント。音階の第4音上の音。またはそこから積み重なる和音) の進行をすることもある。

偽終止

■ 変格終止(変終止)・・・完全終止の後に続くことがあるIV-Iの終止で、コーダ(結尾)の意味合いを持つ。讃美歌の後に習慣的に歌われる「A―men」に使われるので「アーメン終止」「プラガル終止」と呼ばれる。

変格終始(アーメン終止、プラガル終止)

■ その他・・・上記4種類の終止の他にもいくつか特徴的な終止形があります。短調の楽曲の最終和音をI度の短3和音の代わりにI度の長3和音を用いる「ピカルディ終止」や半終止の一種である「フリギア終止」「フォーレ終止」など。これらについては、今は名前だけ頭にいれておきましょう。

ピカルディ終止

フリギア終止

フォーレ終止

図版引用・小鍛冶邦隆監修、林達也執筆「楽典 音楽の基礎から和声へ」(アルテスパブリッシング刊)

我々の仲間内では飲み会の後にラーメンで締めることを「ラーメン終止」と呼びますが、これはカデンツの終止形には含まれません。

実際の曲ではどのようになっているのかを、基礎合奏の教本「コラールタイム」でみてみましょう。

この曲の原曲はJ.S.バッハの作曲です。この「コラールタイム」ですが最近は基礎合奏で導入しているバンドは少ないと思います。響きがシンプルでコラール練習や和音練習に適していると個人的に思っているメソッドです。

L.W.チデスター編纂「コラールタイム」(カールフィッシャー刊)より引用

このコラールの主調は調号の種類と数から「B-Dur」もしくは「g-moll」と予測できます。

1小節目の最初のハーモニーを見てみると・・・B の3和音のようですので、調は「B-Dur」です。

つまり、Iが「B」、Vが「F」ですね。

この曲は「曲の句読点らしき場所」がフェルマータになっているので「どこが終止なのか?」がわかりやすいと思います。フェ ルマータのついている各音を見てみると、I度音上かV度音上に積み重なる音でできています。

ここで「3和音になっていない」部分がありますね。

このように根音と第3音のみで構成されている音の積み重ねも、根音に5音の音が倍音として聞き取りやすいため3和音の響きや役割に準ずる効果があります。

このようにこの曲の中には「全終止」「半終止」を見つけることができました。

実際の曲にはこのほかに「偽終止」や「変終止」、特別な終止形が含まれます。普段練習している楽譜を見て、それがどのような終止になっているのかを確認してみましょう。

次回は「代理和音」「借用和音」のお話をしたいと思います。

→次の記事はこちら


【ミニコーナー】合奏の時に気にして欲しいこと(第12回)

本番までの合奏の組み立て方~中期段階編(その4)

刺激について考える(中)

前回に引き続き、中期の合奏練習における「刺激」についてのお話をしていきます。

今回は「間接的刺激」の中でも「音楽に直接関係のない刺激」についてです。

「直接関係のない」と言っていますが、最終的にはどのようなことでも「音楽」や「合奏」を楽しくするために有益なものになっていきます。

真面目に書いていますが、実際のところは「レクリエーションをする」ということです。

「レクリエーション」にもいろいろな種類がありますね。

「バーベキュー」や「食事会」などもコミュニケーションを図るには良い方法だと思います。

遠足や旅行をして、その行程で目にする名所や旧跡にインスピレーションを得ることも素晴らしい刺激になるでしょう。また陶芸や料理などの手作り体験も皆さんに多くの刺激を与えてくれます。

また「ボードゲーム大会」や「カードゲーム大会」も脳の活性化に良いとされているので、最終的には音楽の演奏や表現に有益なものとなるでしょう。

またドッジボール大会などを学年対抗で行うと、普段おとなしくしている下級生が怒涛の攻撃を上級生に仕掛けてきたりと、日常の練習などでは見ることの出来ない面を知ることができます。吹奏楽部にいると無意識に運動不足になるので、その解消にも役立ちます。

あくまで楽しく!怪我のないように充分気をつけてください。

これらのレクリエーションはチームの一体感や団結を強める効果もあると思います。また、日常生活では知る ことの出来ないメンバーの「良い部分」や「意外な一面」を知ることもできる絶好の機会になります。

「適度な休憩やレジャー」は日常の練習の効率を上げて、モチベーションを高める効果もあると感じています。音楽の表現でも「メリハリ」はとても大事です。マンネリになってしまいがちな中期の練習ですが、上手に「メリハリ」付けることで本番までモチベーションを保つことができるようになると考えます。

上手に手綱を締めたり、緩めたりして馬を走らせられるのが「上手な騎手」です!

メンバーのコンディションにいつも注意を払いながら、メリハリを持った練習計画を常に考えて欲しいと思います。

そのアイデアは無限に広がります。是非仲間とそのレクリエーションの可能性について大いに語り合い、実行していって欲しいと思います。

現在は通常の練習もままならない状況かとは思いますが、状況が落ち着いたら是非「音楽と直接関係のない刺激」もたくさん受けて、皆さんのバンドの表現を深めることにつなげていって欲しいと思います。

全てのことが音楽を深く、楽しく表現するために関係してくるはずです。

次回からは再び「音楽に関係ある」刺激についてお話ししていきます。

次回もお楽しみに!


文:岡田友弘

※この記事の著作権は岡田友弘氏に帰属します。


 

以上、岡田友弘さんから学生指揮者の皆様へ向けたコラムでした。

それでは次回をお楽しみに!

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(Wind Band Press / ONSA 梅本周平)


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岡田友弘氏プロフィール

写真:井村重人

1974年秋田県出身。秋田県立本荘高等学校卒業後、中央大学文学部文学科ドイツ文学専攻卒業。その後、桐朋学園大学音楽学部において指揮法を学び、渡欧。キジアーナ音楽院大学院(イタリア)を研鑽の拠点とし、ウィーン国立音楽大学、タングルウッド音楽センター(アメリカ)などのヨーロッパ、アメリカ各地の音楽教育機関や音楽祭、講習会にて研鑚を積む。ブザンソン国際指揮者コンクール本選出場。指揮法を尾高忠明、高階正光、久志本涼、ジャンルイージ・ジェルメッティの各氏に師事。またクルト・マズーア、ベルナルト・ハイティンク、エド・デ・ワールトなどのマスタークラスに参加し、薫陶を受けた。

これまでに、東京交響楽団、セントラル愛知交響楽団などをはじめ、各地の主要オーケストラと共演するほか、数多くのアマテュア・オーケストラや吹奏楽団の指導にも尽力し、地方都市の音楽文化の高揚と発展にも広く貢献。また、児童のための音楽イヴェントにも積極的に関わり、マスコットキャラクターによって結成された金管合奏団“ズーラシアン・ブラス”の「おともだちプレイヤー」(指揮者)も務め、同団のCDアルバムを含むレコーディングにも参加。また、「たけしの誰でもピカソ」、「テレビチャンピオン」(ともにテレビ東京)にも出演し、話題となった。

彼の指揮者としてのレパートリーは古典から現代音楽まで多岐にわたり、ドイツ・オーストリア系の作曲家の管弦楽作品を主軸とし、ロシア音楽、北欧音楽の演奏にも定評がある。また近年では、イギリス音楽やフランス音楽、エストニア音楽などにもフォーカスを当て、研究を深めている。また、各ジャンルのソリストとの共演においても、その温かくユーモア溢れる人柄と音楽性によって多くの信頼を集めている。

日本リヒャルト・シュトラウス協会会員。英国レイフ・ヴォーン=ウィリアムズ・ソサエティ会員。




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