管弦楽や吹奏楽の指揮者として活動されている岡田友弘氏に、学生指揮者の皆様へ向けて色々なことを教えてもらおうというコラム。主に高等学校および大学の吹奏楽部の学生指揮者で、指揮および指導については初心者、という方を念頭においていただいています。(岡田さん自身も学生指揮者でした。)コラムを通じて色々なことを学べるはずです!第29回は「和声の終止形」。今まで学んできた「和音」のお話も終わりが見えてきたのか?(どうなのか?)さっそく読んでみましょう!
合奏するためのスコアの読み方(その23)合奏と楽曲分析のための和声の超基礎(10)今回は「和声の終止形」のお話です。今まで皆さんが知ってきた「和音」は単独ではその力を発揮できません。もちろん、ある一つの和音が持つ響きの「カラー」を感じることも大切ですが、一層和音の魅力を発揮するためにはその和音の繋がりや変化を感じて、楽譜を読んだり演奏したりすることが大切になってきます。そうすることで皆さんの音楽ライフがさらに充実したものになるはずです。「カデンツ」は「終止形」と和訳されますが、今回「カデンツ」と呼ぶのは和音の機能によってある程度和音のつながりが規則的になる和音の配列法のことを言います。カデンツには次の3つの型があります。■T-D-Tの「第1型」■T-S-D-Tの「第2型」■T-S-Tの「第3型」久しぶりにTやD、Sというワードが登場しました。覚えていますか?それでは確認してみましょう。A) T=トニカ、トニック、主格・・・その調を代表する和音。主音の性格を持つので、終止感、安定感をもたらす。Iの和音、VIの和音がこれにあたる。使用法によってはIIIの和音もトニカになり得る。一般的に調性音楽は主和音で終止する。B) D=ドミナント、支配格・・・トニカに進もうとする強い意志を持つ。主格を規定(用意)するための重要な機能。属音上に作られ、導音を含むVの和音が代表。さらに属音上にできる7の和音「属7の和音」はより強力なドミナントの機能を持つ。VIIの和音もVに準ずるが、古典の音楽では用いられない。またIIIの和音は使用法によってはドミナントにもなり得る。属和音と主和音の関係によって調が決定する場合が多い。C) S=サブドミナント、準支配格・・・情緒、抒情、解放、愉悦感をもたらす。トニカやドミナントのような強力な意志を持たない和音。トニックとドミナントを「骨組み」とするならば、サブドミナントは「肉付け」のような役割である。下属音上に作られるIVの和音(下属和音)が代表的なものなのでこの名がある。IIの和音も同様の機能がある。日本語訳の「準支配格」は適当な訳語ではなく、曲中に実際に使われる場合は「次にドミナントがくる」「ドミナントを用意する」機能の和音という意味であり、英語表記の「サブドミナント」という言葉がその役割を最もはっきり表している。各機能の名前と役割がわかったところで、音階の各音上にできる3和音を見ておきましょう。この表を見て違った音上に積み重なる3和音の中で共通音が2つある3和音がどこにあるか見つけてください。2つの共通音がある3和音は同じグループに属している場合が多いことがわかるでしょう。楽譜の下に書かれている「主和音」「属和音」「下属和音」はそれぞれ「トニカ」「ドミナント」「サブドミナント」のことです。では、各カデンツの「型」について知っていきましょう。■第1型(T-D-T)・・・骨組みだけで作られた和音のつながり。曲の終わりにはI-V-I、VI-V-Iが、曲中にはI-V-VI 、VI-V-VIが用いられる。 (このVはV7 に置き換えることが可能)*V7=属7の和音(ドミナント・セブンス)のこと。属音上にできる4和音で、属和音よりもトニックに進む意志の強い和音イメージ「カレーを食べたい!」→「神保町でカレーを食べるぞ!」→ 「神保町でカレーを食べる」■第2型(T-S-D-T)・・・情緒も含まれた完璧なカデンツ。Sの部分にはIIとIVのいずれも用いることができる。他は上記の第1型と同じである。イメージ「カレーを食べたい!」→「ここは神保町かぁ・・・」→「神保町でカレーを食べるぞ!」→「神保町でカレーを食べる」■第3型(T-S-T)・・・ドミナントを欠くため、強い意志は感じられない。柔らかい性格のカデンツで、I-IV-I、VI-IV-Iの2種類が用いられる。Sの部分にIIは用いられず、またIV-VIは用いられない。イメージ「カレーを食べるぞ!」→「ここは神保町か・・・」→「神保町でカレーを食べる」今僕がカレーを食べたいだけでこのイメージ例となりましたが、第1型でも十分ストーリーとしては成立します。第1型に比べて第2型はより一層ストーリーが明確になると思いませんか?第3型でも神保町がカレーの街であることを知っていたらそこに隠されたストーリーを想像することもできますし、逆に神保町とカレーの関係がハッキリしないままカレーを食べるようにも感じますね。その「不確かさ」がサブドミナントの性格なのです。言葉の単語がそれぞれある程度の意味があっても不十分で、それが上手に組み合わさって初めて聞く人に「意味」や「感情」を伝えることができます。和音それぞれの響きと、その繋がりはそのような関係と似たようなものだと思っています。和音のつながりは各単語を組み合わせて意味のある文章にすること、そしてその終止形、カデンツは「句読点」なのです。終止形にも色々なパターンがあります。新しい用語も登場するので、終止形については次回も引き続き詳しく深掘りしていきます。
【ミニコーナー】合奏の時に気にして欲しいこと(第11回)本番までの合奏の組み立て方?中期段階編(その3)今回のテーマ:「刺激」について考える(上)前回のミニコーナーで、中期の合奏がマンネリに陥らないように工夫する必要があるというお話をしました。その際にキーワードになったのが「刺激」でしたね。今回はその「刺激」についてのヒントをお話ししたいと思います。刺激には大きく分けて2種類の刺激があると思っています。1・練習内での刺激(直接的刺激)2・練習外での刺激(間接的刺激)それらにはどのようなものがあるのかを見ていきましょう。1・直接的刺激これは合奏練習内での「刺激」です。合奏とは基礎合奏と曲合奏の総称です。合奏の中での指揮者や指導者のアイデアを練習に取り込んで「飽きのこない合奏」「興味と面白さを感じてもらえるような合奏」をすることで、メンバーの心に刺激を与えて日々の練習と本番までのモチベーションを維持することを狙いにします。指揮者や指導者のアイデアでそのパターンは無限に広がっていくと思いますが、いくつか例を示してみましょう。・基礎合奏のパターンのアレンジ・曲合奏でのパターンのアレンジ・合奏練習とソルフェージュ訓練の紐付け・「常識を超えた」練習方法や合奏形態の実行抽象的な表現でリストアップしたので、いまいちイメージが湧かない人も多いかもしれません。この「直接的刺激」の」具体例や提案に関しては次回詳しくお話ししていこうと思っています。2・間接的刺激この「間接的刺激」は大きく二つのカテゴリに分けることが出来ます。・音楽に直接関係する刺激・音楽には直接関係ない刺激今回は間接的刺激の中から 「音楽に直接関係ある刺激」についてお話ししていきます。これは文字通り「合奏で直接行われていないが、音楽に関係あること」です。具体的には「他のオーケストラや吹奏楽団、またはソリストの演奏を聴く」「楽曲に関係のある映画や映像、舞台を観る」などが該当すると思います。「他のオーケストラや吹奏楽団、またはソリストの演奏を聴く」は読んで字の如く、自分(や所属楽団)以外の演奏団体や演奏家の演奏を聴くということです。「聴く」だけでなく、可能な限り「見る(観る)」ことや「体感する」ことをして欲しいと思います。学生は「学生券」や「学生料金」などで格安でプロのオーケストラなどの演奏会に行くことができるシステムがあるところが多いので、ぜひ各団体のホームページなどを覗いてみてください!僕も学生時代はこのようなチケットを多く利用してたくさんの演奏会に足を運びました。地方に住んでいるとそれが難しいと思うのですが(僕も秋田県という地方出身です)、実際にホールなどの演奏会場で「音楽を体感する」ことはとても大切です。どんなに立派で高価なオーディオでも再現することのできないものが、実際の演奏会場にはあります。その「空気感」や「直接伝わってくる音の振動」を体全体で受け止め、感じることは自分の音楽や演奏をパワーアップさせる大きな力になります!地方だとなかなかプロのオーケストラや吹奏楽団の演奏会が開催されることも(首都圏に比べて) 少ないと思い ますし、ソリストの演奏会も多くはないと思いますが、調べてみると地方で活躍している演奏家の方々や、楽団が演奏会をしていることも多いと思います。ぜひ情報のアンテナを広げて感度を高めて欲しいと思います。プロの演奏家の演奏は、やはり違います。その違いを体感できると、自分の音楽表現にもより大きく高い目標を持つことができますし、何よりも「すごい!」と感動する気持ちは音楽を継続して楽しむことに大きな力となります。同じ地域の吹奏楽部や社会人楽団の演奏を聴きにいくこともとても大事なことです。その中から自分の目標や課題が見えてくると思います。身近な目標や情報と高い目標や情報収集の飽くなき追求が、皆さんの音楽や生活を豊かにしてくれると信じています。そしてできるだけ多くの人と演奏会に行って、演奏会の休憩中や演奏会の後にお互いの感想や発見したことなどを語り合う機会を設けて欲しいと思います。感動を共有し、目標を同じくする仲間を増やしていくことはとても大事です。音楽、特に合奏 は一人ではできないものですし、一人ではつまらないものですから。プロアマ問わず、できるだけ多くの演奏会に足を運んで、音楽を「体験」して欲しいと思います。物理的な状況などで、実際に演奏会を見たり聴いたりできないこともあると思います。そのような時でも、さまざまな媒体を活用して国内外のたくさんの演奏家や楽団の演奏を聴いたり見たりしたいものです。学校の音楽室にある大きなスピーカーから流れる音楽は普段自宅で聴いている音楽よりも迫力や音圧を感じることができますし、大画面で映像を見ると普段思ってもみなかったような部分がよく見えます。ここで強調したいことは「できるだけ多くの」演奏家の演奏に触れることです。多くの演奏に触れる中で「この演奏はかっこいいな!」とか「この演奏は好みじゃないな・・・」などと演奏によって感想に変化があると思います。そのことを大事にして欲しいのです。「あそこはコンクールで全国大会に行っているから・・・」とか「あそこの指揮者の先生は伝説の人だから・・・」という情報で身近な演奏を聴くこともあると思います。「コンクールとかでいい賞だから・・・」「有名な先生だから・・・」その情報だけで必ずしも皆さんの心の中で「本当にいい演奏」にはならないと思います。多くの演奏に触れて、自分の耳や目を通して感じたものを大切にして欲しいと思います。「聴く」「視る」「(においなどを)嗅ぐ」「触る」「(舌などで)味わう」は人間の「五感 」 です。音楽の大部分の位置を占めるのは「聴覚」です。その聴覚を養い、同時に聴覚以外の感覚でも音楽を感じることで、音楽の表現の可能性を広げることができます。五感 の全てを駆使して、それを表現に繋げられたとき、皆さんと皆さんの団体の演奏が「他とは違う特別な」ものとして聴く人の心に届くのではないでしょうか。限られた世界だけを見て、全てを知っているような気分になることが最も危険なことです。このコラムを読んでいる皆さんは、多くが吹奏楽団で音楽を楽しんでいる方だと思います。吹奏楽のオリジナル作品には古典的な名作から現代の作品まで多くの素晴らしい作品があります。コンクールや演奏会で取り上げる機会のない名曲もたくさんあるのです。ぜひ皆さんにはそのような名曲もたくさん聴いて欲しいのです。そのような「未知の世界」の大きな助けとなるのがWind Band Press などのインターネットメディアや、「バンドジャーナル」や「パイパーズ」などの雑誌です。是非ともちょっとした空き時間にそのような媒体に目を通してみるのはいかがでしょうか。吹奏楽のオリジナル作品だけでなく、吹奏楽団ではオーケストラの編曲作品やジャズやポップスのアレンジ、映画やミュージカル、アニメーションに使用されているものなど多くのジャンルを演奏します。ぜひ吹奏楽以外のジャンルの作品に対して大いに興味を持って欲しいと思います。アレンジされたものの素晴らしさはもちろんですが、その「原曲」や「原作」を知って演奏したりスコアを読んだりすると今までとは全く違う景色が見えてくると思います。その音楽がヒントにした文学作品を読むのもおすすめです。音楽作品というのはそれ自体でも十分に素晴らしく、また楽しめるものです。ですが、その周辺にあるいろいろな情報を知っていくと、より一層作品の魅力にのめり込んでいけるはずです。自分たちにしかできない「スペシャルな」演奏を目指すためには、周りの人が普通にしていることだけでは埋没してしまいます。ぜひ一歩先を音楽で表現できるように、皆さんの好奇心の芽を大きい花に、豊かな果実にしていって欲しいと思います。次回は「間接的刺激」についての続きと、「直接的刺激」の具体例をお話ししたいと思います。次回もお楽しみに!→次の記事はこちら
文:岡田友弘※この記事の著作権は岡田友弘氏に帰属します。
以上、岡田友弘さんから学生指揮者の皆様へ向けたコラムでした。
それでは次回をお楽しみに!
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