こんにちは!石原勇太郎です。
新年が始まり、早くも4週目となりました。このコラムも第3回目です。
前回は、曲目解説を書く際に必要となる情報とは何か、そして、事典や音楽専門書を用いた情報の集め方について見ていきました。
今回は、前回とは別の方法、すなわち「インターネット」を用いた情報の集め方を一緒に見ていきましょう。そして最後に、前回の内容もふまえて、集めた情報を使う際の大切な注意点を考えてみましょう。
次回からは、実際に文章を書く作業に進みます!
少し地味で手間のかかる情報集めですが、今回も根気よくお付き合いください!
第3回:情報を集めよう!~その2~
第2回の最初に、曲目解説を書く際に必要となる情報をいくつか挙げました。皆さん覚えていますか?
大きく、「作曲者の生没年」「作曲者の生涯」「作品が作曲された時期について」「作品が作曲された理由」「作品の音楽的特徴」という5つの情報が必要でしたね。
それぞれの情報がどのようなものなのかは、第2回の記事をご覧ください。
また、情報を集める方法として、
- 音楽事典・音楽専門書
- インターネット
の2つを挙げました。前回は「1. 音楽事典・音楽専門書」について見ていきました。今回は「2. インターネット」での情報の集め方を見ていくことにしましょう!
- インターネット
パソコンやスマートフォンの普及によって、最早インターネットは身近なものになりました。このコラムもインターネット上で公開され、皆さんもインターネットを通して読んでくださっていると思います。分厚い事典や本などを見なくても、必要な情報がすぐ手に入るのはとても便利ですよね。
皆さんの中には、曲目解説を書くための情報をインターネット上で全て集めてしまうという方がいるかもしれません。
もちろん、それは悪いことではありません!
しかし、インターネットにはたくさんの情報がある一方で、間違った情報や、悪意のある嘘が混ざっているという危険もあります。
ですので、インターネット上での情報の集め方と、その注意点をいくつか見ていきましょう!
(注:ここでは各サイト等での検索方法は説明しません。各サイトのヘルプなどを参照してください。)
CiNii Articles(サイニィ)
CiNiiとは、国立情報学研究所が管理している学術情報データベースです。
こう書くと難しく思うかもしれませんが、簡単に言ってしまえば論文や図書、そして雑誌記事を検索することができるサイトです。
自分の調べたいキーワード(例えば作曲家の名前など)を入力して検索すれば、そのキーワードに関係する論文や図書が一覧となって表示されます。
論文の場合は、その場で閲覧することができるものもあります。ただし、基本的にはCiNiiで見つけた本や雑誌記事を図書館などで見ることになります。
インターネットだけで情報を集めたい!という方には少し不便かもしれませんが、どのような本や雑誌記事があるのかを調べるのにはとても便利です。
Wikipedia(ウィキペディア)
インターネット上で情報を集める際に、多くの方が最初にたどり着き、最も参考にするサイトが、Wikipediaだと思います。
Wikipedia、便利ですよね!
音楽に関わらず、何かちょっとした調べものに使う、という方も多いのではないでしょうか。
しかし、使用する際によく覚えておいてほしいのが、Wikipediaは「基本的に誰でも編集できてしまう」インターネット上の百科事典だということです。私や皆さんでも簡単に記事を編集できてしまうのです!
つまり、個人の勘違いに基づいた記述や、曖昧な記憶を頼りにした記述、そして人から聞いた話のような信憑性のない記述など、事典としては問題のある記述が多数見受けられます。
こう書いてあるのを見ると、あたかも使い物にならない悪いサイトのように思われるかもしれません。しかし、少し注意して使用すればWikipediaはインターネット上で情報を集める際に、役に立つのも確かです!
試しに、Wikipediaで作曲家のフィリップ・スパークの記事を見てみましょう。
画像1を見てください。
画像1
「フィリップ・スパーク」『ウィキペディア日本語版』(2017年1月21日閲覧)
画像1は、日本語版Wikipediaのスパークの記事です。
色々な情報が載っているので、いかにも役に立ちそうですね!
それでは、今度は画像2を見てください。
画像2
「Philip Sparke」『ウィキペディア英語版』(2017年1月21日閲覧)
画像2は、英語版Wikipediaのスパークの記事です。
英語版の方には、なんだかあまり情報が載ってなさそうに見えますね。
さて、画像1と画像2をよく見比べてみてください。
何か違いに気が付きましたか?
「英語が得意じゃないので、内容の違いがわからない!」という方、気が付いてほしい違いは内容ではありません!
日本語版の記事(画像1)には、英語版の記事(画像2)にあるものがありません。
そろそろ気が付いた方もいるかもしれませんね。そうです、英語版には[1]や[2]のような、括弧に囲まれた数字が文章の終わりについていることがあります。
これは「脚注番号」というもので、ページの最後にある「Reference」(画像3)という項目とリンクしています。「Reference」とは日本にすると「脚注」、「参考文献」とでも言えるもので、記事に書かれている記述がどこに由来しているのかということを示しているのです。
つまり、英語版Wikipediaのスパークの記事は、書かれている内容をどこから持ってきたのかが明らかなのです!
画像3
「Philip Sparke」『ウィキペディア英語版』(2017年1月21日閲覧)
この「記述の由来を知る」ということは、情報集めではとても大切なことです。
誰が編集したのかわからないWikipediaの記事でも、「Reference」があることで、その記述が「誰が」、「どこに」書いたことなのかが、すぐにわかるようになります。
今回取り上げた、日本語版Wikipediaのスパークの記事では、残念ながら「Reference」(日本語版では「脚注」や「参考文献」)の項目がありませんでした。しかし、他の記事では「脚注」や「参考文献」という項目があるものも、当然あります。
試しに、私が専門としているアントン・ブルックナーの記事(「アントン・ブルックナー」『ウィキペディア日本語版』,(2017年1月21日閲覧,))を見てみました。ブルックナーの記事では、(あまりに少ないですが…)「脚注」と「参考文献」という項目がありました。
記述の由来がはっきりとしている場合は、その情報は少しだけ信憑性が上がります。特に、「Reference」や「脚注」などで、URLが掲載されている場合は、すぐに記述の由来を確認することができます。出版社や作曲家自身のサイトにリンクされている場合は、他にも必要な情報を得られるチャンスかもしれません。
ともかく、大切なのは「Reference」や「脚注」、「参考文献」に載っている資料を、自分で確認してみることです。記述の由来がはっきりしているからといって、そのまま鵜呑みにするのではなく、できる限り、自分の目で確認してください!
個人サイト
例えばブログなどのように、ネット上で個人の意見を発信している方がたくさんいらっしゃいます。
音楽でも、自分の聴いたCDの感想を書いている方や、自分で調べた作曲家の情報をまとめている方がいらっしゃいます。
Googleなどの検索エンジンを使用して作曲家の名前を検索すると、そのような個人サイトがたくさん出てくるかと思います。
中には、所属しているアマチュアの楽団の定期演奏会用に書いた曲目解説を公開している方もいらっしゃいます。情報集めで苦労している方の中には「お、これは良いものを見つけた!」と、お宝を見つけた気分になる方もいるかと思います。
しかし、Wikipediaの項目でも書いたように、そこに書かれている情報は本当に正しいものなのか、もう一度落ち着いて考えてみてください。
情報というのは、人により受け取り方が変わってきます。そこに公開されているものは、そのサイトの持ち主が勘違いして理解してしまった情報に基づいているかもしれません。
個人サイトに書かれている情報は、あくまでそのサイトの持ち主が得た情報に基づいたものだということを常に忘れずにいてください。
そして、個人サイトの情報を用いるのには、もうひとつ重要な注意があります。
これは、個人サイトに関わらず、インターネット上の情報、そして事典などの本から得た情報を用いる際にも細心の注意を払ってほしいことです。それがどのようなことなのか、見ていきましょう。
情報の扱い方-人の文章を勝手に使わない!
ここまでいくつかの方法を用いて、曲目解説を書くための情報を集めてきました。
情報を集めてきた中で、もしかしたらある事に気が付いた方がいるかもしれません。そう、世の中には曲目解説というものが、すでに多数存在しているのです。
事典の項目や、解説書の一部、そして個人サイトで挙げられている曲目解説など、私たちが簡単にアクセスすることのできる場所に、すでに曲目解説は存在しています。
その中には、これから自分が書こうとしている曲のための解説もあるかもしれません。「ということは、自分で書く必要はないじゃん!これをそのまま使えば!」そう考えてしまった方は要注意です。
誰かの書いた文章を、書いた本人の許可なく、あたかも自分が書いたように用いるのは犯罪です!
学校の授業や、学術論文の中で、他人の書いた文章や意見を使いたい場合は、必ず「引用」という形で、「誰が」「どこで」言っていたことであるかを明確にしなくてはならないというルールがあります。
学校の定期演奏会などの曲目解説は、そこまで厳しい目で見られるものではないかもしれません。しかし、文章を書くという行為をする上で、「人の文章を勝手に使わない」という最低限のルールは守ってほしいと思います。
もしかしたら、自分の書いた曲目解説よりも、インターネット上にある他の誰かの書いた曲目解説の方が、綺麗で読みやすい文章かもしれません。それでも、他の誰かの書いた曲目解説を無断で使用するのは絶対にやめましょう。他の人の曲目解説を使用したくなるほど、文章が上手く書けずに悩んでいる方は、根気よくこのコラム連載にお付き合いください!
どうしても、インターネット上で公開されている曲目解説を使用したいのであれば、それを書いた本人に連絡を取り、使用してもよいかどうかしっかりと確認してください(自由に利用して良いという旨が、すでに書かれている場合は別です。ただし、その場合でも一応書いた本人に連絡するのがより良いと思います)。
もちろん、他の人の書いた解説を読むというのも、自分の文章を上達させるためには必要なことです。
しかし、私たちがここまで見てきたことは「情報の集め方」です。曲目解説本文を探すことが目的ではありませんよね。
曲目解説本文を見つけたからと言って、それを頼りにはしないでください。皆さんの演奏を引き立ててくれる曲目解説は、決して他の人の書いたものではなく、演奏に関わる皆さん自身の解説であることは間違いありません。情報集めをして、新しく文章を書くというのは、とても苦労するのは私にもよくわかります。しかし、そうした苦労を経て出来上がった解説は、必ずや皆さんの演奏の役に立ち、読んでくださるお客様にも何かしら伝わるものがあると思います。
少しだけ厳しいお話になってしまいましたが、最後に前回と今回のお話のまとめに進みましょう。
情報の整理
さて、夢中になって情報を集めていると、いつの間にかそれなりの数になっているかと思います。
本やインターネットで集めた情報は、とりあえず整理しておくと良いと思います。
整理の仕方は人それぞれですが、例えば最初に見た5つの項目のどれに該当する情報であるのかを明確にしておくのは後々役に立ちます。また、インターネット上で手に入れた情報は、プリントアウトして手元に置いておくのをお勧めします。
自分の好きな方法で良いです。必要な情報を必要な時に、すぐ見られるようにまとめておきましょう。
このように、様々な方法で集めてきた情報を、実際に解説を書いていく中で、すべて使用するということはないと思います。
どの情報が本当に必要かどうか見極めるためにも、集めた情報をまとめる癖をつけておきましょう!
2回に分けて、曲目解説を書くための情報の集め方についてみてきました。
今回紹介した本やサイト以外にも、皆さんなりに使えるものがあるのであれば、どんどん利用して情報を集めてみてください。
曲目解説を書くための情報は、少ないよりも多い方が良いです。
次回から、ついに実際の文章の書き方に進みます。
集めた情報を基にして、どのように文章を編み出していくのかを一緒に考えていきましょう!
それでは!
今回の課題
・任意の楽曲の情報(作曲者の生没年・生涯、作品が作曲された時期について、作曲された理由、作品の音楽的特徴)をGoogle等の検索エンジンで検索してみよう
・Wikipediaで任意の作曲家の記事を閲覧してみよう。脚注番号が付いている場合は、そのリンクを参照してみよう
本コラムについて、ご質問やご感想等がございましたら、公式サイトのContactからお願いいたします。
石原勇太郎 公式サイト
http://www.yutaro-ishihara.info/
※この記事の著作権は石原勇太郎氏に帰属します。
石原 勇太郎 プロフィール
1991年生まれ、千葉県八千代市出身。12歳よりコントラバスを始める。2014年、東京音楽大学器楽専攻(コントラバス)卒業。同大音楽学課程修了。2016年、東京音楽大学大学院 修士課程音楽学研究領域修了。現在、同大大学院 博士後期課程(音楽学)在学中。平成28年度給費奨学生。専門は、A.ブルックナーを中心とするロマン派の交響曲。
2014年、《天空の旅―吹奏楽のための譚詩―》で第25回朝日作曲賞受賞。2015年度全日本吹奏楽コンクール課題曲として採用される。以降、吹奏楽を中心に作品を発表している。
これまでに、コントラバスを幕内弘司、永島義男、作曲を村田昌己、新垣隆、藤原豊、指揮を三原明人、尺八を柿堺香の各氏に師事、また大学4年次より藤田茂氏の下で音楽学の研究を進めている。日本音楽学会、千葉市音楽協会各会員。
作曲活動の他、曲目解説等の執筆、中学・高等学校の吹奏楽部指導やアマチュア・オーケストラのトレーナーを勤める等、幅広く活動している。
▼石原さんのコラム【演奏の引き立て役「曲目解説」の上手な書き方】全連載はこちらから
▼石原さんのエッセイ「Aus einem Winkel der Musikwissenschaft」これまでの記事はこちらから
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