石原勇太郎の【演奏の引き立て役「曲目解説」の上手な書き方】第4回:執筆の基本的なルール

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こんにちは!石原勇太郎です。

 

2017年、あっという間に1ヵ月が終わり、2月になりました。

3月、4月には春の演奏会を企画している団体も多いのではないでしょうか。

その演奏会で曲目解説を書く予定の方、ぜひ本連載を参考にしてみてください。春に演奏会がない方も、突然曲目解説を書かなくてはならなくなった時のために、この先も本連載を講読していただければ嬉しいです。

 

第2回第3回と曲目解説を書く際に必要となる情報と、その集め方について見てきました。

しばらく、「曲目解説の書き方」とは違う印象があったかもしれません。しかし、今回から、実際の文章の書き方に入ります!

 

今回は、曲目解説を書くの基本的なルールを、一緒に確認しましょう!

 

第4回:執筆の基本的なルール

 

上手な曲目解説と下手な曲目解説があるとすれば、その違いはなんでしょうか。

上手な曲目解説は、作品についての興味深い考察や分析が書かれているものだと思うかもしれません。

もちろん、それも曲目解説の良し悪しを分ける大事な要素です。しかし、ここで言う下手な曲目解説にも、同じような情報が書かれているとしたら、何が「上手」と「下手」を分けているのでしょうか。

 

それは、「読みやすさ」です。

 

読み手がストレスなく、情報を読み取ることができるということが、曲目解説ではとても大切な要素です!

小説のように、書き手の個性を押し出す必要はありません。論文のように専門用語を並べ、これでもかと言うほど根拠を押し並べていく必要もありません。ただ基本的なルールを守るだけで、読みやすい曲目解説を書くことができます。

逆に言えば、執筆の基本的なルールを守っていないと、せっかく書いた曲目解説が読みにくいものになってしまうかもしれません。

 

「ルールを破ってこそ、面白いものが生まれる」

音楽を良く知っている私たちは、そう思ってしまうかもしれません。しかし、「型破り」というのは、破るための「型」を知っているからこそ、その型を破ることができるのです。「型」も知らずに「縛られたくない」という一心で創作したものは「形無し」なのです(歌舞伎役者の十八代目中村勘三郎さんが生前このことについてお話しされていたのが印象深いです)。

それに、曲目解説は自己表現の場とは少し違います。演奏こそが自己表現の場であって、曲目解説はその補助として機能しなくてはなりません。つまり、特定の人にだけ理解できる独創的なものではなく、万人が理解できる普遍的なものが曲目解説の理想です。その理想を叶えるためには、基本的なルールを守るのが一番の近道なのです。

 

もちろん、基本的なルールを守って文章を書いているうちに、皆さん独自のより良い文章の書き方が出てくるかもしれません。そのような基本的なルールを守る中から生まれてきた独自の書き方は、皆さんの財産なので、ぜひ大切にしてください(すでにそのような書き方ができる方には、この連載はツマラナイかもしれませんが…)。

 

それでは、読みやすい曲目解説を書くための第一歩、執筆の基本的なルールを見てみましょう!

 

  1. 丁寧体と普通体

 

基本的なルールの中でも、最も基本であるのが文体のことです。

丁寧体と普通体と言われても、なんのことかわからないかもしれません。

「ですます調」と「である調」と言えば、すぐに理解できるでしょうか。つまり、文章の終わりを「~です。」「~ます。」で終えるのか、「~だ。」「~である。」と終えるのかの違いです。私のコラムでは、基本的に「丁寧体」を使用しています。

 

「なぜわざわざ、こんな簡単なことを書くのか」と思うかもしれません。

それは、文体がしっかりとしていない曲目解説が、残念ながら世の中にたくさんあるからです。

 

曲目解説を書き始める前に、まず自分が丁寧体と普通体、どちらを用いて執筆するのかよく考えてみてください。

丁寧体で書かれた文章は、その名の通り丁寧な印象を読み手に与えます。そして、文章が優しく、柔らかな雰囲気になります。

普通体の文章は、少し固い印象を読み手に与えますが、同時に格式のある雰囲気を出すことができます。

 

丁寧体で書くか普通体で書くかの選択は、第1回で取り上げた「誰が読むのか」ということと密接に関係します。どちらにも利点がありますので、皆さんの演奏会の雰囲気や、来場の見込まれるお客様に合わせて選択するのが良いかと思います。

試しに、丁寧体で書いたものと普通体で書いたものを読み比べてみてください。内容はどちらも同じです。

 

例1:丁寧体

《マゼランの未知なる大陸への挑戦》は、日本の作曲家、樽屋雅徳(1978-)が2004年に作曲した作品です。大航海時代のポルトガルの冒険家であるフェルディナンド・マゼランは、世界一周の偉業を成し遂げたと伝えられています。ところが、マゼラン自身は航海の途中で亡くなってしまい、実際に世界一周を成し遂げたのは彼の船と仲間たちだったのです。そこで作曲者は「もしマゼランの魂が現世に残り、世界一周を続けたなら…」というイメージの下、マゼランの「未知なる」冒険を音楽で描き出したそうです。

 

例2:普通体

《マゼランの未知なる大陸への挑戦》は、日本の作曲家、樽屋雅徳(1978-)が2004年に作曲した作品。大航海時代のポルトガルの冒険家であるフェルディナンド・マゼランは、世界一周の偉業を成し遂げたと伝えられている。しかし、マゼラン自身は航海の途中で亡くなっており、実際に世界一周を成し遂げたのは彼の船と仲間たちであった。そこで作曲者は「もしマゼランの魂が現世に残り、世界一周を続けたなら…」というイメージの下、マゼランの「未知なる」冒険を音楽で描き出したのである。

 

書いてある内容は同じですが、印象は変わりますよね。

曲目解説を書くにあたって、まずは文体を必ず選択しましょう!

 

実際には、丁寧体と普通体を混ぜて使うことがよくあります。2つの文体を上手に混ぜて使うことができれば、文章の流れが良くなり、読みやすくなることがあるからです。しかし、この技法はまた別の機会に触れるとして、最初はひとつの文体で文章を書く練習をしてみてください。

 

さて、文体についての最後の注意です。

 

中学校・高校の吹奏楽部を含むアマチュアの団体では、演奏会の曲目解説を分担して執筆することがあるかと思います。その際に、必ず守ってほしいのが「(特別な意図がない限り)全体の文体を統一する」ことです。

ある曲では丁寧体、別の曲では普通体、というように、同じ演奏会の曲目解説にも関わらず、曲によって文体が全く異なっているのを私は何度も見てきました。これは正直、読みにくいです。

分担して書く場合は、最初に執筆者全員が集まって、丁寧体か普通体、どちらの文体を用いて書いていくのかを決めましょう。そして、そこで決めたことは、自分ひとりが気に食わなかったとしても必ず守りましょう。

 

  1. 文字数を守る

 

笑ってしまう方もいるかもしれませんが、文字数を守ることは執筆の基本的なルールです。

曲目解説はプログラムに載るわけですから、使用できる範囲は決まっています。文字数を守らなければ、できあがった文章を後になって削らなくてはならなくなります。そうなってしまったら、一から書き直した方が速い場合が多いです。これは二度手間ですよね。

ですので、文字数は必ず守ってください。「1曲600文字程度」と指示されたのであれば、600文字以内にしましょう。

 

場合によっては、文字数を指示されない場合があります。

私もよく、「A4用紙2枚分」というような指示を受けることがあります。その場合は、Word等のワープロソフトでサイズをA4に設定し、2ページを越えないように執筆するなど、工夫が必要です。

 

依頼人から文字数を指示されなくとも、自分から文字数はどの程度かということを確認する癖をつけておきましょう!

 

  1. ひとつの文は60文字程度に収める

 

文章を書いていると、知らない間に一文が長くなる傾向があります。

曲目解説では、ひとつの文は60文字程度に収めるようにしましょう。だからと言って、あまりに短い文が並んでいるのも幼稚ですので、理想は一文40文字から60文字程度かもしれません。

このルールを守ると、文章が読みやすくなる以外にも良い効果が得られます。それは、「説明過多」にならないという効果です。

長い文には、無駄な装飾文や、不必要な情報が含まれていることが多いです。場合によってはひとつの文の中で2つの話を展開している場合もありますが、これは最悪です。例3を見てください。

 

例3:長すぎる一文

大航海時代のポルトガルの冒険家であるフェルディナンド・マゼランは、世界一周の偉業を成し遂げたと伝えられているが、実際にはマゼラン自身は航海の途中で亡くなってしまったため、最終的に世界一周を成し遂げたのは彼の船と、彼の仲間たちだったのである。

 

なんと! 120文字もあります!

この文章の何が悪いかは、もう皆さんにはわかりますよね。

マゼランが世界一周をしたと伝えられていることと、マゼランが亡くなって後に彼の仲間が航海を続けたことは、別の情報です。「ひとつの文の中ではひとつの情報」、これを守ることで、例3のように一文が長くなりすぎることも避けられるようになるはずです。

 

(引用文や長い曲名などを使用して、一文が長くなるのは別です)

 

  1. 主語を絶対に忘れない 「これ」「あの」をなるべく避ける

 

私たちが普段会話をする時には、主語を入れなくても話の流れで自然と「誰が」「なにが」何をしたのかを理解していると思います。

しかし、曲目解説を書く際には、必ず主語を入れてください。さらに、日常会話ではとても便利な「これ」や「あの」という代名詞は、曲目解説ではなるべく使用しないようにしましょう。

代名詞の入っている文は、何を指し示しているのか一瞬わからなくなる場合があります。直前の文の中にある名詞を示す代名詞であれば、使用するのは問題ないかもしれません。しかし、もし使用するとしても、何を示しているのかがすぐに理解できるかをよく確認しましょう。

 

  1. 客観的視点

 

曲目解説を書く上で、最も難しいのは曲の流れの説明です。それが曲目解説の要であるにも関わらず、です。

曲の流れを説明する部分には、書き手の趣味が顕著に表れます。上で述べたように、曲の流れの説明は曲目解説の要ですので、別の機会に丁寧に見ていこうと思います。

ここでは、ともかく「客観的視点」から文章を書く大切さを覚えておいてください。

例1、例2で取り上げた、≪マゼランの未知なる大陸への挑戦≫の曲目解説の続きを例に挙げます。

 

例4:主観的「過ぎる」説明

マゼランの「未知」なる冒険、それは冒険者マゼランの死から開始する。大海原の不安定な波の中からマゼランの力強い意志が表出する。冒険は、危険極まりない。船を飲み込むような大波、見たこともない海の生物たち、様々な困難がマゼランの魂、そして彼の船の前に立ち塞がる。しかし、マゼランは神に祝福されているのだろうか…恐ろしい海の脅威の中にも、一筋の希望が見え隠れする。マゼランの冒険は、続いてゆく。瞬間、彼方から神秘的な讃歌が聞こえてくる。そう、人類がこれまで成し得なかった偉業を、マゼランは、今、成し遂げたのである。偉大なる伝説を残して、彼の魂は永遠の国、すなわち我々も辿りつくことのできない「未知」の世界へと昇ってゆく。

 

例5:客観的視点に立った説明

曲はフルートやクラリネットの奏する、波のさざめきと共に開始する。さざめきの中から金管楽器群の勇壮な旋律が現れ、重苦しい打楽器が新しい場面の開始を告げる。マゼランの冒険が危険に溢れていることを示すようなホルンのグリッサンドや、クラリネットの慌ただしい旋律が重なってゆく。一瞬の静寂の後、中低音楽器による美しいコラールの中で、トランペットが印象的な旋律を高らかに奏する。マゼランたちは船上で宴会を繰り広げているのだろうか、ケルト音楽風の明るい場面が続く。終盤、中間のコラールの中で奏でられた旋律が、今度はトランペット・ソロで歌われる。偉大なる旅の終着点に相応しい、壮大な響きの中、マゼランの「未知なる」冒険は幕を降ろす。

 

どちらも《マゼランの未知なる大陸への挑戦》の音楽を、最初から最後まで説明した文章です。

 

例4は、これではまるで小説です。

まず、どういう旋律がどのような楽器で演奏されているのかが、一切書かれていません。そのため、どの場面のことを言っているのかが、よくわかりません。さらに問題なのは、書き手が曲の「物語」を創作して、「この曲はこういう物語だ」ということを押し付けている感じがするところです(例4を書いたのも私なのですが…樽屋先生すみません)。

一方、例5は最初から最後まで、どんな楽器が、どういう旋律を演奏するのかが説明されています。ところどころ、描写的な説明もありますが、具体的な楽器名などがあるため、押しつけがましさはあまりありません。

 

物語を創作して書いてしまうことの何が問題なのかは、上でも述べた曲の説明について詳しく見ていく際に、一緒に見ていきましょう。

 

主観的視点というのも、曲目解説には必要なことがあります。しかし、基本的には「客観的視点」から曲の説明をすることが大切なのだと、ここでは覚えておいてください!

 

  1. プリントアウトと読み直し

 

最後に、書き方とは関係ありませんが、必ずしてほしいことを書いておきます。

Word等で書き終えた曲目解説は、プリントアウトして、必ず読み直しをしましょう。

 

パソコンのモニター上で読むのと、印刷したものを読むのとでは異なった印象があります。

モニターでは気が付かなかったミスに、印刷したものを読んで気が付くことも多々あります。

 

曲目解説を書き終えたら、モニターで読み直すだけではなく、プリントアウトして読み直してみてください!

 

 

ここまで、6つの執筆の基本的なルールを見てきました。

 

  1. 丁寧体と普通体(文体の統一)
  2. 文字数を守る(文字数の確認)
  3. ひとつの文は60文字程度に収める(ひとつの文ではひとつの情報)
  4. 主語を絶対に忘れない(「誰が」「何が」を明確にする)
  5. 客観的視点(聴いてわかる情報を用いる)
  6. プリントアウトと読み直し

 

たった6つの基本ルールです。執筆をする前に一度思い出してみてください!

この6つのルールを守るだけで、文章の読みやすさが格段に上がるはずです。

 

次回は、解説を書いていく中で、どの程度の情報を盛り込めばよいのかという問題について、一緒に見ていきましょう。

 

それでは!

 

今回の課題

・《マゼランの未知なる大陸への挑戦》の曲目解説を、丁寧体と普通体、それどれの文体を用いて書いてみよう(2つとも600文字程度)

本コラムについて、ご質問やご感想等がございましたら、公式サイトのContactからお願いいたします。

石原勇太郎 公式サイト

http://www.yutaro-ishihara.info/

※この記事の著作権は石原勇太郎氏に帰属します。


石原 勇太郎 プロフィール

1991年生まれ、千葉県八千代市出身。12歳よりコントラバスを始める。2014年、東京音楽大学器楽専攻(コントラバス)卒業。同大音楽学課程修了。2016年、東京音楽大学大学院 修士課程音楽学研究領域修了。現在、同大大学院 博士後期課程(音楽学)在学中。平成28年度給費奨学生。専門は、A.ブルックナーを中心とするロマン派の交響曲。
2014年、《天空の旅―吹奏楽のための譚詩―》で第25回朝日作曲賞受賞。2015年度全日本吹奏楽コンクール課題曲として採用される。以降、吹奏楽を中心に作品を発表している。
これまでに、コントラバスを幕内弘司、永島義男、作曲を村田昌己、新垣隆、藤原豊、指揮を三原明人、尺八を柿堺香の各氏に師事、また大学4年次より藤田茂氏の下で音楽学の研究を進めている。日本音楽学会、千葉市音楽協会各会員。
作曲活動の他、曲目解説等の執筆、中学・高等学校の吹奏楽部指導やアマチュア・オーケストラのトレーナーを勤める等、幅広く活動している。


▼石原さんのコラム【演奏の引き立て役「曲目解説」の上手な書き方】全連載はこちらから

▼石原さんのエッセイ「Aus einem Winkel der Musikwissenschaft」これまでの記事はこちらから




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