昭和25年、広島県民と警察を結ぶ音の架け橋として発足した広島県警察音楽隊。
現在は隊員21名とカラーガード隊員6名の合計27名で編成されています。
そんな広島県警察音楽隊でユーフォニアムを担当している引田洸洋 巡査長に、お話を伺うことが出来ました。
場所は広島駅地下広場で、ちょうど音楽隊がお昼のコンサートを行う準備をしている中、主に音楽隊への就職を希望される方や音楽関係のお仕事に就きたい方に向けて、お話いただきました。
― 一般的なお話になるのですが、全国各地の警察音楽隊への入隊方法としてはどんな方法があるのでしょうか。
警察音楽隊は基本的には都道府県のそれぞれの職員として働くようになりますので、都道府県によって採用のされ方が異なります。
広島県の場合は、警察官になっていただくか、女性の場合は嘱託職員のカラーガードになっていただくという二通りがあります。
また他県ですと、一般事務職員から音楽隊に入隊するところもありますし、楽器のオーディションをして、音楽採用という形でやっていらっしゃるところもあります。
―各都道府県で変わってくると思うので広島県の場合として、入隊に必要とされる資格や経験などについてお伺いしたいのですが、まず年齢制限などはあるのでしょうか。
広島の警察官になろうとしたら18歳以上33歳までが採用試験の年齢制限となりますので、その年齢の方に受験していただくことになります。
ただし、受験資格については年によって変更する可能性もありますので、受験の際は広島県警察採用案内をご確認下さい。
それから採用合格になれば、警察学校での研修と交番勤務を経て、転勤の命令が出たら音楽隊に配置になります。
―新卒であるとか中途であるとかは関係ないのでしょうか。
広島の場合はまずは警察官になることが前提ですので、新卒であっても、会社勤めを経験されていても、受験資格があれば、受験することが出来ます。
―採用試験を受ける際に必要な資格はありますでしょうか。
まずは高校卒業見込み以上であることです。それ以外には特にありません。
―音楽隊への入隊を希望する場合にあった方が良いスキルなどはありますでしょうか。
警察音楽隊はマーチング演奏がありますので、マーチング技能検定の勉強はしておいたほうが、入隊後の知識技術の習得に役立つとは思います。
私は未経験だったのでだいぶ苦労しました(笑)。(資格を)取っておいたらだいぶ楽だっただろうなあ、と思います。
―音楽隊に入隊するために、警察官として勤続年数は関係あるのでしょうか。
広島の場合は、採用されてから、まず警察学校を卒業した後、警察署の交番に配属されます。
その後、次の所属、例えば広島県警察音楽隊は広島県警察本部の総務部広報課に属するのですが、そこに異動という形で配属されることになりますので、短くても2年くらいは必要になるのではないでしょうか。
―音楽隊員は警察官でもあり演奏家でもあり、一般の楽団とは全く異なる特殊な楽団員として活動されるわけですが、隊員として求められる資質などはありますでしょうか。
いつも私が考えながら演奏しているのは「音楽と平和」ということです。
色々な音楽のアーティストが平和を訴えていますが、それを仕事を通じて両方できるのが警察官であり音楽隊員であるという強みではないかなと思います。
演奏したからと言ってすぐに平和になるということではないのですが、少しでも私たちの演奏を聴いて、モヤモヤしている人たちがストレスを解消して万引きをしなくなるとか、他にも交通事故防止の広報などもしていますので、演奏の後に「気を付けて帰ろうか」と思って頂いたり、演奏を聴きに来て下さった方々に、少しでも平和に帰ってもらうように心がけています。
私はエリザベト音楽大学(広島にある音楽大学)の出身なのですが、当時から平和について考える機会が多く、色々な方からもお話を聞いて、「音楽と平和」ってなんだろうなあとよく考えたのですが、今はそれが両立出来ているというのが自分のアイデンティティにもなっています。なんだか、凄く「ここに入って良かったなあ」と思います(笑)。
やっぱり平和に、笑顔になって帰って頂きたいですし、帰ってからも笑顔でいて頂きたいです。
他の8月や12月の平和コンサートなども良いのですが、そういった特別なことがなくても平和を訴えることが出来ます。大規模な演奏会を開かなくても街角でも出来ます。小学校や敬老会にも呼んでいただきます。
音楽の機会のないところに「警察さん呼ぼうや」ということになるので、私にとって仕事の達成感はとても大きいです。
―定年はあるのでしょうか。
普通の警察官と同じですので、今は60歳ですね。
―音楽隊の指揮者になるにはどうしたらよいのでしょうか。
広島の場合ですと、「楽長」という役職の方が指揮をされるので、まずは警察官になっていただいて、楽長のポストに就くことが必要なんですが、それには演奏技術の高さや勤続年数による経験の豊富さなどが必要になります。
まずは警察官になっていただいて、経験を積んでいただくことですね。
他の県ですと、有識者を指揮者としてお呼びしているところもあります。都道府県によって異なりますね。
―普段の演奏以外の業務内容についてもお伺いできますでしょうか。
まず広島の音楽隊の隊員は留置管理課という部署を兼務していますので、逮捕された被疑者を広島地方検察庁に送致したり、裁判を受けさせるため身柄を護送する業務を行っています。
他には災害が起これば救助活動に赴きますし、大規模な警備に従事することもあります。
―練習はいつ行っているのでしょうか。
基本的には平日に、コンサートがあればその前に訓練日、練習日を設けて練習をしています。
もちろんその際に何か起これば、すぐに警備服に着替えて警察業務を行います。
まずは警察官は個人の生命、身体、財産の保護が責務なのでまずはそれが重要です。
その他の活動として、音楽隊のような広報活動をしているという位置づけですね。
―音楽隊にこんな人材が欲しい!というのはありますでしょうか。
まずは音楽隊に入るわけですから音楽が好きであることと、体力がある方。
あとは、警察なのでやはり平和を願っている方がよろしいですね。何をするにしてもそれが一番だと思います。
演奏だけしたい、と言う方には向かないかもしれないですね。様々な業務がありますから。
マーチングもありますので、それも嫌だという方は・・・まあ、我慢するしかないですね(笑)。
基本的には音楽と平和を愛する心を持っていてほしいですね。
―音楽を仕事にしたいけれども漠然としていて、進路に悩んでいらっしゃる方にアドバイスをいただけますでしょうか。
まずはなんでもやってみることだと思います。
音楽を仕事にするにしても色々な業種があって、まず演奏する人としない人に分かれますよね。
演奏する人ならフリーランスなのか会社に勤めるのかで大きく分かれて、会社勤めをされる方は音楽をメインにするのかサブにするのかというのもあると思います。
色々なやり方があるので、自分に合うやり方を見つけていくしかないかなと思います。
年齢制限のある就職先もあるので、年齢制限間近になって焦るよりは、選択肢の中にあるのであればまずは試してみるのが良いかと思います。
どうしても仕事にしてしまうと嫌なことも沢山あるので挫折するかもしれないですけれど、当初の目的は何だったのか、自分の想いは何だったのかを常に考えたら良いのかなあと思います。
―最後になりますが、その他、広島県警察音楽隊のPRをお願いします。
3ヶ月に1回、「昼のコンサート」を広島市と福山市で行っていますので、それを聴きに来ていただいて、広島県警察の取り組みを知っていただき交通安全や防犯のことについて少し考えて頂けたらと思います。
インタビュー・文:梅本周平(Wind Band Press)
まとめ:
自分の話をするのもなんですが僕は小学校中学校と剣道をやっていて、警察官の方にご指導していただいていたので、勝手に警察官の方には親近感を持っています。
今回取材を受けて頂いた引田巡査長はとても素敵な優しい笑顔が印象的でした。(笑うと玉木宏さんみたいです)
ただその中にある「音楽と平和」を愛する気持ちの強さ、心の芯の強さをお話の端々から感じることが出来、県民としても安心した次第です。
ちなみにインタビュー後には「昼のコンサート」が控えていたので、僕もそれを聴かせて頂いたのですが、地域の年配の方々が多く集まっていて、用意したイスの数では到底足りず立ち見の山といった感じでした。
ただ演奏するだけではなく、そこに平和への熱い思いをのせているからこそ、地域の皆様に愛され、皆が足を止めて聴き入ってしまうんだろうなあ、と思います。
「自分たちが演奏する意味」を考えるきっかけにもなると思うので、皆さんのお住まいの地域でもこういうイベントがあれば、ぜひ足を止めてしっかりと見てみると良いのではないでしょうか。
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