雑司ヶ谷の鬼子母神堂と9月の夕日(大学院の研究室から)
第1回:ようこそ!音楽研究の世界へ!
――ご専門は…?
初対面の方からこう聞かれることがとても多い。私のことをまだよく知らないので当然の質問でしょう。しかし、何を思ったのか、旧知の仲の方からも、ある時突然この質問をされることがあるのです。それも恐る恐る、「こいつ何者なんだ?」という懐疑を込めて…
さてどうしたものか…私、いつも困ってしまいます。
ありがたいことに作曲をさせていただくこともあり、ごく稀にコントラバスを弾いていることもある。はたまた今この原稿を書いているように、あたかもライターのようなことをしていたりも。
うーむ。ハイパーマルチミュージシャンとでも名乗ろうか…?それは怪しいな…
そんなおかしな考えが頭の中を駆け巡ります。
しかし、よくよく考えてみれば、悩む必要なんてないのです。なぜなら私には、迷わずに言うべき専門にしていることがあるのですから!
それでは私に、先程の質問をしてみてください!
「あなたの専門はなんですか?」
私はこう答えますよ!
「音楽学です!」
…
さてさて、多くの方はおそらく、
「…オンガクガク?」
頭の上に疑問符が浮かび上がるでしょう。安心してください!それは間違いなく一般的な反応です。「音楽学」は、音楽大学や専門学校で、あるいは個人で、楽器や作曲などを極めようと努めている若い方々にさえも、それがどのようなものなのか、ほとんど認知されていないのですから。
そんな謎めいた「音楽学」の世界の隅っこで、その道を志している私、石原勇太郎が、吹奏楽の世界で楽しく音楽生活を送っているWind Band Press読者の皆さんに、音楽学の世界の面白さをわずかでも知ってもらおうと、恐れ多くも始めさせていただくのが、この連載『Aus einem Winkel der Musikwissenschaft』すなわち「音楽学の片隅から」なのです!
とは言っても、今書いたように「音楽学の道を志している」私は、「志している」身であって、音楽学の世界ではまだまだひよっこ!スタート地点にやっと立っているようなもの。
ですので、皆さんに「音楽とはこういうものだ!」というように、何かを講義することなんて、そんな大それたことは恐ろしくてとても出来やしません!しかし、音楽学の道を進む中で得た興味深い体験や考えなどなど、まだ音楽学の世界の片隅にいる、今の私だからこそ書くことのできることを、 気軽に徒然とまとめてゆきたいと思うのです。
――ほほう。なるほどなるほど。で、結局「音楽学」ってなに?
どこからか、そんな声が聞こえてきます。
「音楽学」とは、誤解を恐れず簡単に言ってしまえば「音楽を学問的に追究する」研究の総称です。
作曲家は音楽作品を創り出し、演奏家や指揮者は音楽作品を演奏し、聴衆は音楽作品を聴くことで、音楽と深く関わっています。音楽学の世界を生きる人(一般的に音楽学者と呼ばれます)は、音楽作品――あるいは音楽そのもの――を研究対象とすることで、音楽と関わっています。
音楽学と一言で言っても、その中には本当に様々な領域が広がっています。
音楽の歴史的なことを専門に研究する音楽史学。音楽作品の分析や分析法そのものを専門に研究する音楽分析学。さらに音楽社会学、音楽心理学、音楽教育学、音響学などなど…挙げていてはキリがないほど多様な、音楽に関する研究をまとめて「音楽学」と呼んでいます。
皆さんが普段慣れ親しんでいる「吹奏楽」。この吹奏楽という編成も、吹奏楽のために作曲された作品も、立派な音楽のひとつですよね。しかし、それは音楽という宇宙の中にあるひとつの星座(吹奏楽座とでも名付けてみましょうか!)のようなもの。音楽という広い宇宙を見てみれば、西洋芸術音楽座、ジャズ座、世界音楽座、ポピュラー音楽座…個性的な形をした星座たちが輝いています。
そんな音楽という宇宙を、音楽学という名の天体望遠鏡を使って観測してみれば、それぞれの星座はもちろん、星座を形作るひとつひとつの星々の特徴(作曲家の人生や、作品の背景、分析などなど)までもが見えてきます。
なんだかワクワクしてきませんか?
そんなあなたは、もう音楽学の世界、すなわち音楽研究の世界に入る切符を手に入れています。
「音楽に対する好奇心」それだけが音楽研究の世界へ入るために必要な唯一の資格。
まだ世界の片隅にいる私とともに、音楽学の世界をほんの少しだけ散歩してみましょう。
ようこそ!音楽研究の世界へ!
~♪~♪~♪~
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alla.arama.a.br@gmail.com
同じくWind Band Press上で連載していました「石原勇太郎の【演奏の引き立て役「曲目解説」の上手な書き方】」もよろしくお願いいたします!(第1回の記事はコチラ)
※この記事の著作権は石原勇太郎氏に帰属します。
石原勇太郎氏 プロフィール
ある時は言葉を紡ぎ、またある時は音を紡ぐ音楽家見習い。東京音楽大学大学院修士課程音楽学研究領域修了。同大大学院博士後期課程(音楽学)在学中。専門はオーストリアの作曲家アントン・ブルックナーと、その音楽の分析。論文『A.ブルックナーの交響曲第9番の全体構造――未完の第4楽章と、その知られざる機能――』(2016:東京音楽大学修士論文)『A.ブルックナーの交響曲第8 番の調計画――1887 年稿と1890 年稿の比較と分析を通して――』など。
公式サイト:https://www.yutaro-ishihara.info/
Twitter ID:@y_ishihara06
▼石原さんのコラム【演奏の引き立て役「曲目解説」の上手な書き方】全連載はこちらから
▼石原さんのエッセイ「Aus einem Winkel der Musikwissenschaft」これまでの記事はこちらから
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