「山は是れ山、水は是れ水」~僧侶兼打楽器奏者 福原泰明の音楽説法 第3回

2014年に日本人として初めて世界で最も有名なブラスバンド「ブラック・ダイク・バンド」の正式メンバーとなりパーカッション・ソロイストとして活躍。帰国後は僧侶としての修行を積み、現在は僧侶兼打楽器奏者として幅広く活躍している福原泰明さん。

そんな福原さんが、「心」をテーマに、仏教の教えを元に、演奏家(音楽家)の悩みや心のモヤモヤを晴らし、どう生きていくか、をライトに語る人気連載「僧侶兼打楽器奏者 福原泰明の音楽説法」。

第3回となる今回はのタイトルは「山は是れ山、水は是れ水」。さてどんなお話が聞けるのでしょうか。


明けましておめでとうございます。昨年から始めさせて頂いているこのコラム、第三回目となりました。いつも読んでくださりありがとうございます。
ちなみに年明け前後は除夜の鐘を撞きながら1時間以上ノンストップでお経を読んでいました。ガキ使見たかった。

「山は是れ山、水は是れ水」。これはという中国の唐の末期から五代十国時代の禅僧、雲門文偃(うんもんぶんえん)の言葉を集めた語録、「雲門広録(うんもんこうろく)」にある言葉です。読み方はそのまま、「やまはこれやま、みずはこれみず」。

これは、「山は山であり、水は水である」という意味です。・・・今「当たり前じゃねーか」と言う声が飛んできた気がします。落ち着いてください、せっかく飛ばすならお賽銭にしてみましょう。

この言葉の本質は、「人は物事のありのままの姿を正確にとらえることが難しい。しかし一度疑問を持ち、多角的に見る事で、今一度物事の意味を理解する」という事なのです。

これは音楽でも当てはまると思います。例えば、練習本番問わず自分の演奏を録音、録画をしておいて、終わった後にチェックしてみます。そこには、起こったこと全てが記録されているでしょう。
ここは失敗したなぁと思うところもあるし、ここは上手くいったと感じるところもあると思います。しかしここで大事なのは、それに至った「経緯」です。
うまくいった事、いかなかった事、そうなったのには全て理由があります。成功、失敗といった結果にとらわれず、一度「何故こうなったのか」と自問自答してみるのです。

質問の仕方には決まりはありません。「ここは本当にこれで良いのか」や「ここは他に何かやり方はないか」などの基本的な質問から始める事も出来ますし、「他の人の演奏と比べて物足りないな。なんで物足りないんだろう」と他人と比べるやり方もあります。
他には、「演奏中はここは少し走ったな、と感じたけれど、改めて録音を聴いてみても本当に走っているか」など、演奏中の自分と実際の出来事の乖離(かいり)加減を調べても良いです。

認知心理学者のブライアン・ロスはこの行為を「自己説明」と名付けました。「何故」を考え、その概念を自分自身に説明するテクニックの一つです。
「今のフレーズはどう弾いていたのか?」「ここは上手くいったのに何故あれはミスをしたのか?」「ここで使ったテクニックは、次のこのフレーズでも使えるんじゃないか?」などなど。

自己説明を行う意味は「つながりの形成」だと、先述のブライアン・ロスは言っています。「あぁわかった、これはあれにつながるし、あれは更にあれにつながる。なるほど腑に落ちた」と自分が既に持っている知識と、何故を問うて得た新しい概念を関連づけるのです。
演奏家なら「あぁわかった、この動作がミスに繋がっているんだ。このフレーズのテクニックは次のフレーズに応用できる」というように。

自分の録画、録音というのは何をしても変わるものではありません。当たり前ですが、色々試したところで記録されている演奏が変わることはありません。
しかし、「自己説明」をして「つながりの形成」を起こした後、同じであるはずの記録はどのように見えてくるでしょうか?色々な発見があった今、最初に見た時とは違いまるで別物に見えていると思います。

これが「山は是れ山、水は是れ水」なのです。「色々なものを見て考えてみたけれど、山はやっぱり山だった。水はやっぱり水だった。でも、以前は漠然と見ていた山や水が、今では凄く意味のあるものに感じる」ということなのです。

というわけで、自分の演奏を黒歴史にするのは少しやめてみて、しっかりとありのままを見てみましょう。
私も自分の黒歴史にきちんと目を向けていきたいと思います。
でも、フェアリー・バンド時代にコンサートで自分だけ曲を間違えて、静かな曲なのにグロッケンのフォルテで入ったことは内緒です。


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今回も面白いお話が聞けましたね!

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※この記事の著作権は福原泰明氏に帰属します。


【福原泰明 プロフィール】

東京都出身。15歳より打楽器を始める。日本大学文理学部心理学科卒業。英国王立北音楽院修士課程修了。
在学中に学内奨学金を授与される。打楽器全般を大里みどり、シモン・レベッロ、エリザベス・ギリバー、ポール・パトリック、ティンパニをイアン・ライト、ラテンパーカッション及びセットドラムをデイヴ・ハッセルの各氏に師事。第11回イタリア国際打楽器コンクール(ヴァイブラフォンの部)ファイナリスト。

2011年7月、渡英と同時に、世界で最も名高いブラスバンド(金管バンド)の一つ、フェアリー・バンドに入団。同年10月より首席打楽器奏者を務める。同年12月にはブラスバンド専門ウェブサイトの4barsrest.comにて「2011年打楽器奏者ベスト5」の一人として取り上げられる。2012年には有名ブラスバンド専門雑誌「British Bandsman」にて表紙を飾り、ロング・インタビューが掲載されるのを始め、複数の音楽雑誌に取り上げらるなど、英国ブラスバンド界ではまだ数少なかった”打楽器ソリスト”として活動。その存在は、普段ブラスバンドの中ではスポットが当たりにくかった”打楽器”を”ソロ楽器”として認識させることとなる。2013年1月、「RNCM Festival of Brass」にて自身が委嘱したロドニー・ニュートン作曲の打楽器協奏曲「ザ・ゴールデン・アップルズ・オブ・ザ・サン」をフェアリー・バンドと共に世界初演し、満員の観客からスタンディング・オベーションを受け、ブラスバンド界の演奏者、指揮者、作曲家、編集者の各方面からも絶賛される。

同年10月よりレイランド・バンドに入団。打楽器ソロ曲のレパートリーを更に広げていく。同年11月、三大ブラスバンド・コンテストの一つ「Brass In Concert Championships」にてマリンバとフリューゲル・ホルンのデュオを演奏し、「本日の最高の演奏の一つ」(4barsrest.com)と評される。

2014年、世界で最も有名なブラスバンドと言われるブラック・ダイク・バンドに史上初の日本人正式メンバーとして入団。マリンバ・ソロイストとしてコンサートでソロを務める。
オランダの打楽器メーカー”マジェスティック・パーカッション”エンドーサー。

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