「時人を待たず」~僧侶兼打楽器奏者 福原泰明の音楽説法 第1回




2014年に日本人として初めて世界で最も有名なブラスバンド「ブラック・ダイク・バンド」の正式メンバーとなりパーカッション・ソロイストとして活躍。帰国後は僧侶としての修行を積み、現在は僧侶兼打楽器奏者として幅広く活躍している福原泰明さん。

そんな福原さんが、「心」をテーマに、仏教の教えを元に、演奏家(音楽家)の悩みや心のモヤモヤを晴らし、どう生きていくか、をライトに語る連載「僧侶兼打楽器奏者 福原泰明の音楽説法」。

第1回となる今回はのタイトルは「時人を待たず」。さてどんなお話が聞けるのでしょうか。

 


禅宗のお経の一つに、「中峰和尚座右の銘(ちゅうほうおしょう ざゆうのめい)」というものがあります。これは、1300年頃の中国に中峰明本(ちゅうほう みんぽん)という禅僧がおりまして、その方が教えがそのままお経となったものです。

この中にこんな一節が登場します。

生死事大 (しょうじ じだい)
光陰惜しむべし (こういん おしむべし)
無常迅速 (むじょう じんそく)
時人を待たず (とき ひとをまたず)

これは、「人は、どう生き、どう死を迎えるかが重要だ。まだまだと思っていてもすぐに時間は過ぎていく。形あるものは、いつかは無くなる。気付いた時には終わりはすぐそばにきているのだから、それぞれ自分の成すべき道に雑念なく邁進しなさい。」という教えです。

修行中、寝る前に必ずこのお経を超高速で読んでいました。なんで超高速で読んだかって?とにかく早く寝たかったからです。

この一節、私は凄く好きです。なんで好きかって?カッコイイからです。お経の最後の方に出てくるのでクライマックス感満載ですし、言葉のリズムもいいですし。

話は変わりますが、皆さんは、「やりたいこと」はありますか?
私はあります。やりたい曲もあるし、やりたい仕事もあるし、演奏だってもっと上手くなりたいし、そして人間としてもっと気が使えるようになりたい。
もっと言うとずっと寝ていたいしお金が欲しいし楽に生きたい。坊主のくせに煩悩まみれ。

「やりたい、やってみたい」と言っている心の何処かで「今じゃ無くても…」とか「まぁ、いつか出来ればいいや」とか思っていてなかなか前に進みません。

経験上、そう思っているうちはその「いつか」は訪れません。そもそも「いつか」っていつでしょうか?1年後?5年後?それとも10年後?
私も「いつか髪の毛染めたいなぁ」と思っているうちに気付いたら髪の毛が無くなってました。

結論から言ってしまうと、「やりたいことには今すぐ取り掛かるべき」だと思っております。すぐに達成する必要はありません。取り掛かるだけ、何かを始めるだけでも良いのです。

やりたい曲があったら、とりあえず楽譜を購入してみる。そしてワンフレーズだけでも演奏してみる。
勉強したい事があったら、参考書を買ってみる。まずその本の最初のページだけでも開いてみる。
この人のようになりたいという思いがあったら、その人の挙動を細かく観察してみる。
私は某高級ホテルのスタッフのように気が使えるようになりたくて、ホテル内でスタッフの一挙手一投足を観察してたことがあります。
坊主頭の人間が目をギラギラさせていたので、完全に不審者に見えていたと思います。

やりたいことというのは、大抵上達が速いです。何故かと言うと、やりたいと思っている時点で、既に何となくの到達点のヴィジョンが頭の中で浮かんでいて、それを達成した時の自分を想像しやすいからです。

ということは、その到達点に行くには自分には何が必要かを知りやすい状態でもあります。やるべきことが判明すれば、まずはその一つに取り掛かれます。

しかし、どうしてもやるべきことがわからない時もあるでしょう。その時はその世界の精通する人達にアドバイスをもらってみましょう。やるべきことを教えてくれるはずです。音楽でしたらレッスンがそれに当たりますね。

先ほど「やりたいことには今すぐ取り掛かるべき」と申しましたが、この「今すぐ」というのも非常に大事です。

というのには、情熱というものには賞味期限があります。いや、消費期限と言っても過言では無くらい長くは続きません。
いつか出来ればいいやと思っていると、色々なことが舞い込んでくる日々の中で、いつの間にかその情熱が消えていた、なんてことはザラにあります。
「いつか」というのは、いつでしょう?その時私たちはどうなっているのでしょう?自分の周りの環境は、いつ変わるかもわかりません。当たり前ですが、人間いつ病気になるかもわかりません。

私みたいに「髪の毛染めたい!」と思った時に、もう髪の毛が無かったのでは遅いのです。

臨済宗の高僧の一人、道鏡慧端(どうきょう えたん)禅師という方も「一大事と申すは、今日只今のことなり」と仰っています。
一番大事な時間というのは、過去でも未来でも無く、「今、この時」なのです。

生死事大 (しょうじ じだい)
光陰惜しむべし (こういん おしむべし)
無常迅速 (むじょう じんそく)
時人を待たず (とき ひとをまたず)

今日、この時を生き、それぞれ成すべき道に邁進していきましょう。
と言うわけで私も今からアデ○ンス行ってきます。

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いかがでしたでしょうか。

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※この記事の著作権は福原泰明氏に帰属します。


【福原泰明 プロフィール】

東京都出身。15歳より打楽器を始める。日本大学文理学部心理学科卒業。英国王立北音楽院修士課程修了。
在学中に学内奨学金を授与される。打楽器全般を大里みどり、シモン・レベッロ、エリザベス・ギリバー、ポール・パトリック、ティンパニをイアン・ライト、ラテンパーカッション及びセットドラムをデイヴ・ハッセルの各氏に師事。第11回イタリア国際打楽器コンクール(ヴァイブラフォンの部)ファイナリスト。

2011年7月、渡英と同時に、世界で最も名高いブラスバンド(金管バンド)の一つ、フェアリー・バンドに入団。同年10月より首席打楽器奏者を務める。同年12月にはブラスバンド専門ウェブサイトの4barsrest.comにて「2011年打楽器奏者ベスト5」の一人として取り上げられる。2012年には有名ブラスバンド専門雑誌「British Bandsman」にて表紙を飾り、ロング・インタビューが掲載されるのを始め、複数の音楽雑誌に取り上げらるなど、英国ブラスバンド界ではまだ数少なかった”打楽器ソリスト”として活動。その存在は、普段ブラスバンドの中ではスポットが当たりにくかった”打楽器”を”ソロ楽器”として認識させることとなる。2013年1月、「RNCM Festival of Brass」にて自身が委嘱したロドニー・ニュートン作曲の打楽器協奏曲「ザ・ゴールデン・アップルズ・オブ・ザ・サン」をフェアリー・バンドと共に世界初演し、満員の観客からスタンディング・オベーションを受け、ブラスバンド界の演奏者、指揮者、作曲家、編集者の各方面からも絶賛される。

同年10月よりレイランド・バンドに入団。打楽器ソロ曲のレパートリーを更に広げていく。同年11月、三大ブラスバンド・コンテストの一つ「Brass In Concert Championships」にてマリンバとフリューゲル・ホルンのデュオを演奏し、「本日の最高の演奏の一つ」(4barsrest.com)と評される。

2014年、世界で最も有名なブラスバンドと言われるブラック・ダイク・バンドに史上初の日本人正式メンバーとして入団。マリンバ・ソロイストとしてコンサートでソロを務める。

帰国後、臨済宗妙心寺派の平林寺専門道場にて三年間の仏道修行を積み、現在は僧侶兼打楽器奏者として活動している。

オランダの打楽器メーカー”マジェスティック・パーカッション”エンドーサー。


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