「随処に主となる」~僧侶兼打楽器奏者 福原泰明の音楽説法 第2回

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2014年に日本人として初めて世界で最も有名なブラスバンド「ブラック・ダイク・バンド」の正式メンバーとなりパーカッション・ソロイストとして活躍。帰国後は僧侶としての修行を積み、現在は僧侶兼打楽器奏者として幅広く活躍している福原泰明さん。

そんな福原さんが、「心」をテーマに、仏教の教えを元に、演奏家(音楽家)の悩みや心のモヤモヤを晴らし、どう生きていくか、をライトに語る連載「僧侶兼打楽器奏者 福原泰明の音楽説法」。

第2回となる今回はのタイトルは「随処に主となる」。さてどんなお話が聞けるのでしょうか。

 


 

「随処(ずいしょ)に主(しゅ)となれば立処(りっしょ)皆(みな)真(しん)なり」。これは臨済宗の開祖である臨済義玄(りんざいぎげん)という禅僧の言葉の一つで、「如何なる環境に置かれても、主体性を失う事なく行動すれば、今いるところに真理がある」という意味です。

この言葉の前半だけを取り出した「随処に主となる」という形でも使われており、有名な禅僧がよく色紙や掛け軸にこの言葉を書いています。

私もそういう書き物をよく見るのですが、字が崩され過ぎてていつも「何書いてあんのか全っ然わかんねぇ」という感想で結局終わってしまいます。

ところで、「主体性を失わない」というのは具体的にどういう事でしょう?言葉で言うだけだったら簡単ですよね。私も言葉だけだったら毎日「神様、どうか可愛い女の子とすれ違いますように!!」と言ってます。仏教徒のくせに神頼み。

「主体性を失わない」というのは、個人的には「自分の内側の出来事として捉えているかどうか」という事だと思います。

例えば何かの音楽を聴くとします。コンサートでもいいですし、CDなどの録音媒体でもいいです。さて、聴いた後の自分の感想はどうだったでしょうか?

まず最初に選択するのが、「この演奏は良かったか、悪かったか」だと思います。どちらだったでしょうか?直感的にでも良いです。まずは「良い悪い」を選択してみましょう。

しかし、そこだけで感想が終わってしまうと非常にもったいない。何故か?「良い悪い」はあくまでも外から見た時の意見であるため、聴いた演奏が自分の外の世界の出来事で終わってしまっている状態だからです。つまり、他人事となっているのです。

そこでもう少し掘り下げていき、「自分の行動に何か活かせないか」と自問自答してみます。

例えば、「奏者のやっていたあの奏法は自分でも使えそうだ」とか「あの曲のあの部分は物足りなかった。自分だったらもっとこうする」とか。目の前に起こっている事を、「良い悪い」という外からの目線で見るのではなく、「自分にどう関連し、どう応用できるかどうか」という自分の中からの目線、言い換えると自分主体で見てみるのです。

つまり、目の前で起こっている事に対して、自分にとっての「意味」を持たせられるかどうか、なのです。物事に意味が持たせられなければ、それは真理には成り得ません。

宝くじだって「どうせ当たらないから」と意味を持たせず買わなければ、当たりません。意味を持たせても当たらないけど。

中国で宋時代に編された仏教書に「碧眼録(へきがんろく)」というのがあり、その中で「処々全真(しょしょぜんしん)という言葉が出てきます。「至るところ全ての場所に、真理が満ち溢れている」という意味です。今自分がいる場所で五感を働かせると、色んなものが見え、聴こえ、そして感じられます。その五感で受け取ったものを自分主体の目線で見て、意味を見つけ出して初めて「真理」がわかるのです。

「父さん、妖気を感じます!」と髪を立たせて言うセリフが有名な漫画にありますね。私もよく真似しております。あのくらいアンテナを張り巡らせれば、今自分がいる場所を有意義なものにできると思います。

心理学者のスティーブン・チューは「情報に意味を込めて考えれば記憶しやすい」と提唱しています。文章などでも、ただ読み進めるだけでなく、「これはどういう意味なのか」や「自分にはどう関連するのか」など考えて読めば、記憶しやすいという事です。自分の好きな事は上達が早い、というのは前回のコラムで書きました。それに付け足すと、自分の好きな事には意味を見つけやすいので上達が速い、という事です。

なので、物事の意味を見つけるために「随処に主となる」のです。主体性を持って新しい知識をどんどん身につけていきましょう。

私も今の妻と結婚した意味を主体的に見つけようと思います。


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※この記事の著作権は福原泰明氏に帰属します。


【福原泰明 プロフィール】

東京都出身。15歳より打楽器を始める。日本大学文理学部心理学科卒業。英国王立北音楽院修士課程修了。
在学中に学内奨学金を授与される。打楽器全般を大里みどり、シモン・レベッロ、エリザベス・ギリバー、ポール・パトリック、ティンパニをイアン・ライト、ラテンパーカッション及びセットドラムをデイヴ・ハッセルの各氏に師事。第11回イタリア国際打楽器コンクール(ヴァイブラフォンの部)ファイナリスト。

2011年7月、渡英と同時に、世界で最も名高いブラスバンド(金管バンド)の一つ、フェアリー・バンドに入団。同年10月より首席打楽器奏者を務める。同年12月にはブラスバンド専門ウェブサイトの4barsrest.comにて「2011年打楽器奏者ベスト5」の一人として取り上げられる。2012年には有名ブラスバンド専門雑誌「British Bandsman」にて表紙を飾り、ロング・インタビューが掲載されるのを始め、複数の音楽雑誌に取り上げらるなど、英国ブラスバンド界ではまだ数少なかった”打楽器ソリスト”として活動。その存在は、普段ブラスバンドの中ではスポットが当たりにくかった”打楽器”を”ソロ楽器”として認識させることとなる。2013年1月、「RNCM Festival of Brass」にて自身が委嘱したロドニー・ニュートン作曲の打楽器協奏曲「ザ・ゴールデン・アップルズ・オブ・ザ・サン」をフェアリー・バンドと共に世界初演し、満員の観客からスタンディング・オベーションを受け、ブラスバンド界の演奏者、指揮者、作曲家、編集者の各方面からも絶賛される。

同年10月よりレイランド・バンドに入団。打楽器ソロ曲のレパートリーを更に広げていく。同年11月、三大ブラスバンド・コンテストの一つ「Brass In Concert Championships」にてマリンバとフリューゲル・ホルンのデュオを演奏し、「本日の最高の演奏の一つ」(4barsrest.com)と評される。

2014年、世界で最も有名なブラスバンドと言われるブラック・ダイク・バンドに史上初の日本人正式メンバーとして入団。マリンバ・ソロイストとしてコンサートでソロを務める。
オランダの打楽器メーカー”マジェスティック・パーカッション”エンドーサー。


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