「吹奏楽編曲を通して知らない楽曲やその原曲に触れるのも素敵なこと」編曲家:木原塁さんインタビュー

 

吹奏楽編成を中心に編曲家としてご活躍中の木原塁(きはら るい)さん。

Wind Band Pressでは以前にもポップス演奏のコツを中心にインタビューをさせていただいていますが、今回は木原さん自身にスポットを当ててあらためてメールインタビューをさせていただきました。

2019年8月に行われる海外公演など最近の活動についても少しお話を伺いました。木原さんの編曲家としてのこだわり、公演を行う側としてのこだわり、ぜひじっくりとお読み下さい!


-まず初めに編曲家を志したきっかけを教えて下さい。

木原:私はもともとトランペット奏者志望だったのですが、洗足学園在学中から始めていたバンド指導や、卒業後に加わったビッグバンドでの活動をきっかけにして楽譜を書くことが増えていきました。

そもそも優秀な学生でもなく演奏の仕事も多くなかったので、卒業してからどうするか悩んだのですが、その頃から編曲という作業に対して興味は強くなっていたので。

ただ、演奏に比べると良い評価をいただく事はありましたが、当時はどちらかと言うと「仕方なく」だったと思います。

-これまでに多くの作品を編曲されていますが、編曲家として人生のターニングポイントとなった作品や経験はありますか?

木原:お仕事としての編曲ですと「恋はあせらず」でしょうか。2000年に個人でホームページをたちあげて一番最初に依頼をいただいた楽曲です。福井県の中学校に提供したアレンジなのですが、その後、イースター音楽出版から発売しましたが、20年近く経った今でもバンドのテーマとして使ってくださっているとの事で、嬉しく思っています。

THE WIND WAVEの初期に編曲させていただいた「キャラバンの到着」は、おそらく色々な人に私を編曲家として認識していただくきっかけになったアレンジだと思います。当時、日本には吹奏楽やビッグバンドなどに編曲された楽譜は存在していなかったので、多くの問い合わせをいただいたことを覚えています。また、ウィンズスコア社に持ち込んで出版させていただいた「女々しくて」は、私の編曲としては、一番部数が出ているのではないでしょうか。こちらも、どの出版社にも先駆けて編曲、発売することでうまくいった楽曲です。

最近では、株式会社ノイジークローク主催のゲーム音楽イベント『東京ゲームタクト』で演奏していただいた「ロックマン2メドレー」が好評いただいたようで、2年連続で演奏していただき大変光栄に思っています。

-作品それぞれに委嘱条件やテーマなどがある場合もあるかと思いますが、作品全体を通じて伝えたいことや、ご自分ならではのこだわりなどについて教えて下さい。

木原:私はジャズのスタンダード・ナンバーのいくつかを、吹奏楽編曲を通して知りました。大好きな曲を演奏できるのも楽しいことですが、知らない楽曲に出会ったり、その原曲に触れるきっかけになるのも素敵なことだと思いますので、私も吹奏楽編曲で同じ様にきっかけ作りができればと思っています。そのために、原曲の魅力が伝えられるように編曲をできるよう心がけています。

ただし、編成や現場に合った書き方というものがあると思いますので、必ずしも完全コピーが良いとは考えません。自由にアレンジして良い場合、よく知られた曲は既に定番編曲もあることが多いので、少し捻った感じに。知る人ぞ知る楽曲なら、できるだけ原曲の雰囲気そのまま。または王道のスタイルで編曲するのが望ましいと考えています。

また、これは色々なところで言っていますが、「吹奏楽」というのは音楽のジャンルではなく楽団・バンドの編成でしかありません。クラシカルなものからポピュラー音楽まで、さまざまなスタイルの音楽を演奏できますが、編成と音楽ジャンルを混同するべきではないと思っています。

もちろん大編成管楽器群ならではのオーケストレーションというものはありますが、演奏スタイルをワルツにするのか、行進曲にするのか、ラテンにするのか、ロックにするのか・・・等、明確に伝わるように作らないと、よく言われるように中途半端なダサいアレンジになってしまいます(これは演奏や、舞台でのパフォーマンスも同様だと思います)。さらに言うと、それぞれのスタイルも年代などによって変わってきますので、常に研究を怠らず、伝わりやすいものを求めていきたいと思います。

-以前のインタビューでも少し触れさせていただきましたが、木原さんはNNSBという楽譜制作プロジェクトも行われています。まずこのNNSBについて、始めたきっかけや活動内容について、あらためてお伺いできますでしょうか。

木原:正式名称はNiconico Sounds in BRASSですね。あれは、Louis♂正露丸さんという人がやっている事になっているのですが(表向きには)。

SNSが今ほど普及する前でしょうか、その頃はバンド指導なども多く請け負っていたのですが・・・少子化の影響で生徒が少なくバンド編成も偏り「どうすれば、楽器を演奏する事が魅力的に思ってもらえるか」と悩む事が多くなりました。私の中高生時代はテレビで歌手の後ろにいる管楽器などに憧れたものですが、その頃は音楽番組になかなか管楽器は出てきません。自然に生活している中で、生の楽器の演奏に憧れるような事が普通にならないだろうか?と考えていました。

ちょうどその頃、仕事の息抜きで見ていた某動画投稿サイトで活動する著名な歌い手さんや、その周辺の方々と交流を持つ事ができ、編曲や演奏でサポートさせていただいていました。そういった動画投稿サイトには、既に管楽器やオーケストラの演奏動画などをアップロードしている人がいて、それを楽しんでいる中高生ユーザーも多くいたので、自分なりに何ができるか考えたのです。

その後、SNSが普及してきたところで『Twitter発の吹奏楽団』企画に参加してみたのですが、そこでニコニコオーケストラを管理していたKohMeiさんと出会い共演し、練っていた企画を実現させることができました。

活動は、今でも編曲と楽譜の頒布が中心です。所謂「サブカル系」と言われる、アニメ、VOCALOID、ゲーム音楽などの楽曲を選曲して、編曲・浄書した楽譜をオンラインの頒布・即売会での展示販売などおこなっています。(ただし、完全非営利で活動していますので、権利者への印税を除いては活動維持費を除いて利益は寄付というかたちをとっています)
始めた当時は、こうした楽譜の制作・頒布は多くなかったようでかなり異様な目で見られましたが、最近は同様に活動している個人や団体も増えているようです。

またインターネット上では、他人の楽曲を採譜して「ご自由にお使いください」と楽譜を配布してしまう方も多かったので、『個人規模のプロジェクトでも編曲や頒布の許諾取れます、きちんと手続きしましょう』と言う事を発信していく事も目的としています。ちなみに、よく言われるのですが演奏団体ではありませんので、出演依頼やお誘いなどをいただくと、そのたびに演奏参加メンバーを募集するかたちで活動しています。

-これまでにNNSBでは何度か海外での公演も行っていますが、今度は少林寺で演奏されるというお話を伺っております。まずこの公演について、どういう経緯で演奏することになったのかと、現時点でおおよそで決まっている内容について教えてください。

木原:昨年2月におこなった中国・鄭州公演は、台湾管楽指導者協会のキャノンさんに、鄭州管楽協会の杜華志先生を紹介していただき実現しました。キャノンさんは毎年台湾バンドクリニックを主催していますが、台湾でWASBE(世界吹奏楽大会)がおこなわれた際も取り仕切っていた方で、私は10年近く一緒にお仕事をさせていただいています。

昨年の鄭州公演が好評だったようで再び声をかけていただいたのですが、今回は1800人の大劇場と少林寺大門前広場の2公演(各90分)と聞いています。(ちなみに昨年は800人の中規模音楽ホール2公演でした)

世界遺産で外国人のパフォーマンスという事で、おそらく中国政府へ申請・許諾済だと思いますが、これは非常に珍しい機会なのではないでしょうか。

ちなみに、現在まだ若干の人手不足でして個別にお声掛けしている状態です。興味のある方はTwitter(@wdfield)の方からご連絡ください。

-最近ではアマチュアバンドなどでも海外で演奏する、海外に演奏に行く、というバンドも増えているような気がしますが、海外で演奏する、海外に演奏しに行くにあたって、注意した方がいいよ、というようなことがあれば教えてください。

木原:一番大切なのは『国際交流』という意識を持って出かける事です。それがなければ、ただの『失礼な外国人』として終わってしまいます。その為には、それぞれの国・地域ごとに違った文化や風習があるという事を学んでいくことが大事です。「日本ではOKだけど、その国では礼儀としてNG」といった事が普通にあり得ます。これは、言語でのコミュニケーション以上に大切になる事だと思います。

「その国ではどんな曲なら理解されるか」「お客様によろこんでもらえる演奏ができるか」といった事も、公演をおこなう時にはもちろん重要ですが、それ以前に絶対に必要になることです。(もちろん『安全第一』も忘れないようにしてください)

-現在ご自分以外で注目している編曲家や、特に気になった作品はありますか?

木原:最近は、私が勉強を始めた頃に比べると情報が整っているので、皆さん上手でむしろ自分の方が学ぶことが多く。どなたを見ても気が焦るばかりなのですが・・・

先日、歌伴のオーケストラ編曲の現場で一緒になった滝陽太さんなどは、バックグラウンドがまるで違う事もあり、私には絶対に作れないサウンドのスコアを書くので正直に凄いと思ってます。また、母校の後輩でまだ大学を卒業したばかりなのですが、安彦大樹くんも驚くほど感覚が鋭く、今後に期待しています。

-今後の目標について教えてください。

木原:今までお世話になってきた友人のプレイヤーたちに、きちんと“適正価格”でお仕事をお願いできるような場面をできるだけ多く作りたいと思っています。

私が仕事を始めた頃は「音楽家が金の事を考えるなんて不純!!」という風潮でしたが、そういった事がなくなれば良いなと思います。最近になってやっと少し実現できてきたのですが、そうした機会をできるだけ多く作りたいので、皆様ご支援ご協力お願いいたします。

-最後に、アマチュア奏者の方や愛好家の方、編曲家志望の方に向けて今一番伝えたいメッセージをお願いします。

木原:編曲家志望の方は、とにかく沢山の分野の音楽を生で聴くこと、あとは何より身体を大切に(自戒を込めて)でしょうか。

奏者の方は、愛好家でも職業でやる方も、もちろん楽しみとしてやることは良い事だと思うのですが・・・やはり曲作りから一人で収録などして自分だけで完結するものでない限り「そこに相手がいるということ」は忘れないでいて欲しいと思います。これは、有償でも無償でも、実際のコンサートでも動画配信でも、公開しないオフ会などでも同様です。

何を作ってもやり遂げても、誰かの力を借りて成し得る事が殆どだと思いますので、お客様や自分以外の演奏者・スタッフの方への気遣いと思いやりが大切です(これができない企画や集団は、大体どこかで綻びが出てきます)。

それが出来て初めて、参加者みんなで楽しめるものが作りあげられると思いますので、皆さん常に頭に置いて欲しいと思います。


インタビュー:梅本周平(Wind Band Press)


以上、木原塁さんへのインタビューでした。Wind Band Pressと同じくONSAが運営する楽譜出版事業のGolden Hearts Publicationsでは木原さん編曲の「タキオのソーラン節」を出版していますし、お仕事でのお付き合いのほか、オンラインでのお付き合いは結構長いのですが、まだ実際にお会いしたことはないのでいずれお会いしたいですね(いかんせん広島は遠い)。

木原塁さんの公式サイトはこちらです。
https://wdfield.wixsite.com/index

ツイッターアカウントはこちらです(@wdfield)。木原さんの色々な活動や考え方が一番わかるのがツイッターだと思うので、忘れずにフォローしておきましょう。

■木原塁氏プロフィール:

木原 塁 Louis Kihara
作・編曲家

1975年東京都生まれ。
洗足学園短期大学音楽科卒業。管楽器専攻およびジャズ専攻にて、トランペットを富田悌二、原朋直の各氏に師事。
在学中より演奏・指導などの研鑽を積み、2000年よりアレンジャーとしての活動を本格的に開始する。

今までにTHE WIND WAVE、東京佼成ウインドオーケストラ、シエナ・ウインド・オーケストラ、小江戸ウインドアンサンブルの他、全国各地の吹奏楽団、ビッグバンドなどへも作品を提供。
主に管・打楽器を主体とする編曲を中心に、リズム・アレンジや弦編曲、トラックメイキングまで幅広く手がけている。
吹奏楽の分野では、国内外で出版作品を多数発表。その殆どがポピュラー・アレンジ作品であるため、特に国内では異質な存在である。決して演奏は容易ではないが、本物のサウンドを追求する作風が評価されている。

現在は、作・編曲だけでなく指揮・指導や自身の演奏活動もおこなう他、愛好家とも積極的に交流し啓蒙するなど、その活動は多岐に渡る。
近年では、第9回臺灣國際音樂節(2016年/指揮)、香港国際バンドフェア2017(2017年/指揮・コンペティション審査員、マスタークラス)、2018中原首届青少年芸術祭/河南青少年新年音楽会(2018年/指揮)に出演するなど、活動の幅を世界へ拡げている。

Louis’ Home Page: https://wdfield.wixsite.com/index

Facebook: https://www.facebook.com/wdfield
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