「セレモニアル・マーチ」「越中幻想」「アプローズ!」など、特に吹奏楽編成の人気作品を世に出されている、作曲家の坂井貴祐(さかい たかまさ)さん。多作なタイプではないですが、1曲1曲のクオリティが高く、新曲が出るのが楽しみな作家さんでもあります。
個人的には長い知り合いではありますが、氏の作品が好きなのと、深くお話を聴いたことはなかったこともあり、あらためて、作曲家を志したきっかけや栄光と挫折、そして作曲家志望の方へ伝えたいことなど、メールインタビューをさせていただきました。
それではどうぞ!
-まず初めに、作曲家/編曲家を志したきっかけを教えて下さい。
坂井:小学4年~高校3年まで吹奏楽部に所属していて、そこでいろいろな曲に触れているうちに、「自分でもこういう曲を書けるようになりたい、そして出版されて多くの人に演奏してもらいたい」と思い始めたのが、吹奏楽関係の作編曲家を志したきっかけです。その後、吹奏楽とは別分野に進もうと思っていた時期もありましたが、ヴァンデルローストの「マーキュリー」「オリンピカ」「モンタニャールの詩」の実演を聴いたときに、「やっぱり吹奏楽が好きだ!」と実感して、再びこちらの世界へ戻ってきました。作曲自体に興味を持ったのはもっと古く、機材を駆使してロックやテクノの曲を作っていた従兄弟の影響が大きいです。
-作曲家として人生のターニングポイントとなった作品があれば、その作品についてのエピソードを教えて下さい。
坂井:やはり、デビュー作となった「セレモニアル・マーチ」でしょうね。今から約20年前の作品ですが、日本吹奏楽指導者協会(JBA)が主催する作品公募(※)で「下谷賞」(最高賞)をいただくことができましたし、“響宴”で採用されたり中部日本吹奏楽コンクールの課題曲に選定されたり初めて出版されたりといくつもの幸運が続き、今につながるいろいろな機会を得ることができました。この曲が無ければ、今ここに私がいられたかどうか、わかりません。
[(※)現在は公募は廃止され、「21世紀の吹奏楽”響宴”」に取り上げられた作品から下谷賞が決まる方式に変更されている]
-作品それぞれにテーマなどがある場合もあるかと思いますが、これまでの作品全体を通じて伝えたいことや、ご自身ならではのこだわりなどについて教えて下さい。
坂井:いわゆる「教育的作品」を求められた場合は、「きらきらした未来に羽ばたいていく感じ」とか「初飛行に成功した飛行機の話」とか、なにかしら「空」に関係するイメージの曲を書くことが多いのですが、それはなぜかというと、「大きな空に飛び立つ」イメージをすることでサウンド的にも良い効果が出るのではないか、と考えていることと、「さらに上へ羽ばたいて欲しい」「この曲をきっかけとして、ますます前進して欲しい」という期待を込めているからなんですね。練習に取り組む際は、難易度が高くない分、「音色」を追求して欲しい、という思いもあります。
-これまでの活動の中で、様々なことがあったかと思いますが、作編曲家として「これは最高の瞬間だった」というエピソードを教えて下さい。
坂井:2015年に開催された「紀の国わかやま国体」総合開会式の入場行進曲を全曲担当したのですが、それを450人の音楽隊が演奏し、何千人ものお客さんがそれに合わせて手拍子をし、そして選手の皆さんが競技場内に続々と入場してくる、という光景を目の当たりにした瞬間は最高でした。もちろん主役は選手の皆さんですが、会場は相当な盛り上がりで、その雰囲気作りに一役買えたんだ、と思うとかなりの充実感がありました。
-逆に作家として「もっとも落ち込んだ瞬間」もしくは「もっとも悩んだ時期」と、そこからどのように立ち直ったか、またはそれとどのように向き合ったか、について教えて下さい。
坂井:デビューしてからさほど経っていない時、「ジャンヌ・ダルク」全曲版(約18分)を陸上自衛隊中央音楽隊の方々に収録していただける機会に恵まれました。無事にレコーディングが終了し、このCDの発売を喜んでいたときに、ふと、レーベルサイトのレビュー欄をチェックしてみたら、一般の方から「演奏は素晴らしいが、唯一の難点は『ジャンヌ・ダルク』の曲想がチープすぎて、恥ずかくて聴いていられないことだ」と書かれていて、ものすごく落ち込みましたね。何日も立ち直れないほどでしたが、いろいろと他のレビューを読んでみたら、第一線で活躍されている作曲家の作品ですらいろいろと酷評されている場合があることに気づいて、「そうか、人それぞれ価値観や好みが違うよな」と思えるようになりました。私は当時マーラーやチャイコフスキー、ストラヴィンスキーが好きでしたが、彼らの作品について考えてみても、「これはちょっと苦手だな・・・」という曲がいくつもあったわけで、「そうか、それと同じことか」と。そう考えると気が楽になりました。
-作編曲にあたって心がけていること、気をつけていること、重点を置いていることなどを教えて下さい。
坂井:まずは、ステージで演奏されている風景をイメージすること。譜面を書きながら、「この部分を吹いている人はどういう表情をしているかな」と想像するのがクセのようになっているのですが、こうすることで、少し客観的に自分の曲が見れる気がしています。そして「ワクワク感」。聴いている人も演奏する人もワクワクするような曲が作りたい、といつも試行錯誤しています。特定のテーマに沿って作る場合、「この要素も入れたい、これも表現したい、この部分も盛り込みたい」と詰め込みすぎて上手くいかない経験をしてきたので、そうならないように「削れる部分は思い切って削る」バランス感覚を身につける努力もしています。思い入れが強いテーマほど「詰め込みすぎ」になりがちなんですよね。
-現在ご自分以外で注目している作曲家や特に気になった作品はありますか?(国内外問わず)
坂井:阿部勇一さんの作品に刺激を受けることが多いので、阿部さんの新作が出るたびに、できるだけチェックするようにしています。そして井澗昌樹さん。「そうきたか!」というアイデアが豊富で、「面白いなぁ」と思うと同時に、いろいろと勉強になります。若手だと下田和輝さん。音選びのセンスがいいなぁと感じていて、今後どんな作品を送り出してくれるのか、注目しています。
-これまでに吹奏楽では小編成から大編成まで、またその他にも室内楽の作品、ブラスバンド、様々な編成の作品を発表されています。作曲家として、今最も興味がある編成や、今まさに取り組んでいらっしゃる編成の作品があれば、その編成の興味深い点やその作品を通じて目指している表現などについて教えて下さい。
坂井:フレックス編成にはまだ賛否両論あるようですが、個人的には可能性を感じていて、興味があります。また、先日「指定された8楽器+オプショナルパート多数」という、最少8人から演奏できる編成の制作に携わりましたが、「音色をある程度管理できる」という点で「フレックス」と「小編成吹奏楽」の中間にあるような印象で面白かったので、今後研究していきたいところです。
-今後の目標について教えてください。
坂井:より質の高い作品を目指す、ということでしょうか。また、近年「易しい小編成作品」というオーダーでの作編曲の機会が多かったので、その反動で「超大編成での(技術的な制約を気にしない)ド派手な曲」を作りたい、という衝動に駆られています(笑)
-坂井さんの作品を今後演奏される演奏者の方に今一番伝えたいメッセージをお願いします。
坂井:コンクール用の作品以外にも、オープニングピースやアンコールピース、編曲作品などいろいろとありますので、さまざまな場面でお役に立てたら幸いです。美しい音色、かつ勢いのある(活き活きとした)演奏を期待しています!
-最後に、作編曲家志望の方に向けて今一番伝えたいメッセージをお願いします。
坂井:「メンタルを強く!」。これ、作編曲をしていくうえで、意外と大切なことなんです。「落ち込んだ瞬間」の話でも触れましたが、ネットが発達したこの時代、作品を発表すると何かしらのリアクションが(直接的ではないにせよ)返ってきます。当然ネガティブな情報にも多く接することになります。そのひとつひとつに惑わされないこと。参考になる意見もたくさんあるのでそれは素直に受け止めつつ、「これはちょっと考え方が違うな」と思うものに関しては自分のポリシーを貫くこと。ネガティブでキョーレツなひとつの意見の後ろに、ポジティブな99の意見が隠れているかもしれませんし、その逆もありえます。周りの評価で自分が潰れないようにすること、逆に調子に乗らないようにすること。常に自分の作品を客観的に見つめ、そして常にひとつ上のレベルに向けて努力し続けること、これが大切なのだと思います。
インタビュー:梅本周平(Wind Band Press)
以上、坂井貴祐さんへのインタビューでした。僕が初めてお会いしたのは、クラリネットクワイアーのステージマネージャーアシスタントの仕事をしたときで、まだこの業界に入っていなかったかもしれません。入ってたのかな。十数年前ですね・・・。そのときに「いつか作品集を作りましょう」なんて話をしたのですが、実現に至っていない(と思う)のでぜひ出版社の垣根を超えてどこかしら作品集を作って頂ければと思います。
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坂井貴祐さんの公式サイトはこちらです。
http://www.sakai-takamasa.net/
ツイッターアカウントはこちらです(@sakai_takamasa)。忘れずにフォローしておきましょう。
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■坂井貴祐氏プロフィール:
1977年6月10日、北海道生まれ。
北海道中標津高等学校を卒業後、尚美学園短期大学(現・尚美学園大学)音楽学科作曲専攻を経て東京ミュージック&メディアアーツ尚美 音楽芸術表現コース(現・尚美ミュージックカレッジ 音楽総合アカデミー学科3・4年次)を卒業。 卒業後は大村哲弥氏のもとで約2年間研鑽を積む。これまでに作曲を松下功、大村哲弥、延原祐の各氏に師事。
2000年、「セレモニアル・マーチ」がJBA (日本吹奏楽指導者協会)「下谷賞」(最高賞)を受賞。 同作品は2005・2006年度の中部日本吹奏楽コンクール課題曲にも選定された。2015年開催の第70回国民体育大会「紀の国わかやま国体」では式典音楽(入場行進曲)を全曲担当。作編曲作品の多くは、ブレーン、フォスターミュージック、CAFUA、ウィンズスコア、ウインドアート出版、デハスケ、ロケットミュージック等から、出版 またはレンタルされている。21世紀の吹奏楽“響宴”実行委員。
主な作品に、
「セレモニアル・マーチ」(JBA下谷賞受賞)、「イグアス-大いなる水の躍動」(名古屋市民吹奏楽団委嘱)、「越中幻想」(富山県福野高校吹奏楽部委嘱)、「ルミナンス-光の都市」(陸上自衛隊東部方面音楽隊委嘱)、「ジャンヌ・ダルク」「アプローズ!」(共に航空自衛隊中部航空音楽隊委嘱)、「ペンタグラム」(ヴィーヴ!サクソフォーンクヮルテット委嘱)、「3つの情景」(北アルプス吹奏楽団委嘱)など。
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