「様々な音楽を聴き比べてほしい」~インタビュー:アレンジャー 木原塁さん(作・編曲/指揮・指導/トランペット)




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(c) G.K.WORKS photo by keyma

国内外の出版社より多数の吹奏楽のためのポップス・アレンジを発表している編曲家の木原塁さん。

楽譜制作プロジェクトNNSB(Niconico Sounds in BRASS)の公演では指揮も行う木原さんに、ポップス演奏のコツを中心にメールインタビューをさせていただきました。


―今回は「アマチュア吹奏楽におけるポップス演奏のコツ」などについて色々とお話をお伺いできればと思います。まず最近の活動を振り返って色々とお伺いしたいのですが、10月には「#NNSBかわさき」がありました。NNSBの演奏は、台湾公演の様子を見させていただいたのですが、一般的なアマチュアバンドのポップスステージとは一線を画す本格的なポップスサウンドが印象的でした。NNSBでは木原さんは指揮もされていますが、練習やリハーサルではどのような点に特に注意しているのでしょうか。

ありがとうございます。

まず、NNSBについてになりますが、NNSBは楽団ではなく楽譜制作プロジェクトのため、毎回SNSなどで演奏メンバーが募集されバンドが結成されています。

アマチュアの音楽家が中心ですが、音大生や職業演奏家も混ざって構成されています。ただし、重要なパートとリズム・セクションは、予め信頼できるプレイヤーにリードをお願いしているかたちです。

演奏では所謂「ポップス」を中心に採り上げているので、きちんとポピュラー音楽の語法を理解して演奏できるリード・プレイヤーと、チームとしてまとまったリズム・セクションが必要になるのです。

さて、練習の時には、まず「リード・プレイヤーにつける演奏」を心がけてもらう事を意識してもらっています。吹奏楽では、時に個人個人で指揮者に合わせがちですが、それではバラバラになってしまいます。

この時、安定したリズム・セクションとリード・プレイヤーがいることは極めて重要です。演奏メンバーには、ニュアンスまで徹底的に合わせるセクションとしての演奏を求めますが、職業演奏家にリードされて演奏するというのは、やはり良い影響はあると思います。

スクールバンドなどと違う点としては、リハーサル回数が少ないので、譜読みや正確に演奏するための準備は個人でクリアしてもらうようにして、リハーサルでは細部の確認をしながら楽曲全体の流れと表情を作っていくようにしています。

―ポップスの演奏がなかなかうまく行かず悩んでいるアマチュアバンドの先生・指導者の方、また奏者の方にむけて、それぞれ指導や練習のコツをうかがいたいと思います。

色々なポイントがあると思いますが、「まずこれは押さえておかないといけない」というような最初のポイントはどのようなものでしょうか。

まず先生・指導者の方にむけてですが、クラシックでも作曲された時代や地域・言語によって変わるのと同様に、ポップスでも演奏スタイルによって、音符をどのように演奏するか、フレーズをどのように歌うか、などが違ってきます。

特に、アーティキュレーションなどの指定がない音符は判断に悩む事もあるかと思いますが、これを出鱈目にやると、途端に嘘っぽい演奏になってしまいますので、指導者から適切な指示が必要です。

ヒントとなるのが、楽譜に文字で指定してある「Rock,Swing,Latin」などの指定になりますが、楽譜によってはテンポしか記載されてないこともありますので、事前に指示をしないと学生さんには読み切れないこともあるでしょう。

年代毎に違うSwingの感じや、ただLatinとあってもどんなスタイルなのか等、生徒さんにも色々な音楽を聴くようにとは言いますが、指導者の方にも知っていて欲しいと思います。

また、原曲を知ることも大切ですが、その楽曲スタイルのルーツとなるリズムを知ることも大切だと思います。
例えば「アース・ウィンド&ファイア風の編曲」があったら、元ネタを知らずにはできません。コンクールの曲を色々な指揮者や団体の演奏を聴き比べて研究するように、ポップスでも様々な音楽を聴き比べてください。

次に演奏者にむけてですが、私が合奏指導をする際に、常に言っていることがいくつかありますが、第一に、感情で盛り上げず、頭の中はクールであること。

楽しい事は大事ですが、まずお客さんに盛り上がってもらえるように。

小さい音も大切に、休符も大切にして、綺麗な音でクラシックを演奏するのと同じようにしっかりアンサンブルしないと聴いている人も疲れますし、いざというときのffも効果なしです。(※ただし、小さく=柔らかくではないので注意)

演奏するときには、音の始めだけでなく、予備拍からテンポに乗ってブレスをとるつもりで、そして終わりまで一緒に歌って。減衰させず音の終わりをはっきり切る。

常にまっすぐ、基本的にビブラートをかけたり音をしゃくったりしない。

音を減衰させずに切るのは重要です。余韻は会場が作ってくれますし、むしろ、しっかりはっきり揃えて切らないと会場で聴こえる余韻がバラバラになりますので、スパっと切るのが大切です。

また、音をしゃくったりビブラートをかけたりは特殊効果なので、ソロ以外では指定のない場合やるものではないし、ソロでも頻繁にやるとカッコ悪いので注意です。

「吹奏楽のポップス」ばかりを聴いていると、極端にデフォルメされたり、誤解の連続で間違って伝えられて「本当ならそのように演奏しないはずのやり方」をしていることをよく見聴きします。

是非、吹奏楽以外の色々なものも見たり聴いたりして、自分たちの音楽へ活かせるようにしていってください。

―また先日の「小江戸ウインドアンサンブル」(プロフェッショナルの小編成吹奏楽団)の公演でも木原さんの編曲作品が演奏され、リハーサルにも立ち会われたと伺っていますが、プロ奏者に対しては何か要求などはされたのでしょうか。

小江戸ウインドアンサンブルは、代表の金山徹さんをはじめとしてポピュラー音楽の語法を当然のように身につけていらっしゃる方も多いので、私が編曲に際して「変わったこと」をしたところについて確認をした程度でした。

リハーサルの進行に関しましても、金山さんもご自身が作曲・編曲をなされることもあって、私はほとんどお任せしていたかたちです。

―指導や演奏のコツ・ポイントを伺ってきましたが、「#NNSBかわさき」でも話題になった「演出」について、アマチュアバンドにアドバイスを頂けますでしょうか。

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(c) G.K.WORKS photo by keyma

特に変わった演出をしたとは思っていないんですが……

ただ、SNSを賑わせたのは完全に戦略で、公演が決定した時点で公演名がハッシュタグになるように設定しました。

告知のたびにハッシュタグが流れますので、参加者もお客様も煽っていきやすく、おかげでトレンド入りさせていただきました。

これが、所謂「参加型コンサート」となって会場を盛り上げてくれたのは事実かと思います。

それ以外では、強いて言えば演出の特徴として「吹奏楽のコンサートをしようとしなかった」というところでしょうか。

公演冒頭『戦車道ファンファーレ』の演出はマーチング・バンドからの発想ですし、照明演出、録音された音声やPAでの演出はロック・コンサートからの発想でした。

『エアリスのテーマ』などは、オーケストラによるコンサートのつもりで演奏していました。

ただ、そもそも公演自体のコンセプトや選曲の方向性と相まってあのような演出もできましたが、これが映画音楽だったりジャズ・スタンダードを演奏するという事になりますと、また違った事になったと思います。

大切な事としては、既にあるどこかの演出を参考にしたとしても「完全な真似、コピーではない」いというところは重要です。

もし、近隣のバンド・吹奏楽団の演出を見て「同じことがやりたい!」と思うのでしたら、発想をもう一歩先に向けて「じゃあ、私たちだったらどんなことができるか?」という考え方をすると良いと思います。

―「もっとポップスをカッコよく演奏したい」と考えているアマチュアバンドや奏者にオススメのCDやDVDなどがあれば教えてください。

【CD】
・マンハッタン・ジャズ・オーケストラ・プレイズ・ディズニー
グラミー賞作家デヴィッド・マシューズ率いるビッグバンドで演奏されるディズニーの名曲。オーケストラやヴォーカルとはまた違ったスタイルでの、N.Y.のトッププレイヤーたちのパフォーマンスは必聴。

・ジョン・ピザレリ/ミーツ・ザ・ビートルズ
ドン・セベスキーのビッグバンド編曲で、ビートルズナンバーを素敵にジャズ・アレンジ。ピザレリはギタリスト&ヴォーカリストなので、あまり触れる機会はないかも知れませんが、聴いて損はないアルバムです。

・ペンタトニックス/Pentatonix Christmas
どのように歌うか、そしてハーモニーとリズムを感じ取りやすいという点では、現代ならこちら。もちろんアレンジなども素敵。マンハッタン・トランスファーとコラボした「ホワイトクリスマス」は絶品。

【DVD】
・Stevie Wonder/Live at Last
2008年のライブを収録。吹奏楽でも演奏される機会の多いStevieの楽曲だけでなく、カバーも多数。パフォーマンスも最高。

・夷撫悶汰(桑田佳祐)/夷撫悶汰(いぶもんた)レイト・ショー
桑田佳祐がジャズシンガー“夷撫悶汰”に扮してスタンダード・ナンバーを歌うライブ・ショー。ビッグバンドをバックに、ミュージカル的な演出を交えた完成されたエンターテイメント。

・米米CLUB/a K2C ENTERTAINMENT THE LAST SYMPOSIUM
米米CLUB再結成以前のラストライブ。バンドとしてのライブを超えた完成されたショーとしてのひとつのかたち。

―最後になりますが、最近は国内のポップス・アレンジも同じ楽曲が別アレンジという形でいくつかの出版社から出版されたりしていて、出版も演奏もスピード競争のような感じもありますが、その辺り、アマチュアバンドはどう対応したらよいか、一言お願いします。

お手軽に通せて「すぐ本番で演奏できる」方が良いという風潮もある昨今ですが、そればかりというのも考えものです。

もちろん容易に演奏できる編曲は良いと思いますし、流行曲に取り組むにはある程度のスピード感は必要ですが、特にスクールバンドでは、じっくり取り組まなければ見えてこないものもあるのではないでしょうか。

例えば、全国大会常連の有名バンドなどでも、年間通して使う曲は「常に練習しておいて、いつでも出せる状態を作っておく」ので、新曲を大会の合間などに“さらっと譜読みして演奏するわけではない“と聞いています。

時間をかければ良いわけではありませんが、わざわざ聴きにきていただく方がいるわけですから、ある程度時間がかかったとしても「きちんと準備する」という心構えを指導していきたいものですし、生徒さんもそのように学んで欲しいですね。

インタビュー・文:梅本周平(Wind Band Press)


まとめ:

メールインタビューでしたが、日頃からポップスと共に生きている方ならではのとても役に立つインタビューになったかと思います。

皆様いかがでしたでしょうか。

バンド活動のご参考にしていただければ幸いです。


木原塁氏 プロフィールkihara-02

(c) G.K.WORKS photo by keyma

木原 塁 Louis Kihara
作・編曲/指揮・指導/トランペット

1975年東京都生まれ。

洗足学園短期大学音楽科卒業。管楽器専攻およびジャズ専攻にて、トランペットを富田悌二、原朋直の各氏に師事。在学中より演奏・指導などの研鑽を積み、2000年よりアレンジャーとしての活動を本格的に開始。

主に吹奏楽・ビッグバンドなどの分野で、管・打楽器を主体とするポピュラーアレンジを中心に制作活動をおこなうほか、バンドアレンジや弦編曲、トラック制作まで幅広く手がけている。

今までにTHE WIND WAVEを初めとして、東京佼成ウインドオーケストラ、シエナ・ウインド・オーケストラ、小江戸ウインドアンサンブルなどに作品を提供。
国内外で出版作品を多数発表しているが、そのほとんどがポピュラーアレンジ作品であるため、吹奏楽編曲家としては異質な存在である。

現在は作・編曲だけでなく、指揮・指導や自身の演奏活動もおこない、また一方では、愛好家とも積極的に交流し啓蒙するなど、その活動は多岐に渡っている。

2015年からは、洗足学園音楽大学ジャズコース公認インストラクターとして後進の指導にあたる。

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Niconico Sounds in BRASS

◆主要編曲作品
『スペイン』(イースター音楽出版/2000)
『キャラバンの到着』(イースター音楽出版/2001)
『西部警察パート2 ワンダフル・ガイズ』(ウィンズスコア/2009)
『K-POPメドレー』(ヤマハミュージックメディア/2011)
『女々しくて』(ウィンズスコア/2012)
『鳳飛飛組曲』(キャノンアート/2012)※台湾のみでの出版・発売
『ダンスリミックス・ボーイズ編<メドレー>』(ヤマハミュージックメディア/2014)
『「名探偵コナン」より メインテーマ』(ロケットミュージック/2014)
『レット・イット・ゴー~ありのままで』(ロケットミュージック/2014)
『ボカロ・ダンス・リミックス<メドレー>』(ロケットミュージック/2014)
『五月天組曲2』(キャノンアート/2015)※台湾のみでの出版・発売
『Snow halation』(イースター音楽出版/2015)
『ストライク・アップ・ザ・バンド』(小江戸ウインドアンサンブル委嘱/2015)
『エアリスのテーマ』(Niconico Sounds in BRASS国内公演「#NNSBかわさき」/2016)

●録音参加CD
『ブラバンエイベックス』(avex/2008)
『ウルトラマン・オン・ブラス』(日本クラウン/2008)
『東京讀賣巨人軍選手別応援歌集2009』(ユニバーサル/2009)
『ウルトラマン・オン・ブラス2』(日本クラウン/2009)
『THE刑事=永遠の刑事ドラマ・テーマ集=』(avex/2009)
『THE WIND WAVE Ⅰ』(蓮エンターテイメント/2009)
『ニュー・サウンズ・イン・ブラス2011』(ユニバーサル/2011)
『This is BRASS~Beat it!~』(ユニバーサル/2011)
『This is BRASS~QUEEN~』(ユニバーサル/2013)
『究極の吹奏楽~夢の国編』(ロケットミュージック/2013)
『ニュー・サウンズ・イン・ブラス2014』(ユニバーサル/2014)
『ブラバンももいろクローバーZ!~BRASS AND ROMANCE~』(キングレコード/2014)




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  1. […] 先日のインタビュー記事が好評の木原塁さんアレンジによるJaco Patorius/Alfred Ellisの「Soul Intro/The Chiken」です。 […]

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