管弦楽や吹奏楽の指揮者として活動されている岡田友弘氏に、学生指揮者の皆様へ向けて色々なことを教えてもらおうというコラム。
主に高等学校および大学の吹奏楽部の学生指揮者で、指揮および指導については初心者、という方を念頭においていただいています。(岡田さん自身も学生指揮者でした。)
コラムを通じて色々なことを学べるはずです!
第26回は「とことん深掘り!『属7の和音』」。
前半は「属7の和音」についてより深く学ぶ回です。
後半のエッセイ的な部分は「初期段階での合奏の組み立て方」の最終回。
さっそく読んでみましょう!
合奏するためのスコアの読み方(その20)合奏と楽曲分析のための和声の超基礎(8)
『とことん深掘り!「属7の和音」』
前回のセブンスの転回形については理解することができましたか?
同じ和音でも「配置換え」をすることで雰囲気が変わり色々な使用法が生まれることを頭に入れておいて欲しいと思います。
今回はセブンスの中での中核をなす重要な「属7の和音」について深く探っていきたいとおもいます。」
属7(ドミナント・セブンス)は長3和音の第5音上に短3度上の 音を加えたものです。
長3和音+短3度の4和音(セブンス)のことを言います。
属7の和音は長調では「第5音上」に短調では和声短音階上の「第5音上」にのみ登場します。
登場する場所が限定的なことが、属7の和音をとても大事なものにしているのです!
それ以外の各音上にできるセブンスのことを「副7の和音」と呼びます。
3和音では「主音」(I音)」「下属音(IV音)」「属音(V音)」上にできる3和音を「主要3和音」、それ以外3和音を「副3和音」と呼びましたが、セブンスの場合は属7の和音を「主要7の和音」と日常的に呼ぶことはありません。
とにかく!属7の和音は「別格」なのです。
僕は日本史が好きで、神社仏閣や城跡を巡るのを旅行の楽しみにしています。
京都と鎌倉にはそれぞれ禅宗寺院に「五山」があり、「京都五山」「鎌倉五山」と呼ばれています。
鎌倉五山は「建長寺」「円覚寺」「寿福寺」「浄智寺」「浄明寺」、京都五山は「天龍寺」「相国寺」「建仁寺」「東福寺」「寿福寺」です。
それぞれの五山には共通の「別格本山」があります。
それは京都の「南禅寺」なのですが、僕の個人的なイメージとしては属7の和音はその「南禅寺」のような格に当たると思っています。
代表的な7の和音(セブンス)もちょうど6種類ありますので、五山とセットで覚えるのも面白いかもしれません。
■南禅寺(別格)・・・属7の和音(ドミナント・セブンス)
■建長寺or天龍寺・・・長7の和音(メジャー・セブンス)
■円覚寺or相国寺・・・長3短7の和音(マイナー・メジャー・セブンス)
■寿福寺or建仁寺・・・短7の和音(マイナー・セブンス)
■浄智寺or東福寺・・・減5短7の和音(マイナー・セブンス・フラッティド・フィフス)
■浄明寺or寿福寺・・・減7の和音(ディミニッシュ・セブンス)
各セブンスの和音をピアノなどで鳴らして、各五山の名前と結びつけるともしかしたら暗記の手助けになるかもしれません。逆に修学旅行や卒業旅行などで京都や鎌倉を訪れ、各寺院の門前に立った時にそれぞれのセブンスコードが頭の中に響くかもしれませんね。
話題を属7の和音に戻しましょう。
属7の和音は主和音(トニカ)解決をしたがります。つまり属7の和音は主和音トニカとセットで現れることが多いのです。
属7の和音を見つけることで、それに続く主和音を見つけることができ、調性を判定することができます。
ここで二つのことを考えていきたいと思います。以下の二つの疑問を解決することで属7の和音のことがよくわかると思います。・
疑問1・なぜ属7の和音は解決をいつも求めるのか?
まずは属7の和音がどのような和音かを見てみましょう。
ポイントは赤色で塗りつぶしてある第3音と第7音です。
その音の音程関係はどうなっているかというと・・・減5度(完全5度より半音1個狭い音程)になっています。
この音程間隔は「3全音」と言われ「悪魔の音程」と呼ばれていましたね。
オクターブ内でちょうど真ん中、6時の位置にあるこの音程は、響きとしてはとても不安定で、常に解決を求めようとします。
したがって、この3全音が含まれる属7の和音は「常に解決を求める」和音になるのです。
疑問2・何故属7の和音を見つけることで主和音を判定できるのか?
先程の属7の和音の図で示した第3音と第7音はまるで磁石のS極とN極のように必ず吸い寄せられていく音が決まっています。その音の進行のことを「限定進行音」と言います。
ある音は必ずある音に吸い寄せられ、進行する・・・それが限定進行音なのです。
■第3音は進行する先の和音の「根音」へ進む。(各調の音階では「シ→ド」に進行)
■第7音は進行する先の和音の「第3音」へ進む。(各調の音階では「ファ→ミ」に進行)
「ドから見たシ」は「導音」呼ばれ、主音である「ド」に常に進みたがる性質を持っています。それ同様に「ミへ進行するファ」の音も導音と同じ性質を持っています。
そのため、これらの音が限定進行音として決まった音に進むのです。
ここではレの音がどこに進行しなくてはいけないか?ということは深く考えなくても大丈夫です。属7の和音は5音省略形で登場することも多く、またその省略は根音と7音を省略することはないので・・・
7音は必ず次の3和音の3音となり、根音は必ず次の和音の5音として残ります。
そのような仕組みで属7の和音からその調の主和音がわかるというわけです。
全ての調の音階の第7音は上へ(シはドへ)、第4音は下へ(ファはミへ)進もうとする性質があると覚えておきましょう。
これで別格本山「属7の和音」の特別さをわかっていただけたでしょうか?
これからはスコアを読むときはこの「属7の和音」に注目してみてください!
実際に曲ではこのように登場します。
チャイコフスキー作曲、バレエ音楽「眠りの森の美女」より「ワルツ」ピアノリダクション版(カルマス社刊)より引用)
ロシアの作曲家チャイコフスキーの3大バレエのひとつである「眠りの森の美女」の中でも特に有名な「ワルツ」の一部分です。
中間部からテーマが戻ってくる部分に「属7→トニカ」があります。たくさんの演奏がありますので、ぜひ聴いてみて下さい。
☆今回のまとめ
■音階の第V音にできるセブンス「属7」の和音は、セブンスの「別格本山」
■属7の和音には行き先の決まっている限定進行音がある。それは各音階の第7音と第4音で、第7音は上に第4音は下に進行する性質を持つ。
次回はもう一つの特徴的なセブンスである「減7の和音」の話題を中心にお話ししたいと思います。
次回もお楽しみに!
【ミニコーナー】合奏の時に気にして欲しいこと(第8回)
本番までの合奏の組み立て方~初期段階篇(その3)
前回に引き続き初期段階の合奏でしていきたいこと、留意したいことをお話ししていきたいと思います。
4・合奏においても「少なきことは豊かなこと」を意識する
これは「一度に多くのことをしない」という意味もあるのですが、今回の場合はもっと具体的なことです。
合奏の音楽(オーケストラや吹奏楽など)は多くの種類の「リズム」や「音」、幅広い音域の楽器たちによってできています。それが複雑に絡み合いながら音楽が作られているのですが、それを「可能な限りシンプルに攻めていく」ことを心がけていきましょう。
「シンプルに攻める」とは、どのようなこと?と言えば・・・
■リズム
■ユニゾンとオクターブ
が最も取り組みやすいことだと思います。
スコアの中で同じリズムを担当している楽器のリズムや音型を揃える練習は、多人数の合奏をスッキリさせていくことにとても大事な要素です。
一見違うリズムでも「リズムの骨組み」が同じパートがあります。そのような「リズムの骨組み」が同じパートのリズムや音型を揃えることを初期の合奏では重点的にしていきたいものです。
そして、音(ピッチ)の違いを聞きやすい「ユニゾン」と「オクターブ」の響きを揃えていくということは非常に大切です。
ユニゾンやオクターブが合ってくると豊かな倍音を得ることができ、響きが一層豊かに魅力的になっていきます。合奏の際には「ユニゾン」の響きを合わせることを初期の合奏では特に気にしていきましょう。
ユニゾンやオクターブを合わせる時には、そのピッチ(音の濁りやうねり)だけでなく、楽器間や奏者間の「音量のバランス」や「(息や弓、バチの)スピード」を揃えることにも注意してみて下さい。
「同じ骨組みのリズムを揃える」こと「ユニゾン(オクターブ)を合わせる」ために、指揮者はその部分がどこで、どの楽器とどの楽器が「仲間」なのかを事前に見つけておく必要があります。
それぞれのユニゾンが組み合わさるとそこに「ハーモニー」が生まれます。全ては「ユニゾンの響きから始まる」のです。
是非とも上記の2点に着目して、スコアを読んでみてください。
5・スコアの「下のパート」から音楽を作る
どのようなスタイルの音楽も(もちろん例外はありますが)大体は4声に分けられます。それは通常の人が聞き分けられるボイスが4つくらいまでであることが理由の一つです。
それぞれのボイスは違う音で同じ動きの場合もあります(例えばコラールなど)が、通常の曲においてはこのような分類ができます。
1・主旋律
2・副旋律(対旋律や、飾りの音型など)
3・ハーモニーを担当するパートなど
4・リズムやベースラインを担当するパートなど
合奏の組み立て方としては、それらのパーツを分類して個別に合わせていくことはとても有効なのですが、それに加えて是非とも「音楽を作るときは下のパートから」作るようにすると良いと思います。
つまり上記の分類に当てはめると・・・
4→3→2→1の順番で曲を「組み上げていく」イメージになります。曲の性質によっては1と2の順番が逆になっても構いません。大切なのは「打楽器と低音楽器群から音楽作りを組み立てる」ということです。
指揮者によっては「とにかくまずはメロディ!」という人もいるのですが、僕はリズム楽器や伴奏系の楽器から音楽を作ることを大切にしています。僕は一見地味で陽の当たらない楽器グループを輝かせることで、メロディ楽器や作品を輝かせるという考えを持っています。
その理由としていくつかあげてみます。
■楽曲の基礎的なリズムを担当している。
■和声の根音を担当することが多い
■低い音の楽器は倍音を多く含むので豊かなサウンド作りには欠かせない
などという理由が挙げられます。音楽をバス音から積み重ねていくというのは非常に大切で有効なことだと思います。
ビートルズなどのレコーディングでは、まず初めにリズムセクションとベースラインをレコーディングし、その次にリズムギター(主に和声リズムを担当)を、そして最後にリードギターとヴォーカルを録るという方法でレコーディングをしていました。現在は録音のトラックも増えてもっと多彩な録音方法がとられていると思いますが、この方法を合奏でも応用したのがこのアプローチです。
音楽は(時には音楽という枠組みを超えて)色々なジャンルと密接に影響し合っています。
「クラシックだから・・・」とか「ポップスだから・・・」と枠組みを決めることなく、もっと高い視点、広い視野で音楽を眺めて欲しいと思います。
時には音楽というジャンルを超えたところにヒントが隠されていることもたくさんあります。
皆さんもぜひこの方法を試してみて下さい!
次回のミニコーナーからは中期の合奏についての色々な話題をお話ししていきたいと思います。
文:岡田友弘
※この記事の著作権は岡田友弘氏に帰属します。
以上、岡田友弘さんから学生指揮者の皆様へ向けたコラムでした。
それでは次回をお楽しみに!
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岡田友弘氏プロフィール
写真:井村重人
1974年秋田県出身。秋田県立本荘高等学校卒業後、中央大学文学部文学科ドイツ文学専攻卒業。その後、桐朋学園大学音楽学部において指揮法を学び、渡欧。キジアーナ音楽院大学院(イタリア)を研鑽の拠点とし、ウィーン国立音楽大学、タングルウッド音楽センター(アメリカ)などのヨーロッパ、アメリカ各地の音楽教育機関や音楽祭、講習会にて研鑚を積む。ブザンソン国際指揮者コンクール本選出場。指揮法を尾高忠明、高階正光、久志本涼、ジャンルイージ・ジェルメッティの各氏に師事。またクルト・マズーア、ベルナルト・ハイティンク、エド・デ・ワールトなどのマスタークラスに参加し、薫陶を受けた。
これまでに、東京交響楽団、セントラル愛知交響楽団などをはじめ、各地の主要オーケストラと共演するほか、数多くのアマテュア・オーケストラや吹奏楽団の指導にも尽力し、地方都市の音楽文化の高揚と発展にも広く貢献。また、児童のための音楽イヴェントにも積極的に関わり、マスコットキャラクターによって結成された金管合奏団“ズーラシアン・ブラス”の「おともだちプレイヤー」(指揮者)も務め、同団のCDアルバムを含むレコーディングにも参加。また、「たけしの誰でもピカソ」、「テレビチャンピオン」(ともにテレビ東京)にも出演し、話題となった。
彼の指揮者としてのレパートリーは古典から現代音楽まで多岐にわたり、ドイツ・オーストリア系の作曲家の管弦楽作品を主軸とし、ロシア音楽、北欧音楽の演奏にも定評がある。また近年では、イギリス音楽やフランス音楽、エストニア音楽などにもフォーカスを当て、研究を深めている。また、各ジャンルのソリストとの共演においても、その温かくユーモア溢れる人柄と音楽性によって多くの信頼を集めている。
日本リヒャルト・シュトラウス協会会員。英国レイフ・ヴォーン=ウィリアムズ・ソサエティ会員。
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