「作曲は金(GOLD)を探すようなもので、特別で価値のあるものを見つけるには、本当に一生懸命探さなければなりません」作曲家インタビュー:ベルト・アッペルモント氏(Bert Appermont)




[English is below Japanese]

ベルギーの作曲家ベルト・アッペルモント氏に、設問に答えて頂く形でインタビュー取材を行いました。

多くの海外の作曲家の中でも、日本でも有名なほうだと思うので、彼の作品を聴いたことがある、演奏したことがある読者の方も多いかもしれません。

最近だと「ブリュッセル・レクイエム」が日本でもヒットした印象ですね。

ファンの方もそうでない方も、ぜひご一読ください。


1. まず簡単にあなたの生い立ち、どこでどのように育ったのか、作曲家としての活動を始めたきっかけは何だったのか、などについて教えて頂けますでしょうか?

私は7歳で音楽の勉強を始め、最初の楽器はクラリネットでした。2人の兄と両親とともに、地元の吹奏楽団の練習に毎週参加しました。
12歳でピアノを習い、13歳で音楽学校に入学しました。

LUCA Lemmensinstituut(音楽院)で勉強している間に、自分には作曲の才能があることがわかりました。
音楽教育を学んだ最終学年に、私は最初の曲を作曲し始めました。
その1年後、私は吹奏楽のための最初の曲を作曲しました。
ヤン・ヴァンデルローストのもとで吹奏楽の指揮法を学んでいたとき、私は『ノアの方舟』を書きました。

作品は録音され、ヴァンデルローストはこのCDを世界中の多くの関係者に配りました。
こうしてこの音楽は日本でも知られるようになりました。東京佼成ウインドオーケストラがこの曲を録音してくれたことは、私にとって本当に重要なことでした。
ヤンが私にしてくれたことには本当に感謝しています。

 

2. あなたは多くの吹奏楽作品を発表しています。日本でもあなたの吹奏楽作品のファンがいます。吹奏楽にどのような魅力を感じているかについて教えて頂けますか?

吹奏楽は作曲するのに最適なメディアです。非常に豊かな色彩を持ち、実に美しい響きを奏でることができます。私は個人的に、低音リード楽器が独特の音色を奏でる、吹奏楽の低く温かみのあるサウンドが好きです。
トゥッティは印象的に響くし、ピアノは実にソフトです。ダイナミックレンジは作曲家として使うのに強力なツールです。
さらに、管楽器には多くの技術的可能性があるので、吹奏楽のために非常にヴィルトゥオーゾ的な曲を書くこともできます。
このヴィルトゥオーゾ性は多くの可能性を与えてくれるし、吹奏楽の典型だと思います。交響楽団はヴィルトゥオーゾ的な演奏はあまりしません。

 

3. 吹奏楽曲を作曲する際、特に注意していることや心がけていること、あるいはあなた独自のルールはありますか?

私の最初の目標は常に表現であり、私にとって作曲は何かを表現するものでなければなりません。難解な音楽を書くためとか、効果を狙って書くのは好きではありません。
私は以前、インスピレーションとして多くの物語を使っていましたが、それは、表現する価値のある普遍的な感情や原型があるからです。
これらの物語には、誰もが共感できたり、想像力をかきたてられたりする要素があります。

ここ数年、私はプログラム的な音楽をあまり作曲せず、多層的な感情(例:ブリュッセル・レクイエム)のような、表現すべき深いものを探しています。

楽器の編成に関しては、私は常にすべての楽器をベストな形で使うように心がけているので、どの奏者も自分の楽器のために特別に書かれたパートだと感じることができます。
さらに私は、どの演奏者にも面白い演奏ができるように常に心がけています。

 

4. 作曲家として人生のターニングポイントとなった自身の作品があれば、その作品についてのエピソードを教えて下さい。

33歳のとき、自分の視野を広げる必要があると感じ、作曲家のダーン・マネケンのもとで現代音楽を学び始めました。
この時期に、ソロ、合唱、吹奏楽のためのオラトリオ『Mater Aeterna』を書き、これはスイスのムーリで4回演奏されました。
この作品は、私にとって転機となりました。というのも、複雑でありながら理解できる言葉を見つけることができたからです。
同時に、このオラトリオの音楽は非常に力強く、人間の深いテーマや感情に触れています。
この作品は私にとって重要でした。作曲家として新たなレベルに達し、より深い方法で自分自身を表現することができたからです。

 

5-a. ご自身の作曲または編曲に強く影響を受けた他の作曲家や編曲家の作品があれば、それについてどのような影響を受けたのか教えて下さい。

私は多くの影響を受けてきました。最初に影響を受けたのはジョン・ウィリアムズの映画音楽(『E.T.』、『フック』、『ジュラシック・パーク』)で、学生時代に憧れていました。彼の対位法の大ファンで、例えば『フック』のスコアはハイレベルな対位法です。さらに私は大のマーラー好きで、彼の深みへの探求、苦悩との闘い、変容への継続的な探求はとても共感できるものです。
マーラーのように、私は人間であることの意味を表現しようとしており、私の作品の多くは、痛みや悲しみ、困難の変容をテーマにしています。音楽には、人間の深い感情を示し、言葉では表現できないことを表現する能力があるのです。

リズムとハーモニーに関して、ストラヴィンスキーは今でも興味をそそられる作曲家です。彼のリズムとハーモニーの使い方は、私の作品の多くに影響を与えています。
バッハ、モーツァルト、ブラームス、ワーグナー、ドビュッシー、ラヴェルからジャズや偉大なポップスまで、影響を受けた音楽は枚挙にいとまがありません。

5-b. 上記とは別に、現代の作曲家で注目している作曲家がいれば理由と合わせて教えてください。

アルヴォ・ペルトの音楽は本当に好きで、私が追いかけ、聴いている作曲家です。彼のあり方、人生や自然とのつながりが、彼の音楽でとてもよく表現されています。彼はほんの少しのことで多くを語ることができ、私は尊敬しています。
より少ない手段でより多くを表現することは、今後、自分の作曲でもっと模索していきたいことです。
リヒターやフィリップ・グラスのようなミニマルな作曲家も時々聴く作曲家です。

さらにジョン・アダムスは、リズムの使い方が素晴らしくて、インスピレーションを受けるには最高です。吹奏楽では、ジョン・マッキーは私にとって興味深い作曲家です。彼はとても個人的な声を持っていて、かなり独創的な作品を持っています。
親友だったデヴィッド・マスランカは、私が本当に高く評価しているもう一人の管楽器作曲家です。彼は自分自身を表現する個人的な言語と方法を見つけました。
彼は人として、そして彼が書いた素晴らしい音楽ゆえに、私にとって常にインスピレーションであり続けるでしょう。

 

6. 将来の目標(またはこれから新たに取り組みたいこと)について教えてください。

弦楽器や交響楽団のための曲をもっと書きたいと思っています。弦楽オーケストラの委嘱を受けたばかりで、とても楽しみです。
その次は、吹奏楽のために書き続けるつもりですが、以前よりは少し減るかもしれません。
というのも、私はとても忙しい生活をしていて、作曲するのに十分な時間を確保するのが難しいからです。

2年前から、私は同僚のエリック・シュローテンと新しいプロジェクトを始めました。それは『Time to create(創造する時間)』と呼ばれるもので、2冊の本を出版することになりました。『Time to create 1』と『Time to create 2』です。
それはとても革新的なプロジェクトです。私たちは作曲を教える新しい方法を見つけたからです。作曲するのではなく、演奏し、実験し、即興することから始めます。
このアプローチは本の中で説明されており、生徒の創造性を伸ばすために音楽のレッスンで使えるクリエイティブな課題が掲載されています。
1冊目は楽器のレッスンで、2冊目はグループやアンサンブルで、一緒に何かを創り上げるために使うことができます。

現在、教室での作曲に使える第3巻に取り組んでいます。
その後の数年間は、マスタークラスやワークショップを通じて、これらのアイデアを広めていくことが私の個人的な使命です。なぜなら、それらはとても価値があり、素晴らしい結果につながるからです。
ベルギーではすでに多くのワークショップを計画しており、ヨーロッパで広がり始めています。これは素晴らしいことです。本はオンラインで英語版が入手できますので、ご興味のある方はどうぞ。

(注:ウェブサイトはこちら

※「Time to create」の「管楽器のためのオープン・スコア1」印刷版はWind Band Pressを運営しているONSAによる下記のオンラインストアからもご購入いただけます。
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7. あなたの作品は、世界中の多くの国で演奏され、評価されていることと思います。日本の若い作曲家や作曲家を目指す日本の学生たちにアドバイスをお願いします。

今、作曲家にとっては大変な時代です。音楽はたくさんあるし、作曲家もたくさんいます。
自分が書きたいと思うものを書いてみることが大切だと思います。
成功している人の真似をするのではなく、自分なりの言葉や表現方法を探すこと。
同時に、インスピレーションを与えてくれる音楽を聴き、それがどのように行われているかを理解しようとしましょう。そうすれば、自分の作品にそこから何かを取り入れることができます。

最後に、すぐに満足してはいけない。私の成功の一因は、他の多くの人がやめてしまったときに、私が探し続けたことだと思います。
作曲は金(GOLD)を探すようなもので、特別で価値のあるものを見つけるには、本当に一生懸命探さなければなりません。
つまり、ユニークなものを見つけるまで探し続ける努力と忍耐を惜しむべきではないということです。
美を見つけるためには、困難を乗り越えなければなりません。だから、あきらめないで。美は、あなたがその振動を見つけたり、聞いたりしたときに、あなたに語りかけ、やってくるのです。


インタビューは以上です。アッペルモントさん、ありがとうございました!

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取材・文:梅本周平(Wind Band Press)


 

Interview with Bert Appermont

1.First of all, would you tell me about your background, where and how you grew up, what made you started as a composer?

I started to study music at the age of 7, my first instrument was the clarinet. Together with my two brothers and parents I attended the weekly rehearsals of the local wind band.
At the age of 12 I took piano lessons and at the age of 13 I attended a music secondary school.

During my study at LUCA Lemmensinstituut (music conservatory), I discovered that I had a talent for composing.
In my final year of studying music education I started to compose my first pieces.
One year later, I composed my first pieces for wind band.
During my study of wind band conducting with Jan van der Roost, I wrote ’Noah’s Ark’, which I contacted for my final exam.

The piece was recorded, van der Roost took this CD and gave it to many of his contacts all around the world.
This way the music also got known in Japan. Tokyo Kosei wind band recorded the composition, which was really important to me.
I am still very grateful to Jan for everything that he did for me.

 

2. You have published many wind band works. There are fans of your wind band works in Japan. Would you tell me about what fascinates you about wind band music?

A wind band is a great medium to compose for: it has very rich colors and it can sound really beautiful. I personally am fond of the low warm sound of a wind band, with the low reed instrument giving its unique timbre.
Tutti’s can sound impressive and piano’s really soft, the dynamic range is a powerful tool to use as a composer.
Furthermore you can write very virtuoso for a wind band, since wind instruments have many technical possibilities.
This virtuosity gives many possibilities and I think is typical for wind bands. Symphony orchestra’s play virtuoso a lot less.

3. When composing a wind band piece, is there anything you pay special attention to, keep in mind, or have any rules of your own?

My first goal is always expression, for me a composition should express something. I don’t like to write difficult music for the sake of writing difficult or for effect.
I used to use a lot of stories as inspiration in the past, because there are universal feelings and archetypes which I found worth expressing.
These stories have elements which everybody can relate to or speak to our imagination.

The last years, I compose less programmatic music, I search for deeper things to express, like multi-layered emotions (ex. Brussels Requiem).

What the instrumentation is concerned, I try to always use every instrument in its best way, so every player has the feeling that the part is written especially for his instrument.
Furthermore I always try to make sure that every player has something interesting to play.

 

4. If you have a piece of your own work that was a turning point in your life as a composer, would you tell me the episode about that work?

At the age of 33, I felt that I needed to expand my view and started to study contemporary music with composer Daan Manneken.
In this period, I wrote my oratorium ‘Mater Aeterna’ for soloists, choir and symphonic wind band which was performed 4 times in Muri, Switzerland.
This work somehow was a turning point for me, since I managed to find a language which was complex, but still understandable.
At the same time, the music of this oratorium is very powerful and touches upon deep human themes and emotions.
The piece was important to me since I reached a new level as a composer and managed to express myself in a deeper way.

5-a. If there are works by other composers or arrangers that have strongly influenced your composition or arrangement, would you tell me about them and how they have influenced you?

I have had many influences. The first one was the film music of John Williams (E.T., Hook, Jurassic Parc), which I adored when I was a student. I was also a big fan of his counterpoint, the score of ‘Hook’ for example is high level counterpoint. Furthermore I am a big Mahler-lover, his search for depth, his struggle with suffering and the ongoing quest for transformation is something that I can relate to very much.
Like Mahler, I try to express what it means to be human and many of my works are about transforming pain, sorrow or difficulty. Music has this ability to show us the deep human emotions and express things word cannot.

For rhythm and harmony Strawinsky is a composer I still find intriguing. His use of rhythm and harmony has influenced many of my pieces.
The list of further influences is very long, from Bach, Mozart, Brahms, Wagner, Debussy, Ravel to jazz music and great pop songs.

 

5-b. Apart from the above, would you tell me about any other contemporary composers that you are paying attention to, along with the reasons why?

I really the music of Arvo Part, he is a composer which I follow and listen to. His way of being, his connection with life and nature speaks very much in his music. With very little he can say a lot, which I admire.
It is something I would like to search for more in my own compositions in the future: express more with less means.
Other minimalistic composers like Richter or Philip Glass are also composers which I sometimes listen to.

Furthermore John Adams is great to get inspired by, he uses rhythm in a fantastic way. In wind music John Mackey is an interesting composer to me, he has a very personal voice and quite original pieces.
David Maslanka was a good friend and another wind composer whose music I really appreciate. He found a personal language and way of expressing himself.
He will always remain an inspiration to me because of who he was as a person and because of the great music that he wrote.

6. Would tell me about your future goals (or what you would like to work on in the future)?

I would like to write more for strings and symphony orchestra. I have just received a commission for string orchestra which I look forward to.
Next to this, I will continue to write for wind ensembles, probably a bit less than before, since I have a very busy life and it is a challenge to find enough time to compose.

Since two years I have started a new project with my colleague Erik Schrooten. It is called ’Time to create’, and it has led to the publication of two books: ‘Time to create 1’ and ‘Time to create 2’.
It is a very innovating project, since we have found a new way to approach teaching composing, starting more from playing, experimenting and improvising instead of writing.
This approach is explained in the books, which contain creative assignments which can be used in music lessons to help the pupils develop their creativity.
The first book can be used in instrument lessons, the second can be used by groups and ensembles to create something together.

We are now working on the 3nd volume which can be used to compose music in the classroom.
In the following years it is my personal mission to spread these ideas through masterclasses and workshops, since I feel they are so valuable and lead to fantastic results.
I already have many workshops planned in Belgium, it is starting to spread in Europe, which is great.
The books are available online in English, for anyone who is interested.

(Editor’s note; Click here to visit the website)

 

7. Your works are probably performed and appreciated in many countries around the world. What advice would you give to young Japanese composers and Japanese students who want to become composers?

It is a difficult time for composers now, since there is som much music and there are so many composers.
I think it is important to try write something that feel that you want to write.
Don’t copy someone who is successful, look for your own language and personal way to express yourself.
At the same time listen to music that inspires you, and try to understand how it is done, so you can take something from it in your own work.

Finally, don’t be satisfied too soon. I believe a part of my success is that I continued looking when many others stopped.
Composing is like looking for gold, you have to look really hard to find something which is special and valuable.
This means that you have to be willing to go the extra mile and put in the effort and patience to keep searching until you find something unique.
We have to go through difficulty to find beauty, so don’t give up, the beauty will speak and come to you when you find or hear its vibration.


Interview and text by Shuhei Umemoto (Wind Band Press)




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