「人生を経験すればするほど、音楽でより多くの表現ができるようになる」ベルギーのクラリネット奏者アンネリエン・ファン・ヴァウヴェ氏(Annelien Van Wauwe)インタビュー






Photo (C) Joelle Van Autreve

[The original English text is at the bottom of the Japanese text.]

2019年のデビューCD「ベル・エポック」が日本でも輸入販売されているベルギーの新星アンネリエン・ファン・ヴァウヴェ氏(Annelien Van Wauwe)。

僕もこのデビューCDを聴いて「すごい才能が現れた!」と虜になってしまいました。そこで、日本でのマネジメントを行っている株式会社ユーラシック様のご協力を得て、ファン・ヴァウヴェ氏にインタビューを行いました。

※日本ではCDの卸元からのインフォメーションで名字の表記が「ヴァン・ヴァウヴェ」となっておりその表記が広まっていますが、本記事では株式会社ユーラシック様の表記に合わせて「ファン・ヴァウヴェ」としています。


1. まず最初に、クラリネットを始めたきっかけと、あなたが育ってきた背景についてお伺いできますでしょうか。

子供の頃、私は歌うこと、自分の声で表現することが好きでした。7歳のとき、私は最も「歌いやすく」、最も魅了される楽器(音響だけでなく、銀色に輝くキィなど視覚的にも…)である、クラリネットを選びました。

2. あなたが奏者としてまた聴衆として感じるクラリネットの魅力について教えて下さい。

ささやくように、歌うように、叫ぶように、音域はさまざまな音域をカバーし、また、クラシック、現代音楽、ジャズ、クレツマー、民族音楽など、さまざまなスタイルの音楽を演奏することができます。

3. 学生時代(特に10代~20代頃)はどのような学生時代を送られましたか?またその頃で特に想い出深いエピソードなどございましたらお伺いできますでしょうか。

私はベルギーの普通高校に通っていて、好きな科目は語学と作文でした。音楽を勉強している間に、国際的なレベルでコミュニケーションが取れるようになることが、後々重要になると思いました。

17歳でドイツに渡り、リューベックの音楽大学で、著名なソリスト、ザビーネ・マイヤーのもとで学びました。彼女は、私のクラリネットの音を育て、完璧にする方法と、楽譜を正確に読み、形式に細心の注意を払う方法を教えてくれました。

学士号を取得した後、私はパリ国立高等音楽・舞踊学校(Conservatoire National Superieur de Musique et de Danse de Paris)で1年間、パスカル・モラゲス教授のもとで学びました。パリでは、特にフランス音楽の解釈の仕方や、自分のクラリネットの音に様々な色を作り出す方法を学びました。

この年、私は月に2回ローマに行き、アカデミア・サンタ・チェチェリアでアレッサンドロ・カルボナーレのレッスンを受けていました。彼は、ヴィルトゥオーゾ(イタリア語)の音楽をいかに簡単に、流れるように聴かせるか、メロディーのフレーズをいかに発声し、明確に表現するかを教えてくれました。

私は修士課程で、教育学(教えることがずっと好きだったから)と演奏学の両方を、ヴェンツェル・フックスとラルフ・フォースターのもとで学びました。彼ら、そして他のすべての先生方は、私にオーケストラの演奏方法を教え、オーケストラのオーディションの受け方を訓練してくれました。いくつかのオーケストラで経験を積むと同時に、ソリストとしての演奏活動も始めました。

ある時、あまりに忙しかったので、自分にとって室内楽、教育、ソロ演奏の組み合わせという明確なキャリアパスを選択しなければならなくなりました。

4. 日々の練習の際に心がけていることや気をつけていること、または重点を置いていることを教えて下さい。

私の毎日は、ミュージシャンとしての生活の重要な一部となったヨガの練習から始まります。私の身体、心、そして感情の状態は、ヨガの恩恵を受けています。

私は毎日同じウォームアップからクラリネットの練習を始め、姿勢、音、共鳴、投射、アーティキュレーション、イントネーションに重点を置いています。この練習方法を学生やプロのクラリネット奏者と共有するために、私が考案した「WAUW!ウォームアップ」と呼ばれるYoutubeバージョンを作成しました。(You Tubeはこちら

クラリネットのテクニックの基礎を日々広げていくことが、楽器自体の可能性を広げる貴重な方法だと心から信じています。練習中は、演奏中に最高のコントロールができるように、常に練習方法を発展させ、適応させています。演奏会の準備が「安全」であればあるほど、自発的で自由でインスピレーションに満ちた瞬間が実際に起こる可能性が高くなるのです。

5. ご自身の演奏家・表現者としての活動、例えば音楽に取り組む基本的な姿勢、演奏会や後進への指導などについて現在お考えになられていることをお伺いできますでしょうか

私は、作曲家への尊敬の念から、楽譜に忠実な音楽制作を信条としています。観客は、「真の」音楽制作と、感動を与えるため、あるいはアーティスト自身のエゴを満たすためだけの演奏との違いを感じると確信しています。

6. 先日、オランダのPentatoneレーベルからセカンドアルバム「FLOW」がリリースされましたね。このCDのコンセプトや聴きどころ、またレコーディング時に印象に残ったエピソードなどをお伺いできますでしょうか。

私はヨガが大好きで、それが私のクラリネットの演奏に良い影響を与えていることから、フランドル地方の作曲家ヴィム・ヘンデリックス(Wim Henderickx)にバセット・クラリネット、オーケストラ、エレクトロニクス用の協奏曲「スートラ(SUTRA)」を委嘱することになりました。この曲は、呼吸、ヨガ哲学、瞑想をベースにしています。

FLOWは、1791年に書かれたヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトのクラリネット協奏曲KV622と、2021年に書かれたヴィム・ヘンデリックスのバセットクラリネット協奏曲「スートラ」を組み合わせています。ヘンデリックスが協奏曲「スートラ」を完成させる230年前にモーツァルトが協奏曲を作曲したにもかかわらず、協奏曲の純粋さ、シンプルさ、オリジナリティ、完璧な音楽構造により、演奏者と聴衆に与える効果は類似しています。

演奏家として、音楽とヨガの練習は、どちらも「フロウ(flow)」状態に導くことができると感じています。したがって、バセット・クラリネットのための対照的な2つの協奏曲を収録したこのペンタトーンのアルバムのタイトルは、このようになっています。

ヘンデリックスの「スートラ」の録音は、次男の出産の5日前に行ったので、忘れられない印象として残っています。

レコーディングの2ヶ月前から練習を始めることができたのですが、常に変化する自分の身体、呼吸、そして新しい音楽素材を学び、レコーディングするという挑戦の中から、適切なバランスを見つける作業でした。

CDの録音風景はこちらから(You Tube)

7. 最後に、アマチュアのクラリネット奏者の方や愛好家の方に向けて今一番伝えたいメッセージをお願いします。

より少ない練習で(しかし最大限の意識を持って)より多く。人生を経験すればするほど、音楽でより多くの表現ができるようになるのです。


質問は以上です。

多くのクラリネット演奏者の方が彼女の言葉から何かを得ていただければ幸甚です。

ファン・ヴァウヴェ氏のCD「ベル・エポック」はWind Band Pressのストア「WBP Plus!」でお取り扱いをしています。

Yahoo!ショッピング店

楽天市場店

インタビューにもあるセカンド・アルバム「FLOW」も卸元より情報が入り次第、お取り扱い予定です。

なお、質問項目の作成にあたり、株式会社ユーラシックの村上雄一氏にもご協力をいただきました。この場を借りて御礼申し上げます。

取材・文:梅本周平(Wind Band Press)


■アンネリエン・ファン・ヴァウヴェ氏プロフィール:(株式会社ユーラシック様のサイトより引用)

ベルギー生まれ。BBCニュー・ジェネレーション・アーティストを経て、2018年のボルレッティ=ブイトーニ財団賞を受賞。緻密で表情豊か、抒情的かつ誠実な演奏が高く評価され、同年代の中でもっと魅力的で傑出したクラリネット奏者と目されている。

2018年にオランダのレーベル、Pentatoneとの専属契約を結ぶ。2019年、デビューCD「ベル・エポック」(アレクサンドル・ブロック指揮リール国立管弦楽団との共演)がリリースされた。

これまで数々の国際コンクールに入賞。2012年に第61回ARDコンクール(ミュンヘン)で第1位(第1位2人)受賞したことで、国際的に注目される。以来、バイエルン放送響、ベルリン・ドイツ響、SWRシュトゥットガルト放送響、ミュンヘン室内管、マレーシア・フィル、ブリュッセル・フィル、ロイヤル・リヴァプール・フィル、そしてBBC傘下の各楽団と共演。

BBCプロムスには2017年夏にデビュー、ロイヤル・アルバート・ホールおよびカドガン・ホールで演奏。また翌2018年にはテレビ中継されたプロムス公演で、ダウスゴー指揮BBCスコティッシュ交響楽団とモーツァルトのクラリネット協奏曲を共演した。

ヨーロッパの著名なホールでは、チューリヒのトーンハレ、ブリュッセルのボザール、ベルリン・フィルハーモニー、ベルリン・コンツェルトハウス、ウィーン・コンツェルトハウス、ウィグモア・ホール、アムステルダム・コンセルトヘボウなどに登場。また、ルツェルン音楽祭、メクレンブルク=フォアポマーン音楽祭、シュレスヴィヒ=ホルシュタイン音楽祭、キッシンゲンの夏、モンペリエのラジオ・フランス音楽祭など、多くの国際音楽祭に出演している。室内楽にも情熱を注ぎ、2018年にはブリュッセルでカルーセル室内アンサンブルを設立。新旧の室内楽作品を最高の水準で演奏することを目指している。

ピアニストのルーカス・ブロンデールとともに、ヴァインベルグとプロコフィエフのクラリネット・ソナタを録音(Genuinレーベル)。本アルバムは高い評価を受け、2015年にフランデレン・ラジオよりKlara賞を受賞。

その音楽、とりわけクラリネットに対する情熱に触発され、多くの作曲家が彼女のために新しい作品を作曲している。作曲家のマンフレート・トロヤーンは、2017年に《ソナタVII》を彼女に献呈した。また彼女はヨガを本格的に実践、それがクラリネット演奏にも良い影響があることから、呼吸と瞑想に基づいたクラリネット協奏曲《Sutra》を作曲家ウィム・ヘンドリックスに委嘱した(ボルレッティ=ブイトーニ・トラストとの共同委嘱)。

ファン・ヴァウヴェは、リューベック音楽大学で名手ザビーネ・マイヤーに学んだ。師弟は深い音楽の絆によって結ばれており、定期的に舞台でも共演している。その他、イェフダ・ギラード(ロサンジェルス)、パスカル・モラゲス(パリ)、アレッサンドロ・カルボナーレ(ローマ)、ヴェンツェル・フックス、ラルフ・フォースター(ともにベルリン)ら国際的な奏者にも師事。また古楽にも強い関心があり、歴史的なクラリネット奏法をエリック・ヘープリヒ、エルンスト・シュラーダーに学ぶ。後進の指導にも熱心で、定期的にマスタークラスを行うほか、アントワープ王立音楽院のクラリネット主任を務める。


Annelien Van Wauwe, a rising Belgian star whose debut CD “Belle Epoque” was sold in Japan in 2019.

When I heard her debut CD, I was captivated by her talent. So, with the cooperation of Eurassic, Inc., who manages the company in Japan, I conducted an interview with Annelien Van Wauwe.

1. First of all, would you tell me how you started playing the clarinet and about the background you grew up in?

As a child I loved to sing and express through my voice. At the age of seven I chose the instrument that ‘sang’ most and fascinated me most (not only acoustically but also visually, with its pretty silvery keys..): the clarinet.

2. What do you find attractive about the clarinet as a player and as an audience?

It can whisper, sing, shout, the tone range covers several different registers and it can play many different styles of music such as classical music, contemporary music, jazz, klezmer, folk music, ..

3. What kind of school days did you have, especially in your teens and twenties? Do you have any memorable episodes from those days?

I went to a regular high school in Belgium where my favourite subjects were languages and writing. I realised that it would be important for me at a later stage – during my music studies – to be able to communicate on an international level.

At the age of 17 I moved to Germany and studied at the Musikhochschule in Lubeck, with the reknowned soloist Sabine Meyer. She taught me how to develop and perfection my clarinet sound and read music scores with precision and greatest care for the style.

After my bachelor degree I have spend one year at the Conservatoire National Superieur de Musique et de Danse de Paris with Professor Pascal Moragues. In Paris, I learned how to interpret french music in particular and how to create a range of colours in my clarinet sound.

During the same year I travelled to Rome twice per month to have classes with Alessandro Carbonare at the Academia Santa Cecelia. He taught me how to make virtuose (Italian) music sound easy and fluid and how to vocalise and articulate melodic phrases.

I have studied a Master Degree, both in Pedagogy (because I have always loved teaching) and Performance, with Wenzel Fuchs and Ralf Forster. They, and all my other teachers, taught me how to perform orchestral music and trained me how to audition for orchestras. I gained experiences in several orchestras and started to perform as a soloist at the same time.

At a certain moment I was so busy that I simply had to chose a clear career path which was for me a combination of chamber music, teaching and solo performances.

4. What do you keep in mind, pay attention to, or focus on during your daily practice?

My days start with yoga practice as it became an important part of my life as a musician. My body, my mind and emotional state benefit from it.

I start my clarinet practice with the same warm up series every day in which I focus on my posture, sound, resonance, projection, articulation and intonation. I have made a Youtube Version of the exercises called the ‘WAUW! Warm up’ that I have designed in order to share this practice with students and professional clarinettists.

I truly believe that a daily broadening of the foundation of clarinet technique is a valuable way to enlarge its own potential on the instrument. During my practice I constantly develop and adapt practice methods to ensure the best possible control during performances. The ‘safer’ the preparation of a concert, the more chance there is to actually let spontaneous, free and inspirational moments happen.

5. As a performer and an expressive artist, would you tell me about your current thoughts on your basic attitude toward music, concerts, and teaching younger generations?

I believe in honest music making in which I stay closely connected to the score, out of respect for the composer. I am convinced that an audience feels the difference between ‘true’ music making and performances to impress or to only serve an artist’s own ego.

6. Your second album “FLOW” was recently released on the dutch Pentatone label. Would you tell me about the concept and the point of this CD, and any episodes that left an impression on you during the recording process?

My love of yoga, with its positive influence on my clarinet playing, led me to commission SUTRA, a concerto for basset clarinet, orchestra and electronics from the Flemish composer Wim Henderickx. It is based on breath, yogic philosophy and meditation.

FLOW combines Wolfgang Amadeus Mozart’s Clarinet Concerto KV 622, written in 1791, with Wim Henderickx’ Bassetclarinet concerto ‘Sutra’, written in 2021. Even though Mozart composed his concerto 230 years before Henderickx completed his ‘Sutra’ concerto the effects on performers and listeners remain similar due to the concerti’s purity, simplicity, originality and perfect musical structures.

As a performer, I feel that both the practice of music and yoga can lead into a flow state.

Hence the title of this Pentatone album which includes two contrasting concerti for the basset clarinet.

The recording of ‘Sutra’ by Henderickx left an unforgettable impression on me as I recorded the piece five days before the birth of my second son.

I could start to practice two months prior to the recording and it was a process of constantly finding the right balance between my ever changing body, my breath and the challenge of learning/recording new musical material.

7. Lastly, what is the most important message you would like to give to amateur clarinetists and fans?

Practicing less (but with greatest consciousness) is more; the more you experience life, the more expressive you can be in your music!


That’s all for the questions.

I hope that many clarinet players will gain something from her words.

I would also like to thank Mr. Yuichi Murakami of Eurassic, Inc. for his assistance in preparing the questions.

Interview and text by Shuhei Umemoto (Wind Band Press)




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