「ジャポーネ、ケンイチ・マサカド!」イタリアの第6回国際行進曲作曲コンクールで第2位を受賞、正門研一氏特別インタビュー

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2021年6月13日にイタリア・アッルミエーレで開催された「第6回国際行進曲作曲コンクール」。ヨーロッパでは大御所のヤコブ・デハーン氏などが審査員を務めたこのコンクールには、イタリアを中心に多くの国から応募があったようですが、正門研一さんの作品「シャイニング・ソウル4」が「コンサート・マーチ部門」で2位を獲得しました。(同部門の1位はルクセンブルクのGeorges Sadeler氏)

Wind Band Pressを運営するONSAの楽譜出版事業であるGolden Hearts Publicationsでも多くの作品をお預けいただいており、Wind Band Pressのコラムでもお世話になっている正門さんに、あらためて今回の作曲コンクールを振り返っていただきます。

(↓今回受賞した「シャイニング・ソウル4」)

■まずは今回のイタリア・アッルミエーレで開催された「第6回国際行進曲作曲コンクール」コンサート・マーチ部門での第2位獲得、おめでとうございます。今回このコンクールへ応募されたきっかけについて教えて下さい。

ありがとうございます。
まずは、このコンクールについて少しお話しさせてください。
このコンクールは2011年に始まり、2年に一度開催されています。主催はアッルミエーレの「Amici della Musica」協会、アッルミエーレ市と「Scomegna音楽出版」が共催、ラツィオ州や「Ca.Ri.Civ」財団が後援しています。
「コンサート・マーチ」と「パレード・マーチ」の二つの部門で作品が募集され、各部門の上位2作品は「Scomegna音楽出版」から楽譜が出版されます。今回はこれまでで最多の91作品(「コンサート・マーチ」45作品、「パレード・マーチ」46作品)がヨーロッパの10カ国と日本から集まったそうです。そして、各部門の予選上位5作品が本選に進出しました。


「Amuci della Musica」協会のホームページより

このコンクールのことを知ったのは昨年の8月頃だったと思います。昨年来のコロナ禍、私も先が見えない・・・。作品を音にしていただく機会も一層減っていく中、上手くいけば音にしてもらえるし出版もしていただける・・・、単純にそう思ったのです、最初は(笑)。それに、「行進曲」に特化したコンクールということもありました。日本でも以前は「笹川賞」や「下谷賞」というコンクールが「行進曲」に特化して実施されたことはありますが、現在日本で「行進曲」を募集しているのは「課題曲」くらいでしょう・・・?
作曲後お蔵入りしていた作品もあるし、海外の(公的な支援を受けた)コンクール、審査員にはヤコブ・デ・ハーン氏やカラビニエリ吹奏楽団の音楽監督もいらっしゃる。そのような方々に自作がどう評価してもらえるのかも興味がありました。
作曲する者としては、日本だけでなく世界中の方に聴いていただきたい、日本では受け入れられなくても海外で高い評価を受けるということはありますよね?一度海外の(日本とはまた違った)厳しい環境に自分を置くことで何かつかめるのではないか、と思ったのが一番の理由です。
ただ、状況が状況でしたので(コロナの感染状況でコンクールの開催もどうなるか分からない)、しばらくは作曲(厳密に言うと手直しなのですが)に身が入りませんでした。年が明けてコンクールの事務局に開催の有無をメールで尋ねたところ、「開催の準備を進めている」とのことでしたので、そこから一気に筆を進めました。

■今回応募された「シャイニング・ソウル4」のほかにも候補があったとお伺いしていますが、最終的に「シャイニング・ソウル4」を応募作として選ばれた理由はなんでしょうか。

「シャイニング・ソウル4」は、実はシリーズの最初の作品でもともと番号なしでした(初稿は2009年にまでさかのぼります)。
最初は、2013年に作曲した未発表の「シャイニング・ソウル3」で応募しようと考えていたのです。1月にコンクールが実施されるかどうかを事務局に尋ねた際、コンクールの規程に記してある「グレード」(コンサート・マーチは3.5以下)についても尋ねたのですが、送っていただいた資料を見ると、「ちょっと厳しいな」ということになってしまい、シリーズの中で一番納得できていなかった(かつ未発表であった)最初の「シャイニング・ソウル」を手直しするしかなかった、というのが本当のところです。
規程で「オプション」扱いとなっている楽器がなくても演奏できるようオーケストレーションを見直したり、もちろん和声なども見直し。楽器の音域が「グレード」に沿うように全体を長二度下げて・・・と、丸々一曲新たに作るような気持ちになっていました。ですから、タイトルも変えて「シャイニング・ソウル4」と。
応募の際スコアには作曲者名だけでなく、タイトルも入れることができませんでした。タイトルで応募者の国籍などが分かってしまうことも考えられますので、「公正」な審査をするための措置だと思います。

■日本時間では2021年6月13日の午前1時ころから配信が始まり、私も中継を拝見していましたが、実演による審査ではなかったのでなかなか珍しい光景だったと思います。全体を通してどのようにご覧になっていましたか。

当日は深夜にも関わらずご覧いただいたこと、とても心強かったです。ありがとうございました。
コンクールの事務局からは、「もしかすると、Scomegna社が制作したデジタル音源での審査になるかもしれない」と聞かされていました。こんな状況ですので、演奏を担当する現地のバンドも活動が非常に制限されていたようです。本選の2週間ほど前に伺った話では、コンサート・マーチ部門の5作をようやく譜読みした段階であるとのことでした。
音源による審査にはさまざまな意見はあると思います。例えば、近年の「日本音楽コンクール」の作曲部門は譜面審査のみで賞が決定してしまいますが、やはり最後は実際の音があった方がいいと個人的には思います。機械的な音ではあっても、同じ条件のもとで制作されたものであれば(制作した出版社も、どれが誰の作品かは知りません)、と納得して見ていました。


本選開始前のファイナリスト紹介

4月中旬にファイナリストが発表されてから、同じ部門のファイナリストの方々(この中には、前回第1位のWalter Farina氏や第2位のMarco Tamanini氏もいます)の作品をネット上で探して聴いたりもしていました。また、主催者のホームページでは過去の入賞作のいくつかを聴くこともできましたので、本選の傾向はある程度想像がつきました。「これはこの方の作品かな?」などと思いながら結構楽しんでいました。ただ、自分の作品がいつどのような順番で再生されるのかは分かりませんでしたので、(結局私の作品は最後でしたが)イヤな緊張感は続きました(笑)。


「シャイニング・ソウル4」の審査中(「No.22A」は主催者によるエントリーナンバー)

私の部門に限らないのですが、本選に残った作品はどれも個性的で、いい意味でクセのあるものばかりだったように思います。やはり「行進曲」というものに対するこだわりが、それぞれの作曲者にはあるのだと思いました。共通していたのは、いい意味で「行進曲とはこういうものだ」という主張がどの作品からも感じられたことかな・・・。私の作品ではそうした主張が少し弱いかもしれませんが・・・(笑)。
「行進曲」というある程度確立された「様式」、「形式」の中で自己の語法を駆使できる可能性はまだまだあるな、とも思いました。
現地では7月22日に、本選に残った全作品を演奏するコンサートを計画しているそうです。

■自宅で深夜にご覧になっておられたかと思いますが、受賞発表の瞬間はどんな感じでしたか?

思い切り両肩が下がりました(笑)。確かに、作品を聴いている時よりもこの時の方が力が入っていましたから。ホッとした感じでした。
しかし、素直に嬉しかったですよ。


「ジャポーネ、ケンイチ・マサカド!」と呼ばれた瞬間

本選終了後、コンクールの芸術監督で審査員のおひとりでもあるMarco Somadossi氏と事務局のManuel Pagliarini氏(この方のサポートがとても素晴らしかったです)がMessengerを通じてビデオメッセージを送ってくださいました、「おめでとう、ケンイチ!君が第2位だよ!」と。
パレード・マーチの部門で第1位となったVito D’Elia氏からは「本当に、とても美しくてユニークな作品」とのメッセージをいただきました。
とにかく、遠く日本からイタリアに渡った作品が受け入れられたことは本当に嬉しく思いました。
ちなみに、審査員の皆さんは最後の最後まで、どれが誰の作品か、個々の作品のタイトルさえも知らされていません。そういう点では本当に公正な運営、審査がなされています。
事務局によると、ヨーロッパ圏外からの応募は私が初めてだったようで、それがファイナルに進み、入賞・・・。「国際コンクール」の名に相応しい結果となったと喜んでいただいたのは誇りです。

■さて、今回第2位を獲得した「シャイニング・ソウル4」についてお伺いしたいと思います。「シャイニング・ソウル」には「2」や「3」もありますが、今回の「4」の概要、またこれまでの「シャイニング・ソウル」との関連性について教えて下さい。

先ほどもお話ししましたように、「シャイニング・ソウル4」はもともとシリーズの第1作として作曲していたものです。
このシリーズ、全く演奏されるあてもなく自発的に始めたものです。きっかけは全く個人的な事情といいますか・・・。2009年の2月に父が不慮の事故で寝たきりの状態になったことにあります。私が音楽の道に進むようになったのは、アマチュアのフルート吹きであった父の影響です。父の回復を祈る気持ちで、そして、回復したら聴いてもらおうという気持ちで書き始めました。2012年に「2」、2013年に「3」を作曲。実は2010年にも一曲書いているのですが、シリーズの趣旨とは少し違うものでしたので、これには「ステップ・フォー・ステップ」というタイトルをつけました。
父は2014年に他界しましたので残念ながらどの作品も聴いてもらうことができませんでした。私の出身地である福岡県春日市の「春日市民吹奏楽団」が2014年の定期演奏会で「2」を父の追悼の意味を込めて初演してくださったのは嬉しかったです(私は大分県警音楽隊の仕事があり立ち会えなかったのですが)。
さて、「4」ですが、構造としては、「少し長めの序奏~第一主題~経過句~第二主題~トリオ~経過句~再現部~コーダ」という感じでしょうか・・・。特徴は、作品をほぼほぼ支配する4つのモティーフ(動機、というか音素材)が序奏部で全て提示されるところにあります。経過句やトリオで違う音素材が現れたりはしますけど、基本的な音素材をどう活かすかがこの作品を作る時のテーマでした。結果、他の皆さんの行進曲とはやや趣の異なるものになったとは思っています。この考え方は、共通の音素材は使っていないものの「2」や「3」にも引き継がれています。「2」ではかなりポリフォニックな展開がありますし、「3」では、通常「トリオ」と言われる部分が「ソナタ形式における展開部」の様相であるなど・・・。
「4」はコンクールを共催する「Scomegna音楽出版」さんから出版される予定ですし、「2」や「3」も今後「Golden Hearts Publications」さんに取り扱っていただく予定ですので、ぜひ手に取っていただきたいです。

■Golden Hearts Publicationsからもマーチを出版していますが、1999年に吹奏楽コンクールの課題曲となった「エンブレムズ」をはじめ、ご自身の中で「コンサート・マーチ」が重要な位置を占めているように感じます。「コンサート・マーチ」へのこだわりや思いについて教えて下さい。

私自身作品数はそれほど多くなないですし、行進曲も数えるほどですが、確かに重要な位置を占めているように思います。ただ、これは意識的に「行進曲を極めてやろう」というものではなく、気付いたらそうだった、と・・・(笑)。
私は決して「吹奏楽といえば行進曲!」というつもりはないのですよ。しかし「行進曲には吹奏楽がピッタリ」という気持ちではいます。ですから、仕事の中心が吹奏楽、管楽にある以上、今後も節目節目で行進曲を書いていくことになると思います、次の予定は今のところありませんが。まぁ、死ぬまでに「行進曲とはこういうものだ」と堂々と言えるようなものを作れるといいのですが(笑)

■最後になりますが、これからの目標や予定されている展開について教えて下さい。

2017年に大分県警を退職してからは、それまでに作曲したものを見直すことに時間を費やしてきました。おかげさまで「Golden Hearts Publications」さんに多くを取り扱っていただいています。今年に入ってからはその時間を創作の方にも向けております。4月には「ソナタ・メカニカ ~独奏ユーフォニアムのための」を作曲、早速出版していただきました。また、中断していたバンドの指揮、指導も徐々に再会しつつありますので、まずは(コロナ禍でまだまだ先が見えない状況ではあるのですが)これらのバランスを上手にコントロールながら活動していきたいです。
「いつまでにこうしたい」とか「いつ頃こうなっていたい」といった具体的な計画、ヴィジョンといったものは敢えて定めていません。もちろん、書きたいと思うものはありますし、2年前にインタビューしていただいた時にもお話ししましたが、「その時でないと書けないものを残した」という想い、これは今も変わりませんので、タイミングを見極めながら進めていきたいです。ただ、自分が書きたいものだけ書くということではありません。ご依頼があれば全力で取り組みますよ!

 


正門さん、ありがとうございました!

Golden Hearts Publicationsの正門さんの作品はこちら。コンサート・マーチもあるのでチェックしてみてくださいね。

また、コンクールの芸術監督であるMarco Somadossi氏からもメッセージを頂いています。

■Marco Somadossi氏からのメッセージ

国際行進曲作曲コンクール「Citta di Allumiere」は、ローマ州のティレニア海を見下ろすトルファ山地にある魅力的な町、アッルミエーレの「Amici della Musica」協会によって2011年に設立されました。
過去5回の開催(2年に1度)を経て、参加者数ではイタリアで最も重要な吹奏楽のための音楽コンクールとしての地位を確立しました。
今回は、91作品が参加しました。ヨーロッパ各地(イタリア、マルタ、スペイン、ポルトガル、フランス、ドイツ、オーストリア、ベルギー、ルクセンブルグ、オランダ)からだけではなく、日本からも1曲が参加しました。
日本からの参加は主催者を少なからず驚かせたのですが、コンクール最終日の夜、受賞作品の発表で、22番の行進曲(行進曲には番号のみが付けられていました)に「ケンイチ・マサカド」の名前が付けられたことで、さらに驚きを与えました。
マエストロ・マッシモ・マルティネッリ(カラビニエリ吹奏楽団の音楽監督)、マエストロ・ヤコブ・デ・ハーン(オランダの作曲家)、そして私が委員長を務める審査委員会は、コンサート・マーチのカテゴリーで第2位を授与することで、優れた作曲技術と優れた楽器編成の作品であることを強調したかったのです。
(「Shining Soul 4」は、)最初に読んだときから私を魅了した行進曲です。作品のすべての展開においてテーマとなる素材を精緻に表現する能力、主要な主題と副次的な主題の要素を際立たせるために常に機能している明確で効果的な楽器編成、言語の一貫性は、私がこの作品に注目するきっかけとなった要素です。
正門研一さんの「Shining Soul 4」を一言で表すとしたら「7」です。
主題を特徴づけるマイナー7の音程としての「7」、第2主題のインターヴァリックなマイナー7の展開としての「7」、曲の冒頭を飾るサスペンドされたドミナント7の和音(7sus)としての「7」、曲全体を特徴づける下降した7度の和音(VIIb)としての「7」です。
ケンイチさん、おめでとうございます。私はあなたの行進曲がとても気に入りました。この曲はバンドの世界で大きな関心を呼び起こすと確信しています。可能な限り早くコンサートで…….あなたの前で…….この曲を指揮したいと思っています。
次回の国際行進曲作曲コンクール “Citta di Allumiere “は2023年に開催されることになっていますが、アジアのバンド作曲界への門戸が開かれることを願っています。

Marco Somadossi(作曲家/指揮者)
ウディネ”Jacopo Tomadini”音楽院教授
リヴァ・デル・ガルダ国際コンクール”Flicorno d’oro”芸術監督
国際行進曲作曲コンクール”Citta di Allumiere” 芸術監督

 

インタビュー・文:梅本周平(Wind Band Press)




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