「愛好家にしか通じない言葉ではなく、一般の方にも通じる言葉で」 インタビュー:広島ウインドオーケストラ統括プロデューサー 荻原忠浩さん






先日の定期演奏会ではこれまでを上回る集客に成功し、公演への注目も、存在感も、日々年々と増している感のあるプロ吹奏楽団、広島ウインドオーケストラ。

今回は、広島ウインドオーケストラ統括プロデューサーである荻原忠浩さんにお話を伺いました。

「プロの吹奏楽団の広報とはなんぞや」というメインのインタビューテーマはあったのですが、あふれんばかりの情熱に話は広がり・・・。

それでは、どうぞお楽しみください!


―まずプロの楽団の中で「広報」が担う役割とはなんでしょうか。

基本的には演奏会の告知と、楽団自体の概要をお客様やクライアントに説明するのが広報の担当になりますね。

演奏会の告知に関しては演奏会の度に広報を行うわけですが、プロの場合は依頼公演と自主公演があります。

依頼公演の場合は楽団を「買って」頂いてるので、その公演に関しては主催者側が広報を行います。

主に我々が行う公演広報は自主公演に関してで、また楽団自体をクライアントやお客様に広報するのは紙面やホームページなどを使う二通りに分かれます。

―広報のチームは何人くらいでどんな役割分担になるのでしょうか。アマチュアですと例えば広報係のような担当があり、数人で行うイメージなのですが。

基本、広報は一人ですね。チラシやポスターを作る担当などです。

その他にもホームページ作成担当などがいますが、基本的には一人か二人です。

これは、実は私が今年の春までプロオーケストラの事務局にいたんですけれども、プロオケでもだいたい一人です。

各担当に分かれて打ち合わせはしますが、一般的には「広報担当」と言えば一人、多くても二人ですね。

―先日の第46回定期演奏会(11/12開催)はいつもより多くの集客に成功したと伺っておりますが、広報に当たってまず先に立てた戦略などはありますでしょうか。

他のプロの吹奏楽団では、例えば地方公演ではテレビ局が付いていたりしてCM媒体をお使いになる場合もありますが、本拠地の公演ではチラシとポスターがメインになると思います。

インターネットに関してはたくさんの方が見られるのは間違いないのですが、地域を問わずなので、地域での集客につながるかどうかは別の話じゃないかな、と考えています。

今回、集客が多かった理由の一つとしては、我々が昨年春から始めた「寄付制度」が影響しています。

これは、昨今の貧富格差の影響もあり、特に公立中学校・高校の来場者がかなり少なくなっています。

そこで、地域をあげて、音楽に興味がある、または音楽活動をしている子どもたちを演奏会に招待しようという寄付システムを今年の春から始めました。

広島の企業、または個人の方が広島ウインドオーケストラに寄付することでそうした子ども達を招待するというドネーションシステムを作ったんです。

今回の演奏会では、この寄付制度でご招待した人数は約200名です。

もう一つは、チラシやポスターでお客様が来る、ということはあまり・・・そこまで(来ない)っていう。告知は出来るんですけれども、興味を持って来てくださる方というのはその中の6~7%、場合によってはもっと少ないんじゃないかなと思います。

今回は出演に関して、指揮者の秋山先生が中国地方で吹奏楽を指揮するというのが非常に珍しく、そういったこともあり集客につながったのじゃないかと思います。

―なるほど。寄付制度の準備や指揮者の人選などの積み重ねが結果に出たという感じですね。ところでチラシやポスターはどこに置いたり掲示したりするのが効果的なんでしょう?

きちんとターゲットを絞るべきだと思うんです。

やみくもに配布できるだけの財源は当然どこもないでしょうし、作るチラシの枚数にしても、多くて広島の場合は1万枚くらいだと思います。

そう考えると、例えば今回のホール、エリザベト音大のホールは700名しか入りませんが、ただ1万枚まいたからといって700が満席になるかと言えば、なりませんよね。

だからターゲットを絞り、クラシックの演奏会や吹奏楽の演奏会に挟み込み、というのがメインになりますよね。

これは既に他団体の皆さんもやっていらっしゃると思います。

―そうですね。王道というか、基本、ですよね。他に何か今回の演奏会の広報で行われたことはありますでしょうか。

我々の場合は、秋山先生が出演することもあり中国新聞が公演前に色々と取り上げてくださいました。

もちろん、「記事になるような内容」というのはプログラミングとして考えていますので、そういった部分で、話題性があるようなものだと、バンド・ジャーナルなど雑誌に取り上げて頂けることもありますよね。

―確かにプログラミングによって、記事として取り上げやすいとか取り上げにくいとかっていう差はありますよね。

広島ウインドオーケストラの場合は、プログラミング・アドバイザー(国塩さん)がいるのですが、ここがかなり重要な部分なんです。

演奏、指揮者、ソリストと同じように、プログラミング・アドバイザーというのは凄く重要なポストで、団が何を意図して演奏するかという音楽的・対外的な指針になるからです。

そういったポストをいち早く下野音楽監督の意向で作ることとなり、国塩さんに就任いただいているので、これはかなりの強みだと思いますね。

日本の吹奏楽団で正式にプログラミング・アドバイザーを置いたのはおそらく初めてではないかと思います。

プロオーケストラにはあるんですが、ただ日本のオーケストラに関しては、このポストを事務局長が音楽監督と一緒になってやるというケースが多いです。

吹奏楽に関しては、今までそういったポストがなかったのが不思議なくらいです。

吹奏楽って特にコアなもので、しかもオーケストラと違って何百年という歴史の中で名曲と呼ばれるようなものってまだまだ少ない。発展途上のジャンルだと思うんですよ。

そう考えた場合、きちんとプロが演奏しうる、またコンサートとして成立する楽曲を選定するというのは、本当に卓越した知識と、音楽を理解できる能力のある方でないと難しいですよね。

そういう方が広島ウインドオーケストラにいるということは、大きいですよね。

―普段の楽団の広報としては、どのような活動を行っているのか、お伺いできますでしょうか。

まずはSNSですね。Twitter、Facebookなど。あとはホームページもこまめに更新するようにはしています。

とはいっても基本は年に2回の自主演奏会ですから、そこまで何か大きなトピックスはありませんけれども、ちょっとずつ作るようにはしています。

―SNSではどのような投稿が多いのでしょうか。

我々の捉え方として、ホームページは「硬派」な入口、SNSは「軟派」・・・ではないんですけど(笑)、もう少し緩くやろうかなあ、というのはあります。

ですので、例えば「指導に来てほしい」などの依頼が入った際には、学校側の了承を得て、指導に行ったときの風景などを投稿することもありますし、団員の活動をFacebookでお知らせしたりもします。

ただ名前はキチンと「広島ウインドオーケストラ」とフルネームで入れています。

広島ウインドとかHWOとかではなくて、名前はキチンとフルネームを使用するように団員には心がけてもらうようにしています。

名前をキチンと載せることは凄く大事です。

広報をする、ということは、誰に向けてするのかというと、不特定多数じゃないですか。

コアなジャンルだからこそ、逆にキチンとした名前を出しておかないと、コアで終わっちゃうんです。

だから吹奏楽の世界っていうのはいつまでたっても「吹奏楽ファンのためのジャンル」と一般の方には周知されている。「クラシック音楽」ですらそうなんです。

クラシックの愛好家の人口は国内人口全体の3%だろうと言われていますが、吹奏楽の愛好家となるともっと数値は上なんですよ本来は。20%くらいに上がる。

にも関わらず、吹奏楽の愛好家の20%っていうのは、その中のほぼ100%が演奏する方々なんです。それで、演奏会を聴きに来るということがない。

ということは、我々は、吹奏楽をやっているにも関わらず、演奏会に来ない方にアプローチするのではなくて、残りの80%の一般の方に対してキチンとアプローチしなければならない。

そういうとき広報的には、20%の中でしか通じない言葉ではなくて、100%に通じる言葉を発信しなければいけません。

ですから、名前というのはキチンと出す、というのを心がけています。
広響みたいな愛称もないですし。(笑)

―プロ団体の広報活動の中で、団員の方々に心がけるようにお願いしていることや、心構えなどはありますでしょうか。

これはままあるんですが、メンバーそれぞれが「音楽家」という職業が一番に立つはずなんです。

プロのオーケストラの場合は会社ですから、そういった会社という団体に所属してらっしゃる方は自分たちがその会社の人間であるということを強く意識しているんです。

例えば「広島ウインドオーケストラの人間です」と、音楽業界の中で言えば通じるんです。プロの演奏家の方たちであれば「広島ウインドオーケストラ」と言う名前は周知してくださっています。

ですが、「広島ウインドオーケストラ」と一般の方に言っても通じない。こんな場合、表に楽団の名前を出さないですよね。「トランペット奏者の○○です」と言う風になってしまいがちです。

なので、我々の場合はお金をかけてキチンとしたパンフレットを作りました。自分たちの団体を世に理解いただくためのツールですね。

そういったものを今まで音楽業界はないがしろにしていたんですよね。紙一枚とか。そうではなくて、しっかりとしたブックレットでやる。

これまでそういった広報にかけるお金というのは一番隅っこに追いやられてきました。

ですが、広報というのは本当に大事なことであって、自分たちのことをきちんと説明できる時間はほとんどないですから、そういった時に家に持ち帰っていただいて、読み物として見てもらえる、しかもそれを捨てずに持っておいて、「こういう団体があるよ」と他の人に紹介できるような、そういったものを昨年作りました。

「トランペット奏者の○○です」と名乗ったときに「広島ウインドオーケストラで演奏しています」と言ってそのパンフレットを出せれば、名刺レベルではなくて、団員が「我々はこういう団体なんです」と説明できなくても、ちゃんと読んでもらえる。

そういうものを皆様に持ってもらう、というのは大事ですよね。

―アマチュアバンドの広報担当者へアドバイスをいただけますでしょうか。

チラシやホームページ以外の広報をテレビでやったとしても、あまり訴えるものではないんですよ。

やはりネームバリューはとても大事ですよね。そのネームバリューがない場合、まあ我々がそうなんですけれども(笑)、どうするべきかと言ったら、間違いなく地道なクチコミと理解者を増やす、という作業しかないと思います。

自主演奏会は我々の場合は年に2回しかないですけれども、その公演に行き着くまでの、音楽以外の下地作りを専門にする担当が、プロオーケストラや吹奏楽団にもほとんどいないわけです。

僕がやっているのは、吹奏楽に全く興味がない方に、吹奏楽とは何かのご案内をすること。これは地道に色々な扉を叩いて足で稼ぐしかないわけです。

そういう地道な活動をしないと広められない、しかしそれをやったからといって広まるものでもないです。ただ自分たちが持っている情熱とかが伝われば、ほんのちょっとずつなんですけれども、興味を持ってもらえる人は出てくる。
ただしアマチュアの方に言いたいのは、その公演内容がとても大事だと思うんです。

もちろんプロみたいな演奏をしろと言っているわけでもないし、プロもアマチュアの方が納得される演奏が出来ているかも別ですが、その一つ一つのコンサートに対しての「自分たちがやる意味」をしっかりと考えて、一つ一つ大事にやっていく。

一般的に定期演奏会といえば好きな曲を選ぼうとか、パターンやルーティンにハマりがちなのですが。それよりも本当にアピールできる内容をしっかりと考えながら、発信性や地域貢献性など、色んな角度で自分たちができることをもっともっと模索したほうが良いのではないかと思います。

チラシとか広告媒体は一つのマテリアルとしては大切ですけれども、それだけではもう立ち行かないような情報社会になっています。ネットだけでなく街中でもパッと見てよほどインパクトのある映像でもない限り、立ち止まって見て頂ける方はもうほとんどいなくなっています。そういう意味では、広告媒体を使うよりは、もっとローカルな人間関係を構築していけば、変わっていくのではないでしょうか。

それが我々の場合は今回の定期演奏会につながったんじゃないかな、と思います。
―最後に、広島ウインドオーケストラが目指しているものについてお伺いできますでしょうか。

先ほど申し上げましたように、我々の活動は吹奏楽愛好家だけに向けた発信ではありません。ただし、吹奏楽を本当に好きな人なら、もっと色々知って(聴いて)貰ってもいいんじゃないかなとは思うんです、吹奏楽をするために。
ジャズであったりロックであったりポップスであったりクラシックであったり。

吹奏楽音楽しか知らないというのは偏ったモノの見方や考え方にもつながると思うんですよね。

もちろん多くの優秀な指導者の方はそうではありませんが「吹奏楽だけやって、吹奏楽に憧れて」というアマチュアの指導者の方は、もしかすると吹奏楽の世界でのみ通用する言葉での「吹奏楽」をやってらっしゃることがままある様に感じます。

それが逆を言えば、色んな音楽ジャンルの人たちを吹奏楽から遠ざけてしまう要因にしているのかもしれません。

僕は吹奏楽はクラシックだと思っているんです。クラシック音楽の作曲家が曲を作っているし、クラシックから派生しているもの。ということは、もっとクラシック音楽というものも勉強なさったほうが良いと思います。

一般的には吹奏楽=警察、消防、自衛隊、もしくは学校(教育)での音楽でしょ、という風に見られがちです。

ですが、メンデルスゾーンやベルリオーズやホルストといった偉大なクラシックの作曲家は音楽として吹奏楽曲を残しているわけですよね。

ホルストは昔からよく演奏されていますが、メンデルスゾーンやベルリオーズは最近あまり聴きません。

もっと言えば、モーツァルトが作った13管、リヒャルト・シュトラウスが作った13管の音楽も吹奏楽です。

そういうものを知らなかったり興味を持たなかったり、というのが吹奏楽界にはありがちです。またそれらの音楽を追求し指導できる方も少ないかもしれません。

モーツァルトが作った吹奏楽(管楽器のみ)の曲を吹奏楽愛好者が勉強しないのはナンセンスではないでしょうか。

私が中学生の頃はまだまだクラシックのなかの吹奏楽というジャンルだったと思うのですが、昨今吹奏楽市場が巨大になってしまったがため、吹奏楽しか知らない作曲家の方がコンクールやそれに付随したもののためにだけ曲を作り、良いか悪いかは別として、例えば一つの団体がコンクールで良い賞を取ったらそれが爆発的に流行る。

それはそれで悪いことではないのでしょうが、その世界だけを追って行ってしまうと、音楽が先ではなく、対象の公演が先に存在する音楽がたくさん残ってしまう。そうなると音楽愛好家の方が離れてしまう。音楽的な評価をなさらないんですね。

下野さんも国塩さんもクラシックの世界の人間ですし、メンバーもクラシックの世界でも演奏している人間ですから、「吹奏楽はこれでいいのかな?」という「ハテナ」は皆持っていたんです。吹奏楽はもっと音楽として何か出来るんじゃないかな、という。

ちゃんとした作曲家がちゃんとした曲を作り、演奏者はそれをちゃんと勉強し理解して演奏する。求めていたのは「きちっとした」吹奏楽音楽を聴きたかったんですよ。

これがまだ吹奏楽の世界では決定的に足りないと感じます。
ただし、これをやったら吹奏楽は「物凄く素晴らしい音楽」ということも分かりましたね。

優れた音楽性を持った吹奏楽作品というのは沢山あり、素晴らしい作曲家の方もいる。それをもっと世にきちっとした形で出す、というのが広島ウインドオーケストラの役目だと思います。

それを広島ウインドオーケストラがしっかり認識して、5年前に下野さんを音楽監督に迎え、それからは何かが動き始めたと思います。

少なくともプロ音楽団体が認識してくださるようになりましたし、プロの管打楽器奏者の方で「広島ウインドオーケストラ」という名前をご存知ない方はいなくなったと思っています。

たった5年ですけれど。


インタビュー・文:梅本周平(Wind Band Press)


まとめ:

下野竜也氏が音楽監督に就任して以降、破竹の勢いの広島ウインドオーケストラ。

もちろん団員の皆様を含め関係者各位の努力の賜物だと思いますが、大躍進の陰に荻原さんあり!という感じですね。

吹奏楽への熱い思い、使命感をひしひしと感じる、お話を伺いながら鳥肌が立ってしまうようなシビれるインタビューでした。

なんとなく横浜DeNAベイスターズを地域の大人気球団へと変貌させた池田純さんのお話と被って見えました。

今後も広島ウインドオーケストラの活動から目が離せませんね!


広島ウインドオーケストラ プロフィール

1993年広島ウインドオーケストラは広島を中心に活躍するプロ演奏家により吹奏楽の素晴らしさ、そして音楽を通じ平和への願いを発信するため結成された。同年10月第1回定期演奏会を開催。このコンサート以降、年2回の定期演奏会を開催する他、学校公演、慰問コンサートといった地域に根差す活動だけでなく、県内外からの依頼コンサート等現在までその活動範囲を広げている。

1999年第11回定期演奏会が世界音楽祭“オーガスト・イン・ヒロシマ”の一環公演となる。2003年吹奏楽名曲集「バンド・クラシックス・ライブラリー」(ブレーンミュージック)の第1弾CD「春の猟犬」が発売、このシリーズは2009年までに全12弾が製作され、現在も販売中のロングセラーとなる。結成10周年記念第20回定期演奏会ではユニセフ難民救済チャリティー募金事業を行う。2011年 下野竜也が音楽監督に就任。“邦人作品”・“芸術性を追求した吹奏楽”を核とした意欲的なプログラミングが始まる。下野&HWO初となるCD「兼田敏ウインドオーケストラのための交響曲」はレコード芸術誌の特選版として話題を集め、音楽の友社第49回「レコード・アカデミー賞 特別部門 吹奏楽」を受賞。日本管打・吹奏楽会第23回アカデミー賞(演奏部門)、第35回広島文化賞、2014年度広島市民賞を受賞。

しなやかで美しいサウンドと意欲的なプログラムが各方面から注目を集め、吹奏楽の新たな可能性を感じさせるプロフェッショナル吹奏楽団として、さらなる躍進を続けている。




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