2020年9月6日に若手女性演奏家にスポットを当てた室内楽コンサートシリーズ「私たちと音楽を。」の第1回目を開催する、フリーランスのクラリネット奏者の川崎愛さん。
自身も「若手女性演奏家」である川崎さんに、ご自身のこと、また「私たちと音楽を。」のことなど、色々と伺ってみました。
―最初に川崎様のこれまでの経歴や活動についてお伺いしたいと思います。1992年石川県のご出身で、東京音楽大学を卒業されていますが、フリーランスのクラリネット奏者として活動される前にWebメディアのプランナー、広告代理店での勤務を経ていらっしゃいますね。少し珍しいパターンかなと思うのですが、大学卒業後のお話や、フリーランスのクラリネット奏者として活動を始められた時期と、そのきっかけや転機、クラリネット奏者としてのこれまでの主な活動などについてお伺いできますでしょうか。
川崎:私が大学卒業後に一般就職と、広告業界に進んだきっかけからお話させていただきますね。
私は大学3年の時点でコンクールでの入賞経験も少なく、当時から音楽での仕事を十分にいただいていた訳ではなかったので、この実力ではオーケストラにも就職は厳しいし、フリーランスの演奏家としてもすぐに活動するのは難しいだろうと考え、卒業と同時に一般就職をして、演奏活動も並行していこうと考えていました。
大学2年次に、高校時代の同級生で文化服飾学院の友人と、金沢美術工芸大学の友人と共に、原宿のデザインフェスタギャラリーという道路に面したギャラリーを借りて生演奏付きのファッションショーを企画したことがあります。原宿という土地柄もあり、多くの方に足を止めて見ていただくことができましたが、イベントの告知の方法だったり、イベントの収益化というところまでは全然知識がなくて。その時はやみくもに実施したというだけで、次につなげられなかったという反省がありましたね。
その時の経験を通じて、生演奏の魅力を広げることや、他のジャンルとのコラボによる新しいエンタテインメントの可能性の発掘、またそれをより多くの方に知ってもらう活動がしたいと考えるようになり、広告業界に進もうと就職活動をはじめました。
大学を卒業後、新卒入社した会社から転職しウェブメディアのプランナーになりました。仕事が広告業界ということもありかなり忙しかったので、演奏活動はなかなか思うようにはできなかったのですが、たまに友人や先輩の主催するオーケストラや吹奏楽団体に奏者として呼んで頂いたりして続けていました。
その後、広告代理店に転職したのですが、激務がたたって身体を壊してしまって。うつ病と、線維筋痛症を発症してしまいました。線維筋痛症は身体中が激しい痛みに襲われる病気なんですけど、当時は楽器を吹くことはおろか日常生活が困難な状況に陥って。国立病院でMRI検査などもやって頂いたんですけど、原因不明で治療方法もわからないと言われ、いろんな病院をたらい回し状態でした。一時実家に帰って治療に専念したりしていて。寝ている状態でも身体が痛くて。大変でしたね。
今も治療中ではあるのですが、幸い相性の合う病院と治療法が見つかって、だいぶ回復してきています。楽器も吹けるようになりました。
病気になって、楽器がこのまま一生吹けないかもしれないと思って。それがすごく怖かったし、悲しかったです。その時に、私は楽器がやっぱり吹きたいし、このまま広告業界で働き続けるだけではなくて、広告業界で学んだことを音楽業界に還元していこうと決意しました。そのあと休職を経て退職し、個人事業主として独立しました。広告やSNSなどのお仕事をしながら、演奏活動も本格的に再開しました。それが、25歳くらいの時だったと思います。
演奏活動を再開してからは、まずは病気の時に本当に支えになってくれた地元に恩返しがしたいと考え、石川県をアートや音楽で盛り上げる活動をするべくcome home Kanazawa PROJECTを立ち上げました。これまで、地元市民に愛されるラーメン屋さんでの音楽ライブの企画・演奏や、イラストレーターとの音楽演奏に合わせたライブペインティング、能登地方のローカル線「のと鉄道」での音楽ライブなどを石川県出身のアーティストやクリエイターたちと共に企画し、自身も奏者として出演してきました。出演者も私も、普段は東京や他の地域に住んでいるので、come home Kanazawa PROJECTでの活動は、出演者が帰省できるタイミングで開催しています。
come home Kanazawa PROJECTのウェブサイト
https://comehomekanazawaproject.localinfo.jp
また、アプリ(イチナナライブ)での演奏配信や、YouTubeなどでも配信しています。持病もあるので、オンラインでの活動は自分のペースでできるところがありがたいですね。
Youtubeチャンネル
https://www.youtube.com/channel/UCocjUeEBvmuWul96oRvdqzw
―現在も演奏活動と同時に広告・企画プランナーとしても活動されていますが、具体的にはどのようなお仕事の依頼が多いですか?
川崎:企業に勤めていた頃は、大手企業のクライアント様のプロジェクトも担当させていただくことが多かったです。当時から、SNSを活用して情報を広めていく若年層向けのプランニングを得意としていました。手がけたプロモーションとしては、SNSを活用したプロモーションで、映画のターゲットとしていた年代の来場者率が例年より10%向上した事例があります。
フリーランスになってからはSNSのお仕事や、企画のプランニングのお仕事が多いです。企業に勤めていた時の経験を活かして、企業様のSNSを私の方で担当させていただいていたり、音楽事業会社の新規事業の企画をさせていただいています。音楽を掛け合わせた新しい事業の企画とご提案ですね。
アイデアを出したりプロジェクトをまとめていくのは得意な方だと思っています。実行や推進していくのは苦手な方で、企画を推進してくださるディレクターさんを随時募集しています。。。笑
―2020年9月6日には「私たちと音楽を。」という企画の第1弾のコンサート「クラリネットとピアノによるデュオリサイタル」が控えていますが、「私たちと音楽を。」という企画について伺いたいと思います。公式サイトを見ると、コンセプトとして「若手演奏家にスポットをあてたあたらしい室内楽コンサートシリーズ」とあります。また新型コロナウィルスにも触れられており、これをきっかけとして始まった企画なのかなという感じがありますが、もう少し詳しく、企画を始められた目的や背景、若手演奏家にスポットをあてた理由についてお伺いできますでしょうか。
川崎:コロナ禍でまわりの演奏家たちの仕事が激減し、演奏をメインで活動していた方にとってはほぼ失業状態になりました。自分も含め、そういった仲間たちへのわずかかもしれないですが一助になればという想いがありこの企画を立ち上げました。
今後はゲストの演奏者の数も増やしていく予定です。第2弾は12月に、5人のゲストを招いて開催予定です。
また、特に女性にスポットをあてた理由なのですが、女性が演奏活動を続けることの難しさを課題に感じていました。若さや華やかさでお客さんを集められているという面も正直大きく、今後の不安が大きくなりやすいです。女性特有のものとして結婚出産を経て状況も身体的にも変化が起こりやすいですよね。時間的にも身体的にも余裕がなくなり、なかなか演奏活動を続けたくても続けられなかったり、復帰する頃には若手に仕事が取って代わられていたり。そういった背景も踏まえ、今出演してくれている若手女性演奏家たちとは長く付き合っていきたいと考えていて、結婚や出産を経ても復帰できる場として、このコンサートを活用してほしいと考えています。
それから、技術力の高いクラシックの若手演奏者は本当に多いのですが、なかなか披露する場が少なく、埋もれていってしまうことも少なくないという厳しい現状があります。若手奏者の発掘の場として、ゆくゆくは若手女性演奏者にとっての登竜門的な立ち位置になれると嬉しいですね。
―9月6日の野原舞花氏との「クラリネットとピアノによるデュオリサイタル」の聴きどころを教えて下さい。
川崎:プログラムのメインであるブラームスのクラリネットソナタです。
この作品はブラームスの最晩年の作品で、創作意欲を失い作曲活動を中断していた時期にクラリネット奏者の演奏に魅せられ作られた曲です。晩年のブラームス作品は彼の孤高の心境、死をも感じる諦めたようなそして逆に安堵したような表情、ほの暗い情熱、その深い哀愁が多くの人を魅了しています。そんな哀愁を感じながらも最愛の人クララに向けたラブレターのようにも感じられる美しく愛情深い作品でもあります。20代の私たちがその深い感情を若いながらの解釈で演奏します。どのような演奏になるのか楽しみにしていていただけると嬉しいです!
また2部では映画音楽、タンゴやイージーリスニングなど、普段クラシックのコンサートに行かない方にとっても気軽に楽しめる素晴らしい楽曲たちを集めました。これを機にコンサートに足を運んでくれる方が1人でも増えて欲しいという願いを込めて、一曲ずつ大切に演奏いたします。
クラシックの魅力、生演奏の心地よさ、癒しを体感しにぜひ聴きにいらしてください。
また、ゲストでお迎えしているピアニストの野原舞花さんとのアンサンブルにも注目していただきたいです。彼女と私は大学時代の同期で、これまで共演したことはなかったのですが、演奏能力の高さと伴奏のセンスの良さは彼女の出演するコンサートを聴きにいっていて感じていて。いつかリサイタルを開くとしたら、野原さんにお願いしたいとずっと思っていました。
コロナでの自粛期間中に、ホールでの無観客コンサートに出演しないかとお声がけいただいて、伴奏を野原さんにお願いする予定でした。そのコンサートは結局都合がつかず出られなかったんですが、野原さんといつかどこかで共演したいねと話していて。それがそのまま今の活動に繋がっていった感じです。彼女には、この団体の副代表も務めてもらっています。対応も早くて、とても進めやすいと感じています。そんな野原さんとなら、息の合ったパフォーマンスをご披露できるのではないかという手応えがあります。
―現在のところ、「私たちと音楽を。」は12月と来年(2021年)3月にもコンサートを予定されていますが、プレスリリースでは「ストリーミングサービスも活用していきたい」ということも書かれていましたね。今後の展開について、実現するかどうかは別として、現時点で考えられていることについて可能な限りで教えて頂けますでしょうか。
川崎:出演者をどんどん増やしていきたいです。
コンサートシリーズを始めたきっかけの部分でもお話させていただいたのですが、技術力の高い若手演奏者は本当に多いものの、披露する場が少なく、埋もれていってしまう人も少なくないという厳しい現状があります。そんな状況を、なんとか少しでも変えていきたいです。
12月は5人のゲストを招いて開催する予定です。公式HPでも告知させていただくので、チェックしていただけると嬉しいです。
公式ウェブサイトはこちら
https://watashi-muse.studio.design/
また、お客様にお越しいただくコンサートと、ストリーミング配信とのハイブリッドのコンサートはやってみたいと考えています。
すでに著名な方はやられている方もいらっしゃるんですけど、個人単位での企画のコンサートだと、機材の手配や、それを扱える人材の確保や、それらにかかる費用の工面など、課題も多くて。
withコロナ時代の音楽業界にとっても、新しい販路の確保として配信サービスをうまく活用していくことは必要不可欠だと思っています。ただ、配信のクオリティを担保してお客様に新しいサービスとして提案していくには、試行錯誤がまだまだ必要です。人脈のネットワークも必要という所が課題だと感じています。
また、私が女性奏者にスポットを当てた理由の一つでもあるのですが、「私たちと音楽を。」を、彼女たちが長く活動できる場所として活用してほしいです。どういう形で実現できるかはまだ手探りなのですが、結婚や出産といったライフステージの変化を迎えて育児休暇などを取ったとしても、演奏活動を再開した時に気兼ねなく戻ってこれるような場所にしていきたいですね。そのためにもコンサートの認知度をまず上げていきたいですし、活動を応援してくださる方を多く募っていきたいです。それはプロデューサーでもある私の仕事なので、頑張ります。
―最後になりますが、川崎様の同年代またはさらに若いフリーランス奏者の方や、音楽大学の学生、さらには学校の吹奏楽部で楽器を楽しんでいるという若い奏者の方に向けて、今一番伝えたいメッセージをお願いします。
川崎:私のように、一つの選択肢として、複業や、兼業して音楽活動をする方が増えていってくれたらいいなと思っています。
私が尊敬している、トロンボーン奏者で社長でもある藤井裕樹さんが、
「時代は刻々と変化しているので、これからの日本はもう少し多様な生き方、複業、副業をもちながら音楽を仕事にする人が受け入れられる社会になってもいいような気がしています(日本はまだまだ、専業でやっていないと負け組のレッテルを貼られる風潮を感じます)。」
とブログでお話しされているのですが、その通りだと思っていて。
(藤井さんの運営されているブログ、若手演奏家にとって目から鱗のことがたくさん書いてある素敵なブログなのでぜひ読んでみてくださいね!)
https://mtfujimusic.com/5031/
吹奏楽部などで活躍されている若い奏者の方へは、「ずっと音楽と共に。」という言葉をお贈りしたいです。
これ、私が師事していた先生に大学卒業のタイミングでいただいた言葉で、今も大切にしているんですけど、すごく素敵な言葉だなと思っていて。どんな方法であれ、プロアマ問わず、音楽と共に歩んでいってほしいなと思います。聴く専門でももちろんいいですし、演奏者でもいいですし、サポートする立場でもいいですし。何かしら音楽と関わり続けてほしい。それが、全体としての音楽人口を増やし、音楽業界を支えていただくことにも繋がっていくと思っています。
最後に、宣伝になってしまいますが、笑
「私たちと音楽を。」では、若手女性奏者でコンサートに出演してくださる方を随時募集しております。
私の方で実力を拝見させていただき、この方は!と感じた方にお声をかけさせていただいております。
ぜひ、一緒に素敵な音楽を作っていけたらと思っております。
こちらより是非是非、ご応募くださいませ。
https://watashi-muse.studio.design/recruit
本日はありがとうございました!
インタビュー:梅本周平(Wind Band Press)
以上、川崎愛さんへのインタビューでした。
新型コロナウィルス(COVID-19)による影響はまだまだ大きく、特に音楽の分野でも多くの方が仕事を失ったり収入が大幅に下がったりと苦しんでいる現状があります。理想論として「ああすればいい、こうすればいい」という意見はいろいろな場所で山ほど出ているのではないかと思いますが、何事も考えることは難しいことではなくて、実行するのが最もエネルギーが必要で、難しいことだと思います。
川崎さんが「私たちと音楽を。」というプロジェクトを実行に移したその裏にある動力のようなものを知りたいなと思い今回インタビュー取材をお願いしたのですが、「助けられた」という想いが強い人は、「助ける」側にまわるときや「他人の役に立ちたい」と思って動き出す時のエネルギーが凄いです。なるほど、と納得できる背景がありましたね。
このプロジェクトが長く続いていくように、ご興味のある方は演奏会に行くなどしてサポートしてみてください。
■「私たちと音楽を。~クラリネットとピアノによるデュオリサイタル~」
日時:2020年9月6日(日) 19:30開演 19:00会場
会場:江東区江東公会堂 ティアラこうとう 小ホール
入場料:大人¥3,500 学生以下¥2,500
チケット購入方法:
チケット販売サイト
https://passmarket.yahoo.co.jp/event/show/detail/01kve6111n8qw.html
出演:川崎 愛(クラリネット)、野原舞花(ピアノ)
プログラム:
ブラームス:クラリネット・ソナタ第2番
映画音楽(ニュー・シネマ・パラダイス)など
主催・お問い合わせ:私たちと音楽を。運営事務局
E-mail:i.kwsk.cl@gmail.com
私たちと音楽を。公式サイトはこちら。
https://watashi-muse.studio.design/
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