「この時の自分の音、大好きだなって」演奏家インタビュー:1stアルバムをデジタル再リリース!サクソフォーン奏者、佐野功枝さんにインタビューを行いました




Wind Band Pressでも何度かインタビューをさせていただいている、サクソフォーン奏者の佐野功枝さん(メインはテナーとアルト)。

2024年9月24日に、1stアルバム「Fairy Tale」をデジタル再リリースされるということで、あらためてこのアルバムを中心にいろいろなお話を伺いました。

 


― 今回はデジタル再リリースされる1stアルバムの話を中心に、ベーシックな質問も少しさせていただければと思います。

佐野:お願いします!

― まず、今回再リリースされる1stアルバム「Fairy Tale」、CDではなくてストリーミングという形ですね。あらためて、このアルバムを出された当時のことを少し振り返って頂きたいと思います。かなり前のことになるかもしれませんが・・・

佐野:そうですね、15年前です。

― 15周年記念。

佐野:そっかそうだ。そう言えばいいんだ。15周年。気づかなかった(笑)!

― 元々このアルバムを出すきっかけになったことはありますか。

佐野:その当時、名古屋では特に、クラシック(サクソフォーン)奏者でアルバムを出してる人がいなかったかな。うん。ただ、東京の方ではちょこちょこと同世代の友人たちがアルバムを出していたので、挑戦してみようっていうのがありましたね。

― その時はプロの演奏家としてキャリアを始めてからどのくらいの頃だったのでしょうか。

佐野:始めてまだ10年経ってないですね。リサイタルを初めて開催してからは 2~3年ぐらいの頃です。まだ中堅と言われるちょっと手前ぐらいの頃ですね。

― それ以前はどのような活動をされていましたか?

佐野:その前は音楽教室の先生とか、ソロリサイタルもやっていました。あとアリオン・サクソフォーン・カルテットも組んでいて、四重奏もやって、吹奏楽では「名古屋アカデミックウインズ」をまだ立ち上げてないくらいですね。別の、もう消滅してしまった団体で活動していました。消防音楽隊にも入ってないぐらい(注:佐野さんは現在一宮市消防音楽隊委託演奏員)。でも、そもそも何もやってない頃ですね。

― 何もやってないわけではないと思いますけど(笑)。 プロになるきっかけみたいなものは何かあったのでしょうか。

佐野:アリオンかな。元々音大に行ったのも、吹奏楽部の先生、教員になりたいと思っていたのですが、だんだん音大で勉強しているうちに、その夢も違うなって思って、ふらふらしていて。このまま音楽教室の先生でいいかな、って思ってたところにアリオンを結成して、メンバーのすごい活動を見ていて、私もやってみたいなって思ったのが20代後半です。そこから本気でやろう、演奏活動しようと思って、それがきっかけでしたね。カルテットを組んだのが。

― 音大にいたのはいつ頃ですか。

佐野:もう卒業して22、3年ですね。20代前半です。それで、20代後半にカルテットを組んで、そこからですね。

― それ以前はどうされていましたか。いつ頃からサックスを始められたのでしょうか。

佐野:サックスは中1ですね。中学1年生でバリトンサックスが吹きたくて始めました。大きい楽器かっこいいと思って。その前はピアノは5歳からやっていて、「嫌だったらやめていいよ」って言われて入ったのに、「嫌だからやめる」って言ったら、母親に「そんなことは言ってない」って言われて(笑)、音大受験の際に必要だったのでありがたかったですけどね。小6の頃は金管クラブでトロンボーンを吹いていました。

― そうだったんですね。

佐野:小学校にはなくて、サックスが。見たことなくて、小学校の時、ソプラノサックスがある学校ををみんなで「金のクラリネットがあるお金持ちな学校だね」って言ってたぐらい。それで中学校はバリトンサックスで入ったんですけど。小柄なのですぐ冬にはアルトサックスにコンバートされて、そのあとは中2の秋からソプラノを吹いていました。

― テナーは高校に入ってからですか?

佐野:いえ。全くなんですよ。私テナー大嫌いだったので。絶対吹きたくないと思ってて。高校も1年生の時、コンクールで先輩たち5人全員が「バリトンやりたくない」って言ったので、「じゃあ私やる」って言ってバリトンを吹きましたけど、冬のアンサンブルではアルトに戻ってきてって言われたので、中学と同じですね。そのままアルト。高2はソプラノ。

― では、テナーを始めたのはいつ頃からなんでしょうか。

佐野:なんと21歳です。音大の大学3年生の時に先輩に「カルテットを組みたいからテナーをやって」って。嫌だって言ったけど(笑)。

― それが運命の出会い、ターニングポイントでしたね。

佐野:そうですね。もう25年です。

― テナーは25周年なんですね。今回再リリースの1stアルバムはアルトですよね。

佐野:アルトなんです。まだね。当時はそんなテナーをバリバリ吹いてなかったんです。アルトとソプラノの方が多かったので、テナーでアルバムなんて考えてもなかったですね。

― では次に、まだ佐野さんの音を聴いたたことがない人もいらっしゃると思うので、あらためて今回の1stアルバムの聴きどころを教えていただけますか?

佐野:1stアルバムは自分的にすごく気に入っています。音がすごい好きで、柔らかいなっていう、なんかホッとするなって。この時の自分の音、大好きだなって。それから、初めて作曲家の方に委嘱した思い出のアルバムでもあります。山里佐和子さんに作ってもらった曲があるんです。本当に初めて、作曲家さんの吹奏楽の曲を聴いて、「この人にソロ作ってほしい!」と思って、突撃して作ってもらった作品だったりするので。若々しい感じの初々しさと柔らかい音が売りだと思います。あと、ほっこりするかな、癒し系と思って作ったので。

― ジャケットもそんな感じですよね。

佐野:そうですよね。とにかく柔らかい癒し系です。

― もう少し追加で質問させてください。いろいろな方に伺っているのですが、佐野さんにとってのサクソフォーンの魅力ってなんでしょうか?

佐野:表現ですね。表現しやすい。自分が歌ってるようにそのまま吹けるところですね。私はサックスが好きだから吹いているというよりは、 音楽が好きで、たまたま出会ったのがサックスだったという感じなんです。本当はオーボエとかファゴットの音の方が好きなんですけど。

― そうなんですね。

佐野:そうそう。ルネサンスの曲とか、古い昔の教会音楽とかが好きです。サクソフォーンでそういう音楽ができないのはもどかしいのですが、自分の声のように扱えるのが好きですね。

― 海外の作曲家や演奏家の方とやり取りをしてると、「声」というキーワードがよく出てきますね。

佐野:テナーに関しては、 私は自分の声が高いので、声というよりはチェロの音を意識しています。チェロ奏者のペレーニ(ミクローシュ・ペレーニ)が大好きなんですけど、ああいう、無理しないで出てくる音になりたいなって思って。テナーのそういう深い音めちゃくちゃいいなって。うん、テナーが大好きですね。

― 今はもう好きになったんですね。

佐野:本当に(笑)、昔は「こんな楽器なんだよ」って思ってたんですけど、今はもう、テナーの依頼ならやりますけど、アルトやソプラノとかで依頼されると、ちょっと考えるみたいな。
あんなに大好きだったの不思議なもんですね。
あと、吹奏楽になったりカルテットになったりする時に、私は引っ張っていくんじゃなくて、 ハーモニーを作ったり支えたりするパートが好きなので、それが今やってるアルトやテナーはそういう「支える、ハーモニーに混ぜる」など色々に変化できる。メロディも吹けるし、伝える一部にもなれるのがサックスのいいところだなって思います。

― 今回のアルバムとも絡むんでくるのですが、今後のことで、CDが厳しい時代ですけども、例えば2枚目の「イルミネーション」もストリーミングの予定はあるんでしょうか?

佐野:2枚目はフロレスタンから出していただいてるので、社長と相談ですね。でもゆくゆくは配信したいなと思います。やっぱりCDは売れない時代なので、今回この1stをやってみて、このやり方は面白いなと思っています。ほかにも、配信のために録音して新たにアルバムを(デジタルで)出すとか。あとは、今までどこにも出してないリサイタルのライブ録音ストリーミングで配信していくのもありだなと思っています。

― 3枚目のアルバムを出すかもしれないけど、物理ディスクでは出さないかもしれないってことですね。

佐野:うん、そうですね。出さないかな。もし(物理ディスクで)出したら、誰か協力してください(笑)。時代に即して・・・「時代に抗うぞ」って思ってたんですが、時代のニーズに応えていくことは必要で、自分も進化していかなきゃいけないなと思っています。その第1作目が今回の1stアルバムの再リリースですね。

― CDを作ってほしいという声もあると思うのですが、それに合わせてCDを大量に作っても余ってしまいますよね。

佐野:私も現物を持っていたい派なのでCDを作りたいんですが、最近はお家にCDを聞く オーディオないとかいう話もありますよね。自動車ももうCDスロットがない車が増えています。そういう時代ですね。

― ありがとうございます。もう少し質問させてください。おそらくこのインタビューを読まれる方は、プロの奏者よりも アマチュアで団体の中でやってる方が多いと思うんですよね。そういう方に向けての質問になります。楽団の中のメンバーとして、舞台に上がる時、その前の練習時に、特に注意してることや心がけてることはありますか?

佐野:舞台はとても緊張するので、事前に自分たちの練習を録音して、それを聴きながら合わせて練習したりしています。あとは「巨匠に学ぶ」みたいに1人で練習しています。例えばアルフレッド・リードの曲をやるなら、過去のリードの作品の録音を出してる団体の録音に合わせて吹いてみるとか。やっぱりテナーってメロディーでもなく、どこかのハーモニーを取ってたりするので、そうやって1人でまず練習した後、その合奏の練習。合奏練習に重要度があるなと思っているので、それを録音して、それに合わせて+巨匠に学ぶっていうのをやってます。あとは、合奏練習する際に、もちろんスコアも見ていますけど、それ以外にも、後ろに目がある感覚があって、ユーフォニアム、クラリネットの3番、ホルンなど、動きが同じこと結構あるので、そちらに目が向いてるっていうか。指揮者も見てるけど、かなり周りを意識して吹いています。音程も気にして、その「メロディ楽器でない役割」をしている人たちとの連携を感じるようにしています。

― 次にプロになってからの話です。プロとしてやっていこうとなってキャリアを重ねていく中で、演奏家として人生の転機になったようなことはありますか?

佐野:さっきお話したアリオンは1つの転機ですね。あとは、愛知、名古屋で活動していて、ちょっと外の世界を見てみようって思った時期が、2枚目のアルバムを出すちょっと前ぐらいですかね。10年ぐらい前に、東京の同世代の奏者から影響を受けました。特に河西麻希ちゃんからの影響はすごく大きくて、彼女と出会って一緒にデュオを始めたのが13年前。彼女の同じような働き方、活動の仕方を見て、感化されましたね。あとは、2枚目のアルバムでピアノ弾いてくれている、THE ALFEEのツアーに帯同されているただすけさんとか、全然別の世界を見て、「ああ、私もああいう風になりたい」みたいな、子供みたいなことを思って。その辺り、30代前半の頃にそういう東京のアーティストさんたちと関わったことで、世界がもっと広がって、色々やることあるなって。そこが転機でしたかね。あとは今、 自分は教育の方にもかなり気持ちが向いています。名古屋アカデミックウインズを組んだのも、いろいろな作曲家さんに出会えたとか、知らない曲に出会えたとか、転機ではあったのですが、その後、名古屋音楽大学の非常勤講師になったことで、人生の方向性が変わりました。自分が頑張るだけじゃなくて、将来プロになりたいとか、音楽の先生になりたいとか、指導者になりたいという、サックスを勉強している子たちに、どんなことを教えてあげたら、その子たちの道が開けていくかなっていうことを、ここ数年はかなり考えています。奏者から教育者になる転機があった感じですね。

― これでおそらく最後の質問になります。さきほどチェロ奏者のペレーニの名前が上がっていましたが、ご自分の演奏に強く影響を与えた他の演奏家はいらっしゃいますか。

佐野:折々にいまして。自分の師匠、雲井雅人先生は、高校生の時に演奏を聴きに行って、というわけではないのですが、違う方の演奏を聴きに行ったら、先生もたまたまそこで演奏されていて、聴いたことのない音色でびっくりして。サックスってこんな音出るんだって。だからもう根本というか、自分の芯を作ってる奏者は雲井先生ですね。今でも先生大好きですし、先生の音を聴くと安心します。先生の姿をずっと見ていて、もがきながら、いろんなことを工夫して乗り越えて、っていうのも見ているので、かっこいいなと思います。
その後だとやはり名古屋アカデミックウインズを指揮して頂いている仲田守先生ですね。テナーの音が素晴らしい。特にキャトルロゾーの初期の頃のアルバムの音。生ではちょっと自分が子供すぎて聴いたことがなくて、CDをいつも聴いてたんですけど、あの音は羨ましいな。あんな音になりたいし、あんな音を今も出せる先生に嫉妬します。サックスだとその2人ですかね。
あとは大学の時の、もう去年だったかな、亡くなられちゃったけど、ファゴットの中川良平先生。先生にアメリカの奏者たちと共演させてもらったり、先生がやってた東京バッハバンドに乗せてもらって、すごく悩みました。サックスって近代の楽器だけど、それをどうバッハの時代の曲にアプローチをするのかってすごい悩みましたね。それもあって、今は、「サックスらしくなく吹きたい」って思うようになりました。それこそ、チェロみたいに吹きたい。それは多分中川先生の教えの中で感じたことですね、キンキンキラキラした音じゃなくて、っていう。だいぶ影響を受けました。
サックス以外だったら、ファゴットの中川良平先生と、さきほど言ったペレーニですね。この4人かな。
あ、あと、ちょっとこれは本当に手前味噌なんですけど、1個いいですか。夫ですね(注:クラシックギター奏者の山田陽介氏)。派手なことが大嫌いで、ひたすら真摯にクラシックギターに向き合ってる姿が、私にはない姿だったので。曲1つ見る姿勢にはすごい感化されて、私はあまり他人の言うことをすぐには聞かないのに、夫に指摘されたことは「そうだね」って思えて、音楽的にも頼りにしてます。

― あ、もうちょっと時間ありますね。最後の最後にもう1問だけ。これから今回の1stアルバムを聴いていただく皆様に向けてメッセージをお願いできますか?

佐野:やばい、何も考えてなかった(笑)。アナログ世代の私が、デジタルに挑戦していこうという気合の1個目なので、演奏自体はゆるく柔らかいんですけど、そういう同世代、アナログ時代のみんなも一緒に頑張ろうっていう応援CDにもなっていると思います。私の感覚ですが、今のサックス会は、「この特殊奏法できたらすごい」みたいな感じで。新しく出てくる曲もどんどんそういう曲になってきているし。でもそこだけじゃないんだよっていうのが、このアルバムを通して伝わったらいいなって思います。

 


 

インタビューは以上です。佐野さん、ありがとうございました!

アルバムの各種ストリーミングサイトへのリンクは下記より。
https://linkco.re/7tcD2r1Z?lang=ja

佐野功枝「Fairy Tale」ストリーミング版
2024年9月24日配信開始
レーベル:ツキヤレーベル

トラックリスト

1. めぐり逢い:北浦恒人
2. スローなダンス:北浦恒人
3. りす:ピエール=マックス・デュボワ
4-7. ギリシャ組曲:ペドロ・イトゥラルデ
8-12. 前奏曲と四つのおとぎはなし:山里佐和子

クラシカルサクソフォン奏者、佐野功枝のファーストアルバム。

山里佐和子氏への委嘱オリジナル作品「前奏曲と四つのおとぎ話」をはじめ、佐野功枝の代名詞とも言われる北浦恒人氏作曲の「めぐり逢い」を収録。

帯の推薦状は佐野功枝の師である雲井雅人氏が執筆。

「いつの間にか佐野さんは、こんなに上手になっていたんだなあ。このCDからは、彼女の暖かな心情が直に伝わってきます。演奏者の内面が、てらいなく音に表れていて、聴く人の心に自然に届くのです。サクソフォン 雲井雅人」

参加アーティスト
ピアノ:西濱由有
コントラバス:青山小枝(前奏曲と四つのおとぎばなし)
レーコーディング・エンジニア:長江和哉


取材・文:梅本周平(Wind Band Press)(取材日:2024年9月20日)

 

 




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