管弦楽や吹奏楽の指揮者として活動されている岡田友弘氏に、学生指揮者の皆様へ向けて色々なことを教えてもらおうというコラム。
主に高等学校および大学の吹奏楽部の学生指揮者で、指揮および指導については初心者、という方を念頭においていただいています。(岡田さん自身も学生指揮者でした。)
コラムを通じて色々なことを学べるはずです!
第23回は「オクターブ内の音程関係と4和音」。
「合奏するためのスコアの読み方」の第17回目にあたり、「合奏と楽曲分析のための和声の超基礎」の第8回となります。
「音程の関係のおさらい」と、「4和音」について学ぶ回です。
さきにおさらいやたとえ話があるので、内容は難しいですがわかりやすく書かれています(知らないことって難しいですからね)。
学生指揮者の方はまだ頭も柔らかいのでスムーズにいくかと思います。
ちょっと齢を重ねた方だとインプットがしんどいですが、サラッと読んでおくだけでも違うと思いますのでひとまず「そういう単語があるんだな」くらいで読んでみて下さい。
後半のエッセイ的な部分は「本番までの練習計画を3幕構成でやってみよう」というお話です。
さっそく読んでみましょう!
合奏するためのスコアの読み方(その17)「合奏と楽曲分析のための和声の超基礎(8)」
今回も前回に引き続き、合奏と楽曲分析に役に立つ和声の基礎知識をお話ししていきます。
頭に入れること
・オクターブ内に生じる音程の関係について改めて確認する
・4和音についての基礎的な構造を把握する
・3全音について
・属7の和音についての導入の知識
今回は前回あたりから頻繁に登場する「音程の関係」特に「1オクターブの範囲内での音程の関係」についておさらいしてからメインテーマに進んできたいと思います。この機会にもう一度確認して欲しいと思います。
§1,オクターブ内の音程関係
これは皆さんもお馴染みの「アナログ時計の文字盤」です。
いわゆる「12時間計」と言われるもので、12時間後に短針が一周します。
次にこれをご覧ください。
この写真は僕の自宅にある時計の写真です。文字盤をよく見てみると・・・
「Do」「Re」・・・と文字盤に書かれているのがわかりますか?
オクターブ内の音は12個の半音に分けることができます。それを時計の文字盤に当てはめたのがこの時計になります。これを単純に図案化したものを見てみましょう。
オクターブ内の半音を均等な間隔にしたものを「平均律」と言います。名前は聞いたことがありますか?「平均律」とともに「純正律」という言葉もありますがそれももしかしたら聞いたことがあるかもしれませんね。
今はその「平均律」や「純正律」の話題に深入りしませんが、機会があればお話しできたらと思いますので、今は気にしないでください。
時計の短針が1周する時に音は1オクターブ上がり、短針が一つ進む(1時間進む)と半音上がるという仕掛けです。つまり0時から1時になるとその音程は半音一個、度数で言うと「短2度」ということになります。0時から2時ではその音程は半音2個、つまり「長2度」になります。順番にその関係を見てみましょう。
0時から1時=短2度(半音1個)
0時から2時=長2度(半音2個)
0時から3時=短3度(半音3個)
0時から4時=長3度(半音4個)
0時から5時=完全4度(半音5個)
0時から6時=増4度=減5度(半音6個)
0時から7時=完全5度(半音7個)
0時から8時=短6度(半音8個)
0時から9時=長6度(半音9個)
0時から10時=短7度(半音10個)
0時から11時=長7度(半音11個)
0時から12時=完全8度(半音12個)
音程の前に「完全」や「長」「短」「増」「減」という言葉がつきますが、その法則は決まっています。簡単に覚えられますので、もう一度確認してみましょう。
完全が付く音程(完全系)・・・1度、4度、5度、8度
長または短が付く音程(長短系)・・・2度、3度、6度、7度
完全系の音程に「長」「短」が付くことはありません。完全系の音程は「主要3和音」に、長短系の音程は「副次3和音」に関係する音程です。
完全系の音程も長短系もさらに音程が広くなったり狭くなったりする時には「増」や「減」となります。
完全系=減<完全<増
長短系=減<短<長<増
になると覚えましょう。
音程の関係には「転回音程」という、例えるならば「合わせ鏡」のような関係の音程関係があります。この12分割された円を使うとその関係もとてもわかりやすくなります。これも簡単な約束事で知ることができます。
0時の位置から短針が1目盛(半音一個)進んだ音程と、短針が1目盛戻ったところの音程がお互いの「転回音程」になります。
1時(短2度)と11時(長7度)
2時(長2度)と10時(短7度)
3時(短3度)と9時(長6度)
4時(長3度)と8時(短6度)
5時(完全4度)と7時(完全5度)
6時(増4度)と6時(減5度)
どうでしょう?今まで「なんだか音程のことよくわからないな?」と思っていた人も少しわかりやすくなったでしょうか?用語は難しいかもしれませんが、その内容はコツさえわかればとても簡単なことですから諦めずに前に進んでいきましょう!
余談ですが、この自宅の時計は各正時にその時刻に対応した音程の音が鳴ります。例えば0時にはCが1時にはCisという感じなので、自宅にいる時には毎時強制的に日々音を聴き取る訓練をすることになります。
§2.更なる積み重ね「4和音」
「3和音」とは3つの音が3度で積み重なっているもの
でしたね?その3和音のさらに3度上に音を積み重ね、4つの音で構成された和音を「4和音」といいます。
「だんご3兄弟」という曲がかつてヒットしました。豆知識ですが実際の団子は「3兄弟」ではなく「4兄弟」であるのが一般的だそうです。3和音が「だんご3兄弟」と例えるなら・・・4和音は「だんご4兄弟」とでも言えるでしょうか。
4和音はある音の主音から3度ずつ4つの音を積み重ねるので一番上に積み重なる音は「7度上」の音になります。そのため4和音のことを「7の和音」と呼びます。
さらにその3度上に積み重ねると「9の和音(5和音)」、さらにその3度上にも音を積み重ねると「11の和音(6和音)」と呼ばれます。
「7度」・・・その転回音程は「2度」です。転回音程とは「合わせ鏡」のような相互関係にあります。
ある音を基準にして7度上にある音、例えばC を基準にしてHの音はその基準音Cを下に進んだ時には何度下にありますか?そうですCから2度下にHの音があります。その基準音からの上行した時の度数と下行した時の度数の関係が「転回音程」と呼ばれます。
「足して9になる関係」が転回音程のお互いの関係性になります。
スコアを見た時にその和声部分が2度でぶつかっているときは「4和音の主音と第7音」の可能性がありますので、拙速に「ぶつかっているから非和声音だ?!」とか「楽譜のミスだ?!」と浮き足立つことのないようにしましょう。
まずは「4和音」と仮定しましょう。
4和音の音の重なり方には以下のような種類に分類されます。
グループ1・・・3全音を含まない
a) 基音から長3度―短3度―長3度
b) 基音から短3度―長3度―長3度
c) 基音から短3度―長3度―短3度
グループ2・・・3全音を含む
d) 基音から長3度―短3度―短3度
e) 基音から短3度―短3度―長3度
f) 基音から短3度―短3度―短3度
グループ3・・・増3和音を含む
g) 基音から長3度―長3度―短3度
音程間隔は長3度が「半音4個」短3度が「半音3個」分になります。
「増3和音」とは根音と第5音の音程の関係が「増5度」になっているものをいいます。
長3和音(根音と3音の間隔が長3度の3和音)も短3和音(根音と3音の間隔が短3度の3和音)も根音と第5音の音程関係は「完全5度(半音7個分)」ですが、この増3和音は「半音8個分」の音程間隔があります。
ここで「3全音」という新しい言葉が登場しました。それではこの「3全音」についてお話ししていきます。
3全音(トリトヌス、トライトーン)とは「全音3つ分(半音6つ分)の音程関係」のことです。
この3全音の音程関係が4和音のある音とある音に見られる場合はグループ2に分類されます。
3全音の音程関係は「増4度」そしてその転回音程である「減5度」になります。(転回音程は足して9になる関係です。「増音程」が転回すると「減音程」になります)この音程関係は「不協和音程」で非常に特徴的な響きがします。
13世紀~14世紀より以前の音楽でこの音程での旋律の進行は禁止されており、和声的音程関係でも同様に禁止されていましたが、時代が進むにつれて機能和声の中でこの3全音を含む音程はとても重要なものになっていきました。
かつての旋律的、和声的使用の禁則からこの「3全音」は「悪魔の3全音」と呼ばれています。
1オクターブを12の半音に分けた場合にちょうど1オクターブの半分(半音6個分)にあるということも3全音の大切な特徴です。先程の時計で見るとちょうど「6時」の位置が3全音の音程関係ですね!
この3全音が含まれる代表的な4和音である「属7(*V7の和音)」については次回以降にお話ししていきますが、少しここで前もってその重要性について触れてみましょう。
*=7は小さな文字でVの右下に書かれる
属7(ぞくしち)の和音とは?=ある音階の音階固有音上にできる4和音の中で、属音上(C-DurにおけるG)にできる4和音だけがどの調(長調でも短調でも!)においても「長3和音と短7度」の積み重ねになる唯一の4和音(上記のグループではグループ2のd)です。そのためIの和音についで重要な和音として楽曲に登場します。属7の和音からIのトニカに進行する和音を見つけることによって、調の判定ができます。
そのために重要なことがあります。属7の和音には二つの行き先が決まっている「限定進行音」があるということです。それを含めて属7の和音については次回詳しくお話ししていきますので予備知識として頭の片隅に置いておきましょう。
☆今回のまとめ
・オクターブ内の音程は12の半音から構成されている。音程の関係には「完全系」と「長短系」があり、完全系は1、4、5、8度。長短系は2、3、6、7度である。
・4和音とは3度で重なる4つの音の重なりである。4和音の種類は3つのグループに分類され、それは3全音を含むか否か、増3和音が含まれるかどうかで分類される。3全音(トライトーン)とは「減5度(増4度)」という半音6個分の音程間隔の関係にある音程のことで、古来禁則とされていた「悪魔の音程」である。1オクターブ(12の半音階)のちょうど真ん中に位置している。後年、この三全音は音楽において非常に重要なものとなっていった。
・属7の和音は主和音(トニカ)についで重要な和音で、属音の上にできる4和音のこと。
属7の和音には行き先の決まっている「限定進行音」があり、必ず進むべき音を持っている。そのため調の判定に役立つ。
【ミニコーナー】合奏の時に気にして欲しいこと(第5回)
本番までの合奏の組み立て方
「3幕構成(スリー・アクト・ストラクチャー)」を応用した本番までの練習計画
第21回コラム「カデンツにおける和音連結の方法や守るべき規則」
の際にお話しした、舞台作品や映画の3幕構成について覚えているでしょうか?ここだけの話、僕は演奏会までの合奏を計画するときに、この構成をイメージしながら予定を立てています。・・・ここだけの話ですよ!
ここで簡単に3幕構成の概要をお話ししてみたいと思います。
「3幕構成」は演劇などの舞台や映画の脚本の構成のことです。3幕構成のストーリー は3つの部分に分かれ、それぞれを「設定」「対立」「解決」という役割を持ちます。作品や脚本によりその違いはありますが、各部分の配分は概ね「1(設定):2(対立):1(解決)」です。
幕と幕は「ターニングポイント(プロットポイント)」でつながっています。その役割とは主人公に行動を起こさせて、ストーリーを異なる方向へ転換させる出来事を配置します。
最もオーソドックスでシンプルな各幕の役割は以下のようなものです。
1幕「設定」・・・誰が何をするかを設定し、主人公の「目的」が示されます。
2幕「対立(衝突)」・・・主人公が目的を達成するためにその障害と対立したり衝突したりします。そして2幕の後半では主人公が敗北寸前まで追い詰められるようなピンチになるのが一般的です。
3幕「解決」・・・ストーリー冒頭で設定された「主人公は目的を達成できるのか?」という問いに対する答えが明かされて問題が解決します。(物語の内容によっては問題が解決せずモヤモヤしたままでエンディングを迎えるものもありますが・・・)
物語の約半分を占める「2幕」は大きく二つの部分に分かれます。前半は楽勝ムードの展開が、2幕中盤の「ミッド・ポイント(中間点)、「ピンチ」とも言われる」を境に主人公は急速に転落し逆境になります。第2のターニングポイントでついに主人公は最悪の状態に陥ります。その状況の中で主人公は解決のための最後の試練に挑んでいきます。
以上のことを図に表すとこのようになります。
この「3幕構成」を実際の演奏会(もしくはコンクール)までの合奏に当てはめて考えてみます。それぞれの幕の役割は曲の合奏においてはこのような役割があると思います。
「設定」・・・楽譜に書かれてあること、基本的なことを練習し確認していく「譜読み」の合奏。
「対立」・・・譜読みの合奏を元にして重点的に練習していかなければいけない部分を集中的に取り上げていく。曲全体のクオリティを上げていく。演奏会に向けた合奏練習の中で最も長期かつ重要な時期。
「解決」・・・本番に向けて最終調整と、メンバーのモチベーションを本番まで維持向上させながら、より一層の表現と技術のレベルアップを実現し、演奏者にも聴衆にも心に残る演奏会をするために工夫する。
合奏計画においての「ターニングポイント」と「ミッドポイント」にあたる部分では是非とも「全通しの録音」をすることをお勧めします。練習の録音と録画は学生指揮者自身の確認の ためにも、メンバーの確認用にも毎回録音をするのを推奨します。
毎回の練習で曲を通して録音する必要はありませんが、ターニングポイントにあたる部分ではそこまでの進捗状況や今後の課題の抽出のために「全通し」の演奏録音をするのがいいと思います。本番の数週前など直前に全通しをする楽団は多いと思いますが、それでは本番までの修正に時間が間に合わない可能性もあります。僕も数回そのような機会を設定するようにしています。
3幕構成とは少し外れてしまうのですが、第1回目の合奏も録音しておくといいとおもいます。演奏会後や将来聴き直した時に「こんなひどい状態から、練習してここまで来たのか・・・!」としみじみ懐かしく振り返ることができますよ!
念の為・・・脚本のように「対立」にあたる部分でわざわざピンチを作ったり障害を設定したりする必要はありません。「対立」にあたる時期では、さまざまな方法を試しながら演奏上の課題に取り組んでいってほしいと思います。
「事実は小説より奇なり」という諺の通り、普通に過ごしていても少なからず「イベント」が起こるものです(僕の経験上でのことではありますが・・・)。その時にみなさんが力を合わせて問題を解決したり、学指揮のあなたがその困難を乗り越える突破口を発見したりするドラマを楽しんでください。
このドラマの「主人公」はあなたであり、同じ部活や楽団の仲間たちです!それぞれにどんな「ドラマ」が待っているのか、僕も楽しみにしています。
3幕構成に関連する用語に「Magic 3」という言葉があります。
脚本やストーリーの中で主人公が3回間違った選択をし、4回目で正しい答えを見出し解決に向かう、という筋書きのことです。ですから皆さんも3回程度は間違った選択をしてもなんら問題はありません!4回目に正しい選択をして最後の最後に良い思いをみんなできればそれで全ては報われます。ですから失敗を恐れずにどんどんチャレンジしていってほしいと思います。
3回という回数にこだわらず、最後に正しい選択さえできればたくさん失敗をすることも成長に必要なことかもしれません。これは僕の個人的な感覚なのですが、「成功体験」は僕たちに大きな影響と効果をもたらしますが、実際のところ本当の底力を育て成長させるのは「失敗体験」なのではないかと思っています。
3幕構成に根ざした練習計画の図をここに記しておきますので、参考にしてみてください。
各時期の練習の提案の詳細については次回以降にお話ししていこうと思います。
今回も前半部分が少し長くなってしまいましたが、音程についてのことを改めてお伝えしたくてこの長さになってしまいました。通学の移動時間や空き時間に気軽に読める長さをこれからも心がけていきたいと思いますので、ぜひ質問などもお気軽に!皆さんからのメッセージや質問を楽しみにお待ちしております。
それでは次回もお楽しみに!
文:岡田友弘
※この記事の著作権は岡田友弘氏に帰属します。
以上、岡田友弘さんから学生指揮者の皆様へ向けたコラムでした。
それでは次回をお楽しみに!
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(Wind Band Press / ONSA 梅本周平)
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岡田友弘氏プロフィール
写真:井村重人
1974年秋田県出身。秋田県立本荘高等学校卒業後、中央大学文学部文学科ドイツ文学専攻卒業。その後、桐朋学園大学音楽学部において指揮法を学び、渡欧。キジアーナ音楽院大学院(イタリア)を研鑽の拠点とし、ウィーン国立音楽大学、タングルウッド音楽センター(アメリカ)などのヨーロッパ、アメリカ各地の音楽教育機関や音楽祭、講習会にて研鑚を積む。ブザンソン国際指揮者コンクール本選出場。指揮法を尾高忠明、高階正光、久志本涼、ジャンルイージ・ジェルメッティの各氏に師事。またクルト・マズーア、ベルナルト・ハイティンク、エド・デ・ワールトなどのマスタークラスに参加し、薫陶を受けた。
これまでに、東京交響楽団、セントラル愛知交響楽団などをはじめ、各地の主要オーケストラと共演するほか、数多くのアマテュア・オーケストラや吹奏楽団の指導にも尽力し、地方都市の音楽文化の高揚と発展にも広く貢献。また、児童のための音楽イヴェントにも積極的に関わり、マスコットキャラクターによって結成された金管合奏団“ズーラシアン・ブラス”の「おともだちプレイヤー」(指揮者)も務め、同団のCDアルバムを含むレコーディングにも参加。また、「たけしの誰でもピカソ」、「テレビチャンピオン」(ともにテレビ東京)にも出演し、話題となった。
彼の指揮者としてのレパートリーは古典から現代音楽まで多岐にわたり、ドイツ・オーストリア系の作曲家の管弦楽作品を主軸とし、ロシア音楽、北欧音楽の演奏にも定評がある。また近年では、イギリス音楽やフランス音楽、エストニア音楽などにもフォーカスを当て、研究を深めている。また、各ジャンルのソリストとの共演においても、その温かくユーモア溢れる人柄と音楽性によって多くの信頼を集めている。
日本リヒャルト・シュトラウス協会会員。英国レイフ・ヴォーン=ウィリアムズ・ソサエティ会員。
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