作曲家のヨハン・デメイ氏(Johan de Meij)と色々な情報交換をしている中で、「5月の福岡のコンサートに来れるといいね!」と言われて「九州管楽合奏団演奏会2018」の情報を頂いたのが2月のことです。
家庭の事情などもありなかなか取材に行くのが難しく、特に遠方は難しいのですが(事務所兼自宅は広島です)、今回は「福岡ならいいんじゃない」という感じで家族の協力も得て、このコンサートに行くこと、そして長らくメールだけでやり取りをしていたデメイ氏に直接会うことを決めました。
ただ単にお客さんとして行っても良かったのですが、せっかくなのでコンサートレポートの取材が出来るかどうか、管楽合奏団様にもコンタクトを取り、無事に許可を頂きました。午前中のリハーサルから行っちゃってもOKとのこと。ご協力誠に感謝です。もろもろ手はずを整えて、さあいざ福岡です。
コンサート当日はあいにくの雨。ですがアクロス福岡まで徒歩3分のホテルに前泊していたので、朝から予定通りリハーサルに向かいます。
まずは事前に連絡先を交換していたスタッフの方と連絡を取り、無事に合流。そのまま客席まで案内してもらうところでしたが、その途中でリハーサル直前のデメイ氏と早くもバッタリ!お互いにようやく顔を合わせることが出来たのでした。リハーサル前だったのでここは簡単な挨拶だけに収めます。
「今度シオンでまた日本初演やるよ」
「そりゃいいね」
「交響曲第5番の初演も決まったよ」
「そりゃいいね」
とかそんな簡単な会話くらいはしました。そのくらいにしておかないとリハーサルに支障が出そうなので「また後で!」と一旦お別れ。
実は僕は英語を聴きとるのも話すのも苦手なのですがスタッフの方いわく毎回デメイ氏はお一人で来られるそうで、通訳の方もいらっしゃらない状況でした。半分くらい何を話しているのか分からないのですが、ガッツでなんとかなるもんです。
ちなみに「シオンで日本初演」は11月の定期演奏会での「交響曲第4番」、交響曲第5番の世界初演は同じく11月、インディアナ州のヴァルパライゾ大学室内コンサート・バンドとウィンディアナ・コンサート・バンドによる演奏会で、デメイ氏の指揮、自作自演で行われます。
さてリハーサルは「Twoボーン・コンチェルト」から。ソリストはユルゲン・ファンライエン氏と阿部竜之介氏のヴィルトゥオーゾのおふたりです。リハーサルは英語で進められます。ササッと確認をしてからファンライエン氏の「月の光」、そして再度「Twoボーン・コンチェルト」。リハーサルは10:30~12:30の予定でしたが、1時間以上を「Twoボーン・コンチェルト」に使っていましたね。それだけ、ソリストだけでなくバンドにも高い質が求められる緻密な作品なのかもしれません。その後はアンコールのリハーサルをして、一旦休憩。
僕はここで一旦リハーサルを離れて、先に昼食を取り、またリハーサルに戻った時には「フィフティ・シェイズ・オブ・E」のリハーサルをみっちりとやられていましたね。
この曲でリハーサルが終わり、あらためてデメイ氏と少々お話を。
「音がラウドだけど客席が埋まれば少しデッドになるから丁度いいかなあ」なんていう話をしながら、通りがかったファンライエン氏を紹介していただきました。その後お二人は昼食へ。普通に楽屋口(アクロスの中にあります)から出て地下のレストラン街へと消えていきました。
さて僕は「そのまま客席にいてもいいですよ」と言われていたのですが、早くから並んでいらっしゃる方に申し訳ないので、同じように楽屋口から出て、開場を待っていました。
雨にも関わらず開場前からたくさんの人が並んでいましたね。実はこの日の公演、なんと「満席公演」だったのです。プロの吹奏楽団の集客がどうも寂しいという話も聞きますが、福岡、熱いです。もちろん九州管楽合奏団の事務曲、メンバー、関係者の皆様の努力によるものだと思いますが、嬉しくなっちゃいますね。
他のお客様と同じように並んで入場して、空いている客席を探し、1階席の真ん中あたりへ。客層は老若男女問わず、といった感じですね。アクロス福岡シンフォニーホールは学生時代に一度公演をしたのですが、客席に座るのはその時依頼なので、約17年ぶりくらいでしょうか。座席も前後がゆったりしていますし、デザインや響きも合わせて、やはり良いホールだなあと感じた次第です。
「本日満席公演です、詰めてお座りください!」というスタッフの声が何度も響いていましたが、なんとか皆さん座る場所を見つけられたようで、いよいよ本番です。
暖かい拍手に迎えられ、まずは奏者が入場します。コンサートミストレスがまずはステージ上のチューニング。続いて1曲目で重要な役割を果たす2階席バンダのチューニング。
さらに大きな拍手に迎えられいよいよ指揮者のデメイ氏が登場します。1曲目は「サンマルコのこだま(Echoes of San Marco)」。
第30回コルチャーノ(イタリア)国際作曲コンクールの優勝作品で、今回が日本初演となります。「サンマルコ」といえばベネツィアの「サンマルコ大聖堂」「サンマルコ広場」ですね。サンマルコというのは「聖マルコ」という意味です。曲名からはなんとなくサンマルコ地区の雰囲気を描写した曲なのかなという印象がありますが、サンマルコ大聖堂の首席作曲家であった、金管奏者の皆様であればご存知、ジョヴァンニ・ガブリエリへのオマージュとして作曲された作品です。
ガブリエリが使用した二つの管楽器アンサンブルが互いに呼応する作曲手法に影響を受けています。実際に冒頭でバンダが演奏するのはガブリエリの作品です。
バンダの美しい掛け合いが終わり、音が舞台上のみになった瞬間の心の震えと来たら!冒頭から何とも素敵な仕掛けで、これは会場でないと味わえない音響だなあというところですね。そして後半の美しいメロディと壮麗なサウンドはこれぞデメイ節!日本では流行しにくいタイプの作品かもしれませんが、ぜひ緻密なアンサンブルにチャレンジしてほしいなあと思います。
リハーサル後にデメイ氏が気にしていた「ラウド」な音は、満席公演ということもあってほどよい感じになっていたのではないかなと思います。ギリギリうるさくない感じですね。(この後の曲では一部打楽器がラウドに響いてしまっていましたが)
さて続いてはこれを見に来たお客様も多いのでは、という「Twoボーン・コンチェルト」。デメイ氏と一緒に、ファンライエン氏、阿部氏が登場します。
トロンボーン協奏曲の「Tボーン・コンチェルト」、バス・トロンボーン協奏曲の「カンティクルス」の続編にあたる作品で、2本のテナー・トロンボーンのための協奏曲。初演を行ったのはジョセフ・アレッシ氏、そしてこの日も舞台上にいるファンライエン氏のお二人でした。初演を行った奏者のうちの一人が目の前にいるってのも凄い話です。なんて贅沢なコンサートなんだ!ちなみにこの作品、誰からの委嘱作品でもありません。
さて演奏については、バンドの演奏も見事なのですが、ソリストお二人がもう、凄すぎる!名手が2人いないと成立しない楽曲ですね。途中で使われるスティールパンは、「エクストリーム・メイクオーヴァー」での瓶のような音響効果があり、これも非常に興味深かったです。ソリストのお二人は、テクニックだけでなく、美しいハーモニーが最高!これが聴けただけでも新幹線に乗って来た価値ありです。
全体として4つのパート、緩急緩急という感じに分かれていて、1曲の中で音楽のスタイルも変わっていきますし、一粒で二度三度四度くらいオイシイ作品ですね。一時たりとも聴き逃せません。ラストに向かう光り輝く煌びやかなサウンドは圧巻!ブラボーでした。
休憩を挟んで、3曲目は「交響詩『夏』」。この作品は2014年のフィンランド・ウインドオーケストラ・コンクールのテストピースでもあり、フィンランドの民俗音楽をベースとした作品。重厚な低音の響きの中から、哀愁を帯びた美しい旋律が次々と様々な楽器に受け継がれていきます。やがて土着的なリズムに乗り旋律が変容していきます。前半の重厚でほの暗い、もの悲しい雰囲気が特に印象的でした。
続いては再びファンライエン氏を独奏に迎えて、デメイ氏編曲のドビュッシー「月の光」。有名な作品ですが(知らない人はYouTubeで検索すればすぐにヒットします)、今回はトロンボーンと吹奏楽のためのコンチェルトとしてアレンジされています。2017年に初演されたばかりの新しいアレンジです。
ファンライエン氏の、優しく、力強く、変幻自在のサウンドが曲にベストマッチしていましたね。今回の演奏会の他の作品を知らない方でも楽しめる選曲ですし、アレンジ作品も人気のデメイ氏による心地よいサウンドを多くの方が楽しめたのではないかと思います。
そして最後は「フィフティ・シェイズ・オブ・E」。「E(ドレミのミ)の音が持つ無数のニュアンスを発見するための楽曲」というちょっと何を言っているのかよくわかりません、みたいな作品なのですが、とにかく緊張感の高い楽曲です。
冒頭の「ドーン!」で一気に聴衆を惹きこみ、その後は細かなアンサンブルがあちらこちらで展開される、めくるめく「E」の旅が始まります。デメイ氏の作品の中では、ややコンテンポラリー寄りの作品かと思います。とは言ってもそこはデメイ氏なので聴きやすさはしっかりと残っています。ラストはドラマティックな面が前面に押し出され、デメイ氏の引き出しの多さと豊かな発想に改めてリスペクト!テクニック、表現ともに難易度の高い作品を、プログラムの最後にバッチリと決めた九州管楽合奏団もブラボーです!
アンコール1曲目はビゼーの歌劇「真珠採り」より「デュエット」。「Twoボーン・コンチェルト」で客席を沸かせたファンライエン氏と阿部が再びフィーチャーされ、美しいデュエットを聴かせてくれました。この日この公演を聴いた方々は、トロンボーン愛好家でなくても、このお二人の音楽に心を打たれたことでしょう。
一旦デメイ氏、ソリスト2人が袖に引っ込み、再度アンコール。デメイ氏がトロンボーンを持って再び登場すると、客席からは「おおーっ!」とどよめきが。そりゃそうだ。最後はデメイ氏も含めたオール・トロンボーンが舞台前面に立ち、フィルモアの「シャウティン・ライザ・トロンボーン」。最後まで名手たちの妙技を堪能しながら、楽しい演奏会は幕を閉じたのでした。
九州管楽合奏団の演奏を聴いたのはこれが初めてだったのですが、僕が住んでいる広島の広島ウインドオーケストラといい、地方の団体も熱いなあ、レベル高いなあ、と感じた次第です。
本当に楽しく、気持ちの良い演奏会でした。色んな地方で演奏会を開催できるようになり、全国の吹奏楽ファン、クラシックファン、またそうでない方も含めて、多くの方に演奏を聴いてもらえるようになるといいなあと思います。
取材にご協力頂きました九州管楽合奏団の皆様、ユルゲン・ファンライエン氏、阿部竜之介氏そしてヨハン・デメイ氏に心より感謝を申し上げます。
レポート:梅本周平(Wind Band Press)
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■サンマルコのこだま
■交響詩「夏」
■フィフティ・シェイズ・オブ・E
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