「お互いを信頼し尊敬し合うこと」 インタビュー:トルヴェール・クヮルテット 須川展也さん、小柳美奈子さん






2017年、結成30周年を迎えたトルヴェール・クヮルテット。

先日リリースされたCD「ティプシー・チューン」のことも含めて、須川展也さんと小柳美奈子さんにメールインタビューをさせていただきました。

まずは、結成30周年、誠におめでとうございます。長くカルテットを続け、さらにトップを走り続けるのも大変だと思いますが、カルテットを長く続ける秘訣は何でしょうか。

須川展也さん(以下、須川氏):
やはりお互いを信頼し尊敬し合っている事です。
練習ではお互いの細かいところにあまり言葉の会話で踏み込みません。
まず音でしっかり会話をしておいて、本番に臨みます。
そうすることで、コンサートではまるで会話をするかのように演奏できています。
これが、我々が長く続いている秘訣と思ってます。

カルテットとしての活動もさることながら、メンバーそれぞれのソロ奏者としての活躍も長く続いています。カルテットと個人の活動が相互に与える良い影響としては、どのようなものがありますでしょうか。

須川氏:
やはりお互いをとても信頼して、尊敬し合っているので、トルヴェールの活動を通して、いろんな演奏の刺激を受け合っています。
それを各々、その他の活動に生かしています。

小柳さんにお聞きしたいのですが、長年カルテットと共演してこられて、あらためて「トルヴェール・クヮルテット」の魅力は何だと思われますか。またトルヴェール・クヮルテットと合わせる際に、ピアニストとして心がけていることや、過去の作品も含めてCDや演奏会を聴く際に「ピアノのここに注目してほしい」というポイントなどがあればそれもぜひ教えてください。

小柳美奈子さん:
バランス感がすごいと思っています。
説明が難しいですが、四重奏を演奏している時、全員が他のパートも自分の音のように感じて聴いていて、その中で本能的にバランスをとっている。一糸乱れぬというより、とても自然な流れです。だから、とても立体的にそれぞれが聴こえてきます。本番だから生まれる変化にも、みんな瞬時に反応して一緒に進むのです。
これは、奇跡的な出逢いと長年積み重ねてきたことで生まれたものだと思います。
私はいつも、サクソフォンの中に一人ピアノが入るという感覚でなく、もう一本サックスが加わったような気持ちでいます。
一緒に息をして奏でる。基本的には、支えになって、みんなが自由に動けるように弾きたいと思っていますが、最近、もしかしたら、みんなに支えてもらっているのは、私かもと思ったりします。
ピアノのここに注目して欲しい、というのはありません。
5人の会話を楽しんでいただけたら、嬉しいです。

さて今回のアルバムは「今日まで積み上げてきたメンバー一人ひとりの思いの詰まったメモリアルな一枚。」とうたわれていますが、皆様それぞれが特に思い入れのあるトラック、皆に何度でも聴いてもらいたいトラックを選ぶとしたら、どれになりますでしょうか。

須川氏:
すべての曲に楽しさ、繊細さ、迫力、美しさ、が詰まっていますので、すべてを聴いて欲しいです。
そして新井くんの存在なしでは語れないトルヴェールを感じてください。
これからはこれを伝統として伝えて行きます。

今回のアルバムのレコーディングに当たって、裏話などがあればこっそり教えてください。

須川氏:
今回は曲数がちょっと少なかったこともあり、録音がとても順調で、毎日15時くらいには録音が終わってました。
その後はメンバーやスタッフとゆっくり食事したりして、リラックスして楽しんでました。

逆にこれまでの30年でまだ世に出ていない失敗談があれば、それもこっそりと教えて頂けますか。

須川氏:
かなり前ですが、サントリーホールでトルヴェールのコンサートをした時に、 事前に作曲家の長生淳さんに、長生さん作曲の『もあしび』を演奏しますよ、と伝えていたのに、それをすっかり忘れてしまい、当日の演奏プログラムにその曲が入っていなかった、ということがありました。
長生さんは30人も親族の方々に声をかけて連れて来てくださっていて、本当に申し訳なかったです。 懺悔・・・
長生さんは一言も文句を言わずに、その後もずっとお付き合いを続けてくれています。なんと素晴らしい人か!
今でも本当に申し訳なかったと思っています。

これまでに「トルヴェール・クヮルテット」として14枚のアルバムをリリースしていますが(再発を除く)、あらためて振り返って、「このアルバムがカルテットの転換期だったなあ」というようなアルバムはございますでしょうか。理由も合わせてお聞かせ願えればと思います。

須川氏:
「Duke’s Time」を出したあたりでしょうか・・・
それまではあたりまえにコンセプトをしっかり決めてそれに沿って選曲していたのですが、「Duke’s Time」のあたりから、いろんなタイプの曲を録音するようになりました。 自分達がとにかくやりたい曲や、又は、しっかりじっくり演奏してきた曲などを、コンセプトにとらわれずに自由にプログラミングして録音するようになりました。

まだ若いサクソフォーン・ファン(学生など)の方の中には、アルバムが多いので「どれから買えば良いのかわからない」という方もおられるかもしれません。当然新譜は買って頂くとして、過去の作品からもう1枚だけオススメするとしたらどれになりますでしょうか。

須川氏:
オーソドックスなカルテットの基本レパートリー編として は、
『マルセルミュールに捧ぐ』 。
トルヴェールならではの自由な楽しさ満載編としては、
『トルヴェールの四季』
『トルヴェールの惑星』
でしょうか。

近年では若いプロ奏者によるカルテットも多くCDを出せるようになってきているのではないかと感じていますが、若い世代のカルテットの演奏会に足を運ばれたり、CDをお聴きになったりすることはございますでしょうか。また、そういった若い世代のカルテットに何を期待されますか。

須川氏:
もちろん、よく聴きに行っています。
みんな素晴らしいですね!
しっかりカルテットの方向性を見せていますね。
カルテットは、とにかく長く続けていくことで、さらに味わいが深まりますので、
がんばって続けて固定ファンを増やしていって欲しいです。

現在の日本のクラシカル・サクソフォーンを取り巻く現状について、思うところもそれぞれおありかと思いますが、伸ばすべき良い点、改善すべき点などございましたらお伺いできますでしょうか。

須川氏:
みんなでがんばっている素晴らしい時だと思います。
一般のお客様にさらにもっとコンサートを聴きに来ていただけるサックス界に、みんなでしていきたいです。

再びお話をトルヴェール・クヮルテットに戻して、今年は10月の30周年記念公演(東京文化会館)に加え、様々な共演などイベントが目白押しかと思われますが、ご来場される皆様にメッセージをお願いします。

須川氏:
30周年記念コンサートが全国各地でありとても嬉しいです!
これからもがんばりますので、是非30周年以降も聴きにいらしてください。

―2018年(31年目)以降についてはどのような活動をしていきたいとお考えでしょうか。

須川氏:
新井くんと作りあげたトルヴェールの伝統をさらに熟成させて、コンサートでしっかり伝えていきたいです。
トルヴェールの長年のテーマである『個性と融合』をモットーに、シリアスな曲から、トルヴェールならではの笑いが止まらない楽しい曲まで、両方を演奏し続けて行きたいです。

最後になりますが、まだトルヴェール・クヮルテットの演奏を聴いたことのないようなサクソフォーンを始めたばかりの方から、それこそ30年以上サクソフォーン演奏やリスニングを愛好されているようなベテランの方まで、多くのサクソフォーン愛好家に向けて、愛にあふれたメッセージをお願いします。

須川氏:
トルヴェールの意味は『吟遊詩人』。
中世フランスで街角でリュートを弾きながら、街行く人々に恋愛や社会について歌い語った辻音楽師たち。
その精神を頂き、多くの方々にサクソフォーン&音楽の素晴らしさを伝えていきます。
みなさん、バラエティーに富んだ、楽しいプログラムを用意しています。
是非聴きにいらしてください!
我々は笑顔で皆さんをお迎え致します。


インタビュー・文:梅本周平(Wind Band Press)


まとめ:

いかがでしたでしょうか。

「トルヴェール」はまだまだ現在進行形で続いていくんだ、ということがよくわかるお話をしていただけたかと思います。

これからもずっと、新しくサクソフォーンを始めた方にも、長年のファンにも、どんな方にも感動を与えて続けてくれるであろう稀代のカルテット。

まだまだ今後の活動から目が離せませんね!

トルヴェールに限った話ではありませんが、良い演奏者がいてもそれを支える聴衆がいなければ自由でクリエイティブな活動にも制限が出てくるかと思います。

色々な演奏会に足を運んだり、CDを買ったり、友人に勧めたり、一人一人のファンが出来る範囲でサポートを続けていければ良いなあと思います。


★今後の公演情報

5/5(金祝)下倉ドリームコンサート 明治大学アカデミーホール(東京)

6/17(土)府中の森芸術劇場 ウィーンホール(東京)

7/22(土)静岡県コンベンションアーツセンター グランシップ 中ホール(静岡)

(★シンフォニエッタ静岡と/マルティノン:Sax Qと管弦楽のための協奏曲、長生淳:プライム・クライム・ドライヴ)

7/25(火)新井靖志さんをしのぶ会@文京シビックホール小ホール(東京)

9/8(金)横浜市戸塚区民文化センター さくらホール(神奈川)

10/7(土)宗次ホール(名古屋)

10/8(日)&9(月祝)東京文化会館小ホール【結成30周年記念演奏会2Days】

10/13(金)札幌コンサートホールKitara 小ホール(北海道)

10/14(土)網走エコーセンター2000 エコーホール(北海道)

10/29(日)山形テルサ(山形)

※結成時よりテナーSaxを担当しておりましたメンバーの新井靖志が昨年9/9に脳出血のため 永眠いたしました。現在決定しております公演は、神保佳祐が代奏いたします。


トルヴェール・クヮルテット プロフィール


1987年に須川展也・彦坂眞一郎・新井靖志・田中靖人によって結成。日本のクラシカル・サックス界を常にリードしてきたサックス・ソリスト集団。92年東京国際音楽コンクール第2位、第5回日本吹奏楽アカデミー賞「演奏部門」受賞。98年にはTV朝日「徹子の部屋」への出演を機にその存在を広く一般にも知られるようになる。2000年にはオランダでの日蘭国交修好400年記念演奏会に招かれ各地で絶賛を浴びた。 2001年発売 のCD「マルセル・ミュールに捧ぐ」は、第56回文化庁芸術祭レコード部門で大賞という快挙を遂げた。EMI他から多数CDがリリースされている。最新CDは2017年2月発売の「ティプシー・チューン」(イマジンベストコレクション)。「個性と融合」をコンセプトに、コンサートではサクソフォンのためのクラシカルな作品から、トルヴェールならではのオリジナル編曲までを展開。ボーダレスな活動内容が幅広い層に圧倒的な支持を得続けている。また、その音楽性と驚異的なテクニックによる緊密なアンサンブルが、日本最高峰のサクソフォン・クヮルテットとしての評価を揺るぎないものとしている。 2017年には結成30周年を迎えた。世界トップレベルのサクソフォン四重奏団として、今後のますますの活躍が期待されている。


小柳美奈子氏 プロフィール


東京藝術大学卒業。伴奏のイメージを変えてしまうアンサンブル・ピアニスト。様々なプレイヤーの呼吸の機微を読み取り、それに寄り添うしなやかな感性を数多くの公演、録音で発揮している。吉松隆「サイバーバード協奏曲」の準ソリストとしてフィルハーモニア管弦楽団とも共演。須川展也、トルヴェール・クヮルテットの共演者としてのキャリアも長く、多くの録音に参加。パーカッションの山口多嘉子とのデュオ「パ・ドゥ・シャ」でCDを発表。トリオ「YaS-375」メンバー。




協賛






Wind Band Pressへの広告ご出稿はこちら


その他Wind Band Pressと同じくONSAが運営する各事業もチェックお願いします!

■楽譜出版:Golden Hearts Publications(Amazon Payも使えます)


■オンラインセレクトショップ:WBP Plus!






■【3社または3名限定】各種ビジネスのお悩み相談もお受けしています!

様々な経験をもとに、オンラインショップの売上を上げる方法や商品企画、各種広報に関するご相談、新規事業立ち上げなどのご相談を承ります。お気軽にお問い合わせください。



▼人気の記事・連載記事

■プロの指揮者・岡田友弘氏から悩める学生指揮者へ送る「スーパー学指揮への道」
プロの指揮者・岡田友弘氏から悩める学生指揮者へ送る「スーパー学指揮への道」

■作曲家・指揮者:正門研一氏が語るスコアの活用と向き合い方
作曲家・指揮者:正門研一氏が語るスコアの活用と向き合い方

■有吉尚子の【耳を良くする管楽器レッスン法】~ソルフェージュ×アレクサンダー・テクニーク~
有吉尚子の【耳を良くする管楽器レッスン法】~ソルフェージュ×アレクサンダー・テクニーク~

■【エッセイ】ユーフォニアム奏者・今村耀の『音楽とお茶の愉しみ』
今村耀エッセイ

■僧侶兼打楽器奏者 福原泰明の音楽説法
福原泰明の音楽説法

■石原勇太郎の【演奏の引き立て役「曲目解説」の上手な書き方】
曲目解説の上手な書き方

■石原勇太郎エッセイ「Aus einem Winkel der Musikwissenschaft」
石原勇太郎エッセイ

■音楽著作権について学ぼう~特に吹奏楽部/団に関係が深いと思われる点についてJASRACさんに聞いてみました
音楽著作権について学ぼう

■【許諾が必要な場合も】演奏会の動画配信やアップロードに必要な著作権の手続きなどについてJASRACに確認してみました
動画配信


1件のコメント

  1. […] ▼関連記事 「お互いを信頼し尊敬し合うこと」 インタビュー:トルヴェール・クヮルテット 須川展也さん、小柳美奈子さん […]

コメントは受け付けていません。