毎年、京都や滋賀以外の地域でも大学サイドと吹奏楽部が連携して各地の高校生と共に「チャリティージョイントコンサート」を行っている龍谷大学。
大学と吹奏楽部の良好な関係が垣間見える龍谷大学の「中の人」にお話が聴きたい!ということで、今回は、龍谷大学吹奏楽部の副部長(生徒ではないですよ)でもある龍谷エクステンションセンターの水野哲八さんに、主に大学と吹奏楽部の関係についてお話を伺いました。
―まず、龍谷大学側と吹奏楽部との関係はどのような関係なのでしょうか。
龍谷大学では、「野球部」や「アメリカンフットボール」と並ぶ「重点サークル」として吹奏楽部を位置づけています。文化系では唯一です。
「重点サークル」とは、他のサークルよりいっそう大学の協力や援助が得られるサークル、ということです。
例えば陸上部や野球部、アメフトなどスポーツが強い大学は多いと思うのですが、大学側が戦略的に支援していることが多いです。スポーツを強化しようとする大学は多いですが、文化系で、吹奏楽部を強化しようとしたのはおそらく龍谷大学が初めてではないでしょうか。
龍谷大学は吹奏楽部に対して援助もしますし、人材も投入します。協力や援助について、手間暇をかけています。
―凄いバックアップ体制ですね。
そうですね。気持ちの面、環境面など多くのバックアップを得られていると思います。指導者も大学で雇用しています。
―学生さんが完全自主運営で自分たちでお金を払って指導者を呼んでいるわけではないんですね。
昔はそうだったんですが、若林義人先生が前職をお辞めになる際に、大学として雇用することになりました。
―チャリティージョイントコンサートの概要についてお伺いできますでしょうか。
東日本大震災や2017年4月の熊本地震も含めたチャリティーと銘打って行っています。
龍谷大学の吹奏楽フェスタの開催主旨としては、「龍谷大学吹奏楽部と地元高等学校吹奏楽部が音楽を通じて交流をはかることにより、健全な青少年の人格形成・こころの育成に寄与することを開催趣旨とする。また、併せて、本事業を東日本大震災のチャリティコンサートと位置づけることにより、本学学生および参加する高等学校の生徒に対して、社会貢献活動への参画意識の醸成をはかる。」としています。
吹奏楽のコンサートを行うことによって、開催した地域の方々に来ていただいて大学の宣伝にもなることは大学側のメリットのひとつでもあります。
内容としては、例えば以前広島に来たときは、ジョイントする学校の生徒の皆様と、当日にホールでただ一緒に演奏しましょう、というだけでなく、前日に学校を訪れてパート練習や合同練習を通じて交流を行います。
広島ではジョイントする学校が2校あったので、前日に部員が二手に分かれて、それぞれの学校と3時間ほど合同練習をしました。基礎練習と、本番で演奏する曲を中心とした練習です。
また30分ほどですが、龍谷大学吹奏楽部のミニコンサートという形でそれぞれ演奏を披露しました。
当日は午前中から各校40分程度のリハーサルをし、最後に龍谷大学のリハーサルを行います。この際にもなるべく高校生の皆さんには「大学生はこういう風にやっているよ」というような形でリハーサルを見て頂きました。
その後に合同演奏のリハーサルです。
―ジョイントコンサートの際に大学説明会などをセットにしたりすることはありますか。
開会の挨拶やパンフレットに少し大学のカラーを入れている以外は、広報はほとんどしません。
―これまでに何度かジョイントコンサートを行われていますが、地元の連盟やお客様からの反応、評価はいかがでしょうか。
各都道府県によって連盟の対応も違うのですが、ある県の吹奏楽連盟では「お好きにどうぞ」と言われますし、ある県では連盟の理事長が「全て私がやります」と。
例えば後者の県では、理事長にとても喜んでいただき、「これを毎年やって欲しい」と言われました。
ただ大学側で、毎年同じ場所で行うという計画が出来ていなかったので、お断りするしかなかったですけれども、連盟の主催行事の一つにしたい、というくらいに喜ばれたということはあります。
ジョイントコンサートの一年目は、2県で行ったのですが、ホールの三分の一くらいしか埋まらなかったです。もちろん無料公演です。
ただ、2年目からはほぼ満席になっていって、回数を重ねるごとにお客様が増えているので、お客様からは良い印象を持って頂いているのではないかと思います。
出演した学校に関しては、まず「大学でも吹奏楽を続けている」というイメージがない高校生が多い中で、龍谷大学の演奏を聴いた生徒たちは、目の色が変わります。
龍谷大学でなくても、大学に行かなくても、楽器を続けることは素晴らしいことですから、高校で終わってしまう生徒が多い中、顧問の先生方からは「『高校を卒業しても吹奏楽は続けられるんだ』という点に目を向けさせてもらってよかった」というお話をいただきます。
またレベルの高い演奏が聴けるという点で、出演した生徒さんからも「ぜひまた一緒に演奏させてほしい」という声はいただきます。
―今後の同イベントの展開予定や目指すものなど、お伺いできますでしょうか。
実はこのイベントはもともと時限的なイベントで、2018年で一旦区切りを付けることになっています。
ただ、龍谷大学吹奏楽部の学生たちはこれを終わりにするのは嫌だということで、部活の自主事業の一環として残せないかと考えている者もいるようです。
例えば年に1か所など、規模は小さくなるかもしれませんが、形を変えて残るかもしれません。
―大学にとって部活動とは何か、大学側は学生の活動をどのように見ているのか、という点についてお伺いできますでしょうか。
龍谷大学の課外活動基本方針では、「課外活動は、正課授業とあいまって大学教育の重要な一環である」とし、人格形成、人間形成、集団生活、社会的訓練の場であり、課外活動の活性化は大学全体の活性化に繋がると考えています。
さらに、成果授業との絡みでは、「正課があって初めて課外が成り立つという前提に立つ。」という前提条件でサークル活動があり、正課授業における一定の単位取得条件が満たされなければ、公式試合(吹奏楽部ではコンクール、コンテストなど)に出れない、というルールを持っています。
これは、重点サークルということで部活動の援助はするけれども、最低限のルールとして単位はとりなさい、単位が取れてない学生は大会に出れません、ということです。
昔はそこまで問題視されることではなかったですが、現在はそのようなルールが出来たので、私も学生にはしっかりと単位を取るように、かなりキツめに言っています。それでも単位が取れずにコンクールなどに出場できない部員は少なからずいます。
もう大学生であり、部活動自体は自主運営でやってきているので、単位取得についても自然と「取って当たり前」という流れができれば、それが伝統となり、自主的に授業に行き、「単位が取れずコンクールに出られない」といった部員がいなくなるのではないかと考えています。
―最後に、全国の大学の吹奏楽部に向けて、大学側と上手く付き合っていくためのアドバイスをお願いします。
大学の職員の立場としては、「吹奏楽ってもしかして受験生を増やすツールになるかもしれないぞ」と思わせることでしょうかね。
もちろん基本は「音楽っていいよね」から始まるわけですけれど、大学の宣伝として吹奏楽部を使う、という大学もあっていいでしょう。
吹奏楽が高校であれだけフィーチャーされるのは、やはり吹奏楽人口が多いからではないでしょうか。
「吹奏楽人口は意外と多い」まずそのことを大学側に知らせないといけません。そうすれば逆に大学側から「支援させてくれ」という話が出てくるかもしれません。
大学側が吹奏楽についてあまり知らないという場合も多いでしょう。
「もっと吹奏楽をフィーチャーしたほうが得するよ」と大学に伝えることです。
アンサンブルなど、それほどお金をかけずに少人数で出来る演奏形態もありますし、そういうことも含めて、大学にとって本当に有益な存在になれるよ、ということを伝えに行くべきでしょうね。
大学とよくよく話し合うことです。
ただ、高校と違って「顧問の先生」はいません。OBや指導者に頼りっきりの部活では厳しいかもしれません。あくまでも自立し、自主運営を行い、自分たちで決定する組織を作ることが必要だと考えます。
インタビュー・文:梅本周平(Wind Band Press)
まとめ:
取材中に実は梅本と同い年であることが判明した水野さん。
水野さん自身も龍谷大学吹奏楽部のOBで、同じ時代に大学吹奏楽をやっていた者同士で話がおおいに脱線したりもしたのですが、大学サイドと大学吹奏楽部、サークルの関係について興味深いお話が出来ました。
龍谷大学吹奏楽部は部の公式パンフレットも作成しています。大学の吹奏楽部というとなかなかイメージがわきにくいので、高校生向けにこういうものを作成するのもよろしいのではないでしょうか。
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