Photo by Aiki Imamura
作曲家として活躍するかたわら、最近はCD制作のエンジニアも務める三國浩平さん。
今回は、作曲家として、またエンジニアとして、両面からメールインタビューをさせていただきました。
―三國さんは作曲家でもあり録音・編集のエンジニアでもありますが、まず先にエンジニアとしての部分に関して伺います。まずエンジニアの仕事というのは、具体的にはどのような内容になるのでしょうか。
簡単に言ってしまうと「音を録る」、そして「録った音を聴きやすく調整する」作業でしょうか。前者を指して「レコーディング・エンジニア」、後者を指して「ミキシング・エンジニア」と呼び分けて分業されることもありますが、クラシックレコーディングの世界では兼任する場合が多いです。
プロデューサーやディレクターの方々と「最終的などういう音づくりのCDにしていくか」を話し合った上で、マイクを何本立てるか(これは多ければよいというわけではまったくなく・・・ただ、たくさんのマイクを使わないと実現できない音もあるので難しい部分です)、どういうマイクを使用するか選定します。場合によってはホール/スタジオの選定も行います。
指揮者がいわば「表側の指揮者」だとしたら、エンジニアは「裏側の指揮者」という感じでしょうか。
―最近は一般販売されている機材も性能が上がって来ていると思いますが、アマチュアバンドが記録物を制作する際にはやはり専門の業者に頼んだ方が安心、ということもあるかと思います。ただ、どこに頼めば良いのか、本当に頼む価値があるのか、分からない部分も多いと思います。三國さんから見て、「頼んで良い業者」「頼んではいけない業者」の見分け方などございましたら、全国のバンドに向けて教えて頂けますでしょうか。
よく「ホールの人に三点吊りマイクの音をMDに録音してもらうようお願いしたからこれで大丈夫」と思われている方がいますが、失敗できない記録物では絶対にこれは避けたほうがよいです。
というのも、別にホールスタッフさんの技術が低いとかそういうわけではなくて、ホールは多目的な用途で使えるようにある程度の録音ができる設備は一応あるものの、録音はホールスタッフの本来の業務ではないからです。
業務の片手間に「サービスで」録音しておいてくださっている形になるので、なかなか片手間だと難しい部分があるようです。今までまわりで聞いた事例だと「音が割れまくっていた」「音がえらく小さくて、パソコンに取り込んで持ち上げたらノイズだらけになった」「モノラルになってた」「無音だった」(!)という話もききます。
ではどういう「業者さん」にお願いすればよいかというと、「ホールの三点吊りマイクではなく、自前のマイクをちゃんと持ってくるところ」でしょうか。
ホールの三点吊りマイクは、ホールによっては長年吊ったままになっていてとても状態が悪かったり、レコーディングにあまり適切ではないものが吊られていたり、そもそもホールスタッフさんがなんのマイクを吊っているのか把握していない(!)こともあります。
もちろんホールによっては手入れの行き届いている、商業レコーディングにも十分耐えうる素晴らしいマイクを用意されているところもありますが、そうでもない限り「ホールの三点吊りマイクを借りる」では残念な音になってしまう可能性があります。
自前のマイクを持ち込んで録られている業者さんはその辺りを踏まえて音に拘って自前のマイクを持ち込んでいるのだと思いますので、安心してよいかと思います。
その業者さんのブログを読んでみたり、あるいは「使用機材」のページなんかを見ているとなんとなーく「自前のマイクか、ホールのマイクを借りてるだけか」が見えてくると思います。
最近はサンプルを公開している業者さんも増えているので、そういうところも参考にしてもよいかもしれませんね。
―エンジニアとしてお仕事をされる際にこだわっているポイントなどを教えてください。
「聴いていて楽しい音」を心がけています。生演奏で音楽を聴いているときは音以外にも色んな情報(舞台上でキューを出す指揮者、神妙な顔で出番を待つシンバル奏者、ホールの匂い・・・etc.)が入ってきますが、CDは音しか楽しめる要素がありません。
不思議なもので「演奏をただそのまま録っただけの音」は意外と味気ない音だったりすることがあるので、目の前で演奏していてたときの熱感が蘇るような「楽しい音」になるよう調整を加えたりしています。
―次に作曲家としての部分にスポットを当ててお伺いします。まずはこれまでの質問と重なる部分ですが、エンジニアの仕事もしながら作曲家の仕事も行うというのは大変ではないですか?作曲に充てる時間も確保するための時間管理術などがあれば教えてください。
今日はエンジニアの日、今日は作編曲の日、と言った具合で仕事を完全に分けています。一日のなかでそのふたつの作業を混在させるとすごく疲れてしまうんですよね(笑)
―作曲家として、最も影響を受けている作曲家、編曲家は誰でしょうか。
やはり高校時代に習っていた鈴木英史先生の影響は大きいです。
また、大学を出てから少しだけ出版社にいた時期があったのですが、そこで真島俊夫さん、天野正道さん、星出尚志さんと一緒に仕事をさせていただいたのもかなり刺激になりました。
―最初に吹奏楽作品を書くきっかけとなった理由などございましたら教えてください。
中学生のときに先輩が引退して学生指揮者になり、初めてフルスコアを目にして何曲か読んでいるうちに「自分でも書けるんじゃ?」という気になってきてマーチを書いたのが最初だったと思います。実際はそう簡単なものではなかったのですが・・・(苦笑)
―自作の中で最も多くのバンドに演奏してほしい作品はどれでしょうか。また、その作品に関するこだわりポイントも教えてください。
どの曲も自分にとっては等しく大切なので、今回は直近の作曲出版作品を1曲だけご紹介しますね。東京音楽制作さまから出版していただいている《ディスティネーション》という作品です。
「日本人の作曲家の曲は、コンクールでよく演奏されている曲はどうしてとっつきにくい曲が多いの? もっと分かりやすいメロディーがある作品も演奏したい」ということをこの作品を書く前に複数の演奏家や指導者の方に言われたことがありまして、実際はそんな曲ばかりが世にあふれているということは決してないと思うのですが確かにそういう印象があるのは否めなかったので、リードやバーンズ、カーナウといった「これぞ吹奏楽!」という感じのアメリカ人作曲家の音楽に敬意を払って作曲しました。
邦人作品ではあまりないタイプの楽曲になっていますので、ぜひトライしてみてほしいです。
―最近は特に若い方で吹奏楽作品を書く邦人作曲家が増えていますが、ご自身の中で良い意味でライバル関係にある作曲家さんなどはおられますでしょうか。
今村愛紀さん、加藤大輝さん、日景貴文さんですね。日景さんとは仕事で一緒になることも多いですし、今村さん、加藤さんとは10代のときからの仲なのでこうしてお互い同じ業界で仕事ができていることをとても嬉しく思います。彼らが大きな仕事をやったという話をきくたびに嬉しいやら悔しいやら、です(笑)
―作曲家として、現在の日本の吹奏楽についてどう思われますか。
自分が中高生だったときと比較するとものすごく演奏が上手くなったな、と思います。特にスクールバンドはバランスやサウンドを意識しているバンドがほとんどになりました。
ただ、音楽の内容に関してはこれといった進歩は見られていないように感じます。演奏だけ上手くなっているので、余計に違和感を抱くようになった部分はあります。
特にジャズ・ポップスへの理解のなさはもうずっとずっと前からまったく進歩していないと思います。
バンドによってはクラシカルな楽曲よりもポップスのほうが演奏している頻度が高いところもかなりあると思うので、そこの部分の理解がもっと深まるとよいなぁと思っています。
―最後になりますが、三國さんの作品を今後演奏される方々に、メッセージをお願いします。
これは私の作品に限りませんが、参考CDの演奏は絶対ではありません。また、楽譜になにも書いていない=なにもしなくてよい、ではありません。楽譜に書かれた指示ひとつひとつを読み取りつつも、楽譜には書かれていないいわば「行間」にもなにか想いが込められていないか想像し、読み取って作品を演奏していただけたらと思います。
インタビュー・文:梅本周平(Wind Band Press)
まとめ:
作曲家としてもエンジニアとしても楽しい作品を作られている三國さん。
特にエンジニア視点でお答えいただいた前半は、多くの方にとっても興味深い内容になったのではないでしょうか。
切磋琢磨する作曲者仲間がいるのも良いですよね。
今後の活躍が楽しみです!
三國 浩平(みくに・こうへい)
石川県・金沢市生まれ、野々市市育ち。
小松市立高等学校芸術コース音楽専攻(専攻:作曲)、東京音楽大学作曲科を卒業。
これまでに作曲を鈴木英史、鈴木敬、堀井勝美、後藤加寿子、藤原豊、小六禮次郎の各氏に師事。作編曲のほかレコーディングエンジニア、楽譜浄書家としても活動している。
最近の目立った活動として、対馬市制施行10周年記念「九州交響楽団コンサート」オーケストラアレンジ、第15回 21世紀の吹奏楽「響宴」出品など。
ウィンズスコア、Beriato Music、ウィンズスタイル、ロケットミュージック、ティーダ出版、Band Power、ASKS Winds、東京音楽制作合同会社から作品が出版されている。
よつば吹奏楽団音楽監督、秋葉原区立すいそうがく団!音楽監督。
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