「はじめての『スコア』」プロの指揮者・岡田友弘氏から悩める学生指揮者へ送る「スーパー学指揮への道」第37回






管弦楽や吹奏楽の指揮者として活動されている岡田友弘氏に、学生指揮者の皆様へ向けて色々なことを教えてもらおうというコラム。

主に高等学校および大学の吹奏楽部の学生指揮者で、指揮および指導については初心者、という方を念頭においていただいています。(岡田さん自身も学生指揮者でした。)

コラムを通じて色々なことを学べるはずです!

第37回は「はじめての『スコア』」。

前半は和音の話が一段落して、いよいよ本丸(?)の「スコア」の話が始まります。

後半のエッセイ的な部分は「指揮の基本」です。

さっそく読んでみましょう!


合奏するためのスコアの読み方(31)

スーパー学指揮を目指すあなたのための「スコア研究」(1)

さぁ皆さん、深くも魅力的な「和声の森」にしばしの別れを告げて、今回からは「スコア」についての色々なことを学んでいきましょう。

スコア研究を始めるにあたって、まずは「音楽の形成原理」について確認します。

はじめに

音楽の形成原理、すなわち「音楽作品(曲)はどのようにできているのか?」について考えてみましょう。

それを考えるときに、僕たちは「作曲者(編曲者、アレンジャー)がどのようなことを徹底的に考えているのだろうか?」ということに注目する必要があります。

さまざまな要素が考えられると思いますが、特に僕は大きく2つのポイントが大事だと思っています。

1・作曲者は声や楽器やその他の音源を選択し、組み合わせることによって、あらかじめ「大体の響き」を決定する。

2・作曲者は時間の流れを設定し、それによって「形式」を構成する。

この大きな2つ のポイントを総合的に扱うことで、音楽の形成の原理を考えていきます。

1に関係することとして、さまざまな「スコア」の種類や「記譜の方法」について、2に関係することとしては、作曲者が音楽の時間経過を作り上げるときの「基準」となる最も基本的な「4つの構想」についてお話ししていきます。その「4つの構想」とは・・・

1・小さなまとまりを示す「リート形式」

2・いくつかの部分を羅列的に並べる「並列形式」

3・モティーフ(動機)や主題(テーマ)の素材を操作 する「展開形式」

4・規範となる(もしくは原型となる)音形を変化させていく「変奏形式」

の4形式です。

第1章・はじめての「スコア」

元々の「スコア」の意味をまずは理解しましょう。

「スコア」とは、ある音楽作品を、それを演奏する声や楽器、その他の音源のいずれかに「配分する」ことです。

一般的にイメージする「スコア」は、演奏すべき全ての音符を「まとめた」もので、スコアに記載された譜表の段数は、必要とする声部(ボイス、発声体)の数となるべく同じ数になります。そのようなスコアのことを合奏体のスコアについては「フルスコア」とよびます。

大きな括りとしては「複数の声部」が記譜されている譜表が「スコア」とよばれます。

ですから複数の声部を一段の楽譜に記譜している楽譜も、分類的には「スコア」に分類されるのです。

それでは「スコア」のいくつかの種類と、その書法の特徴を見ていきます。

第2章・さまざまな「作法」で書かれたスコア~「2声作法」

複数の声部を楽譜に書くことを「作法」といいます。

「複数の声部」ということは「2声以上」の声部で作られた音楽ということですね。

それでは最初に「2声の作法」について。

2つの声部のリズムの動きがほとんど同じで、なおかつ音域も近い場合は、2つの声部を1段の楽譜に記譜することができます。このようなスコアが「最小単位」のスコアということになります。

このように記譜します。

この場合の記譜の約束事を見つけることができますか?

このように記譜する際の約束事は・・・

1・上の声部は楽譜の「ぼう(符尾)」を上向きに、下の声部は下向きにする。

2・上下の声部が「交差する(上の声部と下の声部の音域が逆転する)」時であっても、この規則を適用する。

2声の動き(リズムなど)が違っていたり、歌の場合において歌詞の付け方が異なる場合には、1段譜で書くと見にくいので「2段譜」にします。

このような記譜です。

この場合は音符の「はた(符尾)」の付け方は、各段に書かれる音符が見やすいように記譜します。

第3章・さまざまな「作法」で書かれたスコア~「4声作法」

音楽を4声にすることによって、演奏の幅と厚みが増します。

作曲する側もフルスコアで各楽器に音を配置する前には、4声体の楽譜を書いて曲の「見取り図」のようなものを作ります。いかなる編成においても、この「4声体」で考えられた音楽が基本的な構造になっていることが多いです。

同じように進行する4つの声部を2段譜にまとめることは、声楽(またはコラール風のメロディの器楽)では良く用いられます。

このような感じで記譜されます。

a)混声合唱のスコア

b)男声合唱のスコア

c)管楽器のためのコラール風の楽想

通常の場合、4声体で書かれた音楽はこのように記譜され、各声部の動きをそれぞれ明確にすることができます。

このような記譜です。

d)合唱のスコア

テノールはこの場合「ト音記号」で書かれますが、実際に出る音は記譜の音の「オクターブ下」の音です。楽譜によってはテノールの楽譜のト音記号の下に「8」というオクターブを意味する数字を書き入れているものもあります。

この4声体のスコアが最も基本的な合奏スコアの形態です。

これを基盤として、5段以上のスコアを書いたり、また4声部の中の隣接するある声部(例えばソプラノとアルト、テノールとバスなど)を一緒に一段に書いた「3段譜」を書くこともできます。

この4声体の基本形は、器楽合奏でも基本形として重要視されています。最も代表的かつ重要な編成は「弦楽4重奏」です.2本のヴァイオリン、ヴィオラとチェロが1本という編成です。

e)弦楽4重奏のスコア

ここまでの図版引用;H=C.シャーパー「楽譜の構造と読み方」(シンフォニア)

オーケストラの基本形、そして「理想形」が弦楽4重奏といわれます。管楽編成や吹奏楽編成の曲でも基本構造の考え方は弦楽 4重奏で用いられるような「4声体」の音楽です。

実際の作品では、この編成を拡大したり、変形したりすることがよくあります。例えばチェロパートの下にコントラバスのパートを追加したりする「拡大」はよく登場します。

ヴィオラに用いられている記号は、吹奏楽を楽しんでいる人には馴染みのない記号だと思いますが「アルト記号」と呼ばれる「ハ音記号」の一種です。「ハ音記号」とは「ハ音=Cの位置」を示すのに使われる音部記号です。

それと同様にト音記号は「ト音=G」、へ音記号は「へ音=F」を示す記号でしたね。

「ト音はハ音に対する属音、へ音はハ音に対する下属音」であるということも、音楽理論上はとても重要な意味を持っています。音部記号にもそれぞれに意味と関係性があるのです。

この4声体のスコアを基盤としてオーケストラのスコアが成立しているのです。

次回はその「オーケストラのスコア」についての理解を深めていきたいと思います。


【ミニコーナー】学生指揮者のための、指揮法以前の指揮の原則

今回から、学指揮の皆さんが知っておきたい「指揮の基本」を少しずつ学んでいきましょう。

指揮法の本や、先生もしくは先輩から指揮を学んでいる人も多いかと思います。その内容はどのようなものでしょうか?

「指揮の図形」のことですか?それとも「指揮の運動」のことでしょうか?もしかしたら「指揮のいくつ かの技法」についてかもしれませんね。

指揮法の本も指揮のレッスンも難しい用語や、厳しいトレーニングで「指揮することの難しさ」を思い知る・・・という方も多いのではないでしょうか?かく言う過去の自分もそうでした。

指揮法のレッスンで上手く振れずに先生に叱られ悔し涙を流しながら電車に乗ったこと、テキストである指揮法の本の記述が難しくて全く理解できなかったあの日の夕暮れ時の風景が、昨日のことのように思い出されます。

指揮には「指揮法」という「約束事」がありますし、指揮の教育システムにおいて日本は世界の先頭を行っています。その証拠に日本には多くの優れた指揮者がいて、世界各地で行われる指揮者コンクールの上位入賞の常連は日本人です。

しかし、僕は「指揮というものはその人の個性を表すもの」だと考えていますし、指揮者が感じたままに音楽を表現することは重要なことだと思っています。

しかし、そこには一定のルールがあり、それを見ることで「指揮者がどのような音楽をしたいのか?」をオーケストラのメンバーに伝える必要があります。

指揮技術の拙さは「言葉で」補うことが可能ではありますが、本番においては言葉を発しながら指揮をするわけにはいきませんし、普段の練習でも言葉に頼らずに伝えられることができたらもっと有意義な音楽作りができると思いませんか?

そのために「指揮法」があるのです。

今回から、その指揮法の基本的な考え方についてお話ししていきたいと思います。決して難しいことはありません。高度な技術を習得する前に「指揮の原則」を頭に入れておきましょう。

・・・みなさんが「スーパー学指揮」になるために。

古今東西、素晴らしい指揮者はたくさんいるのですが、肖像権やら色々な問題があり・・・この指揮者の画像で我慢してください。これは僕のとある本番における指揮写真の一枚です。

この画像の赤い点線で囲んだ範囲が、指揮者が通常使用する「指揮の場(フィールド)」です。

このエリアを基本にして音楽を指揮するための図形を描きます。時にはこのエリアよりも小さい範囲で振ることもありますし、時には大きく振ることもありますが、常に小さすぎたり大きすぎたりすると表現の幅が制限されます。「中庸の範囲」をしっかり設定して、「ここぞ!」というときにその範囲から「はみ出す」というのが最善策だと考えています。

基本的には上の限界は額のあたり(専門的には「頭部位置」といいます)、下の限界はおへその付近(「腹部位置」と呼ばれています)に設定するのが良いでしょう。

その時に基本的な下の位置が下になりすぎると奏者から指揮が見にくくなり、また音を出す点の予測が難しくなるので、一定の高さにするのが良いと思います。指揮者の特性や指揮メソッドにおいて、例えばオペラやバレエのピット(舞台の前方に設置されるオーケストラが演奏するためのエリア、少し客席よりも低い位置にあり、通常の舞台よりも暗かったりするような特別な環境)で見やすくするための技術もありますが、基本的には下の限界を高い位置(例えは胸の位置など)にすると、上の限界との距離が近くなるので、あまり上にしないほうがいいと考えています。

この画像だと少しわかりにくいかもしれませんので、この画像を見てみましょう。

撮影者不明「指揮をするリヒャルトシュトラウス」

これはドイツの作曲家で指揮者としても活躍したリヒャルト・シュトラウスの指揮姿を撮った写真です。この赤い枠で囲んだエリアが「指揮の場」です。右の写真の矢印のエリアが指揮の図形を描く範囲で、基本的には体の中心から左右対称になるようにできるとキレイだと思います。その事にこだわりすぎて音楽そのものが色褪せるようでは本末転倒ですが、指揮の基本的エリアについて、指揮者がある程度それを意識しておくことも必要です。

今度はこの影絵を見てください。

テオ・ツァッシェ「指揮をするリヒャルト・シュトラウス」

これは前出の写真のモデルであるリヒャルト・シュトラウスの指揮姿をウィーンの風刺画家テオ・ツァッシュが描いた絵です。

この絵で赤い点線の丸で示したエリアが、指揮者が音楽を作り出す空間です。

自分と楽器としてのオーケストラの演奏者の間にあるこの空間が、指揮者にとっての広大な宇宙空間なのです。このエリアが指揮者の体に近くなりすぎても、また遠くなりすぎてもいけません。

平面的な指揮の場について注意深く意識している人は多いのですが、この「空間」をしっかり意識している指揮者は思いの外少ないと感じています。この「指揮空間」に対しての意識も指揮者はしっかり持つとより良い表現ができると思います。

「情熱はあるが、情報がない」指揮にならないように、自らの指揮を研究してみてください!         

次回以降も指揮の基本原則のお話をしていきますので、お役立てください。指揮法上でわからないことがありましたら、僕のウェブサイトや各S N Sのダイレクトメッセージでも質問を受け付けています。オンライン、オフラインのレッスンも承りますのでお気軽にお問い合わせください!

次回もお楽しみに!


→次の記事はこちら


文:岡田友弘

※この記事の著作権は岡田友弘氏に帰属します。


 

以上、岡田友弘さんから学生指揮者の皆様へ向けたコラムでした。

それでは次回をお楽しみに!(これまでの連載はこちらから)

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(Wind Band Press / ONSA 梅本周平)


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岡田友弘氏プロフィール

写真:井村重人

1974年秋田県出身。秋田県立本荘高等学校卒業後、中央大学文学部文学科ドイツ文学専攻卒業。その後、桐朋学園大学音楽学部において指揮法を学び、渡欧。キジアーナ音楽院大学院(イタリア)を研鑽の拠点とし、ウィーン国立音楽大学、タングルウッド音楽センター(アメリカ)などのヨーロッパ、アメリカ各地の音楽教育機関や音楽祭、講習会にて研鑚を積む。ブザンソン国際指揮者コンクール本選出場。指揮法を尾高忠明、高階正光、久志本涼、ジャンルイージ・ジェルメッティの各氏に師事。またクルト・マズーア、ベルナルト・ハイティンク、エド・デ・ワールトなどのマスタークラスに参加し、薫陶を受けた。

これまでに、東京交響楽団、セントラル愛知交響楽団などをはじめ、各地の主要オーケストラと共演するほか、数多くのアマテュア・オーケストラや吹奏楽団の指導にも尽力し、地方都市の音楽文化の高揚と発展にも広く貢献。また、児童のための音楽イヴェントにも積極的に関わり、マスコットキャラクターによって結成された金管合奏団“ズーラシアン・ブラス”の「おともだちプレイヤー」(指揮者)も務め、同団のCDアルバムを含むレコーディングにも参加。また、「たけしの誰でもピカソ」、「テレビチャンピオン」(ともにテレビ東京)にも出演し、話題となった。

彼の指揮者としてのレパートリーは古典から現代音楽まで多岐にわたり、ドイツ・オーストリア系の作曲家の管弦楽作品を主軸とし、ロシア音楽、北欧音楽の演奏にも定評がある。また近年では、イギリス音楽やフランス音楽、エストニア音楽などにもフォーカスを当て、研究を深めている。また、各ジャンルのソリストとの共演においても、その温かくユーモア溢れる人柄と音楽性によって多くの信頼を集めている。

日本リヒャルト・シュトラウス協会会員。英国レイフ・ヴォーン=ウィリアムズ・ソサエティ会員。




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