【エッセイ】石原勇太郎の「Aus einem Winkel der Musikwissenschaft」第6回:言葉を紡ぐこと、音を織ること






ブルックナーとブラームスも仲が悪かったと言うけれど…
(2017年夏に筆写撮影)

みなさんが新しい曲をやることになり、楽譜が配られました。その中に、知らない音楽用語が出てきたら、みなさんはどうしますか?

―音楽室にある音楽辞典で調べます!

なるほど、音楽室や自宅に辞書があるのならば心強いですね!
しかし、辞書が手元にないけれど、すぐに合奏が始まってしまいそうな時はどうでしょう?

―そんなの簡単!スマホでググればいいんだ!

(スマートフォンや携帯電話の持ち込みが禁止の学校や団体もあるかもしれませんが)インターネットで検索すれば、たしかに答えがすぐに見つかるかもしれませんね!

そんなこんなで、わたしたちは何かとインターネットのお世話になっています。
さて、そうなるとSNSを使っている方も多いかもしれません。

TwitterやInstagram、そしてFacebookなどなど…
おそらく、この記事を読んでくださっている多くの方が何かしらのSNSを使っていると思います。

プロの演奏家や作曲家の活動や想いを直接見ることもできますし、同じ趣味を持った人たちと雑談なんかもできるSNSはとても便利です。
しかし、SNSは良い面ばかりではありません。みなさんもよくご存知のように、近年しばしば「炎上」と呼ばれる、あるユーザーに対する激しい批判や攻撃がSNSで頻繁に起こります。
「炎上」は批判や攻撃を受けたユーザーが、何か非常識なことや、反社会的なことを発信してしまうことに原因があるのですが、度を超えた批判・攻撃がなされることも多々あります(こわい…)。

吹奏楽に携わっている方でもプロ、アマチュア関係なく、多くの方がSNSを使って情報を発信したり、交流を深めたりしています。そして同じように、その界隈で「炎上」のようなことが時々起こります。

今回考えたいのはこの「炎上」についてです。
しかし「炎上」を防ぐ方法や、いわゆる「火消し」の方法を考えるわけではありません!
(そんな方法はわたしにはわかりません…)

むしろ「炎上」の原因となってしまったユーザーよりも、火を強めてゆくユーザー(つまり、多くの場合においてのわたしたち)について、特に音楽をやっているわたしたちだからこそ気をつけたいことを、自分への戒めとしても考えたいと思います。

●音楽の話題における「炎上」

SNSで音楽について発信することは、そもそも「炎上」のリスクが高いと個人的に思っています。
クラシック音楽の場合、あるオーケストラの演奏会について、多くの人がSNSで感想を発信しています。

音楽を聴いた時の感想なんて、人それぞれだと思いませんか?

ある人は「深い解釈を持つ指揮者で、オーケストラも熱い演奏を繰り広げていた」と絶賛するかもしれませんが、「指揮者はなにがしたいのか意味不明で、オーケストラも暴走気味、音程も悪い」と批判する人もいるかもしれません。
実際にSNSを使っていると、こういうことはよく見かけます。

しかし、音楽に携わっていて、なおかつSNSを使っている方の多くは、こういう正反対の意見を発信している相手に対して「耳が悪いのでは?」とわざわざ噛みついたり、貶したりすることはほとんどありません。

それは、SNSで感想を発信する方が「音楽を聴いた時の感想は人それぞれ」だということを知っているからに違いないと思っています。

それでは、音楽に携わる人たちの中で「炎上」することは、どのような時なのでしょうか。
例えば、アマチュアの吹奏楽やオーケストラの団体の在り方についてあまりに尖った意見を発信したり、著作権的に少し問題のある発信をしてしまったり…
実際に鳴り響いた音楽よりも、音楽をするための準備やそのプロセスに関することで問題が起こることが(わたしが見てきた限りでは)多いような気がしています。

「炎上」してしまった投稿を見た各々のユーザーが、何が問題で、それを解決するにはどうしたら良いのかを、同じSNSで発信することはとても良いことだと思いますし、今後のためにも必要なことだと思います。

しかし、その時にわたしたち音楽に携わる人間だからこそ、一度考えてほしいことがあります。
それこそが、今回一番考えたい部分なのです!

●言葉を紡ぐこと、音を織ること

わたしたちは「音」を使って、様々な想いを現実のものにしています。
つまり、わたしたちは「音」の持つ強い力をとてもよく知っているのです。

わたしたちの知る「音」の力と同じように、「言葉」にも力があります。

SNSを通して、音楽に関することで「炎上」が起こってしまった時、音楽に携わる方から、かなり強い言葉が発されることがしばしばあります。

もちろん、間違いを正すことは大切です。誤った知識を持っているのならば、それを正しいものへと導いてゆくことは絶対に必要なことです。

しかし、基本的にはそこに強い言葉は必要ないのではないでしょうか。
特にSNSはお互いの顔が見えません。相手がどのような表情・気持ちで書き込んでいるのかまったくわからないのです。

―バカ!

これをわたしがどのような気持ちで書いているかわかる方はいないと思います。
仮に対面してお話ししている時に笑って明るい声で言ったのであれば、冗談として受け取るかと思います。しかし、顔も見えず、声も聞こえなければ解釈のしようがありません…

この点、実は「音」の方が優れているのではないかと思っています。
和音の響き、旋律の動き、そして音色…CDで演奏を聴いているだけ、つまり「音」だけで色々な想いをわたしたちは感じることができるからです。

この「音」のとても強い力を知っているからこそ、「言葉」もそれだけで相手に伝わると思ってしまう方も多いのかもしれません。

わたしたちは「音」をとても丁寧に扱いますよね。
ひとつひとつの音の高さを確認して、試行錯誤をしながらより良い音を、理想の響きを求めてゆく…とても素敵なことだと思います。
わたしたちが常日頃から使う「言葉」も、同じように(特に直接話せず文字だけを通して発する時には)とても丁寧に扱うべきもののはずなのです。

感情的に書き込めることも、実はSNSの良いところのひとつだと思っています。
しかし、自分が感情的に発信したことが、思いもよらぬところで人を傷つけてしまうこともあります。
たったひとつの音で人を感動させることができる瞬間があるのと同じように、です。

「言葉」を発することは、実は「音」を使って演奏したり作曲したりすることと同じなのだと、わたしは感じています。
だからこそ、わたしたちは時には強い言葉を必要としますし、やわらかい言葉を求めることもあります。

しかし、何にしろ「言葉」も「音」も、多くは自分以外の誰かに向けて発されるもの。つまり、最終的には他者に伝わってゆくことを考えてみると、強い言葉の恐ろしさも自ずとわかってくるような気がします。

「音」を使って巨大な織物を織ることのできるわたしたち音楽に携わる人間だからこそ、「言葉」の持つ力にも共感し、それを丁寧に紡いでゆくことを忘れてはいけないのかもしれません。

それでは!

~♪~♪~♪~

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同じくWind Band Press上で連載していました「石原勇太郎の【演奏の引き立て役「曲目解説」の上手な書き方】」もよろしくお願いいたします!(第1回の記事はコチラ


※この記事の著作権は石原勇太郎氏に帰属します。


石原勇太郎氏 プロフィール

ある時は言葉を紡ぎ、またある時は音を紡ぐ音楽家見習い。東京音楽大学大学院修士課程音楽学研究領域修了。同大大学院博士後期課程(音楽学)在学中。専門はオーストリアの作曲家アントン・ブルックナーと、その音楽の分析。論文『A.ブルックナーの交響曲第9番の全体構造――未完の第4楽章と、その知られざる機能――』(2016:東京音楽大学修士論文)『A.ブルックナーの交響曲第8 番の調計画――1887 年稿と1890 年稿の比較と分析を通して――』など。
公式サイト:https://www.yutaro-ishihara.info/
Twitter ID:@y_ishihara06


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