「黄金を抛却して瓦礫を拾う」~僧侶兼打楽器奏者 福原泰明の音楽説法 第8回




2014年に日本人として初めて世界で最も有名なブラスバンド「ブラック・ダイク・バンド」の正式メンバーとなりパーカッション・ソロイストとして活躍。帰国後は僧侶としての修行を積み、現在は僧侶兼打楽器奏者として幅広く活躍している福原泰明さん。

そんな福原さんが、「心」をテーマに、仏教の教えを元に、演奏家(音楽家)の悩みや心のモヤモヤを晴らし、どう生きていくか、をライトに語る連載「僧侶兼打楽器奏者 福原泰明の音楽説法」。

第8回となる今回はのタイトルは「黄金を抛却して瓦礫を拾う」。さてどんなお話が聞けるのでしょうか。


黄金(おうごん)を抛却(ほうきゃく)して瓦礫(がれき)を拾(ひろ)う。
これは、景徳傳燈録(けいとくでんとうろく)という、中国北宋時代に編纂された、禅宗の歴史書に出てくる一文です。「抛却」とは投げ捨てるという意味で、菩薩は黄金(心地のよい悟りの境地)を捨て、あえて瓦礫(俗世間の人々)を救済することを選んだわけです。

私なんて「黄金を捨てるなんてとんでもない!」と思いますが、まぁこの禅語の意味は今回はあまり関係無く、ここでは「何かを得るためには何かを犠牲にしなければならない」ということについて書いていきます。

 

「等価交換」。この世界は、ほとんど全ての物事がこれで成り立っています。こちらが差し出したものに対して、差し出した相当のものが帰ってくる。
1700年代の哲学者、アダム・スミスも「あらゆる男は(女も)交換によって生きるのであり、つまり、だれもがある意味で商人となる」と書いています。
漫画読みたい、ゲームしたい、などの欲求を抑え試験勉強に励めば、それ相応の点数が取れるし、暑いからペットボトル買っちゃえ、などという日々の細々とした無駄遣いを控えれば、その分貯金でき、積もりに積もってそれらのお金で新しい楽器が買えるかもしれない。

私は三年間の修行をして、帰ってきて僧侶という立場に立っています。身も蓋もない言い方に換えると、「三年間という時間を犠牲にして、僧侶という地位を得た」となります。莫大な時間とメンタルを消耗するユー◯ャンのようなものです。

また、それより前に三年間、イギリスの音楽大学に入って勉強もしました。それは「多額のお金を犠牲にして音楽を勉強する期間を得た」と言えます。
ここで私の自慢できない留学生活をちょっと深掘りしますと、それはそれは目の当てられないものばかりでした。
例えば、練習時間が惜しくて友人とのパーティーや飲み会はほぼ断っていました。結果、人がいない時間に集中的に練習したため、技術は向上しましたが、友人は失いました。
また寮生活の中、料理する時間さえも勿体ないと感じ、ほぼ毎日同じ味のパスタを食べていました。もちろん、健康状態はボロボロです。
しかし、私はその犠牲があって大変有意義な留学生活を送れたという自負があります。

人は皆、何かを犠牲にして生きています。何かを買うにもお金を犠牲にしなきゃいけないし、何か行動するにも時間やエネルギーを犠牲にしなきゃいけない。それらは全て等価交換です。

 

犠牲をためらうと、時に得られるはずのものが満足に得られなかった、という事も起こり得ます。

デューク大学教授であり行動経済学者のダン・アリエリーは、イェール大学教授のジウン・シンと共に、人間が選択肢を捨てるのかどうか「扉ゲーム」と名付けたコンピューターゲームを用いて実験を行いました。

概要は以下の通りです。

・赤、青、緑の3つの選択できる扉がある。
・扉をクリックすればそれぞれの部屋に入り、その部屋の中でクリックすればお金が手に入る
・その金額は部屋ごとに違っており、例えば赤は1クリックにつき1~5セント、青は2~6セント、緑は3~7セントの範囲で“ランダムで”発生する。その金額の範囲は被験者には非公表だが、そのクリックでいくら発生したのかはクリックする都度表示される
・合計クリックは100回まで
・部屋は自由に往き来できる。部屋移動のたびに1クリックを消費

つまり、「部屋を移動してしまうと1クリックを無駄にするので、早めに高い金額を得れそうな部屋の目星を付けて、あとはひたすらその部屋でクリックする」のが合理的で、多くの被験者もこのやり方を取りました。

しかし、次の実験ではもう一つ条件が追加されます。

・その扉が12回の間クリックされないと、消滅してしまう。
つまり、他の扉の中で12回行動していると、その扉は消える。最初のやり方とは違って、「戻れない道」が発生します。選択肢を捨てずにいるには、12回過ぎる前にその扉に戻ってこなくてはいけない。

結果はどうなったでしょうか?
扉が消える方の実験は、消えない実験と比べて「得た金額が15%減る」結果となりました。

「消えた扉ではもっと稼げたかもしれない」という後悔をしたくないため、扉が完全に消えるという「戻れぬ道」が発生しないように無駄にクリックを重ねたのです。

 

人生の中でもこのような「選択肢を捨てる決断」に迫られることは必ずあるでしょう。
「人は何かの犠牲なしに何も得ることなどできない」という言葉が「鋼の錬◯術師」にも出てきました。

皆さんは、何を犠牲にしますか?そして、何を得ますか?

私は自分のプライドを犠牲にして、妻の母親に完全に服従しています。おかげで子供の面倒もバッチリです。

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今回もわかりみの深い内容でしたがどのあたりが「わかるわかる」なのかは僕の口からは言えません。

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※この記事の著作権は福原泰明氏に帰属します。


【福原泰明 プロフィール】

東京都出身。15歳より打楽器を始める。日本大学文理学部心理学科卒業。英国王立北音楽院修士課程修了。
在学中に学内奨学金を授与される。打楽器全般を大里みどり、シモン・レベッロ、エリザベス・ギリバー、ポール・パトリック、ティンパニをイアン・ライト、ラテンパーカッション及びセットドラムをデイヴ・ハッセルの各氏に師事。第11回イタリア国際打楽器コンクール(ヴァイブラフォンの部)ファイナリスト。

2011年7月、渡英と同時に、世界で最も名高いブラスバンド(金管バンド)の一つ、フェアリー・バンドに入団。同年10月より首席打楽器奏者を務める。同年12月にはブラスバンド専門ウェブサイトの4barsrest.comにて「2011年打楽器奏者ベスト5」の一人として取り上げられる。2012年には有名ブラスバンド専門雑誌「British Bandsman」にて表紙を飾り、ロング・インタビューが掲載されるのを始め、複数の音楽雑誌に取り上げらるなど、英国ブラスバンド界ではまだ数少なかった”打楽器ソリスト”として活動。その存在は、普段ブラスバンドの中ではスポットが当たりにくかった”打楽器”を”ソロ楽器”として認識させることとなる。2013年1月、「RNCM Festival of Brass」にて自身が委嘱したロドニー・ニュートン作曲の打楽器協奏曲「ザ・ゴールデン・アップルズ・オブ・ザ・サン」をフェアリー・バンドと共に世界初演し、満員の観客からスタンディング・オベーションを受け、ブラスバンド界の演奏者、指揮者、作曲家、編集者の各方面からも絶賛される。

同年10月よりレイランド・バンドに入団。打楽器ソロ曲のレパートリーを更に広げていく。同年11月、三大ブラスバンド・コンテストの一つ「Brass In Concert Championships」にてマリンバとフリューゲル・ホルンのデュオを演奏し、「本日の最高の演奏の一つ」(4barsrest.com)と評される。

2014年、世界で最も有名なブラスバンドと言われるブラック・ダイク・バンドに史上初の日本人正式メンバーとして入団。マリンバ・ソロイストとしてコンサートでソロを務める。
オランダの打楽器メーカー”マジェスティック・パーカッション”エンドーサー。


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