音楽に関わっている割に、なかなか勉強する機会がない音楽著作権。
今回は、特に学校の吹奏楽部や一般の吹奏楽団にも関係が深いと思われる音楽著作権の事項について、あらためてJASRAC(一般社団法人日本音楽著作権協会)中国支部、支部長の高橋様にお話を伺いました。
基本的にはJASRACの管理楽曲を想定しての質問となりますので、それ以外の楽曲についてはそれを管理している団体・個人にお問い合わせください。
■まず初めに基本から ―本日はお忙しいところありがとうございます。まず最初に基本からあらためてお伺いしたいと思います。音楽の利用にあたって、すべてJASRACに手続きを取らないといけないのでしょうか。
いえ、そうではありません。著作権の保護期間が経過して著作権が消滅した作品(Public Domain パブリックドメイン、略してPDとも)は、手続きの必要はなく、自由に使うことができます。
また、著作権法には「私的使用のための複製」や「営利を目的としない演奏・上映」など、所定の条件を満たしていれば著作権が及ばないとする定めがあります。
このように法律で著作権が制限される使用方法であれば、著作権が存続している作品であっても、手続きいただく必要はありません。
■演奏(日常の活動)関係
―学校の部活動で楽譜を使用する場合、吹奏楽部で購入した楽譜(スコアやパート譜)を必要に応じて団員や指導者用にコピーして使用することはできますか?教育目的のコピーは認められるという意見もあると思いますが。
結論から申し上げますと、JASRACに手続きが必要です。
教育機関での「複製」に関しては、以下5つの要件をすべて満たす場合には著作権者の許諾を受けなくても良いとされています。
1. 学校その他の教育機関であること(営利を目的として設置されているものを除く)
2. 教育を担任する教員や教育や授業を受ける児童・生徒がおこなう複製であること
3. 授業の過程での使用を目的としていること
4. 必要と認められる限度内であること
5. その著作物の種類や用途、複製する部数や態様などから考慮して、著作者の利益を不当に害しないこと
ご質問のケースでは、上記の1から4はクリアできている、あるいはクリアできると思いますが、5に該当しないと考えます。
部活動での使用となりますとそれなりに人数もおられるでしょうし、たとえ人数が少ない場合でも繰り返し使用される実態を考慮しますと、結果的に多数のコピーを行うことと変わりなく、
著作権者の利益を害すると考えますので、出版利用の手続きをするよう案内しています。
―演奏したい楽曲があったけれども絶版などで入手困難だったので、他の楽団から借用して使用したい。これについて何か問題や注意点はございますでしょうか。
基本的には、非営利かつ無償であれば、楽譜の貸し借りそのものは著作権法上問題ないと考えます。これは絶版の楽譜に限らずです。
ただし借りた楽譜を指導者や団員の人数分コピーするということになれば、もちろんJASRACへの手続きが必要となります。
―演奏会のプログラムを決定するために複数の市販のCDの音源を1枚のCD-Rにまとめて選曲に使用する(配布する)、または市販CDの音源をファイル共有サービスにアップロードしたりメール送信したりして、団員が各自ダウンロード出来るようにしたいのですが手続きが必要でしょうか。
楽団員に配付するためにCD-Rへ複製することは私的使用を超えますので録音利用の手続きが必要です。無断で行ってはいけません。
なお、市販のCDを複製する場合は、まずは楽曲の著作隣接権者であるレコード製作者と実演家の許諾を得ることが必要です。そのうえでJASRACの許諾をとってください。
ファイル共有サービスへのアップロードやメールに楽曲データを添付して配布するケースも、私的使用を超える範囲となりますので、関係権利者の許諾が必要となります。
いずれもご自身で権利処理を行い適法にお使いいただくことは可能ですが、ご面倒でも市販のCDをダビングせずそのままお使いになる、または、インターネットで適法に提供されている有料聴き放題サービスなどをご利用するほうが、複雑な権利処理も必要なく現実的かと思います。
■編曲について(出版社ではなく学校の部活動などで顧問の先生などが編曲する場合を想定しています)
―パブリック・ドメイン(※著作権が消滅している作品)ではない作品を吹奏楽や管打楽器アンサンブルなどに編曲するに当たって、どのような手続きが必要でしょうか。
著作権法は、編曲や翻訳について「著作者は、その著作物を翻訳し、編曲し、若しくは変形し、又は脚色し、映画化し、その他翻案する権利を占有する。」と定めています(著作権法27条)。JASRACはこの権利の委託を受けておらず、また、著作者の意に反する改変は、著作者人格権の一つである同一性保持権を侵害するおそれもあります(同20条1)。このため、編曲をしようとする場合は、まず最初に原曲の関係権利者に直接許諾を得てください。
―原曲権利者の許諾を得て編曲した作品を、演奏会のプログラムではなく通常の練習の一環として演奏するにあたって、演奏の許諾(手続き)は別途必要でしょうか。
練習であればJASRACへの手続きは必要ありません。
―編曲の許諾を得て自分の楽団用に編曲・演奏した作品について、その後、他の団体などから要請があったので、出版社を通さずに自費出版という形で楽譜の販売を検討している場合、必要な手続きはございますでしょうか。
原曲権利者が最初にその楽団に編曲を許諾した時には、その楽団が演奏することだけを想定して許諾したのかもしれません。つまり、原曲権利者が、編曲作品の利用について利用の主体や利用範囲など何らか制限を設けている可能性があります。
原曲権利者とお話しされる最初の段階で、先々他の楽団や第三者に販売することまで含めて編曲の許諾を得ていれば問題ありませんが、そうでない場合は改めて原曲権利者から許諾を得る必要があります。改めて原曲権利者の許諾を得たうえで、JASRACの複製手続きを行ってください。
自費出版かどうかあるいは販売するのか無償で譲るのかは問いません。
■演奏会開催にあたって
―自主開催の演奏会を行うにあたって、無料の演奏会でも、すべての演奏作品について著作権管理団体への申請および著作権料の支払いが必要なのでしょうか。
著作権法第38条1項は、公表された著作物を権利者の許諾を得ることなく演奏できる3要件を定めています。3要件は次のとおりです。
(1)営利を目的としない
(2)聴衆または観衆から、入場料ほか料金を取らないこと
(3)出演者等に報酬を支払わない
以上の3要件をすべて満たしていれば、公の演奏であってもJASRACへの手続きは不要です。
1つでも欠ければ、手続きが必要です。
―例えば、学校の定期演奏会で、営利性がなく、入場無料なのですが、指揮者が外部指導者などで、その方に報酬を支払う場合はいかがでしょうか。
指揮者は著作権法上、実演家と考えられるので、指揮者に報酬を支払って行う公演の場合は、入場無料であってもJASRACへの手続きが必要になります。
―演奏する楽曲がJASRACの管理楽曲かどうかを調べるにはどうすれば良いでしょうか。
JASRACがHPで公開している作品データベース検索サービス「J-WID」を使ってお調べいただくことができます。
―外国の音楽作品を演奏したいのですが、JASRACで手続きができますか。
多くの海外各国の著作権管理団体とJASRACは、互いのレパートリーを管理し合う相互管理契約を締結していますので、日本国内で演奏する際にはJASRACに通常の手続きをしていただければ大丈夫です。
―自分で作・編曲した作品でどこにも著作権を預けてない作品を自分の関係する楽団で演奏することにしました。この場合は何か手続きが必要でしょうか。また、その曲を気に入った他の楽団から演奏したいと相談を受けました。気をつけることはありますか。
この方が著作権者ですので利用許諾の手続きは必要ありません。他の楽団から演奏したい旨を相談された場合も、この方が許諾権(同63条)を有しますので、許諾するか否か、許諾する場合は利用方法や条件など、この方がご自由に決めることができます。
―商業施設などでの依頼演奏など、主催でない演奏会の場合、誰にどのような申請が必要でしょうか。また主催者とは別途に出演側から何か申請をする必要はあるのでしょうか。
演奏会における楽曲の利用主体は通常主催者と解されますし、実務上も主催者がJASRACに手続きを行うケースがほとんどです。主催者が手続済みの場合、
別途出演者ほか関係者の方が手続きする必要はありません。
ただし必ずしも主催者が手続きを済ませているとは限らないので、出演者・楽団は後々トラブルにならないよう、事前に主催者ほか関係者間で著作権手続きについて確認をしたほうがよろしいですね。
■演奏会(自主公演)の記録など
―演奏会の収録を業者に依頼しました。収録業者からスコアの提出を求められましたが、コピーを提出することに問題はあるでしょうか。
楽譜をコピーするのであれば複製の手続きが必要なので、JASRACに複製の手続きをしてからお渡しください。
場合によっては収録業者様が手続きを代行される場合も考えられますので、打ち合わせの際にご確認されることを推奨いたします。
―演奏会の収録をホールに依頼しました。この場合、ホール側に作品名を提出すれば適切な処理を行ってくれるのでしょうか。
これについてはホール側にご相談ください。
収録された音源をCD-Rにする場合には、ホールか楽団のどちらかからJASRACへ複製の手続きが必要となります。
―演奏会の収録をホールにも依頼せず、自分たちで市販のレコーダーやビデオカメラを使用して録音・撮影したい場合、手続きは必要でしょうか。
個人的な利用の範囲であれば手続きは必要ありませんが、例えば、団員の方に配布する場合はJASRACに複製の手続きが必要となります。
―演奏会の記録物を、自分たちで(流通業者を通さずに)販売することにしました。この場合、どこにどのような申請が必要でしょうか。
JASRACの管理楽曲であれば、JASRACへの複製の手続きが必要となります。
―上記について、無料の演奏会の場合でも、申請は必要でしょうか。
収録内容が無料の演奏会であっても、演奏会を収録して販売目的のCDやDVDに複製する場合には、JASRACへの手続きが必要です。先にお話しした著作権法38条1項の3要件をクリアすれば、演奏については無許諾で行えますが、その演奏会を販売用に録音・録画して複製する場合は手続きが必要です。
―上記について、海外の著作権管理団体が管理している楽曲についてもJASRACで手続きが可能でしょうか。
可能ですが、外国曲を収録した映像記録を複製(DVDなど)する場合は条件が付されるので注意が必要です。CDなど映像を伴わない録音物は外国曲と内国曲で手続きに何ら違いはありません。
■演奏会(コンクールなど)の記録物の複製やアップロードについて、著作隣接権について
楽団で公演し、公演を収録したCDを収録業者から買いました。我々楽団は実演家であり著作隣接権を有すると思いますが、それによって収録業者に無断で複製したりインターネット上にアップロードしたりできると考えていいですか。
たしかに楽団は「実演家の著作隣接権」を有しています。しかし、それによって他の権利処理をしなくてよいということはありません。楽団の公演をCDに収録する場合、関係する権利者と権利を整理すると、①収録する楽曲の著作権、②実演家(この場合は楽団)の著作隣接権、③レコード製作者(この場合演奏曲を最初に固定した収録業者)の著作隣接権があります。楽団は②の権利を有していますが、複製や配信を行うには①と③の権利について許諾を得る必要があります。
なお、収録媒体がCDではなくDVD(映像物)であって、ソロ演奏者をアップにしたりマルチカメラで撮影して編集するなどし創意工夫して作成された映像物であれば、映像の著作物となりえます。映像が著作物であれば、③「レコード製作者(収録業者)の著作隣接権」ではなく「③収録業者が有する映像の著作権」となります。
■その他動画投稿およびアップロードされている音源や動画の扱いについて
―YouTubeにアップロードされている音源や映像を自分のブログに貼りつけたいのですが、手続きは必要でしょうか。
JASRACと許諾契約を締結している動画投稿サイト(YouTubeなど)であれば、動画の投稿者が個別に許諾を得なくてもJASRACの管理楽曲を含む動画をアップロードすることが出来ます。
しかし、それをブログなどで使用する場合には、利用方法(商用・非商用)によっては、手続きが必要な場合がありますので、JASRACのHPのフローチャートおよびご利用上の注意をご確認ください。
■無断利用した場合
―他人の著作物を無断で利用するとどうなりますか?
他人の著作物を無断で利用することは、著作権法に定める例外を除き、固く禁じられております(著作権侵害)。必ず事前に利用許諾手続きを済ませてください。
著作権者は、著作権侵害者に対し、損害賠償請求、不当利得返還請求、侵害物や侵害に供された機器の廃棄などを請求することができます。話合いで解決に至らない場合は、やむをえず司法に判断を求める場合もあります。
なお、悪質な侵害に対しては、民事上の責任だけでなく、10年以下の懲役もしくは1,000万円以下の罰金など刑事上の罰則が定められています。
インタビュー・文:梅本周平(Wind Band Press)
まとめ:
いかがでしたでしょうか。
意外と知らない音楽著作権のあれこれ。
もし今回のインタビューを読んで、「あっこれ手続きしないでやっちゃってるわ・・・」という事項があれば、修正していきましょう。
著作者の権利を守って清らかに音楽活動を行いたいですね。
※追記:インタビュー中に「手続き」という言葉が出てきます。これについて「どういう手続きが必要なのか教えてほしい」という声がありましたが、どの作品をどのような目的でどうするかによって手続きも様々ですので、複製や録音などの手続きに関してはJASRACのサイトをご覧ください。JASRACは音楽著作権のうち財産権の管理をしている団体ですので、編曲許諾などは各権利者に確認していただく必要があります。
このインタビューの内容をPDFにしてご用意しております。印刷・コピーともに自由に行って頂き、ぜひ楽団のメンバーで共有してみてください。多くの方に音楽著作権について知っていただくきっかけになれば幸いです。PDFのダウンロードはこちらから
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