【エッセイ】指揮者・岡田友弘の『音楽の輪の中で』第1回「「芸事」についての考察」



 

コラムも書いていただいた指揮者の岡田友弘さんが、指揮を中心とした自身の活動からの気づきや考え事などをテーマに綴るエッセイ「音楽の輪の中で」。

今日は新連載第1回「「芸事」についての考察」です。

—-

アマチュアの音楽活動には、日々の暮らしの中に息づく「素朴で健康的な美」があります。僕はそれを、民藝の理念である「用の美」になぞらえ、音楽を楽しむ一人ひとりを、その担い手であり主人公だと考えています。この連載では、オーケストラや指揮教室で出会った人々、楽団それぞれの個性や印象に残った出来事を、気楽に読んでいただける文章で綴っていきます。

指揮という「行為」を職業として、四半世紀になります。その最初期に指揮をした大学オーケストラのメンバーで、今も社会人オーケストラで活動している二人と、久しぶりに飲む機会がありました。昔話から今のこと、これからのオーケストラのことまで、楽しく、ざっくばらんに話すことができました。「飲みニケーション」は昭和の価値観、美学だという見方には僕も同意しますが、それをすべて否定することもできないのかなぁ、と思った上野の夜でした。

夜の会合の前には、今後の商売繁盛や家内安全、健康長寿を願って、唯一と言っていい趣味である神社仏閣めぐりをしました。直近の指揮講座の集客が芳しくなく、さまざまに手を尽くした末の、「藁にもすがる思い」での神頼みです。

江戸城の鬼門を守る神田明神での商売繁盛祈願からスタートしました。続いて、入谷の小野照崎神社へ。かつて俳優の渥美清が、この神社にお参りした翌日に『男はつらいよ』の仕事が来たという話にあやかって、これからの新しい縁や仕事を祈りました。その後、「恐れ入谷の鬼子母神」を経由して、学問の神様である湯島天神では講座の発展を願い、不忍池の弁天堂で、芸能の神様である弁才天に「芸事」の上達をお願いしてゴールです。

おかげさまで、良い風が吹いて、少し運気が上がってきたような気がします。実際のところはわかりませんし、気のせいかもしれませんが、「気の持ちよう」は大事ですね。

参拝ツアーのあとの会合で、「芸事」という言葉が出ました。「アマチュアのオーケストラ活動ではあるけれど、芸事なのだから、ちゃんとやらないと」という話の中で登場した言葉です。不思議とその言葉が魚の小骨のように僕の中に引っかかったので、「芸事」という言葉について調べてみました。

芸事(げいごと)〈名詞〉
1.琴、三味線、踊りなど、自分で楽しむ遊芸。
2.芸術のこと。

これを見ると、「芸事だからちゃんとやらなくてはならない」とは、必ずしも言えないような気もします。でも、その人がそう言った気持ちや、その言葉に込めた感覚も、わからないわけではありません。少々しつこい性格なので、さらに「遊芸」について国語辞典を引いてみました。

遊芸(ゆうげい)〈名詞〉
1.文芸の世界。学問、文学。
2.遊びごとに関した芸能。謡、歌舞、茶の湯、生花、琴、三味線、落語、俗謡などの類。
3.珍しいものを見せる曲芸、見せ物の類。

アマチュアのオーケストラ活動や楽器演奏は、きっと2に当たるのでしょう。さらに「あそびごと」も調べてみます。

遊事(あそびごと)〈名詞〉
1.遊び、遊戯。
2.慰みにする仕事。本気でない、遊び半分の仕事。遊び仕事。

ここまで言葉をたどってみると、「芸事」には、自分で楽しむ遊びごとという意味があるようです。しかも、その先には「慰みにする仕事」「本気でない、遊び半分の仕事」「遊び仕事」・・・という説明まで出てきます。これ以上深掘りすると大怪我をしそうなので、この辺で退却したいところですが、最後に「芸術」の定義も調べてみました。

芸術(げいじゅつ)〈名詞〉
1.学芸と技術。
2.武芸と技術。
3.鑑賞の対象となるものを人為的に創造する技術。空間芸術、時間芸術、総合芸術。また、その作品。

「武芸」はなんとなくイメージが浮かびますが、「学芸」は少し捉えにくいので、ホントの最後の最後に、こちらも調べてみました。

学芸(がくげい)〈名詞〉
1.学問と芸術。学問と諸般の技芸。
2.学問。知識や教養全般。

実は、先ほど「芸事」についての話をした人は、学校の先生です。日頃の仕事で培われた視点もあるのでしょうか。「芸事」という言葉に、「芸術」や「学芸」の色合いを強く感じているのかもしれません。一人ひとりが尊重されることは大切ですが、オーケストラは「団体行動」でもあります。自分の思いだけを通そうとするのでは、うまくいかないこともあるでしょう。そうした考えにも、学校でさまざまな人と向き合ってきた経験が関わっているのかもしれません。

ここまで調べたことを踏まえながら、それぞれの「芸」を僕なりに捉え直してみました。

あそびごと=慰み・戯れとしての行為
遊芸=風雅や余暇として嗜む娯楽的な諸芸
芸事=稽古を通じて身体に技や型を染み込ませていく修練の道
芸術=作品の創作と美的鑑賞の領域
学芸=学問(学)と表現(芸)を結びつけた、文化・教養全般の領域

アマチュアで音楽をしている人、特に吹奏楽団やオーケストラに所属している人は、これらのいずれかに、その「芸」の本質を求めているのではないでしょうか。そのグラデーションによって、それぞれの団体の個性も変わってくるのだと思います。

いろんな人が一堂に会すれば、時には考え方の違いや、さまざまな問題が表に出てくることもあります。そして、それぞれの「芸」への考え方をもとに新しい楽団が生まれ、地方豪族が各地に並び立つような状態になっていくのも、自然なことなのかもしれません。

「用の美」の担い手であるアマチュア音楽家が集まる社会人楽団において、こうした「芸」の捉え方の違いを、どうすれば埋めていけるのか。それは、僕の大きな関心事です。「対立と分断」が広がるばかりでは、寂しいですよね。オーケストラや吹奏楽でも、その思いは同じです。月並みな言い方かもしれませんが、「対話と包摂」を大切にしたいという気持ちがあります。

「すべてのことは、寛容の精神で対処できる」と言ったのは、名指揮者ブルーノ・ワルターです。僕の好きな指揮者の一人です。音楽も、生き方も。

僕は、アマチュアの音楽を、プロの模倣や、その下位互換として捉えてはいません。「純粋な愛(愛好)」を持って無心に稽古を重ね、日々の暮らしの中に健やかな響きを育む営みだと考えています。その中で、それぞれが思う「芸」の楽しみ方や向き合い方を、深めていってもらえたらと思います。そんなことを願った、秋の出来事でした。

ワルターは、先ほどの言葉に、次の言葉をつなげています。「しかし、不寛容に対しては例外である」。

互いの違いを受け止めながら、誰かの声が閉ざされることのないように。やはり、「対話と包摂」を大切にするチームづくりを、忘れずにいたいと思います。

—-

「音楽の輪の中で」は下記URLのカテゴリに入れていきますので、まとめて読みたい方はこちらから。
https://windbandpress.net/category/column/essay-column/circle-of-music

以前のコラム「スーパー学指揮への道」も合わせてどうぞ。
https://windbandpress.net/category/column/column-column/super-gakushiki


吹奏楽やアンサンブル、ソロの楽譜をお探しなら、Wind Band Pressのストア「WBP Plus!」へ!



無伴奏ソロ、2人でできるフレキシブルアンサンブルから大編成吹奏楽まで「他と違った」作品をお探しなら「Golden Hearts Publications」へ!(Amazon Payも使えます)



■【3社または3名限定】各種ビジネスのお悩み相談もお受けしています!

様々な経験をもとに、オンラインショップの各種企画やご相談、各種広報に関するご相談などを承ります。お気軽にお問い合わせください。





吹奏楽関係者向け広告・PR掲載メニューはこちらから


協賛



▼人気の記事・連載記事

■プロの指揮者・岡田友弘氏から悩める学生指揮者へ送る「スーパー学指揮への道」
プロの指揮者・岡田友弘氏から悩める学生指揮者へ送る「スーパー学指揮への道」

■作曲家・指揮者:正門研一氏が語るスコアの活用と向き合い方
作曲家・指揮者:正門研一氏が語るスコアの活用と向き合い方

■有吉尚子の【耳を良くする管楽器レッスン法】~ソルフェージュ×アレクサンダー・テクニーク~
有吉尚子の【耳を良くする管楽器レッスン法】~ソルフェージュ×アレクサンダー・テクニーク~

■【エッセイ】ユーフォニアム奏者・今村耀の『音楽とお茶の愉しみ』
今村耀エッセイ

■僧侶兼打楽器奏者 福原泰明の音楽説法
福原泰明の音楽説法

■石原勇太郎の【演奏の引き立て役「曲目解説」の上手な書き方】
曲目解説の上手な書き方

■石原勇太郎エッセイ「Aus einem Winkel der Musikwissenschaft」
石原勇太郎エッセイ

■音楽著作権について学ぼう~特に吹奏楽部/団に関係が深いと思われる点についてJASRACさんに聞いてみました
音楽著作権について学ぼう

■【許諾が必要な場合も】演奏会の動画配信やアップロードに必要な著作権の手続きなどについてJASRACに確認してみました
動画配信